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フィフロスヴ  作者: 煎茶
勇者の章
1/5

Number.1 ファースト・コンタクト

少女は荒野を走る。

両手で長い杖を抱きしめながら走っている。

偉大な魔法使いの娘として生まれた彼女。彼女には、何不自由ない生活が待っているはずだった。

しかし、そんな輝かしい未来を考えている暇なんてない。


とにかく、逃げなくては。

頭を空っぽにして、目の前の何もない景色にだけ集中して、まっすぐ走る。

逃げた先に何があるかなんて、彼女にも分からなかった。


途中、背後から乾いた音が聞こえた。

また一人、誰かが見つかって、殺された音。

振り向く暇もない。振り向けば、次殺されてしまうのは自分かもしれない。


風にあおられてボロボロのフードが脱げると、幼さはありつつも美しい容姿があらわになった。同時に、誰もが見惚れてしまいそうな赤い髪も。

雑に短く切られた赤髪。目立つからと、手ごろな刃物で切られ、フードを被らされた。

しかし、それらをしてくれた人々は既にいない。皆、乾いた音の餌食になった。


「杖を抱えた小娘だ。ひときわ魔力の強いやつな それ以外は殺してしまって構わん」

指示を出しているのは、ツノ(・・)の生えた巨漢。

闘牛に使われる牛を彷彿とさせる荒々しい容姿と、威圧感溢れる巨体。

「魔王様が度々言っておられた"新たな勇者"、その小娘が知っているとも思えんがな...」


巨漢はそう呟いた後、周りの部下らしき者たちに「行け」と短く伝えた。

無機質な黒い武器を抱えた無機質な者たち。

全身がごつごつした装甲に包まれて、肌らしきものは一切見えない。

さながら軍隊といった風貌で、見る者に巨漢とは別の威圧感を与える。


軍隊(・・)は、返事一つせず巨漢のもとを去っていった。


「ん...ありゃあ"デセアト"だぜ。相変わらず趣味の悪いカッコしてやがる」

遠方から、無機質な軍隊を眺めている男が一人。

何かの残骸の中に隠れ、双眼鏡越しに"デザアト"の行進を見物している。


「"魔王"が人探しでもしてるんだろ。あんまり顔出すと、お前も殺されちゃうぜ?」

残骸の中にはもう一人、見物している方とはまるで似つかない顔つきをした男が、残骸の陰に隠れていた。

全身が飾り気のない白い鎧で包まれ、見る者に"勇者"を想像させる格好をしている。


「お、ありゃあ人間じゃねえの?」

見物している方の男が何気なく呟いた。

"勇者"が目を向けてみると、なるほど確かに人間が走っていた。

杖を抱えて走っている風変わりな人間。美しい赤髪をしているから、遠くからでもすぐわかった。

どうやら逃げているようだ。その後ろを"デザアト"が追いかけている。

「あっ...まずい!」


「あっ!」少女はついにその足を止めてしまった。

躓いたのだ。必死になって走るあまり、足元を気にしていなかった。

気配を感じて後ろを見てみると、デザアトの無機質な体がこちらを見下ろしている。

デザアトはキリキリと不快な音を鳴らしながら、その無骨な手を伸ばしてきた。


「ひっ...」少女は怯えながら手をはじこうとしたが、無情にも手首をつかまれてしまった。

杖を置き去りに、彼女は掴み上げられる。

「助けて...だっ、誰か...」少女はデザアトの手を振りほどこうともがきながら、必死に助けを求める。

当然、周囲には誰もいない。それは少女にも分かっていた。

「助けて...」それでも少女は助けを求める。


『助けて...!』心の中で、何かに向かって必死に祈った。


彼女が持っていた杖が、かすかに光を灯した。

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