狭間の世界でキャラメイク
目が開くようになると周囲は死体の散らばった教会ではなくなっていた。
放り出された腕と赤い彼岸花が視界一杯に映りこんでいる。
先ほどまでの光景とあまりにもかけ離れていて夢と現実の境界が曖昧だ。
むせ返るよう程鮮やかな赤色なのに風に揺れる彼岸花を見ているとしんみりとした気持ちになるのは何故だろう。
思わず彼岸花に触れようと腕を伸ばそうとすると先ほどまでとは違って動かすことが出来て、ライゼン団長の体から抜け出して既に自分の体に戻っているのだと分かった。
……ライゼン団長は亡くなってしまったのかな。
ここはどこだろうと思いながら胸に去来する心苦しさと喪失感で起き上がる気にもなれずに寝返りを打って空を見上る。
目の前に広がるあまりにも幻想的な光景に心奪われた。夜に成りきっていないような薄暗い空に宝石をこぼしたような星々がきらめいている。
空の中心にひと際輝く星があった。
その星を無数の流星が渦を巻くように尾を引いてぐるぐると回っている。まるで長露光写真のようだ。
渦から脱出していく流星や合流していく流星もある。
……そうだ。こんな立ち止まっている暇なんてない。
星空を眺めているとやらなければいけないことを思い出して立ち上がる。
さっきまでライゼン団長が住んでいた世界へ入るためにキャラクターを作って、存在格をあげてゲームでの戦闘に馴染んでいかなくてはいけない。
むくりと体を起こして立ち上がる。そして現状の私がどのような場所にいたのかを知ることになった。
視界一面赤い彼岸花の花畑と不思議な空が広がっていた。紅色の蝶が幻想的な光の粉を出しながらふわふわと飛んでいる。
起き上がるときに感じた違和感を確かめるために一回転して景色を見ると、どちらの方角の空も日の光の影響を受けて色が変わっているのが分かった。普通は日の出の反対側の空は暗いままだ。
日の入りの反対側の空は月が出ているだろう。まるで黎明と薄暮の狭間にあるかのような空だった。
全身に鳥肌が立ち、胸に何かが去来した。
人は何故空に焦がれるのだろう。
この郷愁にも似た感覚はどこから来るのか。誰もがこの感覚を知っていて、誰もがこの感覚の理由を知らない。
感傷的な気分に浸りながらこの後どうすればいいのか途方に暮れていると、
『やぁ』
背後から敵対心を抱かせないほど柔らかで中性的な声が聞こえた。
なんだろうと思いながら振り返る。そこには螺鈿色にきらめく光の玉が宙に浮いているだけで誰もいなかった。
螺鈿色の光の玉は複雑な光を全方向に放ち赤い彼岸花を螺鈿色に照らしている。
その姿を見てかつての曾祖母の言葉を思い出した。
かつての人々が三日三晩ダンスを踊り続けていたディスコという場所。そこで虹色にかがやくミラーボールという玉が存在したらしい。ミラーボールはその眩いばかりの光で人々を照らし、空間が一瞬で興奮のるつぼと化したと聞いた。
この玉があのミラーボールなのだろうか。
『聞こえているかい?』
声に合わせて光が明滅する。どうやら声の主はこのミラーボールらしい。
「あなたは……?」
『僕はこの世界の主。新たな命の水先案内人だと考えてくれればいいよ』
「新たな命の水先案内人……ゲームの世界のキャラクターを作る人ということでしょうか?」
頬に手を当てて尋ねると何も返事が返ってこない。悲しい気持ちになりながらほとほと困り果てていると、胸からルカが飛び出してきた。
おなじみのウィンドウを取り出してビシッと突きつけられるように渡されるとそこには、
『その認識で合っています』
と書かれていた。
……もしかして「ゲームの世界」という単語に返事ができないんだろうか。
何とも不便だなと思いつつ助け舟を出してくれたルカにお礼を伝える。ついでに優しく抱きしめてもみくちゃにした。
ルカはもごもごと身をよじらせてとびだし、胸の中には戻らずにそばに浮いた。出番があれば説明してくれるようだ。
郷に入っては郷に従えの精神で「ミラーボールさん、案内をお願いします」と告げる。
『ミラーボールさん? ……まぁ、僕に名前はないから好きな風に読んでくれて構わない。新たな命が生まれる上で決めなければいけないことを示すよ』
ミラーボールさんは柔らかそうな質感で螺鈿色の石板のようなものに変形すると文字列を表示させた。
_______________
・キャラクターネーム、プレイヤーネームの設定
・ステータス基礎値の説明。
・種族の設定
※先にステータス基礎値の説明を読むことをお勧めします。
・容姿の設定
※種族を選択してから設定することをお勧めします。
・属性の設定
※先にステータス基礎値の説明を読むことをお勧めします。
・技能についての説明
・ルデマラージュ(再生コスト)についての説明
・性質の設定
