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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
7.光る海の闇徒
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聖女の本領

ヨウの回復を、俺はディディに任せた。彼女の能力なら、それが可能だと考えた訳だが。

俺に話を振られた当の彼女は、困惑の表情を浮かべていたんだ。

 俺の指示を受けて、ディディは暫し固まっちまっていた。どうやら、俺の言った言葉の意味が即座に理解出来ていないらしいな。

 今のディディのレベルは3だ。これは普通に考えれば、低レベルの回復魔法しか使えない状態である。

 さっきのシラヌスの話を鑑みれば、その魔法を使った処でヨウの容体が快癒する訳がないと理解出来るからな。


「あ……あの……でも……」


 だけど俺の言葉のニュアンスからは、彼女の力でヨウを完治させろと取られなくもない。ディディが戸惑うのも当然だろう。

 そして俺は、正にその通りの意味で彼女へと指示を与えたんだ。


「その『魔力の耳飾り』を使えば、今のお前でも『聖女』の力を使えるほどにはなるだろう。そして希少(レア)な『アクルの実』の効果で、お前の魔力量も一時的に増大している。『聖女』の力を使っても、すぐに魔力が枯渇したり魔法が使えなくなるって事は無いはずだ」


 ディディの欠点は、現状に見合わない強力な魔法に振り回される点にある。なら、その魔法を使えるだけの状態を疑似的に作り出してやれば問題は解決するって寸法だ。……まぁ、常時大丈夫って訳じゃあ無いけどな。


「……ほう。彼女は『聖女』だったのか……」


 そんなやり取りをする俺達の背後から、シラヌスの興味津々な台詞が聞こえてきたが今は無視だ無視。


「は……はいぃですぅ」


 半信半疑と言った声だけど、ディディは魔法を掛ける為にヨウの傍らへ跪いた。まぁもしも魔力が枯渇しても、俺の持っているアイテムである程度は回復してやれるから問題は無いんだけどな。

 緊張を隠しきれていない彼女は、大きく深呼吸をして目を瞑りそして……。


「七色に輝ける御方にお願い申し上げるですぅ……」


 硬い表情と声音はそのままに、それでも胸を張り声高くディディは詠唱を開始した。その直後に、神々しいと言って良い光が彼女を包み込む。


「我らを愛おしみ癒すその御手を、傷つき倒れた愛し子へと翳し賜えですぅ……」


「この……呪文は……」


 恐らくは初めて聞くであろう魔法に、シラヌスが感心の声を上げる。職業「聖女」は上位に属するから、今の俺達がその魔法を初耳なのも仕方がない事だろうな。

 呪文を唱えるディディの身体からは、どんどんとその神々しい光量が増してゆく。


「……施術する御手(クーラ)! ですぅ!」


 詠唱を終え魔法を唱え終えた直後、彼女の身体から放たれていた光がヨウへと翳す手へと一気に集中する。瞬間、ディディの左手とヨウの身体が眩い光に包まれる。

 しかし、それもほんの僅かな間の話。即座にその光は消え失せ、周囲には静寂が訪れていた。


「う……。あ……あれ?」


 その直後、それまで呻き声さえか細かったヨウが意識を取り戻し……ガバッと上半身を起こしたんだ。その様子を見る限りでは、さっきまでの重傷の影響は微塵も感じられない。


「あ……あれ? 俺の身体……どうなったんだ?」


 一番疑問を感じているのは、多分ヨウ自身だろうなぁ。彼は自分の身体のあちこちをペタペタと触りながら、頭にはハテナマークを幾つも浮かべている。


「ディディ、上出来だな。お前の方の体調はどうだ?」


 カミーラやシラヌスがヨウの状態に注視する中、俺はディディの状態を気に掛けた。魔法の効果を(・・・・・・)良く知っている(・・・・・・・)俺にしてみれば、彼女の魔法でヨウが完治した事は改めて確認するまでも無いからな。


「は……はい。な……何ともないですぅ……」


 そしてどうやら、ディディの方も魔法の行使で疲労したり異変を感じた様子は無いみたいだな。

 もっとも今彼女は、高位の回復魔法を使ったのに何ともないと言う初めての経験に、どこか信じられないと言った表情だけど。


「ア……アレク。先ほどディディの使った魔法は何だ? ポーションよりも効果が高いように見受けられたのだが……」


 疑問を露わとしていたシラヌスやヨウを差し置いて、カミーラがおずおずと問い掛けて来た。

 これまで俺達の中で回復の一番手はポーションだった。まだまだレベルの低いサリシュの回復魔法では、ポーションほどの効果が得られなかったからな。

 しかしさっきディディの使った魔法は、そのポーションすらも凌駕する効果を発揮して見せた。そりゃあ、カミーラが聞きたいのも当然だろう。


「お前も知ってる通り、ディディは生まれながらにして『聖女』の職業(クラス)を習得している。でもそのせいで、魔法力が突出していないと普通の魔法も使えない未熟者と扱われてたわけだ」


