第五幕 幻蔵VSみちる
「草壁みちる!幾度お前の悔しい顔を見たかったことか!息子が死ぬ様を黙って見ているがいい!」
凶悪な表情で、女性―みちるに幻蔵は言葉を叩きつける。そんな幻蔵に対し、みちるの表情は凪いだ海のように静かなものだった。
「魔法陣はもう使えない。あなたの願いは叶わないのよ」
「はっ、ははははっ!!使えない?これを見てから言うんだな!」
幻蔵は、そういうやいなや着物を脱ぎ、上半身をさらした。
中肉中背―幻蔵の年齢を考えれば十分張りのある肌の上に、魔法陣―唐草の文様やかな文字を崩したものがびっしりと描かれていた。
その様に、みちるは目を細める。
「馬鹿なことはやめなさい。自分の命を代償にした所で秀人くんを蘇らせることはできないわ」
「やってみなければわからんだろう」
幻蔵は凶気にも似た笑みを浮かべた。
「いいえ。できないわ。・・・私が、止めるからよ」
力強く言い放ち、みちるは動いた。
「はっ!」
みちるは幻蔵に向け、槍を投げた。
矢のごとく向かった槍を、幻蔵は年に似合わぬ速さで避ける。
幻蔵の目線が槍の方を向いている内に、みちるは地を蹴り、幻蔵の前に躍り出た。
そして、右手の掌底を幻蔵の顎目掛けて叩きつけた。
幻蔵の顔が痛みで歪み、体がぐらりと傾く。
みちるは、間髪いれず、鳩尾に足蹴りを見舞った。幻蔵の体は、くの字に曲がり、後ろの壁に勢い良く激突した。
「ぐっ!」
体を曲げ、呻く幻蔵を見つめながら、みちるは幻蔵に近づく。
しかし、次の瞬間、みちるは幻蔵から離れた。
突如、みちるが先ほどまでいた場所から、無数の三角錐が飛び出してきた。三角錐は、みちるの背丈ほどもあり、あと一秒でも遅ければ串刺しになっていただろう。
幻蔵は咳込みながら、ゆったりと立ち上がる。
「ごほっ。老い先短い爺を問答無用で殴り倒すとは。碌な死に方をせんぞ」
「私は男女平等なの。老人だろうが子供だろうが、巫子として戦わなければならないなら実行するまでよ」
三角錐を挟み、みちるが淡々と宣言する。
その時、幻蔵の上半身に血しぶきが舞った。
「なっ」
幻蔵が目を見開く。
いつの間にか、幻蔵の腕や腹など、いたるところに魔法陣の模様を途絶えさせるような切り傷がいくつもできていた。幻蔵は呆気にとられた表情で、みちるを見た。
「安心して。そんなに深くしたつもりはないから。だけど、これでもう秀人くんを蘇らせることはできない」
ぶちっという何かが切れる音がした。
「草壁みちるぅぅぅっっっ!!」
唇から血を滴らせ、悪鬼のような表情で幻蔵が吠えた。硬い三角錐の壁を拳で叩き割り、幻蔵はみちるへと向かう。
「よくも、よくも、よくも、よくも!!」
幻蔵の伸ばした手がみちるの顔に届く刹那、みちるはさっと体を逸らし、その腕を掴んだ。そして、右足を軸にし、幻蔵を背負い投げると、そのままコンクリートの床に叩きつけた。
「がはっ!」
息を全て吐きだすような声を上げる幻蔵に、みちるは躊躇なく掌をその鳩尾に入れた。
「ぐふっ」
蛙が潰れたような声を出しながら、幻蔵は白目を向け、気絶した。
その直後、悠子は額から鋭い痛みを感じた。思わず額に手を当てると、掌に王桃泉の種が転がっていた。
達騎の方を見れば、彼の掌にも王桃泉の種があった。
気絶した健太、眠らされている子供たちのそばにも同じように種が転がっている。
「・・・よかった」
悠子は安堵の息を吐いた。
気絶した幻蔵の手首を、みちるは、幻蔵自身の着物の裾で縛り上げ、拘束する。
そこに達騎が立っていた。
