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亡国の騎士は骨となりて嗤う~国に裏切られ死んだ俺がアンデッドとして蘇ったら、何も知らない元カノが「世界を救う」とか言って俺を討伐しに来た~  作者: 立花大二
第2部 記憶の残滓編

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第32話:三つの軍勢

 地獄と化した王都を、三つの影が、それぞれの道を往く。

 彼らの目的地は、同じ。

 全ての元凶が待つ、黒雲の中心、王城。

 だが、その胸に抱く想いは、三者三様、決して交わることはなかった。


一つ目の影は、復讐の王、ロード。


 俺は、バルドたちを率いて、地下水道を、王城へと向かっていた。

 地上からは、絶え間ない、人々の断末魔の叫びが聞こえてくる。

 かつてのアレン・ウォーカーならば、民を救うために、地上へ飛び出していたかもしれない。

 だが、今の俺に、その選択肢はなかった。


 感傷に浸っている暇はない。

 この悲劇を止めるには、その根源を断つしかないのだ。

 オルティス、ただ一人の首を、刎ねる。

 民を救うためではない。

 世界を守るためでもない。

 ただ、あの男の、狂った理想だけは、この俺が、絶対に認めない。

 それは、もはや復讐心を超えた、俺という魂の、絶対的な、拒絶だった。


《団長、見えました。王城の、地下牢へと続く、隠し通路です》

 バルドの思念が響く。


 俺たちは、最も警備が手薄で、そして、最も玉座から遠い場所から、侵入する。

 正面からではない。

 影から、影へ。

 それが、亡霊である、俺たちの戦い方だ。


二つ目の影は、傷心の聖女、セレスティア。


 彼女は、ジェラール卿と、生き残った騎士たちと共に、王都の南門にたどり着いていた。

 だが、そこに、門番の姿はなかった。

 門は、内側から、おびただしい数のゾンビによって、塞がれていた。

 街の惨状を目の当たりにし、若い騎士たちは、顔を青ざめさせている。


「……なんという……これが、私の愛した、王都……」

 セレスティアは、溢れそうになる涙を、ぐっと堪えた。

 泣いている暇はない。

 今も、この中で、助けを待っている民がいるかもしれない。

 そして、たった一人で、戦おうとしている、彼がいる。


「ジェラール卿」

 彼女の声は、震えていなかった。

「城壁を、越えます。ロープを用意してください」

「なっ、王女様!?」

「これは、わたくしの我儘です。ですが、行かねばなりません。民を救うために。そして……」

 彼女は、北の空、黒雲が渦巻く王城を見据えた。

「……一人の、迷える魂を、救うために」


 彼女の目的は、オルティスを裁くことだけではなかった。

 アレンを、救う。

 たとえ、その体が、骨になろうとも。

 彼の魂を、これ以上、憎しみの闇に、縛り付けてはおけない。

 それが、聖女としてではなく、ただ一人の、セレスティアとしての、偽らざる想いだった。

 騎士たちは、王女の、その決死の覚悟に、心を打たれた。

 彼らは、黙って、頷き、城壁に、鉤縄を放った。


三つ目の影は、冷徹な審問官、ギデオン。


 彼は、部下を率いて、王都を見下ろす、西の丘に陣取っていた。

 彼の元には、散り散りになっていた審問官たちが、続々と集結しつつあった。

 その手には、対アンデッド用の、聖銀の矢や、浄化の魔術が込められた聖印が、握られている。


「――報告します! 黒魔術の、発生源は、王城の地下と、断定!」

 斥候の一人が、膝をついて報告する。


「……やはりか」

 ギデオンは、静かに頷いた。

 彼の部下の一人が、問うた。

「審問官長。我々は、どう動きますか? 宰相閣下は、明らかに、道を踏み外された。我らが、正すべきでは?」


「無論だ」

 ギデオンは、冷たく、言い放った。

「オルティス宰相は、神の摂理を歪め、世界を混沌に陥れようとした、最大の異端者。その罪は、万死に値する」

 彼は、黒い剣を、鞘から、ゆっくりと引き抜いた。


「だが、忘れるな。あの『骨の王』もまた、死の掟を破り、この世に留まる、許されざる異端であることに、変わりはない」


 彼の瞳には、何の感情もなかった。

 ただ、天秤だけが、そこにあった。

 彼の正義の前では、オルティスの狂気も、ロードの復讐も、等しく、裁かれるべき「罪」でしかない。


「――これより、我々は、王城へと突入する」

「目的は、ただ一つ」

「この地に蔓延る、全ての異端を、根絶やしにする」


 三つの軍勢。

 それぞれの、譲れない正義と、目的を胸に。

 今、運命の糸は、呪われた王城で、一つに、収束しようとしていた。

 最後の戦いの、幕が上がる。


第2部 記憶の残滓編 ・完

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