コーヒー
ぎしりと詰まった果肉と滴り溢れる果汁に思わず手を伸ばしてしまう。
ぽかぽかした日和に照らされキラキラと輝く様に目を離せない。
ひとつひとつがそれだけ美しさに溢れている恵みをこれだけ収集できたのはどんな幸福だろうか。
「おはよう!今日は大量だよ!大精霊様が昨日空の欠片を振り撒いたおかげだね!」
「おはようー!わー!新鮮さも一段といいね!さすが我らの大精霊様だよ!」
みんな一様に朝の収穫を持ち寄って集会所に集まってきた。
「つまみぐいしーちゃお!」
「あ!じゃあ私も!」
集めた恵みをこっそり口に含んだ。
まだ眠かった目がパッと覚めるほどにうますぎた!最高だね!
よいしょっと、自分の仕事を終わらせて体を捻らせて見ると、人間たちに精霊祝朝だなんて言われる幻想的な姿が広がっている。
元素バラバラ、色彩さまざま、ぱらぱら精霊たちの残滓が散らばりまくっておばあちゃんの家の飾り棚みたいな有様!
けどみんなみんな、人間と違って実態がなくて透き通ってるんだよね、火花がまったり、もくもくしてたりおかしいんだ。
人間は自分にないものを綺麗だというんだな。
うんうん。
「どうしたの?そんなに頷いて」
「世界のことわりに気がついてね」
「え!何々教えて!」
意気揚々と仲間が聞いてきた。
僕は宙返りをして得意になった。
「ふふん。教えてやらないこともない!まずはな、」
と話し始めたところで緑豊かで小ぶりなナズナ太鼓の音がとんとんと鳴り響いた。
「皆さん、食事の時間になりましたよ。席についてくださいな。」
今日は彼女が太鼓係だったみたいだ。
優しく包み込むような声音は時期大精霊様と言われることだけはあるな。
ぱらぱらと突然周囲に綿毛が舞い降りてきた。
皆一様にそれに触れた瞬間、静電気に触れたみたいにびっくりして飛び跳ねたり、カッコイイポーズをしちゃったりしてる。
僕、これ好きなんだよな!
「わ!!辛い!最高だ!」
「ええ?すごいね!私は大精霊様から直接もらう恵みが好きだなあ!」
「俺も辛いの好きだよ!」
「ああ!最高だよなこの辛さ!」
いつものことながら世界樹様からの挨拶にみんな賑やかに会話をしてる。
朝のこの挨拶好きなんだよなあ!
「あっまずい!好きな席が埋まっちゃう!早く行かなきゃ!」
勢いよく進み出そうとしてその場で一回転して目を回しながらお気に入りの席に向かっていった。世界が回ってるー!
「地に静けさ、みなもにざわめき、気に瞬き、ほむらにとどろき、世のみらいに祈りを捧げます。」
「「捧げます」」
多種多様な言葉が響き渡る。
終わりを伸ばしたり、元気が良かったり。
そしてみんな食事を始める。
座った席にははじめ、何も無かったが、祈りを捧げた後には好物が目の前に置かれていた。
これって人間たちからの供物なんだって!
供物を受け取ることによって人間に祝福が捧げられるらしいからこうやって僕たちが食べなきゃいけないんだよね!
いつも美味しいから最高だよ!
今日はどんなのかな?
かちゃかちゃ周りの子達は楽しそうに食事をしてる中、自分のものへと目を向ける。
どこからどんなのが来るかはランダムなんだよね!
うん!大好物のケーキだ!しかもコーヒー付き!
この苦味が大好きなんだー!
認識したが早いかパクッとひとくち口に運んだ。
「っ...!!」
なんだこれ。ケーキなのに、苦い。苦い苦い苦い!!!
やられた。毒だ!
気がついたと同時に供物を捧げた者へと罰を与えるため、指先をドンと机に叩きつける。
すると食事は消えて、わたがふわっと空に舞い上がった。
まずい、勢いに任せて食べすぎた、毒が回るのが早い。
周りの気がついた子達は、自分の分を一息に飲み込んで僕を手助けしてくれてる。
みんな慌てながら僕に手をかけてくれた。
ああ、美味しい。海水の塩味が心地いい。
僕と同じ子が近くにいてよかった。
そのまま僕は床に倒れ込んだままでいる。
どこからか温かいものが近づいてきた。
緊張から穏やかな風に耳を傾けて僕はゆっくり眠りについた。
目を覚ましたら甘い蜂蜜と酸っぱいレモンに包まれた空間にいるのがわかった。
むーここ香り強いから苦手なんだけどな。
「おはよう、元気になったかな?」
「おはよう!それはもう!助けてくれてありがとう!」
「どういたしまして!実はね、助けたのは私たちだけじゃないのよ?」
彼女は後ろに視線を持っていく。
みると大精霊様がいた。
「わ!大精霊様!来てくれたんですか!」
「ええ、あなたたちの励みに応えたいと尋ねたんですよ、びっくりしました。起き上がれるようになったのは良かったです。」
「はい!ありがとうございます!」
大興奮だ!まさか大精霊様に会えるなんて!
この上ない幸福だ!
しかもお話だってできたし!明日みんなに自慢してやろう!
「大精霊様!僕お役目を果たしましたよ!罰を与えました!」
「そうですね、とても偉いことですね。よくやりました。」
褒められちゃった!ほっぺをピンク色にして口角が上がっちゃう!
「真偽は確かめましたか?」
「真偽ですか?」
「ええ。人間の罪に罰を与えるのが私たちではあります。けれど全てではありません。
そのため、罰を与えるには本当に罰を与えて良いかをしっかりとみる必要があるのです。」
そうなのか、大精霊様は難しいことも知っているんだ!じゃあ次からは大精霊様のいうようにしっかい見て罰を与えなきゃ!
「わかりました!大精霊様!ちゃんとみることにします!」
「手始めに先ほどの罰をちなんとみたら子供のいたずらだったみたいなので問題はなさそうです!」
「えらいですね。花丸をあげちゃいましょう」
「やったー!ありがとうございます!」
大精霊様から花丸をもらってしまった!この花丸、1日しかもたないけどとても美味しいんだー!
幸せだー!
「どんな時も勤勉によく励みましたね。
今日もう休みなさい。
穏やかな眠りになるように雲をかけて差し上げましょう。おやすみなさい」
「おやすみなさい。大精霊様」
僕はふかふかの雲に包まれて、どきどきと遠くに聞こえるせせらぎみ食んで眠りに落ちた。