定着効果の取得
定着効果の取得を選択すると私を取り巻くように次々に8つの星が生み出された。持っている定着効果を得られる性質の数と同じなのは決して偶然ではないだろう。
視界右上には『テネーブル:296 存在格上昇まで残り2000』と表示されている。多いのか分からないがイベント1回とモンスター11体の討伐だけしかまだこなしていないのに結構増えたと思う。
……アカネさんはどれくらいテネーブルが溜まったのだろう。
現段階でどの程度テネーブルを得ているのが標準的なのだろうか。私が集めた量が多いのか少ないのか。
人と比較していないでどんどんテネーブルを溜めていかなくてはいけないのは分かっているのだけれど、どうしても気になってしまう。
そんなことを考えながらも試しに星の一つを選択してみる。
すると星が近づいてきて種族性質【狂角:1】と表示された。近づいて来た星に触れると『能力成長値・精神強度+1 消費テネーブル10』と表示される。
このまま取得してしまうのではなく一回保留して一通り別の性質の定着効果も確認したい。
【狂角】の星を遠ざけると別の星を引き寄せて確認していった。
【ケラス魔力性質:1】『能力成長値・精神強度値+1 消費テネーブル10』
【英雄体質:1】『能力成長値・筋力+1 消費テネーブル10』
【召喚魔術の才:1】『能力成長値・知力+1 消費テネーブル10』
【負けず嫌い:1】『能力成長値・筋力+1 消費テネーブル10』
【ちからづく:1】『能力成長値・筋力+1 消費テネーブル10』
【不退転の覚悟:1】『能力成長値・精神強度+1 消費テネーブル10』
【陰廻龍の権能:1】『操作触手本数+1 消費テネーブル30』
基本的に最初の定着効果は能力成長値のようで、異なっているのは入手経路が違う【陰廻龍の権能】だけだ。
能力成長値を得られる定着効果を見ていくと結構得られる能力値に偏りがあって耐久値と器用値の能力成長値を上げられる性質がない。
若干不安に見舞われながらもどの定着効果から取得していけばいいか吟味する。
ステータス基礎値が能力成長値を参照して定着効果を取得する際に上昇することから、最初に能力成長値を取得していった方が長い目で見ると伸びが良さそうだ。
けれど私は多くの他の人とは違い、一度死んでしまったらそこで終わりだ。
死んでしまわないためにもステータス基礎値が高い状態をある程度維持しながら性質の効果上昇などもバランスよく取得して手札を増やしていかなくてはならない。
初手は一番無難そうな【英雄体質:1】の定着効果『能力成長値・筋力+1 消費テネーブル10』を取得する。
意思を示しながら星に触れると幻想的までの光が弾けて星がさらに輝きだした。光の一部が私に吸い込まれてくる。
再び星を確認してみると表記が【英雄体質:2】となっていた。どうやらきちんと取得できているようだ。
そして一つだった星が3つに増えていた。
それぞれ、
『能力成長値・筋力+1 消費テネーブル15』
『能力成長値・耐久+1 消費テネーブル15』
『光輝開放の媒介とした時・性質効果+1 消費テネーブル15』
と表示されている。
どうやら定着効果を取得すると新たに取得できる定着効果が増えていくようだ。さらに検証を兼ねて、腐らない『能力成長値・耐久+1 消費テネーブル15』を取得する。
さらに3つの定着効果が出現して、
『能力成長値・耐久+1 消費テネーブル30』
『能力成長値・筋力+1 消費テネーブル30』
『能力成長値・器用+1 消費テネーブル30』
と表示されていた。
新たに次の定着効果が出現しても前の選ばなかった定着効果に戻って取得できるようだ。
どんどん取得に必要なテネーブルが増えているのを見て、ひとまず能力成長値上昇の定着効果を持つ性質の最初の定着効果を取得する。
一通り取得してもまだテネーブルが201も残っていた。
……今取得せずに次回まで貯めておくか、使い切ってしまうかどちらにしようか。
どのように取得するといいか唸りながら熟考する。
情報を集めきってから再度取得しに行くのもありだとは思うけれどあまり貯めすぎていざというときに使うことが出来ないのは状況的に不利になるだろう。
