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#0002. 『異世界帰りの男』 act.3

  □ □ □ □ □ □ □ □ □



 こうして地球に還ってきた。



 召喚された時とほぼ同じ時刻だった。


 なんだったんだ……



 パーティの仲間がどうなったのかは、わからなかった。


 一度聞いたきりの彼らの本名なんか、とっくに忘れてしまっていた。


 探しようがない。会ってどうするのかという問題もある。


 ただ、子供の姿になってしまったレイヴンはどしているのか。


 それだけは少し気にかかった。



 会社を辞め、二年ほどダラダラと過ごした。


 無駄遣いをしなければ四年くらいは生活できる程度の貯金はあった。



 異世界で身に着けたスキルやステータスはそのままだった。


 手抜きもいいところだ。


 不意打ちで転送されたから、ストレージの中身もそのまま持って来てしまっていた。


 見方によっては、これらが報酬と言えなくもない。


 スキルを活かして金を稼ぐ方法を考えてみたが、合法的なものは浮かばなかった。



 ある日、アリアドネが訪ねてきた。


 合流組のウィザードだった三十歳くらいの女だ。


 彼女は自己紹介の時に聞き出した俺の本名を覚えていて、虱潰しに当たって突き止めたそうだ。


 ストーカーかよ。


 だが、現実感のないこの世界で、アリアドネだけはリアルだと感じられた。


 彼女は所謂『男にとって都合のいい女』だった。


 同棲を始め、一年ほど爛れまくった生活をしてから別れた。


 私では貴方の心を受け止めきれないと、彼女は泣いた。





 その後、日本を出て、世界中をふらふらとした。


 俺はどうしたいのか。


 何を成したいのか。


 なんだか若者の自分探しの旅みたいで恥ずかしいが。



 訪れた先でトラブルに巻き込まれたら、積極的に暴力を行使した。


 自分にはもうコレしかないんだなという気がしていた。


 異世界で手に入れた、スキルと戦闘技術とアイテム。結局無意味だったもの。



 しまいには、地元の犯罪組織に自分からちょっかいを出すようになった。


 敵対した組織は壊滅させた。具体的には、構成員を皆殺しにした。


 警察が癒着していた場合は、警察署も潰した。ターミネーターのノリで。



 人を殺す事に忌避感はなかった。異世界では現地人の盗賊や兵士などを数千人殺しているし、今更だ。


 この時点でストレージの中は、奪い取った武器弾薬や金で溢れていた。


 その結果として警察にも追われるようになり、紛争地帯にでも行って傭兵か義勇兵にでもなるかと考えていた。



 そんな時、なんとかスタンな国で、自称CIA崩れだというアル中のアメリカ人と知り合った。


 そいつは俺よりも一回りも年上だったが、妙に馬が合い、暫くつるんで周辺国を渡り歩いた。


 大体はそいつが交渉と根回しをし、俺がドンパチするという役割分担だった。


 なんだかんだで、結構な額を稼いだ。


 そいつからは、様々な教えを受けた。裏社会の作法、接し方、勢力図。


 やがて、つまらないトラブルで、そいつはあっさりと死んでしまった。



 そして俺は紛争地帯に渡り、傭兵になった。


 四年くらい続けたか。


 給金は安かったが、鹵獲した武器を横流しし小遣い稼ぎをして補填した。


 翻訳スキルのおかげであらゆる言語と意思疎通できるのだが、それを重宝がられて上に引っ張られた。


 前線から離れた日々は退屈で、すぐに飽きて足を洗った。



 その後、英国で傭兵時代のささやかな復讐を果たそうとして、ロイヤル・アーミーと全面戦争になり、合衆国に借りを作ってしまった。



 あとは転落の一途だ。



 傭兵時代に知り合ったPMCの社長を頼り、合衆国内のPMCベースの敷地内に居を構え、訓練教官をやりつつお仕事にも同行。


 空いた時間で荒事対応のなんでも屋。



 そして時々、合衆国政府機関の依頼で、ちょっと表には出せない案件の処理などを請け負っている。


 わざわざ俺に依頼する位だから、大抵は山程人死にが出るようなお仕事だ。


 ぶっちゃけペンタゴンの下請けで、もはや半分政府の犬だ。


 だがまぁ、それも悪くないかなとも思っている。




  □ □ □ □ □ □ □ □ □




 地球に帰還してから、ちょうど十年が経過していた。



 色々あって、今はJDと名乗っている。名前なんてなんでもいい。


 相変わらず合衆国政府の犬をやってる。



 時々、ふとあの異世界に帰りたいと考える事があった。


 『また行きたい』じゃなくて『帰りたい』なのかよとセルフツッコミ。


 ずっと山籠もりで隔離されていたので、現地人との交流があったわけではない。


 ぶっちゃけ、あの世界の事は何も知らないに等しい。


 ただ、あの勇者の事をもっと知りたいと思ったんだ。今更だが。


 そうはいっても、自分で望んでいけるような所じゃない。


 その方法論も見当がつかない。


 考えるだけ無駄だった。


 どうせ、この世界から逃げ出したいだけだ。



 特に何も、目標とするものは無い。特に目的も無い。


 このままダラダラと、死ぬまで生きようと思っていた。




 あの日、『レイヴン』からのコンタクトがあるまでは。





  □ □ □ □ □ □ □ □ □




『おはようございます。ボス』


『現在 07:32 です』



「……おぁようモニカ。インフォメーション」



『10:00 ATFのペック氏がお仕事の依頼に関するご相談で来訪の予定』


『18:00 ヤザンン隊長から夕食にご招待されています』


『23:00 スタートレック再放送の視聴予定。今日が最終回です』


『本日の予定は以上です』


『武器商のマッコイ氏から、納品に関する相談の為に連絡を求むとの事でした』


『通販で購入した物品が本日届く見込みです。受け取りをお願いします』


『冷蔵庫の牛乳は本日中に消費してください』


『以上です』


「んーー」


「ん?…………なにお前、俺の冷蔵庫の中身まで把握してんの?」


『はい。優秀なエージェントですので』


「……」


「通販てなんだっけ?買った憶えがないんだけど」


『私が注文しました』


「おいおい、なに勝手に通販で買い物とかしてんの!?」


「何買ったのぉ!? 健康グッズか? アクセサリーか?」


『どちらも私には不要なものですね』


『防犯カメラと人感センサーを購入しました』


『設置はボスにお願いします』


「……」


「あれだけ設置したのに、まだ足りないんですか」


『死角を完全に潰した上で、冗長性を確保する必要があります』


「……」


「わかりました」


「必要な物は買うから、欲しいものがある時は相談してね?」


「おじさん、びっくりしちゃうから」


『了解、ボス』




「……なあ、モニカ。人生ってなんなんだろうな?」


『それを私に問いますか!? シャンとしてください!』


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