「お袋・・・」
拘束を終えたみちるは、達騎をちらりと見て立ち上がると、壁に突き刺さった槍を引く抜いた。
そして、達騎に近づくと、その額を指でつついた。
「いてっ!」
「私は、大勢を相手に一人でどうにかしろと教えた覚えはないわよ」
「・・・悪かった」
反省の色を宿した瞳を向け、謝る達騎に、みちるはその髪をぐしゃぐしゃと掻きまわした。
「ちょっ、何す・・・!」
「あんたが無事でよかった」
髪から手を離し、その去り際に呟いたみちるの言葉と、今にも泣きそうな表情に、達騎は目を見開いた。
思わず、振りかえる。すると、振り向いたみちると目が合った。けれどその顔は先ほどまでのものとは違い、巫子としての凛々しい表情だった。
「悪いけど、幻蔵を見張ってて」
達騎の返事も聞かず、一方的に言い放ったみちるは、魔法陣にしゃがみこんだまま動かない仁、恭輔、鈴、朱里、珀の方へ向かった。
達騎は、そのみちるの背中を黙って見つめていた。
みちるは、仁、恭輔、鈴、朱里、珀を見やると、「蔓条縛」と言霊を呟いた。床から蔓が現れ、五人の体を縛り上げる。
「もうすぐ警察が来るわ。それまでおとなしくしてもらうわよ」
仁、恭輔、鈴、朱里はみちるを見上げ、何とも言えない表情を浮かべた。ただ、珀だけはみちるの言葉に反応を返さず、顔を俯かせていた。
彼らに抵抗する意思がないのも見てとり、みちるは、倒れている五人の子供のそばにいる悠子に近づいた。
「あなたが鈴原悠子さんね」
「あ、はい」
子供達の脈を取り、一応、怪我がないか確かめていた悠子は、みちるに話しかけられ、驚きながらも返事を返した。
「ごめんなさいね。私のせいで大変な事に巻き込まれてしまって」
「い、いえ!巫子である以上、危険は承知の上ですから」
首を振った悠子に対し、みちるは苦笑を浮かべた。
「巫子であるからといって、危険であることが当たり前だと思わなくていいのよ。理不尽だと思えば怒ったっていいの」
「・・・はい」
みちるの諭すような口調の中に、労わりを感じた悠子は素直に頷いたのだった。
「まっ、それを地でいくのがうちの息子なんだけどね。あの子はもう少し忍耐ってのを覚えた方がいいわね」
片目をつぶり、茶目っけたっぷりに言うみちるに、思わず悠子は口元を緩めてしまう。
「ずいぶんと楽しそうだなー」
すると、二人の後方―気絶している幻蔵のそばに立ち、達騎が憮然とした表情を浮かべていた。
「あら、やきもち?」
「・・・何でそうなる」
みちるの言葉に、思い切り眉を寄せて、達騎は疲れたように呟いた。
「あ、草壁くん。体は大丈夫?」
達騎の姿を目に入れ、悠子は思い出したように言った。
行氣渡で霊力と体力を回復させたといっても、微々たるものだ。加えて右腕の方向がおかしい。赤く腫れてもいる。骨折しているのかもしれない。
悠子が言いたいことを察したのか、達騎は自身の不自然なほどに曲がった右腕を見やった。
「ああ、これな。折れてるよ」
さらりと何でもないように言う達騎に、悠子は慌てた。
「は、早く病院に行かないと!」
「別に行かなくても問題ない。寝てりゃ治る」
「そんなのダメだよ。いくら霊力で治癒力が上がるって言っても、一応診てもらわないと」
「面倒くさい」
「草壁くん!」
そっぽを向く達騎に、自分では説得できないと悟った悠子は、縋るようにみちるを見た。
「診てもらいなさい。あんたの治癒力は高いけど、骨の修正まではできないでしょ」
数秒、達騎とみちるの視線がぶつかり合う。折れたのは、達騎だった。
