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技能センター(上)


「ここが技能センター?」

「みたいだね」

「でかー!」


 三人横並びになって建物を見上げる。

 外観の建築様式はフリンルルディの他の建物と変わらないがその威容に圧倒されて思わず呆然と全体を見上げた。クランの建物を見た時もその大きさに驚かされたが技能センターもまた一段と大きい。

 大きく立派な扉の上部には蝶と花を表したような金属製の紋章が飾られている。


≪ヴィータ:くち開いとるw≫

≪サンセット:アホ面で草≫

≪クロケア:領ごとに技能センターの紋章違うみたいだな≫


流星(メテオール)の方! スタンプはこちらですよ!」


 呆けたように建物を見上げていると大きな声が聞こえて現実に引き戻された。

 理由は分からないけれどその声は私たちにかけられたものだと悟った。


 入口の右手側に石殿前と同じようにイベントテントが設営されている。テントの中から小柄で軽薄そうな男性がこちらに向かって手を振っていた。

 声の主はあの人らしい。


 イベントテントの方へ足を運ぶ。


「こちらの建物は技能センターになります。技能センターは技能に関する施設で技能に関する調べ物や技術の編集などを行える施設です。詳しい説明は中で聞くことが出来ますがスタンプだけ押して別の場所に移動することもできますよ」


 男性はにこやかな顔で意外にも丁寧な口調で言うと、「どちらにしますか?」と問いかけて来た。

 振り返ってアカネとリリエを見ると二人は頷いた。


 リリエは真顔のままだったがアカネは苦笑を浮かべている。

「説明聞くために来たんでしょう? 今更聞かずに次行こうなんて絶対言わないよ!」


 抗議するようにそう言うと「私だって技能について聞きたいし!」と言葉を続けた。

 技能センターに行きたかった私の要望が単なる独りよがりではなかったことに内心少しだけホッとして感謝の言葉を伝える。


「中でお話を聞きます」

「分かりました! スタンプカードを提示してください」


 三人でメニューを操作しスタンプカードを取り出すと男性は次々と受け取って、一体どれほどのスタンプを押してきたんだろうと思わせるほどの慣れた手つきでスタンプを押していった。


 返却されたスタンプカードに視線を落とす。


 建物の扉上部に掲げられている蝶と花を象った金属の紋章と同じ柄のスタンプだった。

 こうしてみると品がありつつも可愛らしいデザインでいかにもフリンルルディらしい。先ほどコメント欄に領ごとに違うといった内容の文章があったので実際にフリンルルディの紋章なのかもしれない。


「混雑している場合は混雑回避をしていただくために『ワールドコネクト』で自身の世界を選択してから入って頂くことをオススメしているのですが、今現在内部は空いているのでそのまま入って頂いて大丈夫です」

