第十七幕 歩と直
カサンドラは去り、ワインレッドの布が悠子達の体に激しく巻きつく。
「くそっ!槍が使えねえ!」
布の海の中で、達騎が呻く。
悠子も抜け出そうともがくが、びくともしない。
氣を探れば、巻きつく布には無機物にはない何かしらの意思が感じられた。
「草壁くん!」
「なんだ!」
怒鳴り返すように聞き返す達騎に悠子は叫んだ。
「この布、精霊かもしれない!かすかだけど、普通の布にはない意思を感じるの!」
「っ、そうかよ!ならっ!」
悠子の言葉を聞いた達騎は、口元をにやりと上げ、息を大きく吸い込んだ。
「おい!このクソ布!お前のご主人はどっかに逃げちまったぜ!情けないよな!だが、情けない主に使われているお前のほうがよっほど情けねえなぁ!俺らを殺せもしないんだからな!」
達騎の挑発の言葉が、室内に響く。
しかし、布は部屋の中を揺蕩うだけで、二人に巻きつく布には何の変化もなかった。
「・・・・・・」
空しさをはらむ空気が、辺りに漂う。
「もしかして、挑発させて布をはがそうとしたの?」
「・・・おう」
達騎は、何とも言えない表情を浮かべる。しかし、次の瞬間、八つ当たり気味に大声を上げた。
「この!クソ布!意思があるつーんなら、少しは挑発にのれってんだ!」
達騎のやけくそな叫びを聞きながら、悠子は、カサンドラの言葉を思い出していた。
『――今日の相手はあなた達じゃないのよ』
(あの言葉の意味は一体・・・・)
決していい意味ではないことは確かだ。悠子は、どうやってこの拘束から逃れられるか、頭を回転させた。
女―カサンドラは、天幕の入り口を出る。しかし、そこは外ではなく、先ほどいた場所と全く同じ、水晶玉が置かれた部屋だった。
そのことに驚いた様子も見せず、カサンドラは周囲を見回し、口元を隠した布の奥で、楽しげにニっと笑った。
悠子と達騎が布にからまれ、奮闘している頃、行列に並び、直はファントムの入り口まで来ていた。
ワインレッドの布を持ち上げ、中に入る。
そこには、口元を布で隠し、目元しか見えない深緑色の衣装を身にまとった女性が立っていた。
「こんにちは。吉沢直さん」
女性は、凛とした声を上げ、まるで観察するかのように、じっと直を見た。
名を告げられ、直は体を固くさせた。
「どうして、私の名前を知っているの?」
すると、女性はふっと息を吐いて、笑った。そして、流れるような口調で話し出した。
「あなたのことは、何でも知っているわ。会社員の父、専業主婦の母、中学生の弟が二人。巫子である鈴原悠子と半妖である七海楓の友人でもある」
プロフィールを淡々と口にする彼女に、直は言いようのない恐怖を感じた。
悠子と達騎のために自分にも何かできることをと、後を追ってきたが、直感的に自分にはできないと悟った。
逃げ出したいと体が叫んでいた。思わず、足が後ずさる。
「あら、だめよ」
ふいに、女性が右手を直に向けて払った。
次の瞬間、直の耳元でブンッという羽音が聞こえ、左頬に小さな痛みが走った。
手をやれば、血がかすかにでている。
「ごめんなさいね。あなたを逃がすわけにはいかないの。もし、逃げたら、あなたも体育館の照明みたいに真っ二つになってしまうわよ?」
女性の肩に、カマキリのような虫が乗る。それは、姿形こそカマキリだったが、体や色は空の色のように透き通った青色をしており、目は血のように赤かった。
「この子は、風丸。カマキリの妖よ。小さいけれど、金属でも切れる鋭い鎌をまもっているの。もちろん、人間も切れるわ」
女性は、目を細め、邪気のない声を上げた。
「頸動脈をばっさり切られて、出血多量で死にたくはないでしょう?」
この人は本気だ。女性の口調から、直は悟った。唇をぎゅっと結び、女性を睨みつける。
「あら、怖い顔。でも、大丈夫よ。もうすぐあなたを助けにきてくれる王子様が現れるから」
王子?
