技術編成(下)
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〇所持技術要素一覧
・【抜刀】
・【高速抜刀】
・【スラッシュ】
・【バックスラッシュ】
・【納刀】
・【高速納刀】
・【スラスト】
・【ダッシュ】
・【身躱し】
・【対人格闘の間合い】
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できれば攻撃を加える技術がいい。
所持している中で攻撃に使えそうなものは字面だけで判断すると【スラッシュ】か【バックスラッシュ】か【スラスト】だろう。
とりあえず無難で分かりやすい【スラッシュ】の表示に触れてみる。
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技術要素【スラッシュ】
詳細:武器を斜めに振って斬りつける。
魔力消費:1
条件:斬撃属性の武器を所持
――この技術要素を選択しますか?――
≪はい/いいえ≫
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「魔力消費ってどんな意味?」
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技術要素のステータスは10段階の数字評価されます。ただし同じ評価でも技術要素によってブレがあります。
・魔力消費はこの技術要素を加えた際、複合技術を発動するために消費する魔力量です。
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「あぁ、つまり技術要素を足していく度に値が加算されてその合計によって複合技術の性能が違うってことかな」
説明してくれたことを私なりに解釈して話すとルカがグッと親指を立てた。どうやら的を射ていたようだった。
どちらにしてもあまり増やしすぎると現段階の魔力量に見合わなくなったりしそうだ。
技術編成をするときはこれらの値に注意して行わなくてはいけない。
注意を心に留めながらこのまま「この技術要素を選択しますか?」の問いに「はい」と選択した。
すると石板が一瞬眩い光を放った。
「ひゃ!」
つい目を瞑って腕を上げて光を遮るようにする。
恐る恐る目を開きながら腕を下げると石板の窪みにハマるようにして透明の丸い石が置かれていた。
『この石は技術の珠石と呼ばれます。』
思わず石を手に取ると吹き出しのようにウィンドウが表示されて、そこには先ほどの技術要素【スラッシュ】の説明が書かれている。
空に透かして見るとキラキラと輝いていて綺麗だった。
『技術の珠石をこちらの技術シリンダー下部の窪みに嵌めてください』
「これ技術シリンダーっていうんだ。……とりあえずやってみるね」
言われた通り技術の珠石を技術シリンダーの窪みに嵌めると、内部に少しだけ出所不明な緑の液体が生み出された。
青汁というには透明度過ぎて、メロンソーダというには色が濃い。
ギョッとしながら助けを求めてルカを見るとニコニコと微笑みながらウィンドウを表示した。
『シリンダーは一番いい状態の総魔力量を指し、内部に貯まった液体は技術を発動した際に消費する魔力量を指します。魔力を込めることでシリンダーに魔力を加えることが出来ます。』
「分かった。じゃあこの貯まる液体には気を付けないといけないね」
思わずシリンダーに目を向ける。
液体はそれほど入っていないが【スラッシュ】だけでどれくらいの魔力を消費するのか気になって腰をかがめて目を眇める。
所詮目測でしかないけれど技術シリンダーの10分の1から11分の1程は満たされているように見えるので10回ほどは発動できるのではないだろうか。
……それにしても私の魔力ってなんか、きたな……いや、止めておこう。
「これってもう技術として発動できるの?」
ふと疑問に思ったことを尋ねるとルカは黒髪を乱しながらこくこくと頷いてウィンドウを取り出した。
『石板の右上端に存在するボタンに触れて表示されている技術名を口にすることで試用できます。ただしこの状態のまま石板を戻すと外へ出た時に技術を編成したことにならないので注意してください。また、この空間では技能タスクを達成できません。』
「うん、分かった気を付けるね」
一度技術要素【スラッシュ】単体しか編成しない状態で発動するとどのような効果を発揮するのか気になって一度試してみることにした。
技術の名前らしきものを探す。
視線を彷徨わせているとルカが石板の上部をさし示してくれる。そこには「複合技術枠1」と書かれていた。
あまりにもそのまますぎて技術名だと認識していなかった。
……まぁ変更してなかったらそうなるよね。けどまぁそのままでいいか。
