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朝日が昇って来たよ

技能『技能名』:習得度【パフォーマンス/ポテンシャル】

 昼食をとってすぐにゲームの世界に戻った。


《精神力の最大値が回復しました》


 睡眠をとることで精神力が回復するようだ。

 左手をついて身を起そうとするがやはり睡眠をとっても結晶化は治ることは無いようで指が開かない。肘を曲げることはできるので肘をついて身を起こす。


 ふと視線を隣に向けると赤色が黄緑と混ざり合ったような複雑な色の結晶があった。人が一人入れるくらいの大きさ。多分この結晶塊の中にキアラさんがいるのだろう。

 中からの景色ばかり見ていたから何とも思っていなかったがこの姿を見ていると繭と呼ばれる理由が良く分かった。


 決して起こすことがないようにこっそりとベッドを抜け出す。現実と同じように音で起こしてしまうのかは分からないけれど床が軋まないようにそろりと歩いた。

 

 丸太小屋の外に出ると都会の中では見られない満点の星空。星の配置は現実と違うがこの世界の星空も変わらず美しい。

 あえて現実との差を表現するのならば現実よりも少し大きい月と微かに七色に輝いている見える北極星だろうか。

 夢中になって見上げていると自分と星空しか存在していないような気分になって、なんだか星空に包まれているような気がした。

 

 はっと我に返る。

 思わず時間を忘れそうになってしまうが私は空を見上げるためにゲームにログインして外に出てきたわけではない。

 このゲームでの戦闘に対応するために性質や技能を確かめに来たのだ。


「ルカ、ステータスを確認したいです」


 呼びかけるとルカが胸からすっと出てきてウィンドウを見せてくれた。


 ひとまず新たに取得していた技能を確認してみる。

_______________

技能『抜刀』:4【5/9】

武器を抜く技能。

〇パフォーマンス分のモーションを利用できる。

〇武器を抜くとわずかにルミエールを得る。

〇習得度に応じて抜刀に関する技術要素を得る。

_______________

_______________

技能『納刀』:2【2/6】

武器を納める技能。

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇武器を納めるとわずかにルミエールを得る。

〇習得度に応じて納刀に関する技術要素を得る。

_______________

_______________

技能『斬撃』:7【7/12】

斬撃を行う技能。

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇斬撃を行うとわずかにルミエールを得る。

〇斬属性の与えるダメージが増える。

〇習得度に応じて斬撃に関する技術要素を得る。

_______________

_______________

技能『突き』:2【2/6】

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇突きを行うとわずかにルミエールを得る。

〇突属性の与えるダメージが増える。

〇習得度に応じて突きに関する技術要素を得る。

_______________

_______________

技能『走行』:4【5/9】

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇習得度に応じて走るときの体力消費を減少させる。

_______________

_______________

技能『回避』:3【3/7】

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇攻撃を躱すときに発生するルミエールをわずかに多くする。

〇習得度に応じて回避に関する技術要素を得る。

_______________

_______________

技能『受け身』:2【2/6】

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇受け身をとることに成功するとわずかにルミエールを得る。

〇習得度に応じて受け身に関する技術要素を得る。

_______________

_______________

技能『目星』:1【1/5】

〇習得度に応じてなにか調べ物をする際にヒントが出る。

_______________


 技能タスクを逐一確認していたわけではないが洞窟の中の苦悩からか格段に上昇していた。それに獲得した覚えのない技能もあった。

 完了済の技能タスクの内容を見てみるとどうやらモンスターを倒していた時に技能タスクを満たしていたらしい。


 最初に確認していた技能も確認してみると、


_______________

技能『徒歩』:10【9/15】

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇歩くとわずかにルミエールを得る。

_______________

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技能『基礎召喚魔術』:8【8/13】

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇召喚魔術の与えるダメージが上昇する。

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技能『魔力操作』:6【6/11】

〇パフォーマンス分のモーションを使用できる。

〇詠唱時に魔力を込めることによって起こる詠唱速度の上昇率をわずかに上げる。

〇魔力を操作するとわずかにルミエールを得る。

_______________


と軒並み上昇していた。


 技能はひとまずタスクを意識しつつ実践を行って習得度を増やしていく方針にした。

 

