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魔法少女アルケルミー  作者: えびちり
4/12

魔法少女の推誕

 運動場に土煙が舞う。次いで人の悲鳴がこだました。

 怪物だ。

 それは誰もが見まごうことなき肉色の怪物。

 その背丈は三メートルはある。筋肉はゴムのようにぶよぶよした弾力を持ち、その身に纏うものは無い。手長脚長胴までもが異様に長くそしてそれはあるはずの顔や性器が何処にも存在しない極めて平坦な人型の肉だ。おまけ程度に関節も心なしか多い。

 放物線と共に空から降り注いだその怪物に、部活動をしていた運動部はすぐさま逃げ出した。

 野次馬がいなかったのは、その怪物が金属を曲げる程の衝撃と共に着地したにもかかわらず、傷一つない皮膚でその身を晒したからだ。

 聡明な教師と、そして居合わせた生徒会副会長によって強制的に距離を取り、人はその怪物を見定める。埒外の異生物から呼び起こされる、純然たる恐怖のままに。その動向を見るのだ。


 ふと、怪物の前に一人の人間が立った。

 それは怪物の腰ほども無い小柄な少女だ。学生でもないのか、制服でも体操着でもないものを身に纏う。

 透明でなく、銀でなく。かと言って白でもない。しかしそれは周囲の色を吸収し反射するような無垢の色。つまりは天の色を持つミニドレス。それは空の色を受け緋と蒼紫のグラデーションを描く。

 おもちゃのような七色を持つ杖を振り回すその様はまごう事なき魔法少女だった。


 誰も喝采する事なく、悲観する事なく。しかし少女は立ち向かう。理解の外にあるものに、社会の外にある怪物に。

 そうだ。故にこそ魔法少女なのだ。

 理解の外にあるもの(【怪物】)に人は無力だ。その身は違う摂理、違う神話が生きている。

 だからこそ、真っ当に怪物を斃せるのは同じく理外の摂理を持つ怪物だけだ。

 魔法少女は例外の一つ。人であるにも関わらず怪物と同じ力を……いや、その源流を直接振るうことで怪物を傷つけ、そして更にその先を求める事ができる。


 魔法少女と、怪物が激突する。

 校庭が吹きすさび、大地が剥がれる錯覚を覚えるが、不思議な事に衝撃波も風も、離れてそれを見る生徒たちに辿り着くことはない。

 涼しい顔。不可視の障壁が怪物の腕と、その腕から繰り出される攻撃の数々を軽々しく受け止め、その衝撃すらも閉じ込めていた。

 その魔法少女、アルケルミーは知らずとも力の振るい方を心得ていた。何故かなど深くは考えず、ただすべき事に従う。杖から流れる誰かの声に耳を傾ける。


「おはよう、アルケルミー。調子はどうだい?」

「早く言って。どうすれば二人を戻せるの?」

「焦らないで。その方法は繊細だ、調子ぐらいは聞かないと。いや、調子が良い程度で成せるならきっともう怪物はいなかった。ともかく焦らないで心を落ち着けようか」


 そうは言っても、とアルケルミーは思う。二人の怪物に思うことは、夜闇の如き哀しみと、暁の如き怒りの炎。時が経てば経つほどに、二人の行動への疑問とそれに伴う感情は増し、制御を失うように彼女は感じていた。


「……言って」

「さて、理屈は簡単だ。机上の空論とも言う。あの怪物は二人の認識二人の関係性、それらを包括した二人の社会が組み合わさった姿なのは君も察する通り。幸運なのは三角関係の核である君が居ないこと。不安定だからこそまだ戻れる。だから嗚呼、簡単さ。内から入って選り分けてしまえばいい。あれの中身は二人の存在の坩堝、外から見れば動く蛹。簡単だろう?」

