第百十八幕 日常
夏休みが終わり、始業式が始まった。
悠子は、校門まで続く長い坂を歩いていた。早めに出てきたためか、学生達の姿はほとんどと言っていいほどない。
坂の両脇は林になっており、そこに自生する樹木から蝉の声がひっきりなしに響いている。歩を進めるたびに、むっとした熱気が体を包み、額からは汗が零れた。半袖姿ではあるが、やはり暑い。
ふと、右腕に目を向けるが、そこに痣のような封印の印はない。封印を施され、しばらくたって、それは見えなくなってしまったのだ。けれど、見えなくなっただけで消えたわけではないことは悠子が一番よく分かっていた。ためしに術を使おうとすると、何かに押さえつけられるように体が固まるのだ。
でも、見えなくなってよかったと悠子は内心ほっとしていた。痣があるままだったら、半袖になることもできない。常に見られることを意識して日常生活を送らなければならなくなる。そのことを思えば、格段に楽だった。
悠子は、スカートのポケットからハンカチを取り出し、汗を拭いた。
「はぁ・・・」
あまりの暑さに、思わずため息が出る。九月にはいったが、残暑は厳しかった。
汗を拭きながら、坂を上り終えると、見慣れた黒い校門と白く塗られた校舎が目に入る。終業式に出なかったからかもしれない。それを目にした瞬間、まるで何年も見ていなかったようなひどく懐かしい気持ちになった。
遠目には何事もなく建っているように見えるが、悠子は直から聞いて知っていた。
悠子が鵺と達騎を追っているなか、この支龍高校が戦場になったことを。
歩や彼の兄達が尽力し、死者は出なかったが、重症者は多数いた。
図書館司書で鬼討師である金城舞、用務員で、同じく鬼討師の小暮十郎太は、今も病院で治療をしており、異能力者によって精神を壊され、また、怪我をしたテニス部や野球部の学生達も入院していた。無事に復職、復学するには長い時間がかかるだろう。
楓と浩一も暴動に巻き込まれ、しかも、沙矢が腹に穴を開けられるという重傷を負った。妖だったのが幸いしたのか、傷は回復し、歩けるようにはなったが、大事をとって入院しているということだった。
その話を二人から聞いたのは、鈴原の実家での集会が終わり、心身ともに落ち着いた時だった。
「・・・・・」
直と楓の声は電話で聞いたが、直接会ってはいない。久しぶりに二人に会える日だ。
会えることは素直に嬉しい。しかし、達騎を連れて帰ることのできなかった申し訳なさが胸を塞ぐ。
記憶がないのだとしても、もう一度、「はじめまして」からやり直し、達騎と友達になってほしかった。かつての過去は取り戻せないが、未来はいくらでもつくることができる。
――新しい関係で、楽しく、優しい思い出をたくさん作る。
それが、悠子の望みであり、願いだった。
けれど、それは叶わなかった。
この結末は達騎が選んだものだ。けれど、それでも、今、達騎がここにいないということがどうしようもなく、悔しく、悲しかった。
鬱々とした思いが胸を過り、悠子はそれを振り払うように、ぶんぶんと首を横に振り、勢いよく顔を上げる。
これ以上、考えても仕方がない。達騎はすでに選んでいる。そして、自分は待つことを選んだ。
十年は長い。だが、再会するときは、胸を張って達騎に会いたい。そして、「おかえり」と言ってあげたい。
ぐっと右拳を握りしめ、悠子は誓うように空を見上げる。
淡い水色の空には雲一つなく、一羽の雀が囀りながら飛んでいくのが見えた。
「悠子~!」
「悠子さん!」
その時、聞き慣れた二つの声が悠子の耳に飛び込んできた。
振り返れば、直と楓が髪をなびかせ、駆けてくるのが見えた。
「直ちゃん、楓ちゃん!」
悠子は笑みを浮かべ、手を振る。それに気づいた二人も笑みを浮かべ、悠子の隣に追いついた。
