3話2幕
(安息がほしい...)
俺はため息をつきながら机に突っ伏した。
「おうおう、どしたよ朝から」
そんな俺に気さくに話しかけてくるのは、変人こと漁真だ。
「おう、はよーっす。朝からお前がキモくてなぁ」
「うわ、ひっでぇのな」
漁は苦笑しながら言う。
「だってニヤニヤしながら近づいてくるから犯罪者臭がしてさー」
「そんな怪しい顔してなかっただろ!?」
「どうだろうな」
あほらしいやり取りをしていたら、少し気が軽くなった気がする。
(こういうアホも、気を紛らわすのに必要なんだな)
「なんか失礼なこと考えてないか?」
「いや全然?」
「ほんとかよ...ったく」
しかし、そうはいいつつ別段嫌そうではないあたり、気軽なこいつらしい。
(いや、マゾの可能性も捨てきれないか)
「やっぱ失礼なこと考えてるだろ」
「いや全然?」
なぜか人の心を見透かしてくる漁をよそ目に、再び机突っ伏す。
「どうしたんだよ、なんかあるなら話せって」
先日、互いのことについて話し合った時、漁は人脈が広いということが判明した。中学部からずっといれば、流石にいろいろ関わる人も多いのだろう。それに、この気さくな性格も、人付き合いの上で優位に働いているのかもしれない。
(こいつなら情報とかあるかも...)
人脈の広さ故、それなりの校内や世間の情報を持ち合わせているという。昨夜の女子について、訊いてみるのも手かもしれない。
「実はな...」
そして、昨夜起こったことを一通り話した。
「まじか...」
漁は少し驚いた様子だ。
「その暴漢?というか通り魔みたいな暴力女の話は聞いてたけど、まさかうちの生徒とはな...」
まぁ驚いても無理はないだろう。自分だって驚いたし、おそらくこの学園内の生徒なら皆驚くだろう。
「うーむ...とりあえずそのへん詳しいヤツ何人かと情報共有してみる。なんかわかったらまた教えるわ」
「おーけ、ありがとな」
と、そのとき。
「何のお話ですか?」
そう声をかけてきたのは、高校生活始まって最初の女友達である志木夏希さんだ。
「おー志木ちゃんおはよーう」
「おはよ、志木さん」
「はい、おはようございます」
相変わらず可愛らしい風貌に可愛らしい顔に可愛らしい声である。もう既に俺の中で癒しとなりつつある。
そのせいで少し見つめすぎたようだ。
「あ、あの、私、どこか変でしょうか...」
志木さんを困らせてしまったらしい。
「おい藤方よ、ニヤついてんぞ」
「えっまじで」
漁に指摘されるも、まったく意識していなかったためわからない。
「志木ちゃんが可愛いからって、そういうのはよくないぞ」
漁みたいな変人にそんな注意をされるのは心外である。だが、同意できる部分と注意すべき点は間違いない。
俺は漁に便乗してみる。
「そうだな。志木さんは可愛いが、にやけながら見つめるのは良くないな」
「「真面目な顔で見つめよう!」」
二人揃って、一切の感情もない真顔で、舐めるように志木さんを見る。
「えっ、えぇっ!?」
志木さんは若干赤らみながら後ずさる。
「可愛いとかないです!あとそんなに見ないでくださいっ」
(あぁもう、可愛いなぁ)
小動物の動画を見るような目で志木さんを見ていると、ふとクラスのどこからか、
「お巡りさんこいつらです!」
と声が上がった。
「やめろ!!」
「人を犯罪者呼ばわりすんじゃねぇ!!」
二人して立ち上がって抗議する。
「漁は犯罪者でもいいけどな!」「藤方は犯罪者でもいいけどな!」
指を指し合いながら声が重なる。互いに互いを売ろうとしていたようだ。
「なんで自分のこと棚に上げて人のこと悪くしようとしてんの?」
「人のこと言えねぇだろ」
ピリピリとした空気が間に漂う。
「やるか?」
「やりたきゃ応えるけど?」
まさに一触即発。そんな雰囲気の中、一人の男子生徒が、歩み寄ってきた。
「それなら、“決闘”でどっちが犯罪者予備軍か...決着をつけたらどうだ?」
漁が反応する。
「お前は...宍戸怜か」
「よくご存知で。流石は広い人脈を持った漁だ」
宍戸怜と呼ばれたその男子は、少し長髪で、すかした感じの風貌をしている。口調も見た目に合った感じがする。
「それで、決闘って?」
「簡単なことだ。ルールは、外野であるクラスメイトから投げ込まれたものをどれでも一つだけ武器として使える」
(ん...?どこかで聞いたような...?)