 だから俺は、出来るだけ簡潔に説明してやる事にしたんだ。本当はそんな事をしている場合じゃあ無いんだけど、そうしないと当のディディも納得いっていないって顔をしているもんな。


「だから『実』と『アクセサリー』の力で能力を底上げして、『聖女』の職業で使える回復魔法を行使して貰ったんだ。因みに『聖女』は『修道女』の上位職業(ハイクラス)。『修道女』は特化している分、『回復系魔法使い』のサリシュよりも回復魔法に精通していると言えるな」


 俺の説明を聞いて、カミーラ達ばかりかディディも感心していた。まぁその辺りの説明は曖昧だから、ディディのいた修道院でどれだけ説明されていたのか疑問なんだが。

 俺の知識は実体験から(・・・・・)来るものだから(・・・・・・・)、まずは間違いのない認識だと言い切れるんだけどな。


「さっきのディディが使った『施術する御手(クーラ)』は、高位職業が使える回復魔法だからな。今の俺達には過ぎた魔法だろうし、だからこそヨウの身体が全快したって訳だ」


 あらかた説明を終えて、その場には納得の雰囲気が流れていた。もっとも、高位の魔法に接する機会なんて殆ど無い彼女等にしてみれば、俺の言った事を信じる以外に無い訳なんだけどな。

 それにディディにしても、自分の使える……厳密には使えないんだが、その魔法の正体を知れて安堵しているってのもあるんだろう。


「しかし……お主、よくもまぁそんな事まで知っているものだな」


 ただし、シラヌスについては更に疑念を持たれる結果となった訳だが。知識にはかなり自信を持つか奴にしてみれば、今の自分が知り得ない情報を開示する俺に不信を持っても仕方がない……か。


「ま……まぁ、そう言った希少な本を読む機会が多かったってだけだよ」


 とは言え、俺が15年後からやり直しているなんて口が裂けても言えない。少なくとも、今この段階で大っぴらに言って良い話じゃあ無いからな。


「……ふん。この件が終われば、お主には色々と聞きたい事が増えてしまったな」


 ただ怖いのは、シラヌスが抱いたのは懐疑だけじゃあないって事だった。どうやら俺は奴の、興味の対象となっちまったみたいだ。

 出来れば関わりたくない俺としては、この場で何かを言う事なんて出来なかった。ただ乾いた笑いでその場のお茶を濁すに留まったんだ。




「とにかく、ヨウの身体も全快した訳だし、早速奥へと進む事にしよう」


 このままここに留まって、シラヌス達の知的好奇心を満たし続けるのは愚の骨頂だ。俺は立ち上がり、洞窟の方へと目を向けて皆に告げた。

 中からは、まだ動きは無い。今はまだ「ファタリテート」を使えるほど回復していないだろうから、確認する事も出来ない。

 でも気配を察するに、中から何かの行動を感じる事はなかったんだ。


「……慎重に歩を進めるのが良策かと」


「……ああ、そうだな。中から、何か嫌な気配を感じるしな」


 あえて中に何が居るのか……魔神族が居る事を言っていない訳だが、それでもカミーラとヨウは何かを察しているみたいだ。竜頭亀(レギアタートル)と対峙した時よりも、今の彼女達は緊張感を顔に滲ませている。


「……ふむ。先方はカミーラとアレク。最後尾をヨウにして進むとしよう」


 それを察したシラヌスは、瞬時に最適な陣形を提案した。それに俺達は異論なく頷いて応じたんだ。

 順応性と臨機応変さを考えれば、先頭はカミーラとヨウの方が良いかも知れない。でもまだ互いに信頼しておらず日も浅い2人では、いざという時の連携は取れない可能性が高い。ここは、俺とカミーラが前を行く方が最善だろうな。

 そして偶然だろうけど、本当にこの陣形は最良だったと言わざるを得ないな。この洞窟の構造や、この先に何が待ち受けているかを知っている俺が先頭に立つのは実に合理的なんだから。


「それじゃあ、行くぞ」


 俺の号令一下、全員が慎重な脚取りで洞窟内へ向かったんだ。


いよいよ俺達は、あの「魔神族」が待つ洞窟内へと突入した。

他の魔物ならいざ知らず、相手が「魔神族」なら避けては通れない一戦に違いないからな。


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