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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
7.光る海の闇徒
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追ってカミーラ

姿をくらませたカミーラ達を追って、俺たちは浜辺から離れた岬の方へと向かった。

 カミーラ達が向かった先は、戦闘の行われている浜辺から大きく離れた先……小高い岬となっている場所と思われた。流石に、スキル「ファタリテート」で見ただけじゃあ目的地までは分からないからな。


「おいおい、こっちで間違いないのか?」


 先を進む俺に、ヨウが怪訝な声で問い掛けて来た。未だ大勢の冒険者が(ひし)めくこの浜辺で、カミーラをちゃんと補足出来ているのか疑問に思うのも無理は無いだろう。

 スキル「ファタリテート」で時間を止めて広範囲を見渡せば、今カミーラ達がどの辺りに居るのか確認する事が出来るかもな。

 ただそのスキルも、連続しては使えない。ある程度の時間……およそ10分くらいの間隔で再使用が可能なんだ。その間は、ある程度の予測で動くより無い。


「最後に俺が確認した時には、こっちへ向かって進んで行くのが見えたんだ」


 だから、今の俺にはそう答えるより他は無かった。

 もっとも、高度な探索の技術を持つ者やスキルを保有したり魔法を使える者はいないんだ。だからだろう、俺の返事を聞いても誰からも文句は出て来なかった。

 今の俺達には、ある程度の予想を立てて動く以外に取るべき手段は無いからな。……でも、そろそろ良いかな?

 少し早いけど、俺はスキル「ファタリテート」を発動させてみた。これまで幾度か使用しているから、ある程度再使用時間が早まっているんじゃないかと言う目算だったんだけど。


「……よし」


 発動と同時に、周囲は白黒となり全てが止まった世界が出現した。どうやら万全とまではいかないが、とりあえず俺の考えは間違っていなかったみたいだ。

 ただ感触から言えば、そう長い時間この世界を保つのは不可能っぽいな。普段の半分程度だろうか? やっぱり、確りと間隔を開けないと再使用にはそれなりに不具合が発生するみたいだ。

 それでも、今はこれで十分だ。カミーラ達の行く先が分かればそれで良いんだからな。

 意識体となった俺は一気に高度を上げて、カミーラ達が向かったと思われる先に目を凝らした。漠然とではなく、ある程度当たりを付けて探せて効率が良いってのもこのスキルの利点だな。

 程なくして、俺はカミーラとその前を行く子供……非生物を見つけたんだ。

 カミーラの表情を見る限りでは、まだ彼女はその子供が非生物だとは気付いていないらしい。……ただし、かなり訝しんでいるみたいだけどな。

 彼女がそんな考えを抱いているなんて歯牙にも掛けず、前を行く子供は無表情にカミーラを先導している。この辺も、どうにも怪しい。

 そして2人が向かっているのはやはり……あの小高い岬みたいだ。

 あそこは確か、近付く事が許可されていない場所だったか。高さはそれほどでも無いんだけど、岬の先端周辺は岩が突出していて間違って転落すれば無事では済まない。潮流も強いみたいで、泳いで近付くのも困難だって話だったな。

 そんな場所に子供が向かって行くんだ。誰だって疑惑に思うのは当然だよな。


「どうやらカミーラは、あの岬へ向かってるみたいだ。目的は不明だけどな」


 俺は細かい情報は伏せて、憶測と言う形でシラヌス達にそれだけを告げた。

 シラヌスが同行している以上、出来る限り不審がられる言動は避けるべきだ。どこから何が知られるか分かったもんじゃないからな。……と考えていたんだけど。


「……完全にカミーラの姿を見失っている状態で、何故それが分かるのかは興味深いところだがな」


 ……もっとも、鋭い奴には俺のちょっとした失言(・・・・・・・・)も見逃されずに勘ぐられちまってるようだ。出来るだけ予測だと強調したつもりだったんだけど、それさえもシラヌスにとっては通用しなかったみたいだな。