どうせ試すだけだしと思いながらボタンに触れると石碑から離れたところに地面からマネキンのようなものがせりあがってきた。
出て来たタイミング的にこの世界における試斬用の藁のようなものだろうか。
『試用を行うと技術に対応した的が出現します。的は破壊されても復元されます』
「……破壊されても復元される? そうなんだ。教えてくれてありがとう」
なんとも便利な話だ。
道場で居合術をやるときは巻き藁を用意するのも片付けるのも面倒だったことをこの身で実感しているので手間もかからないのはとても助かる。
それにしてもこの超常的な技術はどこから来ているんだろう。
現実ではどれだけ技術が進歩したところで無から有を創造することは叶わない。しかしこの世界では実用化されている。
勿論莫大なコストを掛ければ物質を生成したように見せること自体は可能だが、たかだか的を再生する程度のことに超常的な技術を使用するような環境には永劫ならないと思う。
専門家じゃないから未来のことなんて何も言えないけれど。
確かにゲームシステム的には技術編成の時に的が無くてはならないし、一回壊れたら壊れっぱなしというのはなんとも不便だろう。
ゲームとしてこの機能は必要不可欠だと思う。あまり不便だとユーザーは離れてしまうと素人の私でも推測できる。
私がゲームに慣れていないからいちいち気になってしまうのだろう。
つい現実からゲームのシステムを評価する視点よりもゲームの世界の中からの視点から見てしまう。それだけこのゲームに臨場感があると言えるのかもしれない。
余計なことを考えながらも触手を生やして刀を抜き、用意された的に歩み寄った。
この技術の間合いはどんなものなんだろう。
この技術の剣筋はどんなものなんだろう。
何も分からないので普通に刀を振り下ろして届く位置で上段に構えた。
呼吸を整えて自分のタイミングを見計らう。
技術【複合技術枠1】
勝手に体が動いてマネキンに刀が振り下ろされる。
刀はしっかりマネキンを斬りつけていた。けれど――
「……弱い」
再び上段に構えて同じように斬りつけた。
今度は技術を使用していないが、より正確無比な切り傷がつけられる。
「確かに攻撃力は増している気がするけど剣筋にキレがない……」
そういえば対応する技能のパフォーマンスに応じて精度が変化すると記載されていた。
思い立ってメニューを開き技能『斬撃』のパフォーマンスを調べると10だった。最大値が100とすると10分の1しかない。
このゲームのシステム上で私の斬撃の技量は100点中10点ということだ。それならこのヘタさにも納得がいく。
……ちょっとムカつく。
モヤモヤした気分になりながら解決策を考えた。
攻撃力はわずかに上昇するけれど微々たるもので、このままだとメリットが少なくて使う気になれない。
……いっそのことシリンダーを魔力で満たして威力をごっそり上げてみるのはどうだろう。
あまりにも策が思いつかずにある種ヤケを起こしたような自爆的危険思想に足を踏み入れようとしていると、ツンツンと小さな指で肩をつつかれる感触がした。
視線を向けるとルカが眉を八の字にしていた。
「どうしたの?」
困り果てた様子のルカに問いかけると『発動条件設定と付加要素、どちらの説明をしますか?』と書かれたウィンドウを取り出した。
そういえば技術編成のウィンドウには技術要素の他にも書かれていたことがあった。
どうやら先走っていたようだ。
私は誤魔化すようにもみくちゃにして謝罪の意を示すと、ルカは美しい射干玉の髪を乱しながら両手を上げてはしゃいだ。
とても愛らしくてずっと愛でていたくなる。
最初のうちは楽しくノッてくれたルカだったがすぐに飽きたようで満足したように一息ついて腕の中から抜け出して、「で、どっち?」と言わんばかりの視線で私を射抜いた。
すごく気分屋で猫っぽい。
「えっと、じゃあ発動条件設定で」
希望を伝えると指で輪っかを作って「OK」のハンドサインをするとウィンドウを取り出した。
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発動条件指定では技術を発動する際の条件を設定することが出来ます。
発動条件は技術要素に付随していますが、さらに条件を付け足すことによって技術を強力に編成できるようになる効果を得ることが出来ます。
また、効果は追加する条件によって変化します。
最初に使用する場面を想定して発動条件を指定してから技術編成を行うことをオススメします。
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「あー……そういえば書いてあったような」
説明を読んでいると最初に技術編成のメニューが表示された時のウィンドウを思い出した。
下の方に発動条件指定の一覧があったような気がする。最初は読んでもいまいち理解できなかったけれど今なら多少理解できるだろう。
