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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
7.光る海の闇徒
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暴発の力

竜頭亀を倒すため、側面に回り込んだヨウが力を籠める!

その直後、奴の身体からは湯気の様に揺蕩う光が発せられだしたんだ!

……あれは……まさか!?

 竜頭亀(レギアタートル)をひっくり返す為に気合を込めるヨウからは、彼の周辺の景色が揺らぐほどの「闘気」が立ち上っている。それだけでも、今の俺達のレベルを考えれば驚嘆に値するんだが。


「はああぁぁっ!」


 更に気勢を高めるヨウからは、それまでとは違う赤い色をした精気が湧き出て来たんだ! それと同時に、あの超重量を誇るレギアタートルの身体が少しずつ地面より浮かび上がって来た。


 ―――しかし……危険だ!


 恐らくヨウは、そうと知らずに(・・・・・・・)使っている(・・・・・)んだろう。転職(クラスチェンジ)を1度も果たしていない俺達が、その存在を(・・・・・)知る訳が無い(・・・・・・)からな。


 ヨウの使っている技術(スキル)は……〝ただの〟「闘気(フォルサ)」じゃあない。

 あれは……その上位技術である「龍気(ドラコ・アウラ)」だ。


 武闘や剣技、近接戦闘の研鑽を積めば、いずれは「闘気」やそれに近い技術を身に付けるだろう。でもそれは、一般人が習得出来るレベルの話。

 女神の加護を受けレベルを得て職業を身に付ければ、それは常人の使う〝それ〟を遥かに凌ぐ能力を発揮する。

 レベルの恩恵で、肉体能力が飛躍的に向上するんだ。顕現する効果も群を抜いてて当然だろう。

 そしてレベルの恩恵は、肉体的耐久力にも影響する。戦闘で強力な武技に匹敵する力を見せる「闘気」だけど、それもその力の行使に耐えれる強靭な肉体があっての話。

 もしもその技を一般人が使ったなら、多分その者は全身の筋肉がはち切れるか骨がひしゃげるか……。レベルの恩恵は、そう言った卓越した技の反動から肉体を守る効果も齎してくれる……筈だったんだが。


「がああぁぁっ! ……がふっ!」


 続けて力を籠めるヨウが、突然吐血した! 傍から見てもそれは、明らかに常軌を逸した力の行使から来るものだった!

 でも、ヨウは力を弱める素振りすら見せない。それどころか、更に注力し続ける。


 そんなヨウが今使っているスキルは、間違いなく「龍気」だ。職業「拳士」の上位職「拳闘士」「蹴闘士」の更に上位である「武闘士」へと転職して漸く身に付ける事の出来る技だ。

 それを下位職のままで使おうってんだから、その身体に掛かる負担は想像を絶するだろう。

 発動させるだけでも凄い。なんて天稟(てんぴん)だよ。しかし残念ながら……と言うか当然ながら、その身体が悲鳴を上げている。


「お……おいっ! あいつは大丈夫なのかっ!?」


 俺は思わず、後ろに控えていたシラヌスへと確認していた。今やヨウは吐血だけじゃあなく、身体の至る所で浮き上がった血管からも血を噴き出していたんだ。このままじゃあ命の危機も考えられるが、例え生きていたとしても深刻な症状が残るかも知れないんだからな。


「あやつはいつも無茶をするんだが、こちらが止めても聞かなくてな」


 そんなシラヌスは、俺の問いに諦めた表情で答えた。その台詞の後には「だから止めても仕方がない」と言外に語られている。

 こちらが言っても止まらない。そして今は、この手段しか勝つ方法が無い。

 なら、ここはヨウに任せるしかないって事だ。……奴が五体満足でいられるように祈りながらな。


 とにかく俺達は、出来るだけ竜頭亀の意識が向かない様に、奴の鼻先で牽制を続けた。俺とカミーラの示威行動だけじゃあなく、後方よりシラヌスとディディも弱い魔法で注意を引く。

 と言っても、レギアタートルと俺達ではレベルが違うからな。殆ど余力なく攻撃しないと、囮としての役割も成り立たない。


暴風斬りぃ(ラファル・セイフ)っ!」「……一閃豪断(ラーマ・ブリッツ)っ!」


 俺とカミーラは一撃離脱を繰り返して、その都度〝剣技〟を叩きこんだ。魔法はレギアタートルの甲羅に浮かぶ〝呪紋〟で無効化されるから、こちらは本当に威嚇程度にしかならないんだけどな。

 俺とカミーラの攻撃で、竜頭亀の手足には幾筋かの浅くない傷が付けられていく。


「ギャアアァウッ!」


 それが気に障ったのか、今や奴の意識は完全にこちらの方へと向いていた。とは言え、まだ「死霞の陣(ネブラモルテ)」の効果で標的を定められないレギアタートルの攻撃を躱すのは容易い事だった。


 そして、ついにその時が訪れたんだ!


「おっりゃああぁぁっ!」


 これまでにない気合一閃、ヨウは渾身の力を加え、それと同時に竜頭亀の身体が浮かび上がったと思うと……! そのまま、轟音と共にひっくり返ったんだ!


