1話4幕
俺は考えている。通学途中の電車で。何をかといえばそれはそう、
(引越しして転校しようかな...)
学校に存在し身近にも存在することになるかもしれない、とてもめんどくさそうな人間から逃げる方法である。
(まさか高校生活2日目にして転校を考えることになるなんてなぁ...)
だが、奴らがそれだけめんどくさそうであることを、俺の中のセンサーが感知している。あのクソ親に鍛えられた賜物だ。この時だけは親に感謝である。
学校に最寄りの駅に着いた。そこでふと、同じ学校の制服の、ある女子に目が留まる。
(あれ...?どっかで見たような...)
どこで見たか思い出そうとしたものの、どうにも思い出せず首をかしげる。
(まぁいいか。それよりも奴から逃げて生活する方法を...)
駅から学校までの間、必死こいて考えたが、同じ学校である以上逃げ道はない。もうダメだ、ジ・エンドだ。絶望した!
そんなこんなで学校に到着。上履きに履き替え、教室へ向かう。余裕をもって早く来たからか、まだ生徒はほとんど来ていない。自分の教室、1-6に入り、席に着く。そして、今日の予定を再確認する。先に1限から2限までくらいの時間を使って、書類整理やホームルーム、軽く学年全体で学校生活について話がある。あとは教科書や体操服等必要なもの、用具の販売がある。それで今日は終了だ。一応、明日が始業式であることも再確認しておく。入学式はしたが、始業式自体は行っていないためだ。
さて、あの厨二病野郎と当たりそうなのは、用具の販売時間中だろう。会ったとき「買い物がー」とか言って逃げようとしても、そこで付いてこられたらもう終わりである。
(んー、まいったぞこれは)
いくら考えても有効手段を思いつかないため、結局話しかけやすそうな人に話しかけて話を広げ、入り込む余地を作らない方針で行くことにした。
ホームルームと学年での話が終わり、用具の販売時間となった。販売所は体育館の壁に沿うように並んでおり、教科書や体操服等が販売されている。どの順に買っていくかの指定はないため、各々(おのおの)が目的の販売所へ散っていく。
と、そこで、1人の女子がおどおどしているのが目に入る。
髪は黒く全体的に長めで、目元が少し隠れている。身長は低く、体格はぱっと見でもかなり華奢に見える。人混みではあまり目立たなさそうな感じである。
そのためか、どうやら行き交う人々の渦中で、行きたい方へ行かせてもらえないようだ。
そのおろおろした様子が心配になり、助けることにした。
隙間を縫うように移動し、近寄って手首のあたりを掴む。
「こっち来て」
一人暮らししている以上、買い物は当然する。そして金は可能な限り節約するために、俺は割引セールへ行くことが多い。そういうところは、安さに目が眩み思考が肉食獣と化した主婦たちによって、これより酷く、まさに混雑になる。だから、通れそうなくらいの人と人との隙間を見つけて通るのが、ちょっと得意になってしまった。それが人助けに繋がるなんて...割引セール万歳。
「ここで待とっか」
「あ...はい」
人混みを抜けて体育館の端で、移動しやすくなるまで待つことにした。
「俺は藤方北斗っていうんだ、君は?」
互いに互いが誰かを認識しておくのは、人と会話する上で大事だ。まず名乗って、相手の名前を伺う。
「あ、私は、志木夏希です。その、藤方君。ありがとう、ございます...」
見た目と同じでおどおどした話し方だ。初対面とはいえ同学年なのに敬語だし、見た目らしく気の弱い子なのだろうか。
「気にしなくていいよ。この人混みじゃ俺も動けないしね」
変に勘ぐられたくなくて、気遣いではなくついでだ、という雰囲気を出して言う。
「...嘘ですよね、あれは間違いなく人混みの中でも動くことに慣れてます」
しかしすぐに見破られてしまった。なんたる観察眼か。
「どういう、つもり...ですか?」
「え?」
「動物が行動するには、目的と、それに対応した報酬が必要です...人間も例外ではありません」
(変に勘ぐられてるなー…)
願いも虚しく、内心、涙がちょちょぎれる。
(人間不信な部分があるのかな...?でも、別にこの子に見返りを求めているわけではないんだけど...)
いや、思い当たる節がある。別にやましいことでもないので、本心を話す。
「いや昨日さ、変なヤツに絡まれたんだ。んで、そっから逃げてきたから、また今日も絡まれるんじゃないかと思って。じゃあ誰か人と話してたら絡まれないかなって思ったんだ」
「つまり...話し相手になれ、ということですか?」
「ん、そうなるね。まぁ迷惑じゃなければ...だけど」
「いえ...私も1人で少し不安だったので...お話できる相手ができるのは、嬉しいです」
おずおずとだがそう言って、少しはにかんで微笑む。結構可愛い。理解力があって可愛いとか、あれか、天使か何かじゃなかろうか。
とりあえず、意外にもまんざらではない様子で安心した。
(しかしまぁ問題は話題だよな...)
人と話すのは苦手ではないが、話すための話題というのは、てんで浮かばない。どういう話題なら話を広げやすいのか、どういう話題が相手にとって話しやすいか。そういったことを考えると、どうにも話し出せない。これがコミュ障というものだろうか。
「あの...変なヤツって?」
悶々(もんもん)としていたら、なんと向こうから話を広げてくれた。やっぱり天使か。いや、もはや女神か。
「あぁ、なんか厨二病患者みたいなことを言うやつでさ。イケメンだけど変な雰囲気の――――
「俺みたいなやつか?」
「そうそう、ちょうどコイツみたいな...うぇっへ!?」
突如として出現し、俺の肩に手を置き、話に割り込み、不敵な笑みを浮かべて。
奴はそこにいた。
どうも、「どうも」っていうと、どーもくんを思い出しますね、ゆきです。
書けたら投稿しちゃうということで、少し間は短いですが投稿です。
先にまず本文の補足をば。今回初登場の志木夏希ちゃんのセリフ、「動物が行動するには、目的と、それに対応した報酬が必要です...人間も例外ではありません」についてです。これは正確には、「動物が“自発的に”何か行動する時は、必ずなにかその行動を行わせる理由がある」になります。例えば、動物が芸を覚え行うのは、それをやることで餌という報酬が貰えるからです。子どもがしぶしぶ親の言うことを聞くのは、叱られるという罰を受けたくないからです。詳しく知りたい方は「オペラント行動」で検索していただくと良いと思います。
さて、本文について。今回は3幕のように、ネタらしいネタはありませんね。描写や設定のお話、新キャラの伏線で文字数がそこそこになってしまったためです。
その分次回は頑張りたいと思います(?)
というわけで次回からは、ついにあの変人イケメンの素顔(?)が明かされます。需要があるかはわかりませんが、乞うご期待!
それでは、長くなってしまいましたが、これにて。