「分かりました。ありがとうございます」


 頭を下げてお礼を言い、取っ手を握って技能センターの中へと入る。


 中は思ったより数段近代的で白を基調とした清潔感のある内装をしていた。

 入ってすぐは学校の体育館程は優にあるのではないかと思わせるほど巨大な空間になっていて受付がたくさん並んでいる。

 中央には受付から呼ばれるまでここで待っていてくださいと言わんばかりにソファが並べられていて、ちらほらと人が座っていた。

 上を見上げると吹き抜けになっているようで二階の柵に凭れながら会話をしている男性が見える。


「技能センターへようこそ」


 急に横合いから声を投げかけられる。

 肩をびくつかせながら声の方向へ視線を向けると案内所と札を掲げたカウンターがあり、その向こうにくつくつと笑って微笑まし気に私を見ている紫髪の女性がいた。


「驚かせてしまってごめんなさい。最初にどこの窓口でも構いませんから開いている窓口にお声掛けください」

「はい、ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げて内部へ足早に踏み入れる。


 アカネはマイペースに施設内部を見渡していた。


「なんか病院みたいね、ここ」

「そうですか?」


 あたりを見回してみても比較的健康優良児である私にはピンとこなかったためコメント欄を横目で見る。


≪コークスキー:施設の中は他領と変わらなさそうだね≫

≪アルファルファ:言われてみればたしかし≫

≪ミンクマン:健康診断思い出すンゴ≫


 割と結構共感の声が多かった。


……そういえば私、病院に行っても待ったこと無いや。


 私が病院の内部にあまり詳しくない理由に気が付いて一般的な価値観との乖離に慄いているとリリエが心配そうに覗き込んでくる。


「大丈夫?」

「へ? 何が?」


 私が困惑しているとリリエは愁眉を開き小さく息をついて「急に固まってるから……アカネもう行ってるから早く行こ」といって私の手を引いた。


 視線を先に向けるとテンションが上がってすっかり周りが見えなくなった様子のアカネが弾むような足取りでどんどん進んでいた。


「えぇ、なんであんなに先に……」


 途中でアカネは私とリリエがいないことに気がついてオロオロとした様子で辺りを見回し始めている。

 小走りで追いつくとアカネは露骨にホッとしていた。


「置いていかないでよ……」

「ごめん、ついてきてると思ってた! 一緒に受付行こ?」


 思考に耽溺してぼうっとしていた私も大概だけれど、新しい場所に来てはしゃいで周りが見えなくなっているアカネもやっぱり子供っぽいと思う。

 私は少しお姉さんになった気持ちでアカネが勝手にどこかに行かないように注意しておかなければと心に留めて胸を張った。


「あそこの受付空いてるみたいよ!」


 そう言って指を指すと一目散に受付に向かい、一切の躊躇をせずに持ち前の積極性で先陣を切って話しかけた。


「すいません、入り口にいた方に受付に行くように言われたのですが」

「こちらフリンルルディ技能センターです。流星(メテオール)の方ですね。当施設のご利用は初めてですか?」

「はい、初めてです」

「ご利用ありがとうございます。本日担当させていただきます、マーシュと申します」


 私たちは順に名乗って挨拶する。

 マーシュと名乗ったはちみつ色の髪をハーフアップにしたお姉さんは万人に好感を抱かせるような優しい笑みを浮かべた。


「では当施設で利用できるサービスを説明しますね」


 何やらメニューを操作して、三人それぞれにウィンドウを表示してくれる。

_______________

~技能センター施設案内~

①技能カウンセリング

②技術編成

③技能図書館の閲覧許可

_______________


「当施設では基本的にこのような技能に関する補助を行っています」


 マーシュさんは片時も視線を下へ落とさずに私たち三人へ平等に視線を向けながら、「ではまず1番から」と説明を始めた。


「1番は技能に関するカウンセリングを受けられます。どの技能を取得したら良いか分からない等の相談を受け、分かる範囲で技能の取得方法をお伝えすることが出来ます。条件が合えば技能を取得する補助をしてくれる方の紹介状を書いてイベントを発生させることも可能です。 ……一番で何か質問はございますか?」

「では、二つほどよろしいでしょうか」


 小さく挙手して質問があることを伝えるとマーシュさんは嫌な顔一つせずに「どんなことでもどうぞ」と柔らかい口調で話す。

 質問することに引け目を感じさせない技術に感嘆した。


「カウンセリングの際に技能を職員へ伝えるとのことですが、職員から外部へ所持技能が漏れることはありますでしょうか」

「いいえ。職員は皆、法と秩序の神による契約を交わしておりますから決して外部に漏れることはありません。もし話した場合には発言内容は無かったことにされ、神より罰が与えられます」


 マーシュさんは「こちらの紋章がその証拠です」と言った後、ピンク色の舌を伸ばすように出す。彼女の舌先には変わった形の紋章が確かに刻印されていた。

 個人的にはチュートリアルの一件で法と秩序の神の存在はあまり信用ならないのだが、マーシュさんの様子から察せられるようにこの世界では神を仲介して行う契約は絶対のようだ。


 神に対する他プレイヤーの反応が気になってコメント欄を横目で確認する。


≪サンセット:なら安心やね≫

≪エステー:エッッッッ≫

≪いちみる:へー≫

≪ガイア:友人ちゃん慎重派やなぁ≫

 

……ぜんっぜん参考にならない!


 私は思わず小さくため息をつきそうになるがマーシュさんとお話し中だということもあって踏みとどまった。


「ありがとうございます。紹介状というのは何ですか?」

「そうですね……例えば技能『合成術』の体系技能を得るためには合成術師に師事する必要があります。そこで技能センターは新たな担い手を増やすために協力してくださる方を当施設で紹介いたします」

「あぁ、そういうシステムなのですね。ありがとうございます」


 マーシュさんは笑顔を浮かべたまま「他に1番でご質問はありますか?」と聞いてきた。


「いえ、ございません」

「分かりました。 ……2番は技術についてです。技能センターの地下にある『技の石碑』に触れることで技術の編成と起動モーションの設定が出来ます。こちらの受付にて『技の石碑』がある地下施設の鍵をお渡しすることが出来ます。 ……二番に関して質問はございますか?」


 私が技能センターに来たかった一番の理由だ。

 この世界において技能はとても重要な意味を持つと思う。


 私は前のめりになって質問を続けていくことにした。


 きっと技能を突き詰めて頑張っていけば強くなって、目標達成に近づくと思うから。



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