直が頭に疑問符を浮かべていると、直の後方―天幕の入り口から光が差し、誰かが中に入ってきた。
「堯村!?」
そこにいたのは、歩だった。
悠子と直がファントムへ向かい、楓は、一人残されることになった。
(占ってもらうと言っていましたが、それにしては直さんの様子がおかしかったですね・・・)
何か焦っているような、そんな感じが見て取れた。
いまだ行列が続くファントム。
いくら占いが当たるからといって、行列が途切れないというのは、少しそら恐ろしいものを感じさせた。
直の事は気にかかるが、行列に入って行き違いになったらまずい。
ここで待っていようか。それともどこかで時間を潰そうか。
道の端に移動し、ファントムの行列をなんとはなしに見ながら考えていると、浩一の声が楓の背にかかった。
「あれ、七海。ここで何してるんだ?」
振り返れば、浩一と歩の姿があった。
「吉沢と鈴原がいないが、どうかしたのか?」
怪訝そうな顔で聞いてくる二人に、楓は微苦笑を浮かべ、ファントムを指し示した。
「悠子さんと直さんは、占ってもらいにあのファントムというお店に入りました」
「占いの館?へぇー、あの二人、占いに興味があったのか」
看板を読んだ浩一が、感嘆ともつかぬ声を上げる。対して、歩はやおら厳しい表情になり、ファントムを見つめていた。
「・・・俺も占ってもらうか」
「えっ」
「はいっ!?」
思いもかけない歩の台詞に、楓は驚き、浩一の声は裏返った。
「堯村、お前、占い、好きだったっけ?」
「いや。だが、こんなに並んでるんだ。さぞかし名のある占い師なんだろう。やってみる価値はあると思う」
「はぁ」
力を込める歩に、浩一は若干引き気味の表情で頷く。
「早瀬。お前は帰っていいぞ。俺は占ってもらう」
そういうと、歩はファントムに並ぶ行列に向かって、さっさと歩き出した。
「あっ、おい、堯村!」
浩一の返事も聞かず、歩は歩き去っていく。
楓と浩一は、茫然としながら、歩の背を見送ることしかできなかった。
「あっ!」
達騎のことを思い出し、楓は思わず声を上げた。
「どうした?」
「そういえば、草壁さんも中に入りました」
「マジか!?」
楓の言葉に、浩一が目を見開いた。
ファントムを見た瞬間、歩は気づいた。支龍高校の体育館の照明を切断した犯人がここにいることを。
悠子は、おそらくそれに気づいて中に入ったのだろう。しかし、直が気づいたとは思えない。おそらく興味があって並んだに違いない。
鈿女の巫子ほどではないが、氣を辿ることは鬼討師にもできる。歩は、直の氣を探り、彼女がもう中に入っていることを察知していた。
悠子はともかく、直は危険だ。今すぐ連れ戻さなければ。
歩は行列の最後尾には行かず、行列を通り越して、天幕の入り口へ向かう。
布を持ち上げ、入ろうとすると、すでに並んでいた少年が食って掛かってきた。
「何すんだよ!この行列が見えねえのか!俺が先に並んでたんだぞ!」
「悪いが緊急事態だ。入らせてくれ」
「なにが緊急じた、ひぃっ!」
このままでは埒があかない。少年に殺気を叩きつけた歩は、少年が怯んだ隙にファントムの中へ滑り込んだ。
「堯村、あんた、どうして・・・」
不可解そうな直を一瞥してから、歩は、目の前に立つ深緑色の衣装を着た女を見た。
女は、肩にカマキリの妖である鎌飛を置き、佇んでいる。
「役者が揃ったわね。では、改めまして。私の名前はカサンドラ。よろしくね。じゃ、始めましょうか」
パチンと、女―カサンドラが指を弾く。
すると、突然、床から手首ほどの幅を持った蔓が現れ、直の手足を拘束した。
「うっ!」
「吉沢っ!」
