序章3
子猫がルナフェガリの元を去ってから数ヶ月が過ぎようとしていた。
季節は冬、寒さを凌ぐ手段のないルナフェガリにとって厳しい季節がやってきてしまった。
あの日木から落ちた時の怪我が治るどころか悪化してしまい、あれからほとんど動けずにいた。
おそらくあの時折れていた足の骨はずれたまま固まり、寒さが余計に足の痛みを増幅させる。
なんとか地面を這って食べ物を探しても、一日中探してカケラほどの食べ物のクズしか手に入れられなかった。
ルナフェガリはもう諦めていた。
あの子猫とのひと時の幸せな時間を何度も何度も反芻し、最期くらいは幸せな気持ちのまま逝こうと思った。
でもーーー…
「死にたく、ない…」
「分かった」
「…え?」
死の間際、霞んだ瞳に映る人間は、妄想か。はたまた現実か。
混乱しながらルナフェガリは意識を手放した。
ルナフェガリは死の淵を彷徨ったが、なんとかもう一度目を覚ました。
まだ覚めきらない頭のままぼんやりとしていると、美味しそうな匂いが鼻をかすめた。
その匂いの先を見つめると、そこにはフードを被った人間がいた。
夢だと思っていた意識を失う前の人影は、本当にあったのだと驚いた。
ルナフェガリがその人物に声をかける前に、ルナフェガリが目を覚ましたことに気づいたフードの人間は、振り向きながらゆっくりと口を開いた。
「人間、生きていたか。」
歳はルナフェガリと同じくらいだろうか、銀髪の綺麗な顔の少年だった。
「え、っと…うん。生きてるよ。
あなたは誰なの?」
俺はー…と言いかけて少年は口をつぐんだ。
そしてしばらく首を傾げ、考え込んだ様子を見せるともう一度話し始めた。
「俺はエトワル。おまえは?」
「わたしはルナフェガリ!もしかしてー…エトワルが助けてくれたの?」
そう言いながら自分の体に目を落とす。
先ほどから体の震えが止まっている。暖かな布が被せてあったからだ。
さらに、不思議なことに足の痛みが無くなっているのだ。
それどころかー…
「えっ?!治ってる!!」
そう言って勢いよくルナフェガリは立ち上がった。
その場で何度もぴょんぴょんと飛んでみせる。
エトワルも立ち上がり、ルナフェガリの目の前に立った。
「俺が治した。お前を助けてやる」
エトワルのまるで子供の戯言のような話も、そのまま受け入れられてしまうほど確かな奇跡が起きたのだ。
エトワルは驚きで固まったままのエトワルの口に柔らかなパンを咥えさせた。
こうして不思議な少年エトワルとルナフェガリの生活が始まったのであった。