「久しぶりだね。二人とも、無事で――元気でよかった」
声を聞き、大丈夫だとわかっていても、元気な姿を見れば安心する。悠子は、胸の中で安堵の息を吐きながら、直と楓に微笑んだ。
「悠子もね」
「声は聞いていましたけど、やっぱり顔が見えると安心しますね」
直が頷き、楓も安心したように息を吐く。
お互いがお互い、似たような事を考えていたことがわかり、知らず、くすくすと笑い声が零れる。
「でも、二人とも早いね。まだ、八時前だよ」
悠子にとっても早い登校だが、直や楓にとってもそうだった。普段なら、三人が三人とも登校するのは八時過ぎだからだ。
悠子が早めに来たのは、あまり人目につきたくなかったというのもある。
命喰鳥の死体に囲まれ、血みどろの姿の自分が全国へ放映されたのは、記憶に新しい。その死体をつくった犯人が達騎だとテレビで流れたとはいえ、それを疑い、信じない者もいるだろう。支龍高校の学生、教職員。彼らが全てそうとだはいわないが、校内や教室に入った途端、遠慮のない好奇な視線や敵意のある、また疑念の目で見られるのは、正直、気が重かった。
長い休みが明け、ようやく学校が始まるのだ。それは少しでも少ない方がいい。さらされるかもしれない視線を真正面から受けるよりも、早めに校内や教室に入り、心の準備をして受け止める方が精神衛生上いいと判断したのだ。
だが、こう考え、行動している以上、悠子自身も彼らを疑っていると言っているようものだ。
――私も、人のことは言えない。
胸の内で、苦笑を零す。けれど、今さら家に引き返すことなどできなかった。
すると、直と楓が互いに顔を見合わせる。そして、真剣な目を悠子に向けた。
「早めに来たのは、悠子、あんたの話を聞くためよ」
「電話ではあまり聞けませんでしたから」
「そんなことのために?もし、この時間に来なかったらどうしてたの?」
事前に待ち合わせをしていたわけではない。もし、悠子が遅く来ていたら、二人のしたことは無駄になってしまう。
「別にその時はその時よ。話を聞くのももちろんだけど、まずは悠子の顔を見たかったから」
直の言葉に楓が「えぇ」と頷く。
「正直、悠子さんは学校に来ないかもしれないと思っていました」
「そうよね。あんなのがテレビに出ちゃって、私だったら来れないかも」
自分に置き換えて考えたのか、直が嫌そうに眉を顰めた。
確かに、学校に行かないという選択肢もあった。父も母も無理はしなくていいと言ってくれた。
けれど、あの映像は鵺が画策したことであったし、悠子自身、やましいことはしていない。胸を張り、はっきりとしていないと言うことができる。それでも、多くの好奇や疑念の目にさらされるのは堪えるが。
悠子自身、疑念を向ける人々に、胸を張ってしていないと言い切る勇気はあったが、あの映像で、悠子を犯人だと考える妖が現れ、周りの人間が巻き込まれるのではないかと恐れた。だが、達騎が逮捕されたためなのか、今のところ悠子が危惧していたことは起きていない。悠子が襲われ、周りの人々が巻き込まれたのは、輪音タワーの時だけだった。
ここにはいない達騎に守られ、助けられている。そのことが申し訳なく、苦しくもあった。
しかし、そういつまでも心苦しくしてばかりいては前へ進めない。自分ができることは、学生生活を送ることのできない達騎の分も学校に通うことだった。
「――小学校の時も、色々あって学校を休んでたことがあったから。学校はできるだけ行こうと思ってるの」
達騎の事は言えない。そのことを複雑に思いながら、悠子は無難に答えるしかなかった。
「そうなんですか。でも、あんまり無理はしないでくださいね」
「そうよ。悠子の大丈夫はあてにならないから」
そう言う悠子に納得しながら、楓は気遣いの言葉を忘れなかった。直も楓に同調するように頷く。