歩は、直の手足を拘束する蔓をほどこうするが、蔓はうんともすんとも言わない。
「無駄よ。それは、私を倒さない限り解けることはないわ」
「お前、半妖か?」
「いいえ。人間よ。ただ、その能力をもつ者が私の知り合いではあるけどね。私に勝ったら、その子の拘束を解いてあげる」
交換条件ということか。歩は、カサンドラを見つめた。
「・・・何をすればいい」
「簡単なことよ」
カサンドラは笑う気配を漂わせた。
「私があなたのことをあてるわ。それにあなたが反論して、私を言い負かしてくれればいいの。怪我をすることも危険な事をすることもないわ。もちろん、そこのお嬢さんに危害を加えることもしない」
「信用できないな」
「できないなら、彼女はそのままよ?私は別にそれでもいいけど。困るのはあなたじゃない?」
「・・・・わかった。受けよう」
「堯村・・・」
不安に満ちた直の声に、歩は振り向く。直は、拘束されながらも、眉が下がり、申し訳ないといった表情を浮べていた。
「あの、ごめん」
「なに?」
いきなり謝られ、歩は目を瞬かせた。すると、直は顔を伏せ、小さく呟く。
「私のせいで・・・」
その言葉で、歩は勘付いた。自分が人質になったせいで、こんなことになったと思っているらしい。自分より他人の心配とは。あの鈴原の友人だけのことはある。
「なんて顔してるんだよ。心配すんな。すぐ片付く」
「・・・うん」
直を安心させようと、歩は小さく笑みを浮かべた。
元気づけられたかどうかはわからないが、それでも直の表情が微かに明るくなる。
歩は、唇を引き結び、カサンドラと向き合った。
カサンドラが口を開く。
「あなたの名前は、堯村歩。鬼討師四家、堯村本家の四男。長男は次期当主。次男は検事、三男は某大手企業の秘書。長男の力は堯村家最強と言われ、次男、三男もそれに継ぐ力を持つ。あなたも幼い頃から鬼討師としての訓練を受けてきた。紋術と霊威との契約。そして、体術。だが、どれも兄達に劣る。学力も運動能力も兄達には敵わない。あなたは悟った。凡才が天才に勝とうとしても無駄だ、と。あなたは諦めた。兄達を超え、両親に己の才能を、存在を認めさせることを」
淡々と語られる歩の軌跡。しかし、それらは、的を得ていて歩の心に深々と突き刺さった。
「全てを諦めていたあなたに一人の男が現れた。彼の名は草壁達騎。鬼討師よりも古い猿田彦の巫子の血を引く者。彼と対峙した時、あなたは気づいた。彼も兄達と同じだと。巫子としての力は言うに及ばず、学力も運動能力も本気を出せば上にいけるというのに、彼はそんなものは関係ないとばかりに投げやりに行う。遅刻はするし、休みも多い。それが天才の余裕か。ふざけるな。あなたは草壁達騎を見下す一方で、嫉妬すら感じていた。お前はやればできるのに、なぜやらない。まるで俺が道化のようじゃないか」
カサンドラは、まるで見てきたように次々と言葉を放つ。
眉を寄せながら、歩はカサンドラを睨みつけた。
「自分の周りには、敵わない人間が多い。あの守りの力をもつ鈿女の巫子、鈴原悠子でさえも。あの氣を察する力は、自分より高い」
「・・・・・」
「さぁ、どうかしら」
カサンドラは目を細め、歩を見る。
歩は小さく息をついた。
「まったく、その通りだ。これだけあっていると、反論する気も失せてくる。むしろ頭が下がる思いだ」
「ちょっと、そんな簡単に・・・!」
諦めをみせる歩に、直が声を荒げる。しかし、その声を遮るように、歩は強い口調で続けた。
「だが、そう他人にほいほいと自分の心を見透かされるのは、気分が悪い。今度は俺がお前をあてよう」
「ふ~ん。何も知らない私のことをあてられて?」
