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陶酔自殺

作者: 如月圭

あの人の周囲にはいつも人がいる。

それを本人に問えば否定が返ってくる


けれど如何に否定しよう事実は変わらない。

あの人の隣に自分以外の誰かがいる。

それは認めたくないけど認めようのない現実


見たくない現実を見ない為にどうしたらいいだろう。


会えないように閉じ込めてしまおうか

話せないよう、声を失くしてしまおうか

触れられないよう、手を潰してしまおうか

逃げられないよう、脚をもいでしまおうか


けれど、それは愛したあの人を害うことになる。

そんなことはしたくない、そんなことは許されない

あの人はありのままの今の姿が美しく、その姿こそ愛しい


鳥は空を羽ばたくから鳥であり

蝶は美しい羽で飛ぶからこそ、蝶である。


風切羽を切られた鳥は飛ぶことが出来ず、無様に暴れるだけ

美しい羽がよく見えるよう、縫い付けられた蝶は滑稽だ。


ならば己を閉じ込めよう


あの人の美しいままの姿を脳に焼き付けよう。

あの人の声以外は何も聞こえないように

あの人以外は誰にも触れられないように

あの人の元以外何処にも行けないように


これで愛しいあの人は永遠に自分のモノ

自分とあの人は永遠になったのだ。



あの人はいつも独りだ。

周囲に誰かがいることを嫌う人


そんなあの人があるとき私に言ったのだ

「君の周囲はいつも誰かがいるね」


そんなことはないと思う。人は独りでは生きられないから

誰かと共にに在るのは普通のことだと思っていたけれど

でもふとした時に、人は結局は独りなのだと思い知らされる。


あの人はその象徴のような人だ。

自分以外は必要がないのだと私に言う。


ならば何故、あの人は私の前に現れるのだろう


何も聞くなと、私の耳を塞ぐ。

あの人の声だけが聞こえるように囁やかれ


何も触れるなと、私の手を捉える。

あの人の手が私の手と体を捕えたまま


何処へ行くと、私の脚を捕らえる

あの人の足が脚を抑え付けたまま


「私は一人でいい、一人がいい」


そう言ってあの人は私の目の前で独りになった。

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