私の敵は、超絶ヒロイン!?
微妙に妙だと思っていた。
いろいろあって、成り行きで私は副会長になったわけだけど。
本当におかしい。
どういうこと?
有能な生徒会長(男)が不能になってる?
真面目な会計(男)がストライキ起こしてる?
漢気溢れる監査(男)が妙に腑抜けになってる?
雑務ならお任せな庶務(男)が、何故か捕まらない。
クールビューティ書記(唯一女)が取り合ってくれない。
ちょっと待て。
もうすぐ、秋の合唱コンクールから始まり、進級して、更に行事を進めなくてはならないってときに!
生徒会選挙のときは、あんなにがんばってたじゃない!
どういうことよ!?
仕方ないので、OBで元生徒会長なお兄ちゃん達に相談することにしました。
「生徒会が機能しない?」
「そうなの。みんな行事そっちのけで、何かに夢中になってるみたいで」
上のお兄ちゃんが眉を顰めます。
そんな顔もどきっとするのは、やっぱり、格好いいパパの血を引いているというかなんというか。
「夢中って何に夢中になってるんだ? まずはそこからだろ?」
二番目のお兄ちゃん。あ、眼鏡が素敵です。
ついでに言うと、お兄ちゃん両方とも、可愛い彼女さん持ちだったり。
「それがね、全然、教えてくれないの。何故か私を見て、もうちょっと可愛かったらねーみたいなこと言われちゃって」
「「………」」
あれ? お兄ちゃんたち、どうかした?
「何がもうちょっと可愛かったらねー……だ」
「可愛い妹の、この愛らしさを知らないとは……」
あれ? 変なスイッチ、入れちゃった?
二人のお兄ちゃんの瞳がきゅぴーんと輝いています。ちょっと迫力あります。
「まずは、その黒縁眼鏡、外そうか。ああ、コンタクトは怖くないからね」
そういって、上のお兄ちゃんがにこやかに外してきました。あれ?
「その髪型を解いて、ブローし直してやるよ。ついでにメイクもするか?」
えっと、その……あれ?
「ついでに下着も替えておこう」
「ああ、あれ? ちょっと高いが、まあいいか。俺たちが出せば話だし」
えっと、その、お兄ちゃん?
翌日。
別人28号になった、制服姿の私がおりました。はい。
ううううう、なんだか、みんな私を見てる気がします。
でも、下着がすごくて、俯いてもぴんとした姿勢が保たれてます。というか、ちょっとウエストがぴしっとしてて、しかもマイルドに支えてくれるから体に負担が少ないというか。
「あ、あれ? も、もしかして……副会長?」
ああ、やっと分かってくれましたか、会長!!
「よかった、もうすぐコンクール近いですから、その準備を……」
「あ、ごめん。その日、忙しいんだ。彼女の誕生日だから」
………ちょっと待て、今、なんと?
「だから美柚の誕生日があるんだ。だから、副会長。よろしく頼むよ」
うわ。珍しくイケメンオーラ満載の素敵微笑みいただきました。
その笑顔でどのくらいの女の子を魅了させたのかと、小一時間問いただしたいところです。
「会長! 学園みんなの行事と、たったひとりの女の子のイベントと、どっちが大事なんですか!!」
「そりゃ、美柚の誕生日だろ!」
一時間討論したのですが、平行線で全然ダメでした。くうう。
お兄ちゃんズにやってもらった大変身でもムリでした、くすんくすん。
しかたなく、先生方の協力を得て、何とかコンクールを終えることができました。
というか、美柚って誰?
「あ、副会長さん!」
にこにこと可愛らしい女の子がやってきました。
首元を揺らすリボンの色を見ると……え? 1年生?
愛らしい女の子はにこにこと。
「蒼君が迷惑かけちゃったみたいでごめんなさい。でも蒼君も悪気があってしたことじゃないの」
蒼君って、生徒会長!?
「これからは大丈夫だから。生徒会のお仕事もがんばってって言ったから、きっと大丈夫。迷惑かけて、本当にごめんなさいね」
って、なんだか、ちょっと上から目線なのは気のせい?
いやそれよりも、彼女の神々しいキラキラにこにこオーラは、なんだろう?
こう、守ってあげたい気分になるのは、なぜ?
いやそれよりも。
「あなたの名前は?」
「あ、申し遅れました。望月美柚です。これからもよろしくお願いしますね、副会長さん」
!!!!!
お兄ちゃん、見つけたよ!! 諸悪の根元が!!
