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亡国の騎士は骨となりて嗤う~国に裏切られ死んだ俺がアンデッドとして蘇ったら、何も知らない元カノが「世界を救う」とか言って俺を討伐しに来た~  作者: 立花大二
第2部 記憶の残滓編

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第21話:復讐の再定義

 俺は、城壁の上から全てを見ていた。

 一体のゾンビが、計画通りに役目を果たし、塵に還るのを。

 そして、あの聖女が、手紙を読み、その顔色を変えるのを。


 ――届いたか、セレスティア。

 ――俺が突きつけた、もう一つの真実が。


 彼女が、あの手紙をどう解釈するか。

 俺には分からない。

 だが、これでいい。

 彼女の心に、疑念という名の楔を打ち込むことさえできれば。

 彼女が信じる完璧な世界に、小さな、しかし決して消えないヒビを入れることさえできれば。

 それが、俺の復讐の、第一歩だ。


 背後で、バルドの思念が響いた。

 彼は、部下を率いて、地下水道への入り口で待機している。

《団長……そろそろ、刻限です》


《ああ》


 俺は、街を見下ろした。

 今や、ここは巨大な罠の巣だ。

 俺という餌に釣られて、二種類の猟犬――聖女の騎士団と異端審問官が、足を踏み入れた。

 俺は、この盤面を、存分に掻き乱してやる。


《バルド。計画通り、王都へ向かえ》

《しかし、団長! 貴方様お一人では……!》

《案ずるな。俺には、俺の戦い方がある》


 俺は、壁から飛び降り、駐屯地の屋根から屋根へと、音もなく飛び移っていく。

 目指すは、街の反対側、西門。

 奴らが東門に集中している今、そちらの警備は手薄のはずだ。


 俺の思考は、かつてないほど澄み渡っていた。

 父親の日記。オルティスの手紙。

 それらの情報が、俺の中で渦巻く黒い憎悪に、明確な形と、そして、冷徹な理性を与えていた。


 今までの俺は、間違っていたのかもしれない。

 俺の復讐は、ただ人間を殺し、世界を憎むことではなかった。

 そんなものは、獣の咆哮と同じだ。虚しいだけだ。


 俺が本当にすべきこと。

 それは、オルティスが作り上げた、この偽りの世界――偽りの歴史、偽りの正義、偽りの英雄譚――その全てを、根底から覆すこと。

 真実を、白日の下に晒すこと。

 俺たちが、いかにして裏切られ、犬死させられたのか。

 そして、その死の上に今の王国の平和が成り立っているという欺瞞を、全ての人間に知らしめること。

 それこそが、俺の、そして、死んでいった仲間たちの無念を晴らす、唯一の道だ。


 復讐の、再定義。

 それは、破壊ではなく、暴露。

 暴力ではなく、啓示。


 そのためには、俺は生き延びなければならない。

 この骨の体のまま、証人として、王都へたどり着かなければ。


 西門は、予想通り、ほとんど無人だった。

 俺は衛兵を二人、音もなく始末すると、門のかんぬきを外した。

 そして、街の外で待たせていたフェイドに跨る。

 俺は、一度だけ、ミリアの街を振り返った。


 ――セレスティア。

 ――お前が、あの手紙を握り潰し、偽りの正義を選ぶというのなら。

 ――次に会う時が、本当の、決別の時だ。


 俺は馬首を返し、闇の中へと駆け出した。

 目指すは、王都。

 だが、最短距離ではない。

 俺の頭の中には、斥候の記憶から得た、完璧な地図がある。

 森を抜け、山を越え、追手の目を眩ませながら、確実に王都の心臓部へと迫る、いくつものルートが。


一方、ミリアの街、中央広場では――


 セレスティアは、まだ、その場に立ち尽くしていた。

 彼女の周りで、ジェラールとギデオンが、激しく口論を繰り広げている。


「……だから、罠だと言ったのだ! あのゾンビも、あの手紙も、我らを混乱させるための奴の策略に決まっている!」

「しかし、現に敵は姿を見せん! 街の中はもぬけの殻だ! 奴は、我々が躊躇している隙に、逃げたのだ!」


 セレスティアの耳には、彼らの声は届いていなかった。

 彼女は、ただ、胸に隠した手紙のことだけを考えていた。


『宰相、魔族と通ず』


 もし、これが真実なら、私は、この国は、とんでもない過ちを犯したことになる。

 アレン様を、見殺しにした。

 いいえ、違う。

 アレン様を殺した犯人を、今まで、忠臣だと信じてきたことになる。


 彼女は、顔を上げた。

 その青い瞳に、強い光が宿る。

 迷いは、もうなかった。


「――ジェラール卿」

 彼女の声に、二人の男が口論をやめる。

「部隊を、二つに分けます」


「なっ、王女様!?」


「ジェラール卿は、騎士団の半数を率いて、この街の周辺に残ってください。敵が、まだ近くに潜んでいる可能性もございます」

「では、王女様は!?」


「わたくしは、残りの半数を連れて、王都へ戻ります」


 その言葉に、今度はギデオンが眉をひそめた。

「ほう? 敵前逃亡ですかな、聖女様」


「いいえ」

 セレスティアは、冷たい目で、ギデオンを見据えた。


「――真実を、確かめに戻るのです」


 彼女は、もう、目の前の敵だけを見てはいなかった。

 彼女の本当の敵は、今、王都の玉座の隣で、優雅に微笑んでいるのかもしれないのだから。

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