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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
7.光る海の闇徒
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慮外の申し出

フィーナの言われたとおりに少年の宿命を覗き見たけど、そこには……何も映し出されなかったんだ!

 俺の垣間見た少年の宿命が画像として浮かび上がる。


「これは……何だ、こりゃ!