全てを話さず、嘘をついている自分に対し、信頼し、気遣ってくれる親友二人の姿がまぶしい。同時に、申し訳なく思った。
「・・・ありがとう」
悠子は心を込めて、礼を言った。
ここにいるのもあれだからと、悠子、直、楓の三人は校門をくぐり、校舎へ入った。
『2-A』の教室に入ると、そこにはまだ誰も来ていなかった。
閉め切った窓を開け、換気をする。
温く、むしむしとした室内に空気が通ることで少しだけましになった。
悠子が自分の机に鞄を置くと、直が自分の椅子を持ってやってきた。
「さ、悠子、話してもらうわよ」
その隣には、同じように椅子を持った楓の姿もあった。
「・・・あんまり楽しい話じゃないけど」
そう前置きし、悠子は自分の椅子を引き、座った。直と楓が椅子に座るのを確認し、口を開く。
「本当は、終業式まで休んでやろうとしていたのは、巫子の仕事じゃないの。・・・友達を探しにいってたんだ」
達騎のことを言うことはできない。だから、本当の事に嘘を混ぜながら、理由を話した。
「その友達は、私が小さい頃の友達で、巫子をしていたの。その子が仕事で行方不明だって聞いたから、いてもたってもいられなくて探しに出かけたの」
父と母にもそう言い置いて探しに出かけていたが、鵺との戦いが終わり、父、拓人に友達は見つかったのかと尋ねられるまで、悠子はそのことをすっかり忘れていた。
悠子はその友が達騎だと口にはしていなかった。さすがに勘の鋭い拓人でも気づかなかったのだろう。だから、拓人にとっては、達騎は悠子の命の恩人で、探している友達は別にいると思っていたのだ。
それに気づいた悠子は、慌てて「うん、大丈夫。見つかったよ」と言った。ある意味、嘘ではなかった。ただ、少しややこしくなっただけで。
(直ちゃんや楓ちゃんにも話す時は気をつけなきゃ)
拓人にそう言った時、悠子は胸のなかにしっかりと刻み付ける。達騎は達騎、友達は友達、と。
「それで、その友達は見つけられたんですか?」
「うん。見つけられたよ。今は知り合いのところにいる」
楓に問われ、悠子は頷く。
「でも、二人とも本当に無事でよかったわよね。下手すれば、大怪我しかねなかったんじゃない?」
直の言葉に、悠子は内心ぎくりとする。
大怪我というか、達騎は一度死にかけている。
「そ、そうだね。でも、悪運は強かったみたいで、大きな怪我はなかったよ」
不安を感じさせてはまずいと、できるだけ淀みなく答えた。
(――こうやって、どんどん嘘がうまくなっていくんだろうか)
何ともいえない感情が胸のなかに浮かぶのを感じながら、悠子は話せる範囲で、直と楓に夏休み中の出来事を、他の生徒が来るまで話し続けた。
異能力者達との戦闘によって体育館は使えない状態になってしまったため、生徒と教員達は外で始業式を行うことになった。
式は滞りなく行われた。しかし、生徒の数は少なく、全体の半分もいなかった。悠子達のクラスも四十人中、二十人しかいない。
戦闘に巻き込まれ、怪我を負い、入院している生徒や、防犯設備の整ったこの高校で事件が起こったことを知った保護者達から休むよう言われ、自主的に休む生徒や、退学し、別の高校へ編入する生徒もいたため、圧倒的に数が少なくなってしまったのだ。
たとえ、人数が少なくなったとしても、この高校を必要としてくれる君達がいる限り、ここをなくしたりはしない、と皆を見渡し、断言する校長の姿が印象的だった。
悠子が重く見ていた生徒達の疑いの目は、あるにはあったが、深刻になるほどではなかった。最初のほうこそ、遠巻きに見ていた彼らではあったが、直や楓、歩や浩一が前と変わらず接したことで大丈夫だと気が付いたのか、普通に接してくれるようになった。
