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送り狼


夏は嫌いだ。


あの茹だる様な暑さに加えて、突然の夕立。

木で鳴くならともかく、わざわざ網戸にとまって鳴くせみ。

そして何より、人が活気づく季節。

それに伴って、あいつらも増える。






七月の中ごろ。

もうすぐの夏休みに心浮かれる友人達と遊んでいたせいで帰宅が遅くなった少女は、暗い道を歩いていた。



かつかつ


電気の切れかけた電灯が、時折瞬く。


ジジジジ


嫌な音だ。

消えかけて、またついて。

それの繰り返し。

鬱陶しくなる。

夏の夜独特の、生温かい風が吹く。

気持ち悪い。

ねっとりとした空気が歩く私を包むようだった。


かつかつ


自分の足音しかしない。

あたりには田んぼと畑。申し訳程度に家が数軒、遠い場所にあるだけだ。

家は、まだ遠い。

「だから、早く帰ろうって言ったのに……」

ぶつくさと、小声で小言を言う。

いくら人の姿が見えないとはいえ、大声で小言を言うのはさすがにはばかられた。

ましてや、あたりは夜である。

さらに言えば、昨日から自転車のタイヤがパンクしていて徒歩での帰り路……なんて、不便なのだろう。



さああァあぁぁ



風が、強く吹いた。

生ぬるい風が顔を討つ。

なぜか、それに鳥肌が立つ。

気持ちが悪い。


……違う、風のせいじゃない。


息が苦しい。

その感覚は、誰かに言葉で言い表せるものじゃ無かった。

誰かに、見られてる。

心の臓が、訳も解らない恐怖に鼓動を早める。


――ひた


言い表せない、足音が聞こえた。


後ろに、誰かが『居る』。


止まっちゃいけない。

振り向いちゃいけない。

止まったら、追いつかれる。

振り向いたら、そしたら――?


――ひた ひた


「う、ぁ……」

どんどん、距離を詰めてくる。

さっきまで聞こえなかった足音は、さらに近くで聞こえた。

思いっきり走って、逃げたい。

でも、恐怖でどうにか歩くので精いっぱいだった。


――ひた ひた ひたひたひたひた


カードミラーが、あった。

私は思わずそれを見る。




な に も い な い




「な、なによ。驚かせな――」

いや、それは見間違い。

「あっぁっ……」


振り返れば、すぐそこの位置に


「い、――――ぁっ!!」

突如、叫びかけた自分を、誰かが止めた。

口を大きな掌がふさぐ。

後ろには、赤く爛々と光る目と、なにか……そう、たぶん動物の生足がいるのが見えていた。

間違っても、人間じゃない。

じゃあ、この手は?

混乱の極みに達しようとした時、青年の声が聞こえた。

「大丈夫ですよ、落ち着いてください。あれは送り狼。転んだりしなければ、無害な妖怪です。むしろ、家に帰った後に赤飯か靴でもあげてあげなさい」

「へ?」

いつの間にかどかされていた手。

見れば、二十歳ほどの青年が微笑みながら私を支えていた。

「だ、だれ?」

「はじめまして、ハルキ。私は……少々時期を見誤ったアヤカシ退治の専門家です」





それは、鈴城(すずしろ)陽希(はるき)と、早く来てしまった青年の初めての邂逅だった。






///





夏は嫌いだ。


あの茹だる様な暑さに加えて、突然の夕立。

木で鳴くならともかく、わざわざ網戸にとまって鳴くせみ。

そして何より、人が活気づく季節。

それに伴って、あいつらも増える。


あいつら――そう、妖怪、妖と呼ばれるモノたちだ。


もともと、ソレらが視える私は、否応なしに見たくもない物を視ることとなる。


視ることが出来ても退治をすることなんてできないし、どうすればいいのかなんてわからない。

だから、夏は嫌いだった。



「あー、散々な目にあった……」

家に帰ると、そのままリビングのソファに直行。

そのままぶっ倒れると、帰ってきていた史美(ひとみ)さんがエプロン姿で顔を出したところだった。

「あら、また妖怪に会ったの?」

「送り狼とか言うのに」

「ふふっ、大方、振り返ったか鏡かなんかで後ろを振り返って、驚いて走って逃げてきたところでしょ」

ヒトミさんは妖怪について私よりも知識を持っている。

現在進行形でオカルト雑誌の記者をしているような人だ。

いつも、私が出遭ってしまった妖怪についてのレクチャーやら何やらをしてくれる。

私にとって、頼みの綱。

もう一人、最終兵器的な人がいるけど、あの人はあんまり好きじゃない。

「半分正解。半分不正解」

「あら?」

キッチンに戻ったヒトミさんは、楽しそうに、それでいて不思議そうに聞いて来た。

「なんか、妖退治の専門家とか言う人に助けてもらったの」

「まぁ。専門家? だから名前を知ってたのね。で、その方は陰陽師とか法師とかかしら。お名前は?」

「知らないよ。家の前まで来たらいつの間にか居なくなってたし」

「不思議ね……。そうそう、送り狼っていうのはね地域によって伝わる伝承が様々なのよ。狼ではなくて犬だったり、(イタチ)だったり……ほかにも、雀もいるわねぇ」

「鼬とか雀の方が良かった……」

そっちのほうが、可愛く見えるだろう。

夜中に、あんなの見たくない。

先ほど遭遇した送り狼の姿を思い出して、半眼になった。

それに、ヒトミさんは苦笑する。

「まあ、転ばない限りは大丈夫よ。もし転んでも、一休みしているふりをしたりすればだいじょうぶだし。あ、外にご飯でもお供えしとこうかしら。知ってるかしら、ハルちゃん。送り狼とかの妖怪はね、お礼を言ったりお供え物をしたりすると守ってくれる子もいるのよ」

「……そーなんだ」

いつも思うけど、なんでそんなに柔軟に受け入れられるの……。

普通に妖怪を受け入れているヒトミさんが羨ましい。

こっちは、何時まで経ってもなれない。

「そうだっ、助けてくれた人、もしまた会ったらうちに招待しなさいな」

「え?」

「記事のネタとかあったら教えて欲しいし」

「あー、はいはい」

まさかの発言と理由に呆れながら、応えた。


また会う……か。

もしかしたら、また会うかもしれない。もうないかもしれない。

ただ、なんとなくまた、会うような気がした。








灯りが、見える。


少女が帰った古い屋敷。

そこを、青年は眺める。

そして――


「ああ、早く来てみてよかった」






これは、早く訪れた小さなお話し。





懲りずに新しい小説を書いてしまいました。

一話完結型、そしてあわてんぼうのサンタクロース的な物語になる予定です。


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