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一人ぼっちのプロローグ

 体の浮遊感が消えると身を包んでいた結晶がはがれるように崩れ去った。

 ようやく胎児のように丸めていた体勢から解き放たれて立ち上がり体を大きく伸ばす。


 あたり一面はあの彼岸花でも幻想的な星空でもなくなっていた。

 周囲は暗い色の石に覆われている洞窟のようだが、穴が開いているようで温かな日の光が差し込んでいる。

 ところどころに私が包まれていたのと同じような結晶塊があった。


 念のためにアイテム欄から『螺鈿色の刀』を選択して帯刀しながら状況を把握するために周囲を見回す。


 背後に石造りの塔が屹立していた。表面には複雑な幾何学模様の彫刻がなされていて、模様をなぞるように光が走っている。


 頭上を見上げると丸い青空。そして一筋の灰色。

 洞窟の上部には大穴が開いて空が見えていて、真下からでは先が見えないことから塔はかなりの高さを誇っていることが分かる。


 観光に来た気分で思わず塔に近寄る。

 周囲をぐるりと回ると塔の内部に入るための扉などは一切存在していなかった。この塔はモニュメントとしてここに存在するだけなのだろうか。

 

 歩いて元のいた位置に戻ると視界の端の文字が表示された。


《技能【徒歩】を取得しました》


 何事かと思って視線を向けると、さっそく技能を取得したと書かれていた。

 徒歩の技能まであるのかと思いながら「技能閲覧」と言うとルカが胸から飛び出してウィンドウを見せてきた。


……あぁ、これってルカが見せに来てくれるんだ。


 もしかしたらライゼン団長がステータスを開いた時も彼女の心精が表示してくれていたのかもしれないと思いながらしんみりしつつ【徒歩】の技能を表示した。


技能『徒歩』:1【1/5】

_______________

~技能タスク~

・常設

〇100歩こう。『0/100』

〇フィールド100メートル歩こう。

〇ダンジョンを100メートル歩こう。  

_______________


 これは技能はなんの役に立つのだろう。習得度を上げてルミエールを増やすための技能なのだろうかと思いながら後で誰かに聞いてみようと決める。そして本命の方へ手を付けた。



技能『召喚魔術』:5【1/10】

_______________

『記憶保持』(0/1)

~所持魔術~

第一階層【霊獣召喚(戦闘)】

第一階層【アイテム召喚】

~技能タスク~

・常設

〇第一階層の召喚魔術を使おう『0/1』

_______________

 

「ねぇルカ。記憶保持とはなんでしょうか?」


 表示された中で分からなかった言葉をルカに聞いてみる。するといつも通りに説明のためのウィンドウを見せてくれる。


_______________

~記憶保持発動~

・魔術は通常、魔方陣を魔力で満たすために発動までに時間がかかります。この待機時間を詠唱時間と言います。詠唱時間は技能【魔力操作】または技能【詠唱技術】によって軽減することができます。


・魔術は記憶保持をあらかじめ登録しておくことで詠唱を破棄して発動することができます。ただしこの方法で魔術を発動した場合、魔力の消費に加えて本来の詠唱時間に応じて精神力にダメージを受けます。このダメージは時間経過で回復します。


・記憶保持発動する魔術は効果が下がります。


・記憶保持発動できる魔術の数は知力値に依存します。

_______________


 どうやら魔術を発動するには詠唱時間というものが必要ですぐには発動することができないらしい。ライゼン団長はすぐに発動していたがおそらく魔力操作の技能が極まっていたからなのだろう。

 とりあえず発動にどれほどかかるのか物は試しということで記憶保持せずに発動してみる。


「魔術はどうやって発動するのですか?」


 尋ねてみると

「魔術は発動したい魔術名を呼ぶことで魔方陣を発生させ、魔力を操作することで魔方陣を魔力で満たして発動します。魔力の操作は腹筋に力を入れるように意識することで操作できます」

と書かれたウィンドウを見せてくれる。 

 