※ステータス基礎値の説明を読むことをお勧めします。
※技能についての説明を読むことをお勧めします。
※ルデマラージュ(再生コスト)についての説明を読むことをお勧めします。
・初期位置の設定
・メニューについての説明
_______________
『君はこの中でどれから先に決める?』
「では……上から順にキャラクターネームの設定でお願いします」
『分かった』
画面の文字列が入れ替わる。
_______________
~キャラクターネームについて~
・キャラクターごとに個別につけられる名前。
・他のプレイヤーと重複可能。
・TCoLの世界では基本的にこちらの名前で呼ばれ、キャラクターネームではなくファーストネームと呼称されます。
・個人情報を特定できる名称は避けて下さい。
・不適切な表現を避けてください。
・あとから変更することができません。
入力『 』
~プレイヤーネームについて~
・プレイヤーごとに個別につけられる名前です。キャラクター枠を購入した方が複数のキャラクターを世界に同時に存在させるとき、この名前は共有されます。
・他のプレイヤーと重複できません。ミドルネームを入れることで重複を避けることができます。
・TCoLの世界ではあまり呼ばれませんが大会の時などに呼ばれます。また、プレイヤーネームではなくファミリーネームと呼称されます。
・個人情報を特定できる名称は避けて下さい。
・不適切な表現を避けてください。
・あとから変更することができません。
入力『 』
_______________
キャラクターの名前をどのように設定すればいいのだろう。他の方々がどのように決めているのかも分からない。
仕方ないのでTENKYUのアカウントと同じ名前に決める。京の読み方を変えただけだが直接的ではないので大丈夫だろう。
『キョウ』(OK)
次はプレイヤーネームだ。ファミリーネームとも呼ばれるようなので名字を元にした名前にする。英語に変えてみるのはどうだろう。
『レイオブライト』(OK)
重複がいないようなのでこれで決定する。時間がないのでどんどん早く決めていかなくては。
「これでお願いします」
『キョウ・レイオブライトさんでいいかな?』
「うっ……は、はい。大丈夫です」
読み上げられたフルネームを聞くとなんだかちょっと恥ずかしい気持ちになってしまうがきっと気のせいだろう。
時間がない上に他にすぐ思いつく名前もないので次に進む。
次に種族を決めたいがステータス基礎値の説明を勧められている。飛ばしてしまおうとも思ったが一応目は通しておくべきだと考え直す。
「次に『ステータス基礎値の説明』をお願いします」
『ちょっと待ってね。はい、どうぞ』
_______________
~ステータス基礎値の説明~
〇筋力値
・生命力の最大値に影響を与えます。
・持てる物質の重量に影響を与えます。
・アイテムを収納する際にアイテムの重量を下げることができます。
・体の部位ごとに設定され、どの部位の筋力値を上げていくか調整することができます。
〇耐久値
・生命力の最大値に影響を与えます。
・相手から受けるダメージに影響を与えます。
・体の部位ごとに設定され、どの部位の耐久値を上げていくか調整することができます。
・生命力系の状態異常に対して影響を与えます。
〇器用値
・道具を操る技能全般のパフォーマンスに影響を与えます。
・技術の成功確率判定へ影響を与えます。
・技術の体力消費量に影響を与えます。
〇知力値
・精神力の最大値に影響を与えます。
・知識系技能に影響を与えます。
・表層記憶外の技能に影響を与えます。
・記憶保持できる魔術の数に影響を与えます。
・イベントの際に表示されることがある選択肢に影響を与えます。
〇精神強度値
・精神力の最大値に影響を与えます。
・精神力ダメージを受ける際のダメージ量に影響を与えます。
・精神力系の状態異常に対して影響を与えます。
~能力成長値について~
・ステータス基礎値の実数値はステータスに表示されません。この能力成長値が表示されます。
・ステータス実数値は性質の定着度を上げた際に能力成長値を参照して向上します。
・能力成長値は主に性質の定着効果として得ることができます。
・イベントの報酬として自由に振り分けることができる能力成長値が手に入ることがあります。この能力成長値は定着効果を取得する度に消費されます。
_______________
一通り読んである程度は理解する。いまいちピンとこない点が多々あるが、一つずつ虱潰しにしてもキリがないと思うので私はある程度のところで切り上げる。
「あとから見返すことってできますか?」
『もちろんいつでもできるよ』
「ありがとうございます。説明はもう大丈夫です。では『種族の設定』をお願いします」