それに一度使い勝手の良い性質の性質効果上昇を一つと『操作触手本数+1 消費テネーブル30』を取得して試し、効果を実感してみた方が良い。
今回はギリギリまで使い切ってしまおうと決めた。
『操作触手本数+1 消費テネーブル30』と使い勝手のいい性質の光輝開放に関わる定着効果を取得することを考慮すると最後に45残るようにしたい。そう考えると消費テネーブル15の定着効果を10個とれる。
私は覚悟を決めて伸ばしたいステータス基礎値と定着度を上昇させたい性質との兼ね合いを考えて次々と定着効果を取得していった。
【狂角:3】
『能力成長値・精神強度値+1 消費テネーブル15』
【ケラス魔力性質:4】
『能力成長値・精神強度値+1 消費テネーブル15』
『能力成長値・耐久+1 消費テネーブル15』
【英雄体質:4】
『能力成長値・筋力+1 消費テネーブル15』
【召喚魔術の才:3】
『能力成長値・器用+1 消費テネーブル15』
『能力成長値・知力+1 消費テネーブル15』
【負けず嫌い:3】
『能力成長値・耐久+1 消費テネーブル15』
【ちからづく:3】
『能力成長値・筋力+1 消費テネーブル15』
【不退転の覚悟:4】
『能力成長値・耐久+1 消費テネーブル15』
『能力成長値・精神強度+1 消費テネーブル15』
続いてライゼン団長の使っていた光景を見る限り汎用性の高そうな【英雄体質】の定着効果『光輝開放の媒介とした時・性質効果+1 消費テネーブル15』を取得し、最後に【陰廻龍の権能:1】の定着効果である『操作触手本数+1 消費テネーブル30』を取得した。
「ふぅ……」
ゲームをやったことのない私にとって不慣れだった作業だったせいか思いのほか深く集中していたようで思わず息が漏れた。けれどこれで完ぺきとはいかないまでも最善手は選べているはずだ。
それに意外と楽しかった。
自分の起こした行動が必ず結果につながって分かりやすく数字として可視化されるとなんだか達成感がすごい。
現実ほどの暗中模索感は無く、自分が成長した実感を強く持てた。これがゲームの良いところなのだろう。
……現実もこうだったらいいんだけど。
いつか現実でも人間の才能や能力が数値化するときが来るのだろうかと未来に思いを馳せた。
曾祖母の生きた時代ならともかく、高度に発達した現代においては私が知らないだけで実現出来なくはないのかもしれない。けれど人道的側面や優生思想の助長などの問題で実用化されることなんてない気がした。
一仕事終えた安堵感で余計なことを考えながら特異性質である【陰廻龍の権能】の次の定着効果が気になって確認してみる。
すると、
『光輝開放時、触手先端に口腔が形成される。攻撃や食事をとることが可能。 消費テネーブル60』
と1つだけ表示されていた。3つあった他の性質とは異なるようだ。
せっかく取得できた性質でおもしろそうな性能なので消費テネーブルは大きいが次の機会に取得してみたいと思った。
「ルカ、終わったので戻りたいです」
ルカに伝えると彼女はうなずいて、その場でひらりと一回転して見せた後に私の胸の中に飛び込んできた。
すると私の体が自然とシアタールームに座っていた時と同じ体制になり、星々が次々へ姿を消していった。
その様に寒気を覚えながらも視界が私の瞼の裏へ戻る。
目を開くと無言でこちらをじっと見つめるリヒト様が視界に飛び込んできた。
私はギョッと飛び上がるような気持ちになりながらも努めて冷静さを保ちあたかも「全然驚いてなんていませんけど?」と言わんばかりのすました表情をする。
隣の席に目をやると長く考えすぎていたようで隣にはすでにアカネさんはいなかった。
待たせてしまって申し訳ないなと思いつつ、リヒト様の視線に晒されながらもそそくさと石殿を抜け出す。
外に出ると日差しが差し込んだ。あまりの眩しさに思わず目を細め、建物の中とのあまりの光度の差に辟易として肩を落とした。
しょぼしょぼとした視界の中でアカネさんを探す。
「うおお、ホンモノ!? こんなら!」
「あはは……こんならー!」
少し離れたところに十数人ほどの人が密集していて、アカネさんの声が聞こえてきた。よく目を凝らしてみると人々の隙間からアカネさんの特徴的な朱色の髪が見える。
……何をしているんだろう。
疑問に思いながらアカネさんに声をかけるために近づいた。