プロローグ1
「ぶち殺せ!誰一人逃すんじゃねぇぞっ!」
「おうよ!」
「死ねえっ!!」
ある一つの街で数十人の武装している盗賊達が街の住人を襲っていた。
ここ数年、この世界の治安は悪くなる一方である。
それは魔獣と呼ばれる化け物が現れ、人々を襲い始めたことから始まった。
魔獣に襲われた街は、魔獣に抵抗し、傷つき、最悪死ぬ。
何が起きても抵抗するだけの戦力も残っていない。
いわゆる漁父の利というやつである。魔獣が襲ったあとの街ならば、楽に金品が奪えるという考えで実行しているのだ。
そしてつい二日ほど前に魔獣に襲われ、戦うほどの戦力も残っていない
首都エイプリルが、標的になったのだ。
「た、助けて……」
一人の少女が必死に、街の中を大人二人と一緒に走っていた。
一緒に逃げている大人二人は、幼い女の子を安心させるようにしっかりと手を繋いで走る。
だが、少女の速度に合わせているためか、すぐに何十人ものの賊達に追いつかれてしまった。
「ちっ……。コハク、先に逃げろ」
逃げていた三人の内の一人である男性が、二人を後ろへ隠すように立ち、先に行けと促す。
「えっ!?ユーリ?一緒に逃げようよ!?」
まだ五歳になったばかりのコハクは、離れたくないと言わんばかりに、ユーリと呼ばれる男性が着ている赤いロングコートの裾を引っ張る。
「それだとすぐに追いつかれる。リーシャと一緒に行け」
「嫌だっ!」
「年上の言うことはきくもんだ。……頼むぞ、リーシャ」
「ええ、絶対生きて帰ってきて、ユーリ」
リーシャと呼ばれた女性は、真剣な眼差しでユーリに言う。
「当たり前だ、俺を誰だと思ってるんだ?」
それに対してユーリは、軽く笑いながら言葉を返す。
「そうね。貴方は最強の一銃一剣だものね」
リーシャは、彼の相変わらずの自信たっぷりな言葉に、思わず顔が綻んでしまった。
「そうだ。だから俺を信じて待ってろ。…コハクを頼むぜ」
「わかった」
そして二人は数秒見つめあい、お互いにやるべきことをこなすために動き出す。
「行こう、コハク」
「嫌だ!嫌だよ!ユーリ……っ!!」
リーシャは駄々をこねるコハクを無理やり抱き抱え、町外れまで全力で逃げていった。
「行ったか…」
それを見送ったユーリは、腰にある銃と背中の大剣を抜き、目前まで迫っていた賊達を見る。
「おう、てめえ一人で俺達の相手すんのか?こっちは三十人はいるんだぜ?これだけの人数を相手にするなんて頭沸いてるな、お前」
リーダー格と思われる男が、馬鹿にするような口調でユーリに話す。
一方のユーリは挑発に乗ることなく、逆に賊達を馬鹿にするように鼻で笑った。
「こいつ、余裕こきやがって…。まあいい、お前らやっちまえ」
八人ほどの男が、リーダーの指示でユーリを殺そうと走り出した。
「さてと…、やりますか」
力強く飛び出したユーリは、知り合いに魔改造してもらったDEをフルバーストにし、全弾撃ち放つ。全弾の8発がちょうど八人の男達の武器に命中し、その手から弾く。
武器を弾かれて、動揺する盗賊達に対して、到底片手では扱えないような大きさの大剣を片手で横薙ぎに振り、一気に三人の命を奪う。そして腰にあるもう一丁のDEを抜き、残りの五人の額を撃ち抜く。
「な、なんだこいつ!?」
「怯むな、銃を使え!」
近距離戦は危険だと思ったのか、銃を取り出した賊達は、蜂の巣にしてやろうとトリガーを躊躇なく引き、何十発もの銃弾がユーリに迫る。
だが、ユーリは迫り来る銃弾を恐れずに、リロードしたDEを撃ちながら前へと走り出す。
「な、なんでだ!?なんで当たらないんだ!?」
ユーリを狙って撃っているはずなのに、途中で銃弾の軌道が逸れてるように見える。
それもそのはず、ユーリは自分に当たる可能性のある銃弾だけを狙って、DEで撃った銃弾で弾いているのだ。
「いくら撃とうが俺には、その銃弾は当たらねぇよ」
まるでそう賊達に伝えているかのような感じで、突き進むユーリ。