後ほど、調べてみたら、出るわ出るわ出てくるわ。
学園のアイドルというか、イケメン、全員……彼女の毒牙にやられてる。
ちなみに会長達は、その後も全く機能しませんでした。
泣きながら3学期を終えて、新学期を迎えたのです。
案の定、新学期に入ってきたイケメン、全員。
美柚オーラに持っていかれました。
もう、どうにでもしてって気分です。ええ。
なんでこう、イケメンは、彼女のにこにこオーラにやられるかな?
学園内の女子達もやさぐれるよ、うん。
そんな中、素敵な先生がやってきました。
「初めまして、浅樹羅那です。担当は英語になります。皆さんどうぞ、よろしく」
私の担任になった先生は、黒縁眼鏡だったけど、なかなかのイケメンでした。
あ、目があった。
ドキッ!!
あうう、なに考えてるの! ダメよダメ!
きっと浅樹先生も、きっと美柚の毒牙にやられちゃうのよ!
今のうちに諦めるべき。うんそうよ。
そう思ってました。
「あれ? 柊さん、忙しいみたいだけど、どうしたの?」
「あ、先生。これから一人生徒会なんですー」
あはははと笑いながら、そういうと。
「一人生徒会? だって、生徒会ってちゃんと役員がいるんじゃ……」
「ああ、先生入ったばかりで知らないんですね。会長や監査、書記、全員、使い物にならないんです。残念なことに」
「使い物にならないって、この学校、かなり行事があって忙しいんじゃないの? 何とかしないと」
そういう浅樹先生に私は笑います。
「それができたら、苦労しませんよー。でも大丈夫です。前年度も何とかなりましたから」
「だからって、一人で背負わせるには、重い仕事だよ。生徒会は何をやってるんだ!」
「だ、だから、本当にダメなんですよ。あの子がいる限りは」
「………あの子?」
先生が言い返してきました。
あ、あれ? なんだか先生、凄いオーラを纏ってるような気がするのは気のせいですか?
「え、えっと、2年の……望月、美柚さん……」
「ああ、僕のところに来た、あの子か……」
なんだか、雲行きが変わってきました? 気のせいですか?
私は浅樹先生と一緒に、美柚ちゃんところにきました。
うわ、美柚ちゃん、ものすごいハンパないオーラを撒き散らしてます。ちょっとこっちもクラクラしてきました。
「あ、先生! 来てくれたんですか? 嬉しいです!」
「こんにちは、望月さん。今日はちょっと話に来たんです」
「まあ、先生から話だなんて……なんでしょう?」
美柚ちゃんは頬を染めながら、わくわくと耳を傾けています。
「生徒会の人達が使い物にならなくなったって聞いたんだけど、それは本当?」
すると美柚ちゃんは憂いを込めた瞳で、言いました。
「みんなの働く姿を見たいって言ったんですけど、全然、聞いてくれなくて」
「そう、ありがとう。もういいよ」
「え?」
先生は私の腰(!)に手をかけて、歩き出しました。
「あ、先生! 話は、その、もういいんですか?」
名残惜しそうな美柚ちゃんに、先生は一言。
「うん、それだけ聞きたかったから。ありがとう」
そういって、そのまま行こうとしたんだけど、ちょっと足止めて、先生は振り返りました。
私はそのときの先生を、忘れません。
「そうそう、僕、無能な人はいらないんだ。その意味、分かるよね? もちろん、無能を作り出す相手もね」
なななななな、なんですか、その、誰もがぴきーんと凍りつきそうな、おっそろしい眼力は!
「さあ、行こう。まずは新しい生徒会を立ち上げるところからだね」
「えっと、先生?」
「ん? どうかした? 柊さん?」
私を見る瞳が、すっごく優しくて。
きゅんとしてしまいます。
「う、ううん、なんでも、ないです……」
「そう? ならいいんだ。それとね、柊さんに言いたいことがあるんだ」
にこっと微笑んで、続けます。
「二人っきりのときは、沙奈って呼んでもいいかな?」
「ふえええええ!!?」
「僕と君との、二人だけの秘密だよ」
えっと、その。
こうして、私は新たな舞台へと入りました。
私は知りませんでした。出会った時からもう、私は既に浅樹先生ルートに入ってるなんて。
実はこの世界が、恋愛ゲームの中だったなんて。
私はちっとも知らなかったのです。
その後、私は、相変わらず逆ハーレムを築いていく美柚ちゃんの横で。
「せ、先生……こんなところで、その……」
「何?」
「は、恥ずかしい……です、その……」
「大丈夫だよ、あの子も別の先生相手にやってたよ。見せ付けるように」
「で、でも! そうなったら、先生が……」
「それはそれで構わないよ。先生がダメなら、別のことをすればいいんだし」
「へっ!?」
伝説の木の下で、大好きな先生と口付けを交わしました。
その下でキスをすると、生涯結ばれるという、その言い伝えの木の下で。