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魔法少女にならない僕

魔法少年せざるをえない僕

「ねえ、魔法少女にならない?」

 諒太は半年ほど前、謎生物に突然路上でそう言われた。れっきとした小学生男子の諒太は勿論断った。なのにそいつは、猫に化けて母さんたちにニーコなんて呼ばれながら、家に居座り続けている。

 まあでも、ニーコが近くにいたおかげで、悪魂(あくだま)に取りつかれた母さんを助けることができたのは良かった。とはいえ、魔法少女(少年)のボランティアなんてまっぴらごめんだけどな。


 春を迎えて、諒太は最高学年、六年生になった。新しいクラスメイト、新しい担任の先生。心機一転して、何となく新しい事への期待が芽生えてくる。

 しかし気になって仕方がない事がある。担任の末永権蔵(四十二才)だ。始業式に出会って以来、ずっと黒いもやが取りついている。

 諒太は、ニーコとエネルギーの受け渡しをするために、気綱(きづな)を繋がれて以来、悪しきエネルギーのかたまりだという悪魂が黒いもやになって見える。見たくなくても見える。気になって仕方がない。

 しかも、末永先生のもやは、この一か月で日に日に増えていっていた。初日はそれなりに覇気があった先生だが、もやが増えるにともなって、元気が無くなっていっている気がするのだ。この前なんか、体育の時に朝礼台の横から一歩も動かなかった。四月当初は、準備運動で、諒太たちと一緒に運動場を三周したりしていたのに。

 諒太には、悪魂退治のボランティアをする気はないが、担任が辛気臭いのはさすがに困る。思い出に残るはずの最高学年を無為に過ごすのはちょっと嫌だった。


「ニーコ、どうだった?」

 諒太は家に帰るなり、聞いた。今日は、ニーコが末永先生を見に行くことになっていた。

 ニーコは自信満々に答える。

「うーん。諒太はなかなか女子に好感度が高いようですね。諒太を狙っている女子が三人はいると見ました!」

「そうじゃない!」

「冗談ですよ。おや、顔が赤いということは、その中に本命が?」

「うるさい! それよりも先生だ!」

 ニーコは、ニヤニヤしたまま話を続けた。

「先生のアレはまさしく悪魂ですね。しかも、大当たりです。継続的に悪意が送られてきていますね。定期的に悪魂を刈り取れて効率がいいやつです。ラッキーですね」

「『ラッキー』って……」

 諒太は、ニーコの自分本位さにあきれてため息をついた。そうだった。こいつはこういうやつだった。

「まあ、諒太の楽しい学校生活の為にも、早々に動いた方がいいでしょうね」

「わかった……」

「よし! 魔法少女、出動です!」

「『少年』!」

 諒太はすかさず訂正した。ぜったいわざと言っている。腹立たしい。


 次の日の終礼後、諒太は日直がするはずの戸締りの仕事をかってでて、教室に最後まで残った。

「おぉ、諒太、ご苦労さん」

 教師用の椅子に座ったまま、気だるげに先生が言う。

「先生、最近、体調悪くないですか? 僕、いいツボ知ってるんで押してあげます」

 そう言ってすかさず、諒太は先生の背後に回った。先生の後ろの大画面モニターと先生の間は意外と狭い。先生の肩をつかんで、それっぽく親指に力を込める。

「待て待て。子どもにそんなことさせられんよ」

 戸惑いながら振り向こうとした先生よりも早く、ニーコがモニターの上から飛び降りてくる。諒太が杖を受け取り、先生の後ろ頭にかざす。

「「マギナ・マギルカ!」」

放たれた無数の光の粒に、黒いもやが吸収されていき、最後にはじけた。

 水色の透き通った宝石が、カランと床に落ちる。諒太が拾い上げて、前と同じように、ニーコの差し出すクッションの着いた小箱にそっと入れる。


「先生、先生」

 諒太は、机に突っ伏している先生をゆすり起こそうとする。

「んぁ……。あれ、俺……? 諒太……?」

 困惑する先生に、諒太は笑顔でしらばっくれる。

「先生が、突然机につっぷして寝ちゃうからびっくりしましたよ。本当に、体調大丈夫ですか?」

「ん? いや、あれ? なんかすごく体が軽いぞ。諒太のツボ、すごいな」

 先生が快活に笑った。

「そうですか? ならよかったです。では、僕はこれで」

 用が済んだ諒太はそそくさと帰ろうとする。

「あ。そういえば、諒太さっき、マギ……なんとかって言ってなかったか?」

 諒太は、ぎくりとする。

「いえ、気のせいじゃないですか? さようなら!」

 諒太は下駄箱まで走って行って、やっとほっと息をついた。なんとか、先生に気づかれずに、先生の悪魂を回収できて良かった。謎の呪文を言いながら、魔法少女の杖を振りかざす小六男子とか、痛すぎる。

「諒太、次はまた一か月後くらいに回収だね」

 ニーコが諒太にホクホクした顔を向ける。

「もしかして……毎月、やるのか?」

「もちろん!」

諒太は、先生にばれるのも時間の問題だと頭をかかえた。


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