ユーリには銃は通用しないという真実が、賊達に伝わっていく。
それの非常識っぷりに怖気づいてしまったのか、また一人、また一人と男達は背を向けて逃げ出し始める。
そして最終的にリーダーの男が一人だけになった。
「化物かよ、てめぇ…」
「悪いが、これでも一応人間だ」
「どこが人間だ、クソッタレが」
ユーリの言葉に対し、思わず毒づいてしまう。
そしてユーリの戦闘力を見せつけられ、流石に分が悪いと思ったのか、リーダーの男は、逃げ出す機会を見つけ出そうとしている。
が、逃がすまいとユーリはDEを構える。
「おっと、お前は逃がさねえよ。これだけの事をしたんだ。お前には罪滅ぼしをしてもらわないとな。
別に抵抗しなきゃ、俺は殺しはしない。街の連中はどうするかは知らんが」
「うるせえんだよっ!!逃げられないならてめぇを殺して、逃げるだけだっ!!」
リーダーの男は、背中の片手剣を抜くと迷いなくユーリに斬りかかる。
「じゃあ、こっちも殺す気でやらせてもらうからな」
男の斬撃をバックステップで躱したユーリは、DEを相手の額に向けて撃つが、その反撃を相手は予想していたらしく横にローリングして躱し、お返しとばかりに腰のホルダーにある銃を抜き、撃ち返す。
それをユーリは銃弾で弾く。
そして一気に男の懐へ大剣を突き出す。
「へえ…、やるな。だけど……、俺の勝ちだな」
そうセリフを言い終わる頃には、大剣がリーダーの男の腹を貫通していた。
そして大剣を身体から引き抜く。
「………がっ、は…」
男は小さく、言葉にならない叫びをあげながら倒れた。
*
賊達を一掃したユーリは、コハク達の後を追いかけようと走り出そうとした時、目の前に一人の男が立ち塞がった。
「久しぶりだな、ユーリ」
「……ーーーか、なんでここにいるんだ?お前はーーーに居たはずだろうが」
「いや、ここの街が襲撃にあったって聞いてな。大切な友人達の安否を確かめに来たんだ」
「何が『大切な友人達』だ。そんなのいないだろうが、お前」
「心外だな。少なくともお前よりは多い。………あぁ、そうだ。もう一つ済ませなきゃならない用事を思い出した」
「そうか、じゃあとっと俺の前から消えて、その用事済ませてこいよ。俺も急いでるんでな」
「それじゃあ、用事を済ませるか。……ユーリ、お前を殺すっていう用事をな」
「っ!?」
男が喋り終わると同時に、どこからか取り出したレミントンM870の銃声が響いた。
「ほう……、あの至近距離で躱したのか…。だが無傷ってわけでもなさそうだな」
「ぐっ……」
男が使っているもの銃は、レミントンM870という散弾銃である。
ユーリの使っているDEとは違い、一発の銃弾だけではなく、何十発もの銃弾がばら撒かれる散弾だ。
それゆえに避けきれずに右の脇腹に被弾したのか、血を流しながらもなんとか立ち、大剣とDEを構えるユーリ。
「俺を殺すなんてどういう冗談だ?俺に勝てたことなんて一度もないだろうが。ーーー?」
「そうだな。俺一人じゃ、お前は殺すことは難しい。だから仲間を呼ばせてもらう」
「なっ………!?」
ユーリを取り囲むように、さっきの賊達とは比べものにならない程の男の仲間が現れた。
「お前を殺すために百人ほど、腕の良い戦士を集めさせてもらった」
「それはご苦労なこった。その労力を他のことに使えよ」
「こんな状況で、そんな生意気な事を言えるとはな。流石だよ」
「ふん、つべこべ言わずにかかってこいよ。この野郎」
「そうか。……じゃあ始めさせてもらうか!」
男が合図を出すと、一斉にユーリに百人もの兵士が襲いかかる。
「この俺に挑んだこと後悔させてやるよ、この野郎共がっ!!」
*
そしてこの賊による暴動は便利屋ユーリの活躍により収まり、被害もそんなに大きいものにはならなかった。
だが、便利屋ユーリがこの日を境に行方不明になった。
懸命に捜索したが、見つかったのは彼の愛用している大剣『リベリオン』だけだった。