「内に……どうすれば?」

「そこまでは僕がエスコートする。ただしチャンスは一度きり。心が良ければ僕に続けて呪文を唱えて」

「……わかった」


 応えると。

 やはり、魔法少女となった時のように言葉が泡のように浮かび始めた。それは呪文。私たちの住む世界において存在を許されぬ言葉。


 ――|al me kalm ealkhe melkhel al khel meアルミケルミアルケーミルケルアルケルミー


「解錠せよ、壊状せよ。本を開け、文字をなぞれ。未知なる領域への狭間をなぞれ。認識されし汝は既知であり、体を持ち、なぞることができる。我はくぐる汝の街のその門を、曝け出せ汝の信仰とその魂とその肉体を……"マグヌムオプス・エネトノス"」


 呪文を綴じると同時に、杖の輝きは増し、七色が十四色に二十八色に、その彩はやがて混ざり合い一つの色へと収まった。

 杖から放たれた碧の光。その粒子が魔法少女と怪物とを包む。糸を橋かけるように包む姿は側から見れば繭のようで、しかしそうではないとわかる。

 それは、思考の奔流を遮る銀鉄の檻。赫炎輝く夕陽に反して、紫黒染まる宇宙に反して、明るい碧に煌めく檻は似て非なる蛹であった。

 認識する時には、さて中身はすでに溶けている。



 ◇



「「瑠美」瑠美さん」「受け入れて」「見て」「私の目を」「聞いて」「僕の言葉を」「触れて」「手を繋いで」


 牧くん、或いは真帆か。誰ともつかぬ思考の奔流が私をのして伸ばして、切って刻んでいく。まるで食材のように調理されている気分で、自分自身が腹の中で消化され分解されるように端から解けていくのを感じる。

 そんなでも私が私を保てているのは違いなくあの杖のおかげだ。


「今戻すから……!」


 流れに逆らって私が黄金の剣を振るう。光は碧、影は紫。伝う願いは鉄銀の。これは物差しだ。私が二人に抱いている想いを切り分けて区別して、差別して通じて私を知る鏡だ。

 やり方は知らないけど、解っている。

 友愛と恋愛を、不純と純粋を、憐憫と恩情を、痛快と至福を……断って切って刻んで。

 彼女は左に、彼は右に。彼は後ろに彼女は前に、そうして分ける。だけどその度に彼らは繋ぎ戻す。悲鳴のように響く思考の電流と共に。


「「どうして?「なんで?」愛しているのに?」」

「「「こんなにも」」」


 それは私の話だ。あんなにも、嫌いあっていた感じの二人がどうしてこんなにも溶け合って互いを同じものだと認識してしまっているのか。

 貴方は誰。真帆でも、牧くんでもどちらでもない。今はもはやそうなってしまったのだと哀しくなって。

 だけど私は止まらない。今はこれが正しいと。そのやり方は関係性じゃないと否定して。


「やめて「やめて」」「痛い「酷い」」

「「切らないで「それは「私」僕」なのに」」


 そう悲鳴のような濁流が見える。気にはするけどそれでも切る事を私は止めない。

 そばから再生するそれを私は切り続けて。他に方法は知らなかった。

 聞くのは怖かった。



 そして私は、虚無を見た。


 それは心に空いた穴だった。私が入るべき三角形の一点だった。しかしそれは、"私"が入れる"形"ではない。あの形は私でなく、私はあそこに入れない。


 そう気づいた瞬間に視界が揺らぎ、明滅し。崩壊していく。核を持たず、自己矛盾した怪物の内部はグズグズに、二人(彼と彼女)の結びつきどころか、一人(彼と彼)一人(彼女と彼女)の結びつきさえ弱くなっていく。


「待ってよ!待って!二人とも!!」


 そう引き留めるが叶わない。大事に選り分けた二人が消えていく。このままでは共に中にいる私も同じように霧散してしまう事はわかっているが、それでも二人の存在が消えていくのに、黙って出ていくなんてできやしない。

 けれども腕を振るって掴もうとしても、その手が掴むのは泡の消えた宙空だけで。

 それだけで


「アルケルミー!」


 杖の声がして、私は引き戻されていく。私の意思など関係なく、無慈悲に。無理やりに


「待って――!」


 伸ばした手は空を切る

何言ってるのかわからないと思います。

ともすれば書いてる側も何書いてるのかわからないまであります

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