死霊
夕方、リコと遊びに行った帰り道。
隣町のある交差点。
そこで、私はずぶ濡れの無き腫らした女性と出会った。
「……うわぁ……やっちゃった……」
いろんな意味で頭がいたい。同時に気持ち悪いし身体が重いし、最低な気分だ。
道端に霊をよく見たが……お盆のせいだろうか。
もう少し、気をつければよかった。
「……見事ね」
「すっかり憑かれちゃったみたいです……」
幽霊に。
一度だけ、たちの悪い幽霊に憑かれた時がある。
その時は賀茂の家で女霊をして貰ったんだけども……。
「……どうしよう」
目の前で、女の人が泣いているのだ。
長いストレートの黒髪。青白い顔。シンプルな白のワンピースを着ている。
ヒトミさんは賀茂の家に行って来た方が良いって勧めてくれるけど……このまま除霊してしまっていいのだろうか。
今までいろんな幽霊や妖怪を見て来た。
術師になるとか、積極的に妖怪とかにかかわっている訳じゃないけれど、悪い奴といい奴の区別は出来るつもりだ。
この例は、別段悪霊とかじゃなさそうだし、どうして泣いているのか、このまま放っておけない。
「どうして、泣いているの? あなたは誰?」
最初の質問にはなにも反応しなかった。
ただ、誰と言われた時、顔を上げて私を見た。
『わたし、だれ?』
「で、わたしに助けを求めて来たのね……」
呆れているのは賀茂光葉の許嫁。高橋弥生だった
額に手のひらを当てて、眼をそらしながらため息をついている。
「私、こう言うのはさっぱりだから」
「わたしだって、そう言うのは苦手なんだからね」
「でも、なにかしら知ってそうじゃん」
「まぁ、そうだけど……」
「お願い。せめて、この人の未練くらい解決したいの」
私に憑いてしまった女性。
彼女は名前も、過去も忘れてしまったのだという。
そして、なぜここにいるのかも。
なぜ、あんな所で泣いていたのか。幽霊になってしまった未練、それは何だったのか。
せめて、解決してあげたい。
妖怪とかに関わることはしたくないと思っている。自分はヤヨイや賀茂君のように術者ではないし、ヒトミさんのように知識が在るわけでもない。
でも、関係を持ってしまった彼らを見捨てたくない。
「おねがいっ」
「……しょ、しょうがないわね。これっきりなんだからね」
しぶしぶながらも頷いたヤヨイは、やっぱり優しいと思う。
そんな事を言うと、真っ赤になって怒られてしまった。
「まず、その彼女とどこに出会って、どこで憑かれたのか、調べるわよ」
そう言ってやってきたのは、なぜか図書館。
女性と会った交差点についていろいろと聞きだした後、なぜか図書館に連れてこられた。
そして、図書館内のネット検索用のパソコンに直行。
手慣れた手つきでキーボードを操り、何やら検索を始めていた。
「すごいね、ヤヨイちゃんって~」
そう言ってヤヨイを褒めるのは、図書館にたまたま来ていたリコだった。
「べ、別に。これくらいできないと、将来困るでしょ」
「将来かぁ」
そんなこんなで、数分もしないうちにヤヨイは一つの新聞記事を見つけ出した。
交差点での不幸な交通事故。
ひき逃げした犯人はその後、自殺。
事故を起こしたのは若い青年。たまたま、彼女の家に向かっていた……恋人だった。
逃げた後、自分が何をしてしまったのかを知って。
「悲劇、ね」
絵にかいたような悲劇。
それが、彼女の過去。
だからと言って、わたしたちが出来るのはこれくらい。
女性は、その新聞記事をじっと見て、何も言わない。
何も言わずに泣いていた。
それは、誰に対する涙なのだろう。
女性は、ヤヨイが秘密裏に呼んでいた賀茂君によって消えてしまった。
成仏したのだろうか。
それとも……。
「って事があったの」
夜。
ヒトミさんと夕食を食べながら、今日の顛末を語る。
それに、ヒトミさんは心配をしたり苦笑したり。
「お盆のせいかしらね? この前まで、そこにあの人はいなかったんでしょう?」
「んー、居なかったと思う。そうだね、お盆だからだったからかも」
お盆は先祖の霊を迎えもてなす行事だ。
死者が現世に戻ってくる。どういう原理なのか私はよく解らない。宗教も無宗教だし、魂の概念だとか輪廻だとか、そう言うのに詳しくない。
ただ、昔から視えていたから、お盆はそういう物だと認識している。
彼女は、お盆で現世にやってきたのかもしれない。
元々この辺でうろついていたのかもしれない。
今となっては、もう分からない。
「そういえば、今日はいないのね、あの人」
「あの人?」
「ほら、前に助けてもらったって言う、どこかの術者さん」
「あー、そういえば」
今日は逢う事はなかった。
そういえば、名前聞いたのにまだヒトミさんに言って無かったな……。
でも、倉掛さんの事をまったく知らない。
前、会った時に聞いてみたら、知らないうちに話題が変わっていた。よく考えたらはぐらされていたようだ。
よく解らない人だ。
「この前名前聞いたんだけど、倉掛さんっていうんだって。倉掛悟史さん」
「……え?」
ぽとりと、持っていた箸を落とす。
どうしたのだろうと目を向けると、ヒトミさんは困ったようになんでもないわと応えた。
これ以上、聞いても意味はないだろう。
だから、それ以上聞く事はなかった。
知り合いなのだろうか。
そう、考えながら。