「・・・分かったよ」
肩をすくめ、達騎は諦めたように小さく息を吐いた。
悠子はその様子にほっと息をつく。
「あ、そうそう。達騎。颯がこの辺りで倒れていたわよ。けっこうな怪我をしてたから、当分は呼びだせないわね。瑠璃と一緒に隠世に帰したから」
「あ?あいつ、姿が見えないと思ったらそういうことか」
「あ、あの!私達を助けようとしてくれたの!そしたら、不意打ちみたいな形で攻撃を受けて・・・」
眉を寄せ、顔をゆがませる達騎に、悠子が慌てて言いつのる。
「分かってる。大方、術を発動させる直前に攻撃を食らったんだろう。・・・言霊破棄の練習でもした方がいいか?」
後半の台詞を自身に向けるように、達騎は呟いた。
「達騎、颯から伝言よ。『すまない』ですって。それから悠子ちゃん」
「はい?」
「『助けられなくてすまなかった』。颯からよ」
「いえ、そんなこと・・・。颯さんのせいじゃありません」
そう颯は何も悪くない。悪いとしたら、不意打ちをしかけた珀にあるのだから。
悠子のその言葉に、みちるが優しく微笑んだ。
「その言葉、もしまた会ったら颯に直接言ってあげて。あの子、けっこう気にするタイプだから」
「はい」
まるで颯の母親であるような口調で言うみちるに、悠子は頷いた。
「あ、そうだ。私の事は名前で呼んで。同じ名字だとややこしいでしょう?」
「あ、・・・はい。わかり、ました」
穏やかな笑みを浮かべるみちるから、有無を言わせない雰囲気を感じ取り、悠子は戸惑いながらも了承したのだった。
その時だった。
「保妖課の聖川だ。誘拐と殺人未遂の罪でお前たちを逮捕する!」
みちるが開けた穴の中から、真治が手に警察手帳を持ちながら、濁声を響かせて入ってきた。
真治の後ろから数人の刑事達が現れ、気絶した幻蔵と、縛られた仁、恭輔、鈴、朱里、珀に手錠をかけ、引き立たせていく。眠ったままの子ども達と気絶している健太を女性警官が運んでいった。
「うわぁぁぁぁあっ!!」
すると、数人の悲鳴が部屋に響き渡った。
見れば、珀の周りを囲んでいた二、三人の警官が血を流し、倒れていた。
珀の周囲には、あり得ない空気の流れができており、彼の髪や服の裾を揺らしていた。
みちるが槍を構え、珀へ突進した。
だが、みちるの槍は見えない壁に阻まれ、みちるの体を弾き飛ばした。
「お袋!」
「みちるさん!」
みちるは壁に激突するところだったのを、空中で一回転して衝撃を殺した後、床に着地した。
「無事か?」
「私が何年、猿田彦の巫子をやっていると思ってるの。このくらい平気よ。だけど、あいつのあの術。厄介だわ」
珀が、今起こしている術の正体がわかっているのか、みちるの顔が苦渋に歪む。
「どういうことだ?」
「あれ、『風燐華斬』っていうんだけど、猿田彦の巫子で禁止された術よ。術者の周囲を風の壁で囲み、攻撃を受ければ、その攻撃の二倍の力で跳ね返す。同時に小さな竜巻を起こして攻撃する。防御と攻撃を兼ね備えた術ってところかしらね。でも、霊力がごっそりもっていかれて、命の危険もあるから、禁止されたのよ」
達騎の眉が寄り、悠子が目を丸くする。
「・・・あいつも猿田彦の巫子の力が使えていた。爺が戦闘不能になったから、あいつもおとなしくなるだろうと思っていたが。失敗したな」
唇を噛み締める達騎に、みちるの叱咤が飛ぶ。
「起きたことはしょうがないわ。警部!みんなを避難させて!」
「もうやっとる!」
聖川は、負傷した警官を両手でひっつかみ、後方に下がると、刑事達に命令を飛ばした。