 ただ、奴も今はその部分を追求するつもりは無いみたいだ。俺に聞こえるかどうかの呟きは独り言と処理して、その後は黙々と付いて来ていた。




 砂浜から岬の先へは、木々が鬱蒼と茂っている。森……と言う程ではないにしても道はなく、誰もここへは近付いて来ないだろう。

 だけど残念ながら、その木立の間際まで来てもカミーラ達に追いつく事が出来なかった。

 あまり多用したくは無いんだけど、今は急を要する場合でもある。俺は躊躇せず、スキル「ファタリテート」を発動させて岬の方へと思念を飛ばした。


「……あそこか。まだ遠くないな」


 そして、カミーラ達はすぐに見つかった。今俺たちがいる場所からそう遠くない所を、草木をかき分けて進んでいる。道なき道だったのが功を奏したようだ。


「カミーラ達はここを分け入った可能性が高いな。俺達も、早速中へ向かおう」


 ここに至っては、シラヌスの疑惑の目を躱している場合じゃあ無い。俺は奴に疑念を抱かれる覚悟で発言したんだけど。


「おいおい、なんでそんな事が分かんだよ? もしかすると、別の場所へ向かったんじゃないか?」


 疑問は、別の場所から齎されちまった。そこまで怪しんでいるって訳じゃないヨウは、1つの可能性としてそんな意見を口にしたんだろう。

 でも、それも道理だ。一般論なだけに、ヨウの考えを一蹴するにはある程度説得力のある理由が必要だろうな。


「俺は森人(レンジャー)の心得があってな。本職には敵わないけど、ある程度山林での探索に自信があるんだ」


「へぇ……。多芸なんだな」


 俺の返答を聞いて、ヨウは感心しただけでそれ以上の質問はしてこなかった。

 特に訓練を受けたりその職業(ジョブ)を習得していなくても、気配に敏感だったり周囲の変化を鋭敏に察知する者ってのはいるもんだ。実際ヨウもその手の技能を有しているが、だからと言って修練した訳じゃあ無いだろうからな。

 ディディはもとより俺の事を疑っちゃあいないから、彼女からは何の異論も出て来ない。シラヌスには思う処があるかも知れないけど、ここでは何も質問をして来なかった。


「じゃあ、行くぞ」


 ここで議論を交わしている場合じゃないのは、この場の全員が理解している筈だ。俺の号令に全員が無言で頷き、森へと分け入る俺へ素直について来たんだ。




 さっき見た通り、カミーラとの距離はそれほど開いていない。


「カミーラッ!」


 俺たちはすぐに彼女へと追いつき、その背中に声を掛けた。やや不用心かとも思ったが、今はまずカミーラとの合流が先決だからな。


「……アレク!? ど……どうしてここに!?」


 振り向き俺を視認したカミーラは驚きの声を上げた。目を丸くして驚愕する彼女は、本当に思いも依らなかったと言う風情だ。


「それはこっちの台詞だ。何でお前はこんなとこに来たんだ?」


 そんなカミーラへ向けて、俺はもっともな質問を返した。質問に質問で返すのは本来なら愚行ではあるけど、この場合は俺の方が正論だろう。


「い……いや……。私はこの子が、こちらで得体の知れない怪物を見たと聞いて……」


「……この子? この子って、何処に居んだよ?」


 何処か慌てたようなカミーラの返答に、ヨウが訝しんだ表情で更なる質問を投げ掛けた。確かに今、カミーラの前にも周囲にさえその〝子供〟の姿は無い。


「あ……え……!? そ……そんな!? 確かに今しがたまでまで此処に……あっ!」


 動揺し周囲へと目をやるカミーラは、最後に何かを見つけたのか声を上げた。俺達もそちらへ目をやると、確かに子供と思える姿がかなり前方に確認出来たんだ。

 普通に考えれば、ほんの一瞬で子供がこれほどの距離を移動するなんてあり得ない。街中であっても不可能なのに、鬱蒼とした森の中ではなお不可能だ。

 俺は既に、あの子供の正体(・・・・・・・)を知っている(・・・・・・)。あの子供は、間違いなく何者かに創り出された存在だ。

 ただ、ここでそれを暴露するなんて出来ない。カミーラがそうと気付かないほど精巧に作られた存在を、僅かに見ただけのこれが看破するのは流石に不自然だからな。

 ……まぁ、瞬く間に森の中を移動出来る子供ってだけで不可解な訳だけど。


「……む? その子供とやらは見えなくなったようだぞ?」


 そんな事を考えていると、子供の姿は茂みに入り込んだのか見えなくなっていた。


「……追いましょう」


 それを見たカミーラが間髪入れずに提案し、それに異議は起こらなかった。真実を知らない者達(・・・・・・・・・)の判断として、それは妥当なものだからな。

 そこに、俺だけが異論を唱えるのは今はまずい。

 俺は警戒を厳にして、見失った子供の追跡に加わったんだ。


子供が見えなくなったんだ。安否を気にしてその後を追うのはおかしい話じゃないよな。

でもその子供の正体を知っている俺は、その事実を伏せたまま警戒感を高めつつカミーラ達と追跡したんだ。

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