石板の前に戻っていまだに表示され続けているウィンドウを覗き込んだ。
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〇発動条件指定
・一等光輝開放発動時
――ルミエール消費条件で発動する技術の消費ルミエールを軽減。
・二等光輝開放以上の光輝開放発動時
――技術シリンダーを1つ増やす。
・三等光輝開放時以上の光輝開放発動時
――技術シリンダーのうちの1つを増大。
・特定の所持性質発動時
――性質によって変動。
・その他条件下
〇特定の場所のみ発動
〇特定の魔法陣が組み込まれた魔術を使用中のみ発動
・技術要素に付随した条件を一部緩和
――編成の石板のマス目を縮小。
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発動条件指定で目立つのは光輝開放発動時に限って発動できるように制限するものだ。
一等光輝開放でのみ発動できる条件に得られる効果は有用なのか今のところ良く分からないが、一等光輝開放自体がルミエールを消耗するため消費ルミエールを軽減するのは良いのかも知れない。
二等光輝開放の技術シリンダー追加は見てすぐに有用そうだと分かる。
技術シリンダーが増えれば一つの技術の中で扱える技術要素が一つ増えるということだ。【スラッシュ】を使った後に連続して【バックスラッシュ】を使うなんてことが出来るのだろう。
「ねぇルカ、技術シリンダーのうちの一つが増大ってあるけどどういうこと? 流石に魔力が増えるということは無いだろうし……」
読んで気になっていたところを尋ねると莞爾と笑ってウィンドウを用意してくれる。
話すことは出来ないけれど快く質問を聞き入れてくれていることを態度で示してくれて心情的にとても助かった。心置きなく質問できる。
『技術シリンダーの増大は魔力量が増えるわけではありません。与えるダメージなどは増えた分と同じだけの効果が得られますが、消費量は増大した割合分だけ減ります。』
「そうなんだ、ありがとう!」
ルカの頭を撫でまわしながら思案する。
どの程度大きくなるのかは分からないが三等光輝開放で得られる効果はかなり良さそうだ。デメリットが光輝開放していない時に使用できないだけでメリットが大きい。
光輝開放していない状態から光輝開放する際に技術が無いと不安な人なら光輝開放を条件指定しない選択肢もあるかもしれないが基本的に光輝開放の条件指定はした方がよさそうだ。
「それで編成の石板ってどうやって使えばいい? マス目が小さくなると何か悪いことがあるのかな」
私の胸の中に納まって大人しく撫でられていたルカはぴょんと飛び出して、「この時を待っていました!」と言わんばかりに胸をはって得意げにした。
意気揚々とウィンドウを出現させた。
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~編成の石板~
編成の石板は技術の編成に使用されます。
横軸は時間を表し左から右に流れます。
シリンダーを横に並べることで左から順に発動させることができ、縦に並べることで同時に発動できます。ただしマス目の左端に寄せておく必要は無く一番左に置かれているシリンダーが起点になります。
技術シリンダーは存在格に応じて数が増えます。
縦に並べる場合、条件が追加されたり消費魔力が増大したりする場合があります。
横に並べる場合、並べた技術要素同士の相性が悪いと連携が悪くなり隙が出来る場合があります。
技術の珠石をはめていないシリンダーを技術の珠石をはめているシリンダーの一マス下に置くことで一マス上の技術要素に付加要素を反映することが出来ます。ただし、シリンダーが分かれている付加要素は同シリンダーに入れられている付加要素よりも魔力を多く消費します。
不要になった技術の珠石や付加の珠石は左上の穴に投入してください。投入することで玉石はメニューに戻ります。
一時的に珠石を保持したい場合は下の窪みをご活用ください。
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「へぇ、思ったよりいろんなことが出来るんだね」
マス目に合わせてシリンダーを横に並べて置いていくことで技術を編成できるということらしい。
勿論制約はあるが縦に並べることで技術要素を同時発動出来たり、技術要素を強化出来たりしてかなり自由度が高い。その分ゲームシステムを理解して使いこなすには相応の時間が必要そうだ。
……まぁ今はそんな時間ないか。
説明くらいはアカネも読んでいそうだけれど説明を読んでいくだけでもそこそこ時間がかかってしまっている。
そういえばキャラメイク中も焦っていたっけ。
午前中の出来事なのになんだか遠い出来事な気がして懐かしささえ感じる。