「お前達、一旦下がるぞ!早く行け!!」
刑事達は返事をしながら、仁、恭輔、鈴、朱里を連れていき、子供達を抱えた女性警官達もその後へついていった。
「達騎、嬢ちゃん!早く来い!」
彼らが全員穴の中に入ったのを確かめ、真治が叫ぶ。
「行ってくれ、おっさん。俺はここに残る」
「私も残ります。聖川さんは怪我した人をお願いします」
真治は、珀を睨むように見つめる達騎と悠子に唖然とした表情を浮かべたが、次の瞬間、濁声を轟かせた。
「馬鹿もの!!怪我人と霊力が枯渇した人間に何ができる!?ここはみちるに任せて、お前達は俺達と来い!」
達騎はいわずもがな、悠子の霊力が少なさを看破したのは、多少妖力があるためか。しかし、真治の言葉に達騎も悠子も一歩も動かなかった。
「鈴原。お前、行けよ。顔が青いぞ」
「草壁くんこそ、一緒に行った方がいいよ。呼吸が苦しそうだもの」
「まぁ、ぼろぼろだが、あいつを一発殴らないと気が済まなくてな」
不敵な笑みを浮かべる達騎を見て、悠子は、これは何を言っても聞かないだろうなと思った。
「私も、巫子としてこの状況を放っておくことはできないわ。だから残ります」
「・・・ふん、勝手にしろ」
悠子が一歩も引かないことを見越したのか、達騎はそれ以上何も言わなかった。
達騎と悠子の間にいるみちるが、疲れたように息を吐く。
「ようするに、二人ともここを動くつもりはないのね」
「もちろん」
「はい」
達騎と悠子は即答する。
「・・・分かったわ。二人には私の援護を頼むわね」
「おい、正気か!?」
真治の驚愕の声が響く。しかし、みちるはそれを無視した。
「た・だ・し!行氣渡をやってからよ。それが終わったら、手を出してもいいけど、もし途中で止めたりしたら、気絶させてここから離脱させるからね」
「おう!」
「わかりました」
みちるの言葉に、達騎は威勢よく、悠子は静かに返した。
「おいっ!草壁!」
聖川はみちるに吠えた。みちるは、そこで真治に視線を向ける。
「何を考えてる!子供たちを危険にさらすつもりか!?」
「そんなつもりはないわよ。でも、無理やりここから離したとしても、この様子じゃまたここに来るでしょう。好き勝手に暴れられるよりは、目の届く範囲にいてくれるほうが都合がいいと思ったのよ」
苦虫をかみつぶしたかのような顔をする聖川に、みちるは言う。
「ほら、早く。応援を呼んで頂戴」
「・・・わかった!無茶するんじゃないぞ!すぐに駆けつける!」
怪我をした警官を担ぎ、真治は先を行った部下達の後を追い、穴の中に消えた。
「・・・ぼくはやる!父さんのために!!」
突如、珀が叫んだ。
すると、その力強い声に比例するように、珀の周囲の風が強さを増していった。そして、小さな竜巻がいくつも生まれ、みちる、達騎、悠子に次々と襲いかかってくる。
三人は、それを紙一重で避けた。しかし、ばらばらに別れてしまう。
「くそっ、こんなんじゃ行氣渡もできやしねぇ」
竜巻を避けながら、達騎は歯噛みする。
「竜巻の数が多い。こんなに霊力が高いなんて・・・」
吹き溢れる風の中、垣間見える珀を見つめながら、みちるは槍を握る手に力を込めた。
「どうやったらあの人に近づけるかな・・・・」
悠子は考える。
みちるの話では、攻撃を受ければ二倍の力で跳ね返す術だと言っていた。
珀の霊力が切れるのを待っていては時間がかかる。それに、この建物もいつ崩れるか分からない。
竜巻のせいでコンクリート片が宙を舞い、壁には多くの亀裂が走っていた。
