Number.27 君の力を知っている
岩陰に隠れてやり過ごす。
向こうから聞こえてくるのは、重い足音だけ。何もない荒野と、物言わぬロボットのような兵士。足音以外に、目立った音が出るはずもない。
今思えば、なぜ隠れていたのか分からないが......多分、混乱していたのだろう。
思い描いていた美しい異世界、そんなものはどこにもなかった。
どこまでも続く美しい青空の代わりに常に赤く淀んだ地獄の空を、香りのよい草原の代わりに厳つく、ひびの入った大地を、この世界は見せつけてきた。
失意が、"彼女"が言っていたことを忘れさせてしまったのかもしれない。
もう、数か月も前のことになるのだろうか?とにかく、思い出してもどうにもならないぐらいには昔のことになってしまった。
あの夜、ここにフィティと俺がいたことも、それぐらい昔のことになっていくのだろうか。そう考えると、胸が苦しくなった。
「未だ魔王はこの世界のトップに立ち続け、人類殲滅も止まらない......か。」それを口にしただけでも、いかに自分が動いていないのかを再認識できる。
今も人が死んでいる、魔王の手で......。しかしただ魔王を討伐するだけでは、さらに死者が増えるだけだ。人類も、魔族も。
「憂いているのか?この現状を......。」
「イルマ......さん。」小さな足音と共にやってきたのは、ハスファド・イルマだった。
「私は君の力を知っている。君の人智を超えた力のことをな。」
「えっ?」
「トールという友人がいた。君と同じように赤い宝石の入った頭飾りをつけた青年だった。"魔王を倒すべくこの地に降り立った勇者"だと、あいつはそう言っていた。それを証明するように超常的な力を何度も見せつけられたものだ......。バカにしていた我々が。お前は勇者だと認めざるを得ないぐらいにな。」
ハスファドは窓の縁に肘を置き、すっかり暗くなった外を見ながら話を続ける。
「あいつが魔王討伐に出かけた後、どうなってしまったのかは......いや、これ以上はやめておこう。とにかくあいつは帰ってこなかった。そして今がある。」
「私は君が、あいつのようになってしまうのではないかと疑っているんだ。」
一通り話を聞いた後、俺は視線を動かさないまま口を開いた。
「あなたの友人がどうなったのか、俺と同じ力を使っていたのか、そんなことは俺にはわかりません。」
「しかし、俺は俺です。あなたの友人と同じ道を辿ろうなんて端から考えていません。それでも、それでも信じられないというのなら、あなたの知っていることを、包み隠さず全て教えてください。」
無意識のうちにハスファドを睨みつけていたことに、言い終わった後で気が付いた。




