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木霊



ハルキはよく話す友人たち、リコにヒヨコ、エミと共に町にいた。

町と言っても、田舎と言われるようなハルキの家の近くよりは町といった風貌だが、それでもハルキたちから見れば町に違いない。

雑貨屋や気になった店をぶらぶら周りながら、休み中の話に花を咲かせる。


「あ、見てみて。あそこさ、今度ショッピングッセンター出来るらしいよーっ」

そう言ったのはエミだった。

ファッションや最近のはやりに敏感な彼女は、こういう情報に通じている。

「へー」

と、そこは、ちょっとした林だったのか、何本もの木が伐採されているところ。

丸裸にされていく土地に、すこし可哀想だな、なんて思ってしまう。

でも、ショッピングセンターか。

この辺にあるのは小さなスーパーとか商店しかないから、すごく便利になるんだろうな。

なにしろ、コンビニも少ないこの地域。ちょっぴり嬉しい。

「よく知ってるよね、そうゆー情報」

「ふっふっふ、この辺の事なら任せなさい」

「じゃあ、この辺で美味しいケーキ屋さんとかある?」

「それならねぇ……」

そう言って、リコたちは騒ぎながらその場から去って行く。



立ち止まってしまった。

見つけてしまった。

小さな妖怪。列をなして、そこから逃げるように歩いているソレを。

あれは……。

「あれは、コダマですよ」

「ひぇっ?」

隣でいきなり声がした。

「倉掛さんっ?」

「すみません、驚かせてしまったようで」

「い、いえ」

どうしてここに?

そんな疑問に気づいたのか、苦笑しながらたまたまです、と言う。

「えっと、こだま、ですか?」

小さな妖怪たちは、私達に気づくことなく進んでいく。

その姿は、よちよちと可愛らしい。

「そうです、木霊、木魂……いろいろ漢字を当てますが、簡単に言えば木の精霊みたいな存在ですよ」

「木の精霊……でも……」

妖怪たちが出てきた所は、伐採された場所。

「もしかして、住みかを追われて……」

木の精霊のような存在が在るには、木が無ければならない。

なら、この子たちは……。

「時代は移り代わり、妖怪たちも澄む場所を変えていきました。きっと、彼等もどこか違う場所を見つけるでしょう」

だから、心配しなくても大丈夫。そういって笑うその笑顔が、誰かに似ている気がした。




///




「待てよ」

そう、独りハルキを見送り、その場を去ろうとした倉掛を呼びとめたのは、賀茂光葉。

二人は、お互い初めて相対す。

どこか、張りつめた空気。いや、張りつめているのは光葉のみだ。

「おや、賀茂の息子さんですか」

「親父を知ってるのか」

「えぇ、まぁ」

警戒を露わにする光葉と違い、倉掛は朗らかに笑いながら応える。

しかし、次の言葉で空気が凍った。

「……お前、人じゃないだろ」

「おやおや、それはどういうことでしょうか?」

沈黙。

倉掛の見た目は変わらない。

ただ、笑って光葉を見る。が、空気が違う。

それに、いつの間にか冷や汗をかきながら光葉は睨みつける。

「言葉通りだ。お前は、生者じゃない。人間の振りをして、なんのつもりだ」

光葉は、倉掛がハルキの周りにいることに気づいていた。

七月の後半頃――光葉は知らないが、ハルキが送り狼と遭遇したその日の後から、何かしらがハルキの周りにいることに気づいていた。

だから、問う。

ようやく出会えた存在に。

「お前は、何者だ」

「私は、人間ですよ?」

くすりと笑って――倉掛の姿が消えた。

「っ!!」

遅い。

そう、倉掛は隠しきれない殺気と微笑みを浮かべながら言う。

光葉の首元に札をあてて。

しかし

「動かないで」

さらに、倉掛の背中に何かが押しつけられる。

それは、高橋弥生。彼女のもった独鈷杵。

周りには、クダキツネが倉掛の動きを制限している。

「こんな田舎に、貴方みたいな存在がなんの様なのかしら?」

「困りましたね。私は別に、何かをしようとも思っていないのですが」

「嘘おっしゃい。限りなく人間に近い姿に化けられる妖怪が、なんのために人に近づいているっていうのよ」

弥生の腕が震える。

「さて?」

あいも変わらず、ポーカーフェイスの倉掛に、弥生は激高しかけ――それを光葉は制した。

「なら、俺の仲間になれ」

「……はい?」

張りつめていた空気が霧散する。

あまりにも驚いたのか、眼を丸くして。弥生までも、独鈷杵を落しかける。

「な、なかま、ですか?」

「俺の将来の夢は世界征服だっ!」

さらなる驚き。

始めは驚愕していた倉掛だったが、次第に――笑い始めた。

「ちょっ、世界征服ってっ……ふふ、いや、まさか、現代日本で、そんなこと……」

息も絶え絶えと言った様子で、腹を抱えて抱腹絶倒し。

「しかし、遥か昔ならともかく、現代で世界征服は少々……いや、かなり難しいと思いますが。時代は移り変わり、妖怪も住む場所を変え姿を消しました。人々は妖を忘れ、夜はすでに闇の支配する世界ではありません」

そう、口元を押さえながら倉掛は言う。

それに、光葉は少しだけ恥ずかしそうな顔をして――ニヤリと笑った。

「だからこそ、楽しそうじゃないか」

「――っ」

予想外な返答。それに、倉掛はさらに笑みを深めた。

「まさか『楽しそう』ですか。いや、良いですね、若者は。口車に乗っても面白そうです。が、残念ながらそろそろ私はかえらなければなりません。そもそも、今はそう言う事に全然興味ないので」

でわ。

そう、最後に言うと、弥生の制止もクダキツネの妨害もモノともせず、倉掛は去って行った。





夜。

誰も居ない田んぼ道で独り、倉掛は笑う。

そして

「懐かしいですね、私も若気の至りで日本征服ぐらいはしようかとがんばったこともありましたっけ」

ハルキがいれば、『お前も救いようの無い変人だったのかっ』と言って、変人認定+距離を置かれるような内容を言った。





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