おもしろそうな光を瞳に走らせ、カサンドラが言う。
「あんたみたいに事細かにあてられはしないが、あんたの性格はだいだい読める」
歩は、人差し指をカサンドラに向けた。
「あんたは、相手を翻弄する能力に長けている。心を読み、揺さぶりをかけることが得意だ。いくら相手の情報があったとしても、聞かせるあんたが説得力を持たせなければ意味がない。職業は、言葉を使うコピーライターか、舞台女優か。体型はいいが、戦う者のそれじゃないし、裏方といったところか。だから・・・!」
そう言って、歩はブレザーの内ポケットから二枚の紋符を素早く取り出し、カサンドラに投げつけた。
一枚は鎌飛に、もう一枚がカサンドラに張り付けられる。
「きゃっ!」
その瞬間、紋符から赤い電流が発生し、一匹と一人の体を包み込んだ。
カサンドラは、がくりと膝を落ち、前のめりに倒れる。鎌飛も力尽きたように床に落ちた。
彼らに聞かせるように、歩が言った。
「体は痺れるだろうが、三十分くらい経てばじきに動けるようになる」
「・・・・・」
瞳をこじ開け、カサンドラがくやしそうに歩を見上げた。
歩は、部屋の中を見回し、声を上げた。
「おい!俺は勝ったぞ!約束通り、吉沢の拘束を解け!」
その言葉が聞こえたのか、直の手足を縛っていた蔓が直の体から離れ、床の穴から吸い込まれるように消えていく。
「うわっ」
縛り付けられ、ある意味蔓に支えられていた直は、その支えを失い、転びそうになる。
歩は、直の腕を掴み、支えた。
「大丈夫か?」
「う、うん」
直が頷く。その表情には戸惑いのようなものが見てとれた。
その時だった。
ボシュ―と、まるで空気が抜けるような音がしたかと思うと、歩と直の周りに白い煙が現れた。
煙は、倒れたカサンドラ達を覆い、歩と直のそばにも近づいてきた。
「動くな!」
後ずさる直を、歩は鋭い声で制した。
煙は辺りを包み込み、室内の様子が分からなくなるほどの白さになった。
しばらくして、煙がはれる。
「いてっ!」
「いたた」
なぜか達騎と悠子の声が聞こえてきた。だんだんと煙が薄くなっていく中、そこにいたのは、達騎と悠子だった。二人とも地面に座り込み、痛そうに顔をしかめている。
茫然と二人を見つめていると、悠子が歩と直に気付いた。
「直ちゃん、堯村くん?」
「お前ら、なんでここに?」
悠子と達騎が立ち上がりながら、不思議そうな顔をする。
「それは俺の台詞だ」
「二人はどこにいたの?」
直に聞かれ、悠子が答えた。
「どこにって・・・。ファントムの中だよ」
「あ?俺達もそこにいたぞ」
「えっ」
悠子が驚いたように目を見開く。達騎が苛立ったように舌打ちをした。
「お前の言うとおり、あのクソ布が精霊だったとするなら、そっくり同じ空間を作ることも可能だろう。あー、結局何もできなかった!腹たつ!」
達騎が八つ当たるように、槍の石突で地面を叩いた。
気づけば、カサンドラ達の姿もワインレッドの天幕も跡形もなく消え、歩達四人は、商店街の中にいた。あれほどいた行列もいなくなり、商店街を歩く通行人が歩達を不思議そうな顔で見ながら、通り過ぎていく。
「あれ、ないぞ?」
「あ、ほんとだ。もう店閉まいしちゃったのかな?」
ファントムを目指して来たのだろう。カップルらしき男女が、ファントムがあった場所を見つめながら、首を傾げていた。
「悠子さーん、直さーん!」
「堯村ー、達騎ー!」
歩達が振り返ると、楓と浩一が手を振り、商店街の人の波を潜り抜けながら、こちらに駆けてきた。
楓と浩一、二人と合流した悠子達は、商店街を抜け、住宅が並ぶ道を歩いていた。
