陶酔自殺
あの人の周囲にはいつも人がいる。
それを本人に問えば否定が返ってくる
けれど如何に否定しよう事実は変わらない。
あの人の隣に自分以外の誰かがいる。
それは認めたくないけど認めようのない現実
見たくない現実を見ない為にどうしたらいいだろう。
会えないように閉じ込めてしまおうか
話せないよう、声を失くしてしまおうか
触れられないよう、手を潰してしまおうか
逃げられないよう、脚をもいでしまおうか
けれど、それは愛したあの人を害うことになる。
そんなことはしたくない、そんなことは許されない
あの人はありのままの今の姿が美しく、その姿こそ愛しい
鳥は空を羽ばたくから鳥であり
蝶は美しい羽で飛ぶからこそ、蝶である。
風切羽を切られた鳥は飛ぶことが出来ず、無様に暴れるだけ
美しい羽がよく見えるよう、縫い付けられた蝶は滑稽だ。
ならば己を閉じ込めよう
あの人の美しいままの姿を脳に焼き付けよう。
あの人の声以外は何も聞こえないように
あの人以外は誰にも触れられないように
あの人の元以外何処にも行けないように
これで愛しいあの人は永遠に自分のモノ
自分とあの人は永遠になったのだ。
■
あの人はいつも独りだ。
周囲に誰かがいることを嫌う人
そんなあの人があるとき私に言ったのだ
「君の周囲はいつも誰かがいるね」
そんなことはないと思う。人は独りでは生きられないから
誰かと共にに在るのは普通のことだと思っていたけれど
でもふとした時に、人は結局は独りなのだと思い知らされる。
あの人はその象徴のような人だ。
自分以外は必要がないのだと私に言う。
ならば何故、あの人は私の前に現れるのだろう
何も聞くなと、私の耳を塞ぐ。
あの人の声だけが聞こえるように囁やかれ
何も触れるなと、私の手を捉える。
あの人の手が私の手と体を捕えたまま
何処へ行くと、私の脚を捕らえる
あの人の足が脚を抑え付けたまま
「私は一人でいい、一人がいい」
そう言ってあの人は私の目の前で独りになった。