 次にイベントで手に入ったアイテムを確認する。


______________

星喰(ほしは)みの鞘』

〇この鞘が納められる武器は刀にとどまらない。

〇この鞘に納めた武器を抜いてから一秒間の間、ダメージを与える代わりに魔石化判定を与え光輝力ダメージを与えるようになる。

______________


 アイテム欄から選択して手に取ると上品な印象がある漆黒の鞘が現れた。玉虫色の模様が下品にならない程度に入っていてそれがとても美しい

 効果に関しては使用してみないことには分からないが光輝力ダメージが強力なことが分かっているのでとても役立つのではないだろうか。


 アイテム欄から螺鈿色の刀を取り出しさやから抜いて星喰みの鞘に納めてみるとまるで合わせてあつらえていたかのように収まった。もともと螺鈿色の刀が収まっていた鞘は光になって消える

 無くなってしまったのかと思って慌ててアイテム欄に戻し、また出現させてみると元に戻っていた。いらぬ心配だったようだ。


 最後にイベントで入手した性質を確認してみる。


______________

性質【陰廻龍の権能】

陰廻龍の試練を乗り越えたものの証。陰廻龍の力の一部を扱える。

〇触手を生やすことが出来るようになる。

〇魔石や輝石を食べることが出来るようになる。食べることによって上昇した満腹度に比例してルミエールを得る。

______________


「ねぇルカ。この性質の触手はどのように使うのでしょうか」


 説明を読んでも使用方法が分からなかったのでルカに問いかけると説明が書かれたウィンドウを見せてくれた。

_______________

~陰廻龍の権能について~

〇性質の名前を発言し、触手を生み出したい場所を伝えることで発動します。

例:陰廻龍の権能・右手

〇触手を操作する場合は手足のいずれかを同期することで手足を操作する代わりに触手を操作できるようになります。同期個所は起動する際に力を込めた個所になります。

〇性質発動中に同期個所を変更する場合は「同期変更」と発声し変更したいか所に力を込めてください。また「同期解除」と発声することで同期を解除することが出来ます。

〇二か所以上同期する場合は触手を生み出した順番を発声してください。

〇起動ワードを変更することも可能です。

_______________


 一通り説明を読み終える。複雑だが使って徐々に覚えていくしかない。

 かなりルカに助けられているなと思って「ありがとう、ルカ」と感謝を伝えるとぐっと親指を立ててウィンドウに「いいってことよ!」と表示され私の胸の中に飛び込んで消えた。


 早速【陰廻龍の権能】を試してみる。同期個所は左腕にしたかったので左腕に力をこめた。


「陰廻龍の権能・左肩」


 するとてらてらと輝く漆黒の触手が肩から生えてくる。ゼーゲンカルナと同じように玉虫色の模様がありこの性質の効果がゼーゲンカルナの力であるとまざまざと見せつけられた。

 触手を動かしてみると伸縮自在で操作に少しクセがある。


「なんか変な感覚……でもこのくらいなら」


 鯉口を切る。そして使えない左手の代わりに触手を操作して鞘に絡ませた。抜刀すると同時に触手で鞘を大きく後ろに動かす。


「はぁ!」


 紫電一閃。


 振りぬかれた刀身が月明かりに照らされて淡く光る。


 触手を利用して抜刀術を行ってみたが左腕の代わりになりそうだ。もう少し練習は必要かもしれないけれど腕よりも可動範囲が広いので鞘の抜き方を工夫した方が良いかもしれない。

 

