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4話2幕


 南はまだ寝てるだろうか...明後日には学校へ通うのだから、生活リズムを整えてほしいところだ。

 そんな風にぼんやりと学校へ向かう。今日は部活やサークルの発表会がある。先程、新入生用の日程表を見て知ったが、新歓部活祭と呼ばれていうようだ。祭りと言うほど盛大に行うのかは疑問だが。

 学校の最寄り駅に着いた。そこでまた、どこか見覚えのあるあの女子を見かけた。

(ん...?)

 そのとき、その女子が自分を見たような気がした。しかし、一瞬そんな気がしただけだったため、見間違いや気のせいだろうと、気に留めることはなかった。


 学校へ着くと、校門前で漁と宍戸が立ち話をしていた。どうやら俺が来るのを待っていたようだ。しかし、なにやら真剣な顔で二人とも話している。

 どうしたのかと訊こうとしたところで、二人とも俺に気づいたようだ。

「よっす藤方」

「お。おはよう藤方」

 先ほどの真剣さは何処(いずこ)へ、フランクな表情と声音(こわね)で挨拶してくる二人。

「ん、二人ともおはよ。何話してんだ?」

 あの(いさり)が真剣に話していた。それだけで気になるというものだ。

 だがそれは、あまり聞きたくないことだった。

「あぁ、お前にも関係がある...いや、まずお前に話すべきことかもな」

「え?」

 なにやら意味深な物言いをする漁。それに続いて、宍戸が告げる。

「例の暴行魔が、また出たようだ」

「っ!」

 ついにまた...知り合いがその対象になったら...そんな不安が込み上げる。

「なるほど。それで俺も関係がある、か」

 あぁ、と漁はうなづく。

「出たのは昨日の夜。被害者は怪我しているが一応どうということはないみたいだ。」

「そうか...」

 少しホッとする。これで死人でも出た日には、世の男性はしばらく外に出られないだろう。

 と、そこでふと疑問が浮かぶ。

「なんでお前、そんなこと知ってるんだ?」

 ちょっと気になって訊いただけなのに、何を今更というような顔をされた。怒りたい。

「そりゃお前、俺の人脈のおかげってよ」

 ため息して一呼吸置いてから、すごいドヤ顔。とてもイライラするなぁ。

「ふーん、まぁどうでもいいや。それで、なんかわかったのか?」

「ちょ、どうでもいいは酷くね?」

「お前にはこの程度の対応で十分だ」

 ドヤ顔が腹立つので冷たく切り捨てておいてやると、とても悲しそうな顔をする漁。

 そんな漁をスルーして宍戸が先の質問に答える。

「こいつの人脈は無駄に広くてな。知り合いの刑事さんが被害者に事情聴取するところに、1人だけついて行かせてもらえることになった」

「な!?」

 人脈が広いどころじゃない。どんな脈持ってたらそんなことができるのか。

「もしもの時のためにって、中学部2年のときからこれまで、すげぇ頑張ったからよ。そこは流石にドヤ顔できるし褒められてもいいと思うんだがなぁ」

 ...まぁそれは確かにそうだろう。

「わーすごいすごい」

 実際すごいと思うが、とりあえず棒読みにしておく。

「なんだよー藤方のいけずー」

「うるさい」

 話が脱線するから適当にあしらってることに気づいてほしい。

「そこでだ」

 宍戸が続ける。

「加害者側と直接対峙し、一応応戦もしたお前にも改めて事情聴取し、そのまま一緒に被害者の話を聴くという形にすることになった」

「ってことは、俺が行くわけか」

「そうだ」

 確かに、俺は事情を訊かれるだけのことがあるし、それを盾に被害者と居合わせて話を聴くというのは合理的だ。

「んじゃ、ありがたく行かせてもらうか。ちなみに、いつの予定なんだ?」

 話の元である漁に問う。

「んーまだ確か決まってないっけか?けど、多分一週間以内だと思う。まぁ決まったら連絡するわ」

「りょーかい」

 そんな感じで話は終わり、ここで立ち話もなんだしということで、話題はこれから始まる新歓部活祭に切り替わる。そして、校門前で立ち話もそろそろ切り上げようと、俺たちは学園内へと足を踏み入れた。