それに、以前悠子がしていた失せ物探しや、事件に巻き込まれた際に助けてくれたことが、悠子に対する疑念を払拭することにもつながり、学校生活は暴動事件が起こる前と変わりなく過ごすことができた。
けれど、異能力者が高校を襲い、妖達が二つの市の周辺で暴挙に出たことで、異能力者や妖に対する偏見や差別は社会的に高まりを見せていた。異能力者だけを集めて町をつくり、その周りを壁で囲うとか、妖の故郷である狭間との交易をやめ、葦原と狭間を行き来できる鳥居を壊すなど、人道に反する考えや、経済的に打撃になるやり方を提唱する者まで現れた。
それでも、異能力者や妖だけが悪いのではないこと、そして、狭間との交易なくしては今の葦原の経済が成り立たないことを知っている者もおり、そのやり方に反発する人々も大勢いた。
葦原国内では、異能力者や妖を追い出そうとする勢力と、彼らを守ろうと動く勢力とで大きく二分されようとしていた。
また、鈿女の巫子、猿田彦の巫子の立ち位置は大きく変わった。両方の巫子が鵺に加担したことで、周りの評価や信用は底辺まで落ち込んだ。依頼される仕事の量は減り、巫子だと分かれば表だって言いはしないが、嫌そうに顔を顰める者もいた。
逆に鬼討師に対しての依頼が増え、かつては等分になっていた仕事量は、鬼討師に多く傾くようになった。鬼討師にとってはうれしい悲鳴、とまではいかなかった。確かに、依頼が増えるのは嬉しいことだが、もともと三つの勢力で当分していた仕事が一気に流れ込んできたことで、いくら巫子よりも人数が多いとはいえ、鬼討師たちでも捌ききれるものではなかった。そのため、あぶれてしまうものもあり、それに怒った依頼人の対処に奔走することも多くなった。
鵺たちが起こした事件は、葦原国内に大きな爪痕を残した。その爪痕を、時に見聞きしながら、悠子は傍観しているほかなかった。
巫子の能力をなくした悠子にとって重要になったのは、巫子と学生の両立ではなく、高校生活を無事平穏に送ることだった。
とはいえ、荒御魂が視えなくなったわけでも、氣を感じられなくなったわけではない。
嫌な氣を感知して、荒御魂を目にした時には、歩に相談することにしていた。それを聞いた歩が単独、または他の鬼討師に協力を仰いで対処する、ということがいつしか当たり前になっていった。
歩に相談するたびに、悠子は歯がゆい思いを感じていた。自分に力があれば、と栓ないことを思うのは一度や二度ではない。
しかし、この自分を受け入れなければ、祖母、律がしてくれたことが無駄になる。
やるせない思いに囚われそうになった時、悠子は、体術の型を家の庭で練習したり、放課後に直や楓とカラオケや買い物をして、発散させることにしていた。
そのおかげかどうかは分からないが、悠子の周りに大きな事件や事故が起きることはなかった。それは、悠子にとっても喜ばしいことではあったが、胸にぽっかりと穴が開いたような感覚は消えることはなかった。
そんな日常が一カ月ほど続いた頃だった。
「悠子、楓。今週の土曜日ってひま?」
放課後、家路へと向かう帰りに、直が藪から棒に尋ねてきた。
「え、特に予定はないけど・・・」
「私もありませんが」
互いに顔を見合わせ、悠子と楓がそう口にすると、直はにんまりと言った表現が似合う表情を浮かべ、背負ったリュックから数枚の細長い紙を取り出した。
「じゃ~ん!」
そして、広げて見せる。
その紙は何かのチケットのようだった。薄い水色を下地とした背景に、観覧車とジェットコースター、メリーゴーランドの絵が描かれ、その隣には、緑色に塗られた丸みを帯びた文字で、『ノイエス・ワンダーランド』と書かれている。
その文字を見て悠子は思い出した。それは、花野市に新しくできた遊園地の名前だった。