小学生や、ふざけた中高生がしそうなことだが、どこか...そう、ギャルゲーで聞いたような気がするのだ。
「それを使って闘い、一本取った方が勝ちだ。そして敗者は一ヶ月間、勝者が決めたあだ名で生活しなければならない」
「待て、それはパクリだ」
やっと思い出した。小さいバスターたちだ。シナリオライターやメーカーに怒られてしまう。
「何が悪い?遊びに気に入ったことを取り入れるのは当然だろう」
(遊びって言った...)
まぁ、自分も気に入ったアニメキャラクターのセリフを使ったりすることはあるし、別段いけないということはないだろう。
しかしなぜ、こんなにやっちゃいけない気がするんだろうか。
「俺は構わないぜ」
漁があっさり承諾した。もともとそういうのが好きそうなタイプだし不思議ではないが。
「だそうだ、藤方よ。お前はどうする」
ここでどう答えるかで、楽しい学校生活が送れるかどうか変わるんだろうか。エロゲーやギャルゲーなら、ここで選択肢が出てくるところであろう。
(なんでそういう目線でものを見てるんだ俺は)
だが、単純に楽しそうではある。
「俺もそれでいいよ」
そう答えた。
「決まりだな。それじゃお前ら!各々(おのおの)何でも良いから一つ投げ込め!」
その声で、クラス中が一斉にカバンを漁りはじめる。そして、クラスメイトたちが一気にものを投げ込む。
その中に、俺はひとつ光るものを見つけた。
(...!これは!)
そうして俺が掴んだのは...
「おたま!?」
そう、おたまだった。
「なんで学校におたま持ってきてる奴がいんだよ!」
すると、誰かが答える。
「拾ったんだよ...ゴミ捨て場で」
「ゴミ捨て場のものは持ってきちゃダメだろ!ていうかなんで拾ったんだよ!」
とはいえ本当は、法律的には「“粗大ゴミ”として捨てられていなければ」持ってきても問題なかったりする。だがそういうことじゃないのだ。なぜ拾ったのだ。
「んー...なんとなく」
(もうこいつら何言っても無駄だな...)
こんなことにもノリノリで参加するし、早速クラスメイトたちがどんなものかわかった気がする。
さて、俺は相手となる漁が何を武器としたのか確認するため、漁のほうを向く。
漁は愕然としていた。
「なんじゃこりゃ...」
その手には、ビニールの小袋に入った、青緑色の何かがあった。
「なんじゃこりゃああああ誰だこんなもん投げ込んだ奴は!?」
漁は相当お怒りのようだ。
するとクラスのどこからか、答えが返ってくる。
「あーそれ俺の鬼饅頭だわ」
「鬼饅頭!?」
はっきり言って鬼饅頭の原型を留めていないそれは、どうやら青カビが生えた上に潰れているようだ。
「中学の時の給食で出たの、ずっとカバンに入れっぱなしだったんだよなー」
笑いながらその誰かは言う。
「なぜ入学前に掃除しなかったっ...」
漁は涙を流している。流石に鬼饅頭とおたまでは勝負にならないだろう。
「せめて武器になるものに...いや、待てよ...?」
漁が何やらブツブツつぶやいている。そして、おもむろに封を開けた。
「こういうやり方もあるか...」
そう言って漁はニヤリと笑う。
そこで俺ははたと気づく。
「まさか...!」
おそらく漁は、あれを俺に食わせよういう魂胆だろう。そんなことをされたら、どんな人間でもネ○とパト○ッシュのごとく天使に導かれてしまう。
「くっ...人でなしめ...」
「なんとでも言え...俺たちは社会的生命をかけてるんだぜ」
俺と漁は、得物を持って対峙する。
そこへ宍戸が再び現れる。
「両方とも、準備はいいな?」
「あぁ」
「おっけー」
剣呑な雰囲気が漂う。
「ジャッジは俺が行う。俺が一本と合図を入れたら終了、そこで勝敗が決まる」
俺たちは頷く。
宍戸が手を挙げた。
いつでも動けるよう構える。そして...
「決闘...開始!」
手を振り下ろした宍戸の合図で、俺と漁は動き出した。
ブンブンハロー小説家になろう
どうも、YUKIKINです。
2週間近いでしょうか!もし更新を待っていらした方がいたら本当にすいません!
見てくださってる方がいないわけではないようなので、更新はしないとなということで、若干急ぎめに書きました。やっつけだと思われる部分もあるかもしれません。
小さいバスターズ()のネタは、完全に文までパクッたわけじゃないし良いよね的な発想です。問題があれば書き直します。いや、どっかで使いたかったんですよ。
さて、次幕では2人の激アツなバトル展開ですね!お楽しみに!()