魔術【霊獣召喚(戦闘)】


 手を突き出してつぶやくと掌の前に幾何学模様が出現した。じわじわと幾何学模様をなぞるように光が満たされ始める。ルカに言われた通りにお腹に力を入れるようにしてみると光の速さが早まった。


《技能【魔力操作】を取得しました》


 模様に光が満たされるのに比例して私のワクワクも大きくなっていく。

何が召喚されるんだろうと期待に満ち溢れながら魔術を発動した。


「いけぇ!」


 魔術を発動すると3メートルほど前に光の渦が発生して中から棒を持った白いマネキンが現れた。

 マネキンは何をするでもなくただひたすらに沈黙を保ち、のっぺらぼうの顔を僅かにこちらに向けて直立し続けている。

 いったいどのあたりが獣なんだろうと思いながら、ぼさっと呆けている戦闘召喚獣の前で手を振りかざしてみるとマネキンは光の渦とともに消失した。


「えぇ……」


 困惑しているとルカがウィンドウを出してきて「霊獣は時間経過とともに効果時間が切れて消滅します」と説明してくれた。


……30秒くらいしかいなかったんですけど。あのマネキン。


 何に使えるのか分からないけれど現状使える魔術がこれだけしか存在しないので記憶保持に【霊獣召喚(戦闘)】を登録してもう一度魔術を発動してみる。


魔術【霊獣召喚(戦闘)】


 すると幾何学模様が出現し比較的すぐに魔方陣が満たされて先ほどと変わらないマネキンが出現した。


「マネキンさん、私の声聞こえますか?」

「……」

「マネキンさん、前進!」

「……」

 

 必死の命令むなしく、うんともすんとも言わない。

 活用方法を見出せずにほとほと困り果てていると、そんな私のことなどどうでもいいと言わんばかりに光の渦に飲まれて消えた。


 泣きそうになりながら思わずルカに視線を向けると少し呆れた顔を見せながら「この術式は敵対している存在がいると自動で攻撃するように作られています」といかにも用意された説明口調で書かれているウィンドウを見せてくれた。


 先に言ってほしかった。


 半べそかきながらがっくり肩を落として先ほど一瞬取得されたことが表示された技能を確認してみる。


技能『魔力操作』:1【1/5】

_______________

~技能タスク~

・常設

〇魔力操作を10回行おう。『0/10』

〇魔力操作を60秒以上行おう。『0/60』

_______________


 現時点ではひとまず魔力操作を行っていれば成長することが分かっていればよさそうだ。余裕があるときは魔力操作を行っていようと決める。


 とりあえず地表に出なければお話しにならないと思うのであたりを探索しながら地上へ出る道を探した方がいい。

 まさか上の穴から出なければならないなんてことはないだろう。


 今いる空間の外周をなぞるように歩いていると岩陰に大きな洞窟を見かけた。





 美しい水晶のようなものが点在していて思いのほか神秘的な空間だった。


 洞窟の中だというのに結晶が輝いているおかげで行動できる程度の光度は保たれている。幅も狭いという印象は感じず車三台分くらいの幅はあった。


 歩いていると下り坂になっていることに気が付いたが道はここしかないので進んでいくしかない。


 いくら結晶が輝いていると言ってもそれは洞窟にしては比較的というだけの話で結晶のない数メートル先は暗闇が広がっていた。

 不安になりながらも警戒して歩いていると肉を貪る咀嚼音のようなものを闇の奥から聞き取った。

 

 何かいる。


 本当は接敵を避けて回り道でもすべきなのだが道はこの先にしか続いていない。腹をくくるしかないだろう。


 決して気づかれないように腰を落としながら近づいた。

 かすかに水色の煙がこちらに流れてくる。血だ。


 薄暗い闇の中で存在が視認できるようになるとその姿に戦慄した。道の先に異形の存在がいる。

 

