表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の騎士は骨となりて嗤う~国に裏切られ死んだ俺がアンデッドとして蘇ったら、何も知らない元カノが「世界を救う」とか言って俺を討伐しに来た~  作者: 立花大二
~エピローグ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/42

第41話:交わらない道

 それから、七日が、過ぎた。

 王都ルミナスは、深い悲しみと、そして、かすかな希望の中で、ゆっくりと、再生へと向かっていた。

 黒い雪は止み、空には、久しぶりに、青空が戻った。

 生き残った民たちは、互いに手を取り合い、瓦礫を片付け、亡くなった者たちを、弔った。


 セレスティアは、女王として、即位した。

 戴冠式は、簡素だった。だが、その姿は、どんなに着飾った王よりも、気高く、そして、美しかった。

 彼女の最初の勅命は、「真実の公表」だった。

 オルティス宰相の裏切り。白銀のグリフォン騎士団の、本当の死。そして、父王の、悲劇的な、最期。

 民は、衝撃を受け、悲しみ、そして、怒った。

 だが、セレスティアは、その全てを、一身に、受け止めた。

 偽りの歴史の上に、新しい国を築くことは、できない。

 彼女は、そう、信じていた。


 俺は、その間、王城の、一番高い塔の、一番暗い部屋に、身を潜めていた。

 俺の存在は、まだ、公には、されていない。

 セレスティアが、俺を、庇ってくれていた。

 俺と、バルド、そして、生き残った、僅かな、アンデッドの仲間たち。

 俺たちは、この城の、忌むべき、秘密だった。


 その夜、セレスティアが、一人で、俺の部屋を、訪れた。

 女王の、豪奢なドレスではなく、昔のような、簡素な、白いワンピース姿だった。

 その手には、一つの、包みを、抱えている。


「……アレン」

 彼女は、静かに、俺の名を、呼んだ。

 俺は、窓辺の闇の中から、何も、答えなかった。


「……貴方の、ための、服を、持ってきたのです」

 彼女は、包みを、開いた。

 中に入っていたのは、黒い、上質な、外套と、そして、顔を隠すための、銀の仮面だった。

「……これがあれば、貴方は、もう、その姿を、隠さなくても……」


「……無駄だ」

 俺は、静かに、遮った。

 魂で、響かせる、声で。

「……服や、仮面で、俺が、何者であるかは、変わらない」


 俺は、闇の中から、一歩、踏み出した。

 月明かりが、俺の、黒曜石の、骨の体を、無慈悲に、照らし出す。

 角の生えた、頭蓋。翼の、生えた、背中。

 俺は、人間ではない。

 その、紛れもない、事実。


 セレスティアの瞳が、悲しみに、揺れた。

「……それでも……。わたくしは、貴方に、傍に、いてほしいのです。……女王として、ではなく、ただの、セレスティアとして、お願いしています」

「……俺が、ここにいれば、いずれ、この国は、また、乱れる」

 俺は、静かに、告げた。

「……俺を、英雄アレンの、亡霊だと、崇める者。……俺を、新たな、魔王だと、恐れる者。……俺の、この力を、利用しようと、企む者」

「……俺の存在は、お前の、新しい国にとって、毒にしかならない」


「そんなことは……!」

「ある」

 俺は、断ち切った。

「……セレス。お前が、本当に、この国を、思うのなら。……俺を、行かせてくれ」


 沈黙が、落ちた。

 彼女は、分かっていたのだ。

 俺の言うことが、正しいと。

 俺と彼女の道は、もう、決して、交わることはないのだと。


 やがて、彼女は、涙を、拭った。

 そして、気丈に、微笑んだ。

 それは、聖女でも、女王でもない。

 ただ、一人の、少女の、笑顔だった。


「……分かりました」

 彼女は、静かに、頷いた。

「……ですが、約束してください。……いつか、必ず、また、会いに来てくれると」

「……ああ。約束だ」

 俺は、頷いた。

 決して、果たされることのない、約束。


 彼女は、俺に、背を向けた。

 そして、部屋を、出ていこうとする。

 その、小さな、背中が、あまりにも、頼りなく見えて。

 俺は、気づけば、手を、伸ばしていた。

 そして、彼女の、名を、呼んでいた。


「……セレス」


 彼女が、振り返る。

 その瞳が、驚きに、見開かれていた。

 俺は、彼女の、すぐ、傍まで、歩み寄っていた。

 そして、そっと、その頬に、骨の、指を、触れさせた。


 冷たい、感触。

 彼女の、温かい、肌。

 生と、死。

 俺たちは、あまりにも、違いすぎた。


 俺は、ゆっくりと、顔を、近づけた。

 そして、骸骨の、顎の先を、彼女の、額に、そっと、触れさせた。

 それは、俺にできる、唯一の、そして、最後の、口づけだった。


「……達者でな」


 俺は、そう、囁くと、翼を、広げた。

 そして、開け放たれた、窓から、夜の、空へと、飛び立った。

 後に、残されたのは、その場に、立ち尽くす、一人の、女王だけだった。

 彼女の頬を、一筋、涙が、伝っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