「よしっ! 今だっ!」


 完全に手足が地面から離れちまったレギアタートルは、接近する俺達に構わず四肢をばたつかせて何とか元に戻ろうと藻掻いていた。弱点の腹部を曝け出しているんだ、本能的にそうする事は当然っちゃあ当然だな。

 もっともこの巨体だ、そう簡単に再度反転する事なんて出来よう筈がない。


「はああぁぁっ! 緋炎斬りシャマ・エスカラーチェっ!」


 既にLv20に達しているカミーラには〝魔法剣〟を使えるだけの身体能力が備わっている! 彼女は発動させた剣技により炎を纏った愛刀を巨亀の腹部へと叩きつけた!

 柔らかい腹部に今のカミーラが持つ最強剣技が叩きつけられたんだ! 只で済む筈もない。

 腹部は容易に斬り割かれ、そこからは高熱の火炎が噴き出していた! これには巨亀も堪ったもんじゃないだろう。


「ギャアアァァウッ!」


 咆哮ではなく、威圧でもなく、単なる苦悶の声を竜頭亀が上げた!


「うらあぁぁっ!」


 そして俺はそれに続いて、逆手に持った剣を切っ先から奴の腹へ深々と埋めてやったんだ! 出来るだけ急所である心臓の位置を狙ってな!

 的確に……とはいかなかっただろうけど、その一撃でレギアタートルはその動きを殆ど止めちまった! ……そこへ!


「はぁ……はぁ……はぁ! 神闘勁っ!」


 いつの間に回り込んだのか、頭部へと移動を果たしていた血塗れのヨウが呼吸を整え、止めの一撃を食らわせたんだ! 動きを止めて溜めが必要な攻撃だけどそれだけに強力な「神闘勁」を受けて、竜頭亀はその命を完全に停止させた。


 作戦としては大成功だった訳だが、完勝と言う訳にはいかなかった。ただ1人、満身創痍の人物が出ちまったからな。


「ヨウッ!」


 戦闘直後にばったりと倒れ込んだ奴の元へ、俺達は急いで駆け寄った。全身から血を噴き出している様子を見れば、とても軽傷には見えない。

 いや、恐らくはシラヌス達が考えているよりも遥かに重傷だろう。


「へ……へへ……。ど……どうだよ? お……俺の力はよぉ……」


 意識も朦朧としているだろうに、ヨウは笑みを浮かべて生意気な口を利いた。ったく、この辺りはグローイヤとも似ているし、恐らくはこいつ等のスタイル(・・・・・・・・・)なんだろうな。


「お前は少し黙ってろ! おい、シラヌス! 普段はこいつの治療をどうしてるんだ?」


 俺が見る限りで、ポーションを使おうが低位の回復魔法を使ってもすぐには完治しないだろう。


「スークァヌを仲間としてからは、彼女に回復魔法を掛けて貰い3日。それ以前は薬草を使って10日間か……。その間、こいつは殆ど動けずに寝たきり状態だったな」


 シラヌスの台詞は、俺の想像を肯定するものだった。回復方法が少ない今の俺達じゃあ、まぁそんなところだろうな。


「それでは、ヨウ殿はこの場で戦線離脱と言う事か……」


 深刻な表情を浮かべて、カミーラが現実的な回答を口にした。ヨウの容体がどれほど早くても全治数日なら、これ以上先へ随行させる訳にはいかないだろう。


 まぁ……普通に考えればだけどな。


「……おい、ディディ。俺の渡した『アクルの実』はもう飲んでるな?」


「ひゃ!? は……はいですぅ」


 まさかこの場面で話を振られるなんて思ってなかったんだろう、ディディは素っ頓狂な声を上げた後に首肯した。


「よし。それなら、今付けている『魔力の耳飾り』とこいつを付け替えるんだ」


 俺はそう前置きして、腰袋からイヤリングを1つ取り出し彼女へと差し出した。それを見たディディは……いや、カミーラやシラヌスも怪訝な顔をしている。


「あ……あのぉ。これは、この耳飾りとどう違うのですぅ?」


 全員が不思議がるのも当然だな。俺の取り出した耳飾りは、彼女の外したそれと全く同じ形をしていたんだから。……そこに埋め込まれた宝石の色が僅かに違う事を除いてな。


「こっちは、呪われていない方の『魔力の耳飾り』だ。今の耳飾りと違って、お前の能力(ちから)を底上げしてくれる代物だよ」


「……ほぅ」


 俺が2つの耳飾りの違いを説明してやると、ディディよりもシラヌスの目が興味に輝いていた。しまったぁ……こいつの前で、こんなアイテムを出しちまうとは不覚だった。

 でも、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。兎に角、ヨウを回復させてやらないといけないからな。


「そいつを使って、お前の力でヨウを回復してやってくれ」


 俺はシラヌスの視線を完全に無視して、ディディに指示を与えたんだ。


重傷のヨウを助ける為には、ディディの力が必要だ。

……聖女の力がな。

それを発揮させる為に、俺は彼女へとアイテムを渡したんだ。

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