 巨大な節足動物のような存在がいた。

 おそらく二メートルほどはあるだろう。腕はなく、代わりにアノマロカリスを彷彿とさせる特徴的な触手のように見える前部付属肢をもっている。器用に1メートルほどの毛皮の生えたモンスターを捕らえて捕食していた。


 警戒しているのか定期的に立ち上がり二足歩行しながら動き回る。そして感情のない無機質な瞳で辺りを見回していた。


 戦うなら食料に夢中になっている今だと思った。

 ゲームのシステム上で戦いになるか分からないし、かなり強そうだ。


 しかし観察していると身体構造上の穴はかなり多い。

 太い足は硬そうな外殻を支えるだけでかなりきつそうだ。二足歩行なのにかなりの前傾姿勢でバランスが悪そうに見える。そして背中側はがら空きで魔術攻撃さえ気をつければ危機はない。

 突き出している目玉なんていかにも弱そうだ。

 生物として不自然な挙動さえしなければ決して倒せない相手ではない。


 周囲に他の生物の気配はなかった。

 モンスターが食事に気を取られた隙をついて背後に回る。


 ここ!


 音もなく地を這うように接近し鞘を捌いて刀身を抜く。

 狙うのは足の関節部。怪獣のような見た目だがここは明確に弱点になるはずだ。ここが硬いと関節の役目が果たせないから。


《技能【抜刀】を取得しました》

《技能【斬撃】を取得しました》


 手ごたえはあった。ルミエールが弾けて吸い込まれてくる。


 不意を突かれたモンスターは既存の生物には当てはまらないような金切り声をあげてこちらに振りむく。感情のない瞳でこちらを睨みつけてくる。

 わずかに上げている声だけが怒りを感じさせた。

 関節からわずかに煙を噴き出している。


「思いのほかダメージはないようですね」


 手ごたえほどのダメージは感じていないようだ。やはりゲームのシステムによって強化されているようだ。


 けれど、


「同じ場所に同じ角度で切り続けられたらどうなるでしょうか」


 足をためて急接近しモンスターの触手の間合いの手前で止まる。モンスターは触手を大きく振り下ろして攻撃してきた。

 洞窟が大きく陥没しがれきが飛び散る。


 一度でも受けたらひとたまりもないだろう。

 

魔術【霊獣召喚(戦闘)】


 がれきに紛れて記憶保持で魔術を発動する。視界の右側が僅かに青くなる。

 私の代わりにマネキンさんを向かわせ、気配を消して背後に回り込む。


 モンスターがマネキンさんに気を取られているうちに刀の切っ先で切り付けていく。

 深くではなく、薄く鋭く。

 切っている感覚的に少しでも深く切り込めば途中の肉で刃が止まって刀が抜けなくなるだろう。

 だから体力管理をしながらじわじわといたぶるように、繊細に。


 そして視界下部のゲージが溜まった。


【三等光輝開放『ちからづく』】


 光輝開放を行うと今までよりも多くのダメージを与えられるようになるのがありありと分かった。私は少し気分が良くなって光輝開放を行う前よりも攻めっ気が強くなる。


 モンスターの攻撃に合わせてあえて向かって行く、滑るように躱して背後に回り込み関節部を切りつけた。


 今の一撃で傷が深くまで達したようで片足立ちのような体制で崩れ落ちる。

 その隙に無駄に突き出ていた目玉を切り落とした。モンスターは金切り声をあげながら仰け反って目玉があった場所から水色の血を噴き出していた。


 ここで一気に決める。

 外殻の上の出っ張りを飛び上がってつかみ、仰け反った力を利用して投げ飛ばす。

 モンスターはひっくり返って間抜けを晒した。無防備になった触手の節に合わせて切っ先を入れて触手を切り飛ばす。

 懐に飛び込んで喉元に刀を深く突き立て、横に大きく引き裂いた。


 水色の血煙が噴き出してきて、大きく断末魔があがった。

 ルミエールが弾けて私の体に吸い込まれてくる。

 