「いーじゃん! 流星(メテオール)とは思えない技の冴え!」


 触手を使った抜刀術の考察をしていると背後から快活な声が響いた。なるべく起こさないようにしていたつもりだったが起こしてしまったようだ。

 振り返ると月明かりに照らされたキアラさんがいた。


「もしかして起こしてしまいましたか?」

「ううん。あたし睡眠時間が短くて済む性質があるの。だからいつもこんなもんだよ」


 そう言いながら私の傍に歩み寄る。

 キアラさんは汚れることも厭わずに草の上に腰掛けて「ちょっとおしゃべりしようよ。空でも眺めながらさ」と言いながらトントンと隣を叩いた。

 ちょうど聞きたいこともあったので提案に乗ることにしてキアラさんの隣に腰掛ける。


 もっと感謝の言葉を伝えたいと思っていた。

 多分キアラさんとアリオスさんがいなかったら私は諦めていたと思うから。このキャラクターで進む覚悟すら持てないまま別のキャラクターを作って始めていただろう。


「改めて、助けていただいてありがとうございました」

「ううん。本当はあんなことになる前に助けに行かなきゃいけなかったんだよ。流星(メテオール)を迎えに行って無事に都市まで連れて帰るのが首長から与えられた私たちの役目だから。だからごめんね」


 助けられた身の上で命の恩人に悲痛な顔をされてしまうとなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。何とかフォローしようと口を開いた。


「ですがわたくしがどこにいるかも分からずに迎えに行くのはなかなか難しいのではないでしょうか」

「ううん。流星(メテオール)は空から『生命の塔』の近くに降ってくるからなんとなく場所は分かるんだよ」

「え? 降ってくるのですか? 生命の塔という場所の近くに?」


 降ってくるという言葉に少し衝撃を受けた。

 結晶に覆われて視界が暗くなって、次に視界が開けた時には洞窟内にいたので全く気が付かなかった。

 しかし思い返せば確かに浮遊感を感じていたことを思い出す。


「うん。この世界で生まれる人はみんなそう。キョウちゃんも近くに塔あったでしょ?」

「そういえばありましたね……」


 たしかにこの世界に降り立った時に大きな塔が立っていた。あの幾何学模様が描かれている塔が生命の塔なのか。


「フリンルルディには……目指している都市には大きな領地の首都と違って生命の塔がないんだ。だから周辺のダンジョンに散っていった流星(メテオール)の子たちを迎えに行くの。都市のみんなの子供たちなんだよ」

「……そうなのですね」


 思い返せばキアラさんやアリオスさんが私に向ける視線は子供を慈しむようだった。その理由がはっきりとした。

 どうやらこの世界の人間にとってゲームのプレイヤーは子供のようなものと認識しているらしい。

 そしてこの世界の子供は自然出産で生まれてくるものではなく空から降ってくるもののようだ。


「方角的に断罪の森(ダムナティオダス)の生命の塔だと思ってそっちに行ったんだけど……アリオスの感知に引っかかって本当によかった。ところでキョウちゃんはどこの生命の塔にいたの? 魔石化させるモンスターなんてそんなに数はいないよ」

「えっと、場所の名前は存じ上げないのですけれど地下洞窟でした。そこに黒い細長い体で玉虫色の模様がある生物に襲われて……」

「洞窟……黒い体……玉虫色の模様……もしかして魔石いっぱいなかった?」

「そうですね。そこかしこが結晶化していました」

「やっぱり…… 『玉虫色の大穴』か」


 キアラさんは悲痛な表情を浮かべ、どこか憐憫のまなざしを私に向けた。

 やはりなにかとんでもない場所だったのだろうか。ゲーム未経験なさすがの私も最序盤にしては敵が強いのではないかと疑っていた。


「玉虫色の大穴に生命の塔があるのは知っていたけどここに落ちた子は何百年も確認されていないって聞いてたから首長も失念してたんだろうね」

「そんなに……」

「モンスター強かったでしょ。あの洞窟はちょっと特殊で侵入者の存在格や人数で『ゼーゲンスキロ』……モンスターの強さが変わるし、倒しても倒してもずっと出てくるからキリないの」