悠子はそこで、直がカサンドラに捕まったこと、歩がカサンドラを倒し、直を助けたことを知った。
「そう。とにかく無事でよかった。堯村くん、ありがとう。あなたがいなかったら、直ちゃんもどうなっていたかわからなかったし、私たちも身動きがとれないままだったわ」
礼を言う悠子に、歩が目を逸らす。
「べつに・・・、いだっ!」
その時、直が思い切り歩の背を叩いた。
「素直に受け取りなさい!」
「・・・おう」
しぶしぶといった風に、歩が頷いた。
ふと、悠子が隣の達騎を見ると、厳しい表情を浮かべながら、前を見ている。
「草壁くん?」
「七海とコウの次は、直と堯村。最近、俺たちの周囲で事件起きることが多い気がする・・・」
「うん、確かにそうだね。でも、無事に解決できたからよかった」
ほっと息をつく悠子だったが、達騎の表情は変わらなかった。
「ねぇ、堯村」
直は前を歩く歩の背に声をかける。
「なんだ?」
「カサンドラって人が言ってたことって、本当なの?お兄さんや両親のこととか、達騎のこととか」
「あぁ」
振り返ることはせず、答える歩。
「そっか」
「・・・・・」
直は、小さく息を吸い、歩の背を見つめると、言葉を続けた。
「ありがとう。助けてくれて。私、堯村がどう思っていようと、あんたはあんただって思ってる。凡才とか天才とか関係ない。あんたは、もっと自分を信じたほうがいいよ。今日だって、私を助けてくれたのはあんたでしょう?市民ホールの時、みんなを助けたのだってそう。・・・もし、あんたが自分を信じられないなら、私があんたを信じる。あんたは立派な鬼討師よ」
直は息をつく。言いたいことは言った。あとは歩次第だ。
「・・・当たり前だろ」
歩が足を止め、振り向いて直を見た。その顔には微かに笑みが浮かんでいる。
「俺は堯村家の鬼討師だ。守る人間を守れないなんてことになったら、笑われる。先祖にも顔向けできない」
歩がたびたび口にする『堯村家』。それは、相手を威圧するときに使われていたが、今の言葉はそうではなかった。そのことを誇りに思っているような雰囲気が漂っている。
「うん、そうね」
直は頷く。
「でも、まっ、ありがとな。少し、楽になった」
礼を言われ、直は思わず目を見開く。胸の奥にくすぐったさを覚えながら、直はにこりと笑った。
「どういたしまして!」
※※※※
「ねぇ、草壁くん、一つ聞いていいかな?」
「なんだ?」
「どうやって、私の次に入ってきたの?私が見たときは、確か別の人がいたと思ったんだけど」
「あぁ。『親切な』客が俺に順番を譲ってくれたんだ」
『親切な』という言葉を強調し、達騎が口角を上げて、にっと笑う。
あぁ、これは脅したんだな、と悠子は思った。
悠子と達騎、歩と直の後ろを歩きながら、楓と浩一は彼らの話を聞いていた。
「四人とも巻き込まれるなんて。何だか心配です。これから何かあるみたいで」
楓は不安げな表情を浮かべる。
「そうだな。だが、俺は達騎達を信じてる。何があっても、どうにかするってな」
力強い浩一の言葉に、楓は頷いた。
「そうですね・・・。あ、そうだ。早瀬さん」
「ん?」
「この間はありがとうございました。助けてくれて」
頭を下げる楓に、浩一は首を振った。
「助けたのは、鈴原や達騎だ。お礼を言うなら俺のほうだ。撃たれた時、助けてくれただろ?」
「あ・・・」
浩一の言葉で、楓は思いだす。口移しで浩一に血を与えたことを。
「・・・・!!」
心臓がどくどくと脈打ち、一気に顔が赤くなる。楓は思わず視線を逸らした。
「どうした?」
「な、なんでもありません!」
不思議そうな声で尋ねる浩一に、楓はどもりながら告げた。