 体から力が抜けているのを確認して、体を蹴り飛ばして刀を強引に抜き去った。 


 これで倒せたのだろうか。

 どうやらモンスターはボルボロスと違って体が溶けたりはしないようだ。


 不思議に思って亡骸を見下ろしているとルカが胸から飛び出して、

「モンスターの体は時間経過で地面に取り込まれます。時間までに胸にある輝石など必要な部分だけ切り出しておきましょう」

と書かれたウィンドウを見せてきた。


 必要な部分が分からないけれど何やらわざわざ書いてある輝石を探して持って帰ることにする。

 お目当てのものは案外早く見つかって握ると簡単に引き抜けた。死ぬと簡単に取れるようになるのだろうか。最初からこんなに簡単に取れるものではないはずだ。


 私は手の中に納まった水色の綺麗な石を確認すると『収納』して、先を急ぐことにした。





 モンスターを倒しながら進んでいく。今のところ最初に戦ったアノマロカリスのようなモンスターが一番強かった。確かに他のモンスターも一撃でもダメージをもらえば生命力が削れてしまいそうなほどの破壊力を持っていそうな攻撃を仕掛けてきていたが、躱わしてこちらの攻撃を何度も与えていれば倒せなくもない程度の存在でしかない。


 しばらくすると広い円形になっているスペースに出た。


 地面に幾何学模様が描かれている。


 地面に描かれた模様を目で追っていくと10メートルほどもある大きな石造りの門があった。幾何学模様が刻まれていて異質さと荘厳さを感じさせる。

 その異質さとはその門が明らかに洞窟を切り出して作り出したものではないということだ。

 石の質と色が明らかに周囲と浮いている。

 つまりこの洞窟にわざわざこの巨石を運び込みこの門を作ったということになる。よく見ると門の脇には繋ぎ目のないレセプションスタンドのような台座があった。これもまた用途不明で異質だ。


 少しだけ探索してみてもこの空間に特に何かあるわけでもなく、地上に出られるようなヒントのようなものなかった。


 空間の奥に私が来た道とは別に二つ道がある。


 道の奥に目を向けてみると右側の道は上り坂でまだしばらく続きそうだ。左側の道は目に届く範囲に開けた空間があることが分かり、そこから幻想的な青白い光が漏れている。


 幻想的な雰囲気につられて左側の道に足を進めた。


 足を進めると眼前に広がる幻想的な雰囲気とは違い、感じられる空気は淀んでいる。


 嫌な予感がする。私の本能が叫んでいる。

 肌に走るように鳥肌が立って思わず身震いした。

 無意識に呼吸が浅くなり、息をひそめる。


 戻った方がいいとはわかっているけれど自然と足が進んだ。一目確認するくらいならいいだろうと思った。


 けれど


 そこにいる得体のしれない存在を目にしたとき、流されずにさっきの道を右側にいけばよかったと



《イベント発生》



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〜〜〜〜〜【陰廻龍ゼーゲンカルナの視線】〜〜〜〜〜

【終了条件:ゼーゲンカルナから逃走する】

【所要時間:目安30分(ディオタール)】【イベント期限:なし】

【イベントの推奨存在格:1(固定)】    


【推奨技能:なし】


【注意事項:このシナリオには以下の表現が含まれています。】

なし


【基礎報酬】

特異性質【陰廻龍の権能】

ルミエール

テネーブル


【備考】

なし


【以上の注意事項に同意してイベントに参加しますか?】

○このイベントでは選択できません

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 本当に後悔した。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ~ 美しい水晶のようなものが点在していて思いのほか神秘的な空間だった ~。 おそらく誤改行です、誤字報告では空行にできないのでこちらで。 [一言] とっても同意、人に勧めるなら4部分目…
[一言] この作品って通常のVRゲーム作品と違ってこの作品でしかない用語やシステムがあってすごく斬新なのですが、プロローグ≫チュートリアル≫キャラメイク≫初戦闘までの道のりの話がとにかく長いですし用語…
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