これ以上、術が続けば天井が落下することもありえる。悠子の今の力では、八重白蓮を繰り出すことも難しい。だが、どうにかして珀に近づき、この術を止めなければ。
悠子は、竜巻を避けながら、達騎とみちるを探す。
すると、互いに背中合わせになって、二人は竜巻を避けていた。
「みちるさん!草壁くん!」
「鈴原!」
「悠子ちゃん!」
三人揃い、竜巻を避けながら、珀の対策を考える。
「八重白蓮のような大技は出せても、長くは持ちません。小さい技ならなんとかできます」
「俺もそうそう大技は出せない。珠々飛弾くらいなら出せるが」
今の霊力の状態を話す悠子と達騎。二人の言葉に、みちるは考え込むようなしぐさをする。
「わかった。・・・私に考えがあるわ」
しばらくして、みちるは達騎、悠子を順々に見た。
「行氣渡をするのは無理だし、それでも、二人には力を絞り出してもらわなきゃいけない。やってくれる?」
「はい」
「気にすんな。もとより無茶は承知の上だ」
達騎、悠子は力強く頷く。
「よし。じゃあ・・・」
「っ、はぁっ、はぁっ!」
珀は風の壁の中で、息を吐く。すると、荒々しく踊っていた竜巻が徐々に消えていった。
霊力が高い人間といえど、限界はある。
「行くよ!二人とも!」
「はい!」
「おう!」
みちるの言葉を合図に、悠子と達騎は、術を展開した。
「珠々飛弾!」
「水壁避流!」
達騎は風の壁に向かって、いくつもの光の弾を放った。同時に、みちるも達騎が放った珠々飛弾に被せるように、同じく珠々飛弾を叩きつけた。
珠々飛弾を受け、威力が二倍となった光の弾が悠子達のもとへ返ってくる。悠子は三人の前に水の壁をつくり、光の弾の軌道を受け止めるのではなく、左右に逸らし続けていく。
五分ほどたった頃だろうか。
珠々飛弾を連続で放った場所に、穴が開き始めた。
それは針の穴を通すほどの小さいものだったが、やがて、ピンポン玉ほどの大きさとなった。
(今だ!)
みちるは、その穴に向かって槍を投げた。
槍はぶれることなく真っ直ぐ飛んでいき、術を行使する珀の左肩を貫いた。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!」
槍が突き刺さった珀は、突き刺さった槍を掴みながら悲鳴を上げる。
その痛みで術を行使する集中力が切れたのか、風の壁もなくなった。
その隙を見逃さず、達騎は珀の前へ躍り出た。
「でやぁっ!!」
そして、右拳を珀の頬に勢いよく叩きつけた。
珀は、べしゃっという音をたてて、背中から仰向けに倒れ込んだ。
「・・・はぁ、はぁ、はぁ」
荒い息をつきながら、達騎は珀を見た。珀は顔を天井に向け、ぴくりとも動かなかった。
「あー、くそっ。つっかれた」
達騎は大きく息を吐き、どかりと腰を下ろした。悠子も地面にぺたりと座り込む。力を酷使したためか両手が小刻みに震えていた。
「釣船」
みちるが静かに言霊を唱える。槍は大きな群青色の布となり、珀を包み込んだ。
「・・・ありがとう。達騎、悠子ちゃん。よくやってきれたわ。あとは、警部達に任せて・・・」
みちるが言い終わらぬうちに、三人の前方で巨大な冷気が立ちあがった。
それは、珀だった。
「・・・何だ!?」
悠子、達騎、みちるは目を見開き、珀を凝視した。空気さえも凍えるほどの冷気が、倒れた珀の周りに漂い、布を凍らせ、槍の姿に戻らせた。
気絶したはずの珀の体がゆらりと立ち上がり、三人を見やった。
その瞳に光はなく、氷のような冷たさを感じさせた。