 なんだか仰々しい行事名だなと思っていたが、入った学園内には、名前に負けないくらい仰々しい装飾が施されていた。

「なんじゃこりゃ...ていうかいつの間に...」

 昨日学校には17時半くらいまで残っていたはずだが、こんなものは見かけなかった。

 そんな俺に、漁が答えるように話す。

「部活やサークルに参加しているメンバーのうち、学年が2年以降の生徒は、昨日授業がないんだぜ」

「へぇ、ってことはその間に準備してたわけか」

 あとはこの飾り付けを夜の間にしてしまえばいい。中学部からいる生徒がなかなか帰っていかなかったのは、これを手伝うためだったのだろうと、ここで理解する。

 中学部からいるだけに、漁はやはりそういった学園内の細かい情報も持っている。結構助かる。

「しかしまぁすごいな」

 宍戸が感心した様子で言う。

「文化祭で深夜まで準備とか泊まり込みとかはよく聞くが、こんな部活紹介のイベントにもそこまで全力で取り組むとはな」

「まぁ、楽しいならいいんじゃないか?」

 宍戸には同意するが、それより楽しいのが大事だ。つまらない学校生活なんて送りたくはない。

 それに、中学生、高校生、大学生がいるこの学園、ここで目立っておけば、沢山人が入る。チーム戦でのスポーツ系や人数が必要なところは、やはり大きく出ている。

 と、そこで漁が消えていることに気づいた。

「あれ?漁はどこいった」

「そういえばいないな」

 どこへ行ったのか...と思っていたら、小さいビニール袋を持ってこちらに小走りで戻ってきた。

「どこいってたんだ?」

 と訊くと、漁は袋からペットボトルのジュースを取り出して俺たちに渡しながら答えた。

「いや、ジュース売ってたから買ってきたのよ。つうか、屋台まであるからよ、マジの文化祭みてぇなもんだよな、これ」

 言われてあたりを見回すと、まだ準備中のところもあるが、確かに屋台がいくつか散見できた。

「ほんとだ」

 とすると、と宍戸が問う。

「文化祭はどうなるんだろうな?」

 どれほど盛大なものになるのか...漫画やらで見るようなものを想像したりしたが。

「まぁ、想像してるよりはすごいかもな」

 軽く苦笑しながら言う漁の言葉に、俺と宍戸は少しだけ戦慄した。

「準備...大変そうだな」

「売店なら接客も...だな」

「考えるとこそっちかよ!」


 談笑しながらも、どの部を見に行くか、なんて盛り上がっていると、歩いている先に志木さんがいた。

「あれ...志木さん、1人なのかな?」

「待ち合わせかもしれねーぜ?」

 もちろん、その可能性もある。しかし、昨日はあまり誰かと話したりせず、比較的早く帰ってしまったのだ。

「訊いてみればいいだろう」

 心配する俺に宍戸が言う。

「まぁそれもそうだな」

 ということで、俺は志木さんに近寄って声をかける。

「おはよ、志木さん」

「えっ、あ、おはようございます、藤方くん」

 誰かに声をかけられると思っていなかったのか、少し驚いた様子で挨拶を返してくれる。

「誰かと待ち合わせ?」

「えと...そうです」

 志木さんは少し迷った様子で答えた。

(やっぱり1人なのかな...?)

 待ち合わせだと答えたわりに、寂しげというかなんというか、そんな雰囲気なのだ。だが、本人がそう言っている以上俺たちのグループに誘うのもはばかられたため、俺は適当に引き下がることにした。

