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石殿

 名前と違い全然石造りではなくむしろ木造の建物だった。

 遠目から見てみると寺社のようだという印象だったが、いざ近づいてみるとかなり印象が違う。

そもそも造りからして異なっているように見えた。漆が塗られている訳でもないし現実の様式が用いられているわけでは無いようだ。

 唯一の共通点は建材に木材が使用されている点と、ほぞ継ぎを用いた工法を採られているように見えることだけだ。


「こちらが石殿のある場所です」


 扉が開かれて目に飛び込んできた内装は大いに私の想像を裏切った。

 寺社のような外観から畳が張られた空間や板張りの床があることを想定していたが影も形もない。もちろんご神体や仏像の類も存在していなかった。


 それどころか内装なんてものは何もない。冷たく無機質な灰色の石の地面が広がっていて幾何学模様が中央に向かって光を走らせている。

 ただ中央に荘厳な石造りの建物が存在しているだけの空間だった。薄暗い空間の中で彫刻に沿うように走る光だけが浮いているように見える。


 光に照らし出されて全貌が明らかになると、見覚えのある外観に衝撃が走った。


……この建物ってライゼン団長とエステルが最後に戦ったところじゃなかった?


 恐る恐る観察するとエステルがちぎり捨てていた紋章と同じ柄の彫刻がされている。私の見間違えじゃないようだ。

 けれどチュートリアルの時にこの建物は神殿と呼ばれていたし、他の建物に囲まれていることもなくむき出しだった。

 呼び方が違うのは地理的な問題でフリンルルディではこの宗教が信仰されていないか、時代の変遷によって廃れたのか。私にはどちらか判断のしようもなかった。


 何か底知れない不気味なものを感じて身震いしていると背後から、

「あの奥の建物が石殿になります」

と声がした。


 二人そろって驚いて体を跳ねさせる。


 恐る恐る振り向くと背後には受付のお姉さんと似た系統の服装をしているお兄さんがいた。

 びくついている私たちの様子にお兄さんは苦笑しながら説明してくれた。


「中にはリヒト様がいます。内部に配置されている椅子に座りながら瞑目してルミエールを捧げてください。そうすれば定着効果の取得や筋力値と耐久値の成長比率の変更ができますよ」

「あの、リヒト様というのは?」

「リヒト様は土地の守り手です。どこの都市にも必ずいて石殿に住んでいますよ」

「住んでいる……ですか?」

「はい、そう聞いていますね」


 言っていることはあまり理解できなかったがお兄さんもあまりリヒト様について考えて生活している訳ではないようで詳しくなさそうだった。それほどリヒト様なる存在がこのゲームの世界に根付いていて身近な存在なのだろう。


 お兄さんにお礼を告げて石殿へと向けて進んでいく。


 近くまで来ると改めて神秘性と荘厳さを感じさせる建物だと思った。

 見慣れない見事な彫刻、走る光の神々しさ。生命の塔や都市の門、地下洞窟と特徴が一致している。現時点では分からないが共通する何かがあるのだろうか。


 観音開きの扉をそれぞれで片側ずつ開けると、内部の光景はライゼン団長の中から見ていた時とほとんど変わりなかった。唯一内装で異なる点は中心の舞台に向かって円形状に並べられたシアターチェアのようなものだけだ。内部に数人の人間が座っている。

 

 しかしそれとは別に、明確に違和感のある存在がいた。

 中央にあるドーム状の屋根が付いた舞台の中に人ならざる者の気配を放っている存在が鎮座ましましている。


 私とアカネさんは息を飲んで魅入られた。


 全身が白い光に溢れていておおよその外形のみが辛うじて人型をしているのが分かる。

 優しい光に包まれている4対の翼を羽ばたくでもなく自分の体を抱きしめるように包みながら宙にふわふわと浮いていた。


……この存在がリヒト様でしょうか。


 どのような表情をしているのかはまるで分らないが、舞台上からじっと私のことを見ているのがひしひしと伝わってくる。リヒト様は喋ることが出来ないのか喋る必要性を感じていないのか一言も発することがない。

 それがまた得体のしれなさを助長して、視線によるプレッシャーを感じながらなるべく離れた席へと向かって腰を下ろした。


 アカネさんが小声でひそひそとしゃべる。


「先に終わったら外で待ってますね」

「はい、出口前で合流しましょう。ただ所要時間の予想がつかないのでもし遅すぎたらおいていっても大丈夫です」


 定着効果の取得などは絶対に人によって取得にムラがあるだろう。

 アカネさんはこくりとうなずいて瞑目し始めた。

 私も倣って瞑目を始める。そしてルミエールを選択して捧げると、弾けたルミエールの光が瞼の裏に透けて見えた。


 毎晩味わう光を閉ざされた暗闇の中で少し時を待つと、次第に見ていた光景が瞼の裏から夜の空へと変わり、星々が浮かび始める。


 暗闇いっぱいに星々が散りばめられると私の体に浮遊感を与えられて体が動かせるようになっていることに気が付いた。椅子の感触はなくなっている。


 いつの間にかルカが外に出ていて夜空の空間を漂っていた。

 用意していたウィンドウを見せてくれた。


______________

・定着効果の取得

 テネーブルを消費して定着効果を取得することが出来ます。


・筋力値成長比率変更


・耐久値成長比率変更


・現実に戻る

______________


 表示されたものが石殿の中でしかできないことのようだ。

 

 筋力値と耐久値の成長比率はどうやら読んで字のごとく能力が上がる際にどの部位にどのような配分でステータス基礎値を割り振るかある程度決めることができるらしい。

 定着効果を上げることで能力が上昇してしまうので一応先に確認してみる。


 筋力値を選択してみると人形とシリマーのようなものが空中から降ってきた。人形は背中から触手が生えていて黒色の頭部以外は透明交じりの緑色に染まっている。私を模しているようだ。


 人形はいくつかの部位に仕切られていて、

首、胸部、右腕、左腕、腹、右腿、右脚、左腿、左脚、触手

に分かれていた。


 人形を眺めているとルカが「シリマーで緑色の部分を吸い取って見て」と記載しているウィンドウを取り出して見せてきたので従ってみる。不思議なことにシリマーを人形に刺してみても特に変化が起こるでもなく緑色だけを吸うことが出来た。


 すべて吸い終えるとシリマーは緑の液体で満たされ、人形は透明な液体で満たされていた。この緑が配分を示すようだ。


 試しに緑の液体を完全に緑になるまで右腕に注いでみて、次に満遍なく緑の液体を注いでみると明らかに最初より緑色が薄くなっていた。


 すべて吸い戻してまっさらな状態に戻す。


 次に首が緑になるまで注ぐと緑になるころにはシリマーに貯まっていた緑の液体は残り僅かで他の部位に注げる量はほとんど残っていなかった。


 どうやら各部位ごとに緑の液体を注げる上限があり、どれくらいの量を注げばどれくらい染まるのかは決められているようだ。

 現実でも筋肉のつけ辛い首周りはかなりの量の緑の液体を注がなくてはならず、腕は比較的簡単に筋肉をつけられるためか緑の液体を注ぐ量は少なくて済んだ。


 耐久も頭部が追加されている以外は筋力値とやることは変わらない。


 今後配分を決めるかもしれないが最初のうちはバランスよく成長させた方が良いのではないかと考えてしばらくの間は筋力値、耐久値は結局どちらともデフォルトの配分のままにしておく。


 次に定着効果の取得を選択した。


シリマーは針のない注射器のようなものだと思って書いてます。


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