アトラクションの種類も多く、規模も大きい。CMでも流れており、『ノイワン』の愛称で親しまれている。
いつか行こうと話していたが、こんな形でそのチケットを見ることになるとは思わなかった。
「直ちゃん、それ、どうしたの?」
「何枚もありますけど、高かったんじゃありません?それに、人気もあるから取るのは難しいって聞きましたけど」
悠子は驚いて目を見開き、楓が掌を口に当て、目を瞬かせる。
直は、してやったりといった顔で、「ふっ、ふっ、ふっ」と怪しく笑った。
「実は、お父さんが会社の同僚の人にもらったのよ。その人は自分の家族のために買ったらしいんだけど、用事ができて行けなくなっちゃったんだって。どうせ捨てるなら、誰かに使ってほしいって言って、お父さんに白羽の矢がたったの。全部で五枚あるわ」
直が誇らしげにチケットを掲げる。五枚と聞いて、悠子は「そういえば」と思う。
「五枚なら、直ちゃんの家族も五人だよね?行かないの?」
直の家族は、化粧品会社に勤める父、進、専業主婦である母、杏、そして年子で二人の弟、宏と豊がいた。宏は中学一年生で、豊は中学二年生だ。
すると、直は首を横に振り、微苦笑を浮かべた。
「今週の土曜日は、宏と豊のサッカーの試合があるから無理なのよ。まぁ、たとえ休みだったとしても、二人は嫌がりそうね。友達と遊んでるほうが楽しいって言いそうだわ」
「・・・なるほど、それで私達に」
楓が納得したように呟く。
「でも、三人だったら二人余るね。誰か誘う?」
悠子が聞けば、直は小さく呻いた。
「別に三人でもいいかなって思って。残りの二枚はクラスの誰かにあげるのも手かなって思ったのよ」
どうやら、直は残りの二人を探す気はないようだ。なら、と悠子は口を開いた。
「堯村くんと、早瀬くんを誘ったらどうかな」
「堯村を?」
「は、早瀬さんをですか?」
直は怪訝そうに首を傾げ、楓は声を上ずらせた。悠子はにっこりと笑い、頷く。
「堯村くんには色々仕事でお世話になっているし、早瀬くんは楓ちゃんのことを助けてくれたからそのお礼も含めて。あ、でも」
そう言って、悠子は楓を見る。
「早瀬くんと楓ちゃんの仲を進展させようっていうのが一番かな」
「ゆ、悠子さん!」
からかうように(内心は真剣だったが)言えば、楓は顔を真っ赤にさせた。
それに、歩の直に対する想い。その恋慕を応援したかった。異能力者との戦闘で、歩は直の前で尽力したようだが、直が歩をどう思っているのかは分からない。ただ、以前より、直は歩に話しかけるようになったし、歩も直に対して気安くなったように思う。
悠子は、おせっかいと言われようと、浩一と楓、歩と直に幸せになってほしかった。
(――達騎くんのが移ったかな?)
もし、ここに達騎がいたら、歩と直をからかいつつ、楓と浩一を進展させようとするかもしれない。
一抹の寂しさが胸に広がるのを感じながら、悠子は直を見た。
「どうかな?」
チケットを持っているのは直だ。最終的には直の判断に委ねられる。直は少し考えるかのように俯いた。
「そうね・・・。楓とコウの事は私も気になってたし、堯村にもお礼をしなきゃと思ってたから。いいわ、二人を誘いましょ」
直が笑みを浮かべ、了承する。
「直さん・・・」
楓が頬を赤くしたまま、困ったような顔をする。
「な~に?心配しなくてもちゃんと二人っきりにしてあげるわよ」
二人っきりという言葉を強調し、直はにやりと笑った。楓が浩一を好いていると直が知ったのは、始業式からしばらく経った後。つまりごく最近だった。今まで気付かなかった自分がくやしかったのか、直はことあるごとに楓をからかっていた。もちろん、応援しているのは本当だが。
「そういうわけじゃ・・・!もう、からかわないでください!」
恥ずかしそうに声を上げる楓に、悠子と直は楽しげに笑い声を響かせた。