「そっか。一緒に回ろうかとか思ったけど、それじゃ仕方ないね」

「せっかくでしたけど、すいません...」

「気にしなくていいよ。じゃあ俺は漁と宍戸を待たせてるし、そろそろいくよ」

「はい、また」

「うん、またね」

 そう言って別れようとしたところで、ふと、漁の誘いを思い出した。

「そうだ、志木さん」

「はい?」

「漁が部をつくるらしいんだ。もし今日めぼしい部やサークルがなかったら、考えてみてやってくれない?」

 そう言うと志木さんは少し考えて、はい、と答えてくれた。

 改めて別れの挨拶をして、俺は少し離れたところで待っていた漁と宍戸のもとへ戻る。

「志木ちゃん、なんて?」

「待ち合わせだってさ。...多分、嘘だろうけど」

 俺は感じたまま答えた。

「嘘なんて、なんでつく必要があるんだ?」

「んー、なんでだろ」

 ちょっと考えてみる。

「1人なのを知られたくなかった...とか?」

「それは有り得るかもしれないけど...んーわかんねぇな」

 まぁ、人の気持ちなんて考えたところでわかりっこないので適当に切り上げて、どの部を見に行くかの話に切り替えていく。


 そうして話しながら展示や発表を見て回って、今は宍戸の誘いで、体育館でやっている演劇部の発表を見に来ている。

「あぁぁ...キララちゃん...」

 キララちゃんとは、演劇の中でのキャラクターだ。どうやら漁は、そのキララちゃんに惹かれているようだ。

 演劇でキララちゃんが出てくる度にため息をこぼし名前を呼ぶ漁に、苦笑しつつ呆れつつ演劇を見ているとふと、宍戸が周囲を気にしていることに気づいた。

「どうしたんだ宍戸?」

「気づかないフリをしてくれ」

 宍戸が小声でそんなことを言ってきた。

 何かと訝しんでいると、普通に演劇を見るフリをして、ギリギリ聴こえるくらいの大きさの声で続ける。

「誰かにつけられている」

「...えっ?」

 流石に驚いてしまうが、慌てて平常通りを装う。そして同じく聴こえるかギリギリの大きさで問い返す。

「誰に?」

「わからない。が、女子生徒だな」

「女子...?ってまさか」

「あぁ、可能性はある」

 ハッとした。そう、当然その可能性があるのだ。

「暴行魔...」

 暴行魔に狙われる可能性が。

「お前が奴の服装を判別できたのなら、向こうもお前の顔を見て、覚えていてもおかしくはない。同じ学校だったのは向こうにとっては偶然だっただろうが、こっちにとっては最初からわかっていたこと。もっと注意すべきだった」

「だな...」

 登下校で1人になったタイミングを狙われる可能性は十分にある。多少格闘技に覚えがあるとはいえ、ずっとやっているような人間に対しては護身術になるかどうかも怪しい。当然、やっている人は、自分の身体が凶器になりうることを理解しているため、それを暴力に使うような事はしないし、したら傷害罪じゃ済まない。だが...

「だな。向こうは容赦なく格闘技を使ってきたんだろう?」

 宍戸が問う。

「うん、それも結構やってるって感じがした」

 かじっていただけあって、多少わかりはする。そして、だからこそ相手にしたくない。

「顔を確認したいところだな」

「だね」

 宍戸は、キララちゃんが出る度に喜び、キララちゃんの状況に合わせて一喜一憂する漁に声をかける。

「おいカビ、移動するぞ」

「きららちゃーん!負けゆなー!!がんばえー!!」

(...幼児に退行してる...)

 脳みそがカビに侵されてしまったようだ。

(...ん...?)

 ...と思って周りを見ると、

「きららちゃあああん」「がんばえー!!!」「かわいいぞおおお」「そんなやつやっつけちゃえー!」「ハァハァ」

 男女問わずキララちゃんにメロメロだった。しかも半分くらいの人は幼児退行してる感じがする。なんだこれ。しかも誰かちょっとやばいヤツいたけど大丈夫なのか?

 プリ〇ュアの映画とかこんな感じなのかなぁなんて思って、再び漁と宍戸に目を向ける。

「むむー!!!」

 口を塞がれ手足を拘束された漁がいた。

「この10秒程度の間にどうやって...」

「それは企業秘密だ」

「...」

 宍戸は怒らせたり敵に回したりしないようにしよう...。


「作戦はこうだ」

 俺たちはそれぞれ、話していることを悟られないよう、可能な限りさっきまでのように演劇を鑑賞するフリをして、会議していた。

 宍戸が、俺と漁に、周りに気づかれない声の大きさで話す。

「ここを出て向こうの出方を見る。ついてくるようなら、適当なタイミングで歩くスピードを速めて、人気(ひとけ)のない曲がり角に入る」

 漁にも、大まかなことは伝えてある。そして今回の作戦には、漁の存在が必要不可欠だ。

「曲がって人がいないことを確認したら...漁の能力で、藤方だけ、ここに瞬間移動させる」

 そう、漁の能力を使うためだ。作戦会議中、相手を撒く方法として、了承を得て漁の能力のことを持ち出したのだが...なぜ宍戸はそれをすんなり信じたのだろうか。いくら俺が信用するに足る経験をしていたとしても、もっと疑っていい気が...

 それはそうと、実はこの「複数人の瞬間移動」や「他人を瞬間移動させる」というのは、漁自身試したことがなく、成功するか怪しいとのこと。それを作戦に組み込むのもどうかと思うが、事実、これが最も相手を惑わすことができるのだ...どうしたものか。

「その後、漁がナンパを装って足止め、藤方を探したり、俺についてこないようにする。そして俺は藤方と合流」

 俺と漁は小さくうなづく。

 思えば、宍戸は元から、会議などをしたり、行動を起こしたりするつもりで、この暗い体育館に俺たち、そして暴行魔と思われる女子を誘い入れたんだろう。本当に頭の切れるやつだ。

 こうして作戦を決行すべく、俺たちは体育館を出た。

(漁の能力、ちゃんと俺に使えるといいなぁ...)

 一番重要なそこがやっぱり一番不安なのであった。


そろそろお盆ということで、暑中お見舞い申し上げます、ゆきです。熱中症や脱水症にはお気をつけください。

今回は前回までに比べて、結構長くなってしまいました。いえ、長くしました。まぁなんというか、これくらいはあってもいいのかなぁってちょっと思って書いてみたんですよ。いかがですかね?

まだまだ通り魔の女の子編(仮)(適当)は続きます。頑張って書きますのでよろしくおねがいします。

ここらで切り上げて、話したい事は次回以降に。

というわけでまた次回お目にかかりたいと思います。それでは〜

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