「はい。倒して安心していたら次に三体も同時に出てきて……」


 急に視界が暗くなって柔らかい人肌の感覚が私を襲った。すると頭上から「ごめんね。キョウちゃんがんばったね。すごいね」と言葉が優しく降ってくる。


 胸の奥に切ない感情が去来して苦しい時に母に甘えていた思い出がよぎる。サウダージな気分になってキアラさんのどちらかと言えば豊かな胸の中に顔をうずめた。


 本当は隠しておかなくてはならない言葉を思わず吐露してしまう。隠し続けなければいけないのに。


「……はい、頑張りました」

「んふふ、よしよし。本当にありがとう。諦めないでくれて」


 その言葉だけで報われる。ゲームの中のお話だって分かっているのに現実世界と重ねてしまう。自然と今までの人生と重ねて無駄じゃなかったって思った。


 胸からあふれた気持ちが瞳に溜まって滂沱の涙が流れだす。こんな情けないところを見せたくなんてなかったけれど次々にあふれ出して止まってくれない。


「……本当は投げ出してしまいたくなることもあるんです。けど、そんなわけにもいかなくてっ。もっと頑張らなきゃいけないのに」

「私が生まれてしまったから、みんなが不幸にっ」

「私なんか生まれてこなければよかったのにっ!」


 ため込んだ言葉の数々は止めどない。

 一度決壊してしまったら涙とともに流れ出す言葉を止められなくて。


 聞いていられないような世界と自分を呪う様な言葉を吐いていたと思う。


「んふふ、そっかそっか。よしよーし」


 けれどキアラさんは優しく慈しむように私の頭を撫でて受け入れてくれた。


「でもね、あたしはキョウちゃんが生まれてきてくれて幸せだなぁ」

「っんく、グスっ……ぅうっ」


 もはや声を抑えて泣くことすらできなかった。


 恥も外聞もなく赤子のように泣き叫んでしまって止めたくても止められない。

 けれど抱きしめられながら思い切り泣き叫んでいると胸の中に淀んだ何かが吐き出されていくのが分かって、次第に抵抗を止めて感情に身を任せた。


「頑張る子は偉いよ。心配しなくても大丈夫。絶対に報われる」

「ぐす……はい、はい!」


 しばらく胸の中に縋りついているとキアラさんの甘い匂いに包まれていると落ち着いてくる。止めどなく溢れ出していた涙はいつの間にか止まっていた。


 眩い朝日があたりを照らし出す。


 特に極端な温度を感じていないというのに朝焼けの時間はなんだか寒くなった気がしてさらにぎゅっとキアラさんに抱き着いた。


「ほら甘えんぼさん。朝日が昇って来たよ。頑張らなきゃなんでしょ」


 ぬくもりが名残惜しかったが奮起して立ち上がる。すると暖かな陽の光が私を照らして、思っていたよりもぽかぽかとして暖かかった。


 私にはやらなくてはならないことがある。だから立ち止まってなんか、いつまでも人に縋ってなんかいられないんだ。

 陽が昇ったなら人は行動しなければいけない。


 お天道様に決意表明して、

 けれど行動する前に私は恥を忍んで服の裾をいじりながら懇願した。


「あの……また甘えてもいいでしょうか」

「んふふ、もちろん!」


 キアラさんは莞爾と笑った。その笑みには溢れんばかりの慈しみを湛えていた。

 

 こんなにも私を思ってくれる存在が現実ではなくゲームの世界のキャラクターでしかないことに気が付いて絶望感が襲ってくる。


……現実じゃなくて何が悪いの。


 首をぶんぶんと振って思い直す。

 確かにゲームの世界で本当に実在する人物じゃないかもしれない。けど私が与えてもらって感じた込み上げてくる温かい気持ちは絶対に夢でも幻想でもない紛れもなく本物の気持ちだ。絶対に嘘じゃない。

 

 キアラさんはグッと胸を逸らして黒い尻尾をぴんと立てて伸びをしながら朝日の方向を見つめて目を細めた。

 手を水平にして眉の上にあてながら、それでも見つめることを止めない。


「じゃーいっちょ頑張りますかー!」

「本日もまたお願いいします」


 私もつられて朝日の方向に体を向けた。

 まぶしくて顔を背けたくなるけどキアラさんの真似をした。星空とはまた違った空の美しい一面を見つけて、キアラさんとおんなじ景色を見ていたくて。


「アリオス起こすのめんどいなー。めっちゃ寝起き悪いんだよねぇ」

「あはは! わたくしもお手伝いします」 


 朝の陽ざしに包まれた澄んだ空気の中で都市に行くための準備を始めた。


本当は本文の中で書かなくてはならないと思うのですがどうしても入れられないので補足です。

性的欲求を抱いていることを検知されるとNPCの体は硬く感じ匂いもしません。

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