少し感傷的な気持ちになって一息つきながら焦る気持ちを落ち着かせた。
「次に付加要素の説明をお願い」
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~付加要素~
シリンダーに入れることで技術要素に様々な特殊効果を与えます。効果は付加要素によって様々です。
付加要素の名前の横に書かれている数字は付加要素の個数を指します。また付加要素は性質の定着効果、イベント、技能の習得度上昇などで取得することが出来ます。
付加要素はシリンダーに入れることで消費魔力量が増加します。
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付加要素は読んで字のごとく技術要素を強化するためのものだった。
技術要素に足していって自分好みの性能に変化させて扱うための物のようだ。
そして技術要素とは違って個数に制限があるらしい。
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〇付加要素一覧
・木属性(1)
・ルミエール(1)
・星喰み(1)
・クールタイム軽減(1)
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「私が持ってるのがこれってことだよね?」
ルカはこくこくと頷いて、『技術要素と同じように任意の付加要素を選択すると石が出現します。その石を付加の珠石と呼びます。』と書かれたウィンドウを見せた。
技術要素と同じように何かを選択したいが、クールタイム軽減くらいしか効果が分からなくて人差し指を彷徨わせた。
とりあえず一番上の物から選択する。
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付加要素【木属性】
技術に含まれる魔力に木属性を込める。
効果:
技術要素に応じて効果が変わる。
――この付加要素を選択しますか?――
≪はい/いいえ≫
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すると効果が書かれたウィンドウが出現した。ここで「はい」を選択すると技術要素と同じように珠石が出現するのだろう。
そんなに数もないので効果が分からない他二つも確認してみることにした。
一度「いいえ」にして別の付加要素を選択する。
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付加要素【ルミエール】
技術にルミエ―ルを込める。
効果:
ダメージを増加する。
自身の所持ルミエールと攻撃対象が所持しているルミエールと比較して自分の方が多い時、その差に比例してさらにダメージを上昇させる。
――この付加要素を選択しますか?――
≪はい/いいえ≫
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付加要素【星喰み】
陰廻龍ゼーゲンカルナが持つといわれる星喰みの力を込める。
効果:
魔石化部位に特攻ダメージを与える。
――この付加要素を選択しますか?――
≪はい/いいえ≫
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私は思わず頬を綻ばせた。
技術要素だけでなく付加要素も結構工夫出来て面白そうだ。
付加要素【ルミエール】は一等光輝開放時のダメージとしてクセはあるが有効そうに見える。
そして付加要素【星喰み】は星喰みの鞘の効果ととても相性が良い。
どのような技術にするか色んな案が浮かんでくる。
枠は3つしかない。
三等光輝開放で使える細かい技術と二等光輝開放で汎用的に使える技術、一等光輝開放でここぞというときにダメージを与える技術でどうだろう。
……ちょっと攻撃的過ぎるかな。
「よし!」
私は気合を入れるために両手で頬をはたいた。
左手が結晶化していることをすっかり忘れていたため格好はつかなかったが気合を入れるには右手の衝撃だけで事足りる。
手早く、そしてある程度使えるように技術を作る。
幸いなことにはじめたてだからか技術要素も付加要素も、シリンダーの数も少ない。選択肢もそれほど多くなく、のめり込んでもさほど時間はかからないだろう。
「技術編成に必要な説明ってこれで全部?」
私の問いかけにルカは頷くことで答えた。
これで心置きなく技術を作れる。
一呼吸おいて自分の中のスイッチを切り替えて自分の体を意識する。
足の先から触手の先の感覚まで全て。
サンプルは少ないけれど頭の中で今までの戦闘の傾向からシミュレートして、技術要素の動きを確認しながらどのような技術を作成すれば私にとって最適か熟考を重ねた。
私の思考には技術作成以外の物は何一つとして残らなかった。