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管狐



「じゃあ、行ってくるわね。お昼は何時もの通り自分で作って。あと、回覧版もまわしといてね」

「はーい」


八月初め。

子どもにとって夏休みだけども、社会人にとっては別段関係ない。

ヒトミさんの出勤を見送った後、朝ごはんの片付けや、洗濯物を干していく。

私が休みの時は、大抵こうして家事を手伝っている。


私のお母さんは都会の方で仕事をしていてめったに帰ってこない。

おばさんにあたるヒトミさんは、一人暮らしになってしまう私を心配して一緒に暮らしてくれているのだ。

……一言言っておくと、ヒトミさんにたいしておばさんとは言ってはいけない。


「さてと、回覧板か……」

一通りの事が終わり、回覧板を持っていく事になる。

次の人は隣のおばあちゃん。といっても、結構離れているけど。

時間を見ると、すでに十時すぎ。

これくらいの時間なら居るだろうと早速出かけることにした。


農家の朝は早い。

夏になると、暑さを避けて早朝か夕方に作業をするから。

だから、十時や十一時と熱くなってくると、田んぼや畑で姿を見ることはあまりない。

熱いから出歩く人も少ない。

回覧板を回して家に戻ろうとすると、道の真ん中で女の子が仁王立ちをしていた。

なぜか、私の家を見ながら。

「あれ……?」

知っている顔。

あいつの許嫁だったはず。

カオスと許嫁だなんて、ちょっぴり同情するけど、本人別にいいらしい。

「橋本さん、どうしたの……?」

「ひゃうっ。べ、べべべ、別に、偵察に来た、わけじゃないしっ、な、なんでこの前来たのかとかき、気になってなんていないからねっ!」

「……あ、そう。うん。とりあえず熱いから、中はいる?」

「ほぇっ?!」

いちいち可愛らしいというか、不思議な声を出す子だ。

慌てる姿にほほえましく感じながら家に誘った。

そんな彼女の周りに、イタチみたいなフェレットみたいな妖怪が走りまわっていた。



確か、名前は橋本弥生(やよい)……だったはず。

「麦茶でいい?」

「オ、オカマイナク……」

なぜか緊張している姿に苦笑しつつ、縁側で待つヤヨイに麦茶を運ぶ。

それと一緒に、スイカを皿に。

真っ赤なスイカじゃ無くて、黄色い小玉スイカ。

真っ赤なスイカが普通だけど、黄色いスイカ。ちょっと俵みたいな形のそれは切った断面を見るだけでも美味しそうだし綺麗だ。

「それで、どうしたの? 賀茂君の家に行ったのはただプリント持っていっただけだし、この前賀茂君が来たときは別にリコと一緒に遊んでただけだけど」

「そ、そうなの……」

明らかにほっとしたような安堵の表情だ。

自分の色恋沙汰には興味が無いけど、他人の恋話はちょっと興味があったりする。

「本当に好きなんだね、賀茂君の事」

「っ、そ、そんな、っ!!」

真っ赤になったヤヨイの様子は、どこかほほえましい。

何も言えないその様子を見ながら、三角に切ったスイカにかぶりつく。

みずみずしい果肉、ほんのりした甘さが口の中いっぱいに広がる。

少しだけ水分が多いから、気をつけて食べないと汁が滴ってしまう。

横目で見ていると、ヤヨイはあわあわとしながら百面相をしていた。

「でも、どこがいいの? なんていうか、大きすぎる夢持ってるけど……うん」

「そこが、かなぁ」

「そこかぁ……」

そうかぁ、そこかぁ……。世界征服がいいのかぁ……。

思わず遠い目になりかけて、どうにか現実に立ち戻る。

あぶないあぶない。現実逃避をするところだった。

「それに、私みたいな管憑きにもよくしてくれるから……」

「くだつき?」

ふと、見るとスイカの周りにさっきの妖怪が集まっていた。

三匹と数は少ない。

ちょこちょこスイカのほうに手を出しかけて、ヤヨイのほうを見ている。

「食べて良いんだよ」

そう言うと、その妖怪は私を見て、またヤヨイを見る。

しつけが行き届いている犬みたいだ。

そのほほえましい様子に、思わず破顔する。

「い、いや、でも、この子たち大喰らいだから」

「べつに、まだ切ってないスイカが沢山あるし」

家の裏の畑に、今年は幾つもスイカが出来てしまった。

収穫したから早めに食べないといけない。だから、むしろ大歓迎だ。

「ありがとう」

ヤヨイが頷くと一斉に跳びかかって食べ始める。

あまりの激しさに目を丸くしていると、彼等はすぐに食べ終わってしまった。

緑と黒の縞々の皮には、黄色の果肉は一片たりとも残っていない。

「すご……」

「この子たち、すごくいい子なんだけど食べることには貪欲で……」

「えっと、飼ってるの?」

「うん」

妖怪を飼っているとは。

さすが、術師だとか言う賀茂君の許嫁なだけある。

「いつか、ミツハ君のお手伝いをできるようになりたいから、少しでも使えるようにしているの」

「へー……」

まったく、あいつはこんなに思われてるんだから私ばっか追いかけてないでしっかり見てあげればいいのに。





「珍しい。その子、管使いなのね」

「くだつかい?」

ヤヨイが帰ってから数時間後、ヒトミさんは帰って来るとそう言った。

そういえば、くだつきだのなんだの言ってたけど、何なのだろうか。

「クダキツネを使役する人の事よ。くだ屋とかいうこともあるわね。クダキツネっていうのはオサキとかイズナとも呼ばれているわ……でも、悪い子とか人を不幸にさせる子とかがいるから注意が必要なのよ」

「……えっと、飼ってるわけじゃないの?」

「まぁ、そんなかんじなのかしら。でも、クダキツネは気をつけていないと操るのが難しいのよね。たしか」

「へぇ……」

じゃあ、ヤヨイはいつも気を使っているのか。

クダキツネってちっちゃくて可愛らしかったけど、意外と厄介なのかもしれない。


「ところでハルキ」

「なに?」

「……大玉スイカがあと丸々三個残ってるのだけど、どうしましょう。小玉スイカはあと五個ほど残っているのだけど……」

「えっ」


その後、五日間ぐらいは、三食のたびにスイカを食べることになって、トラウマになったりリコの家やヤヨイの家(賀茂くん家)に持っていたのはまた別の話。

ついでに、食べきれなかったスイカを裏庭の木に置いておいたら、カブトムシとクワガタと妖怪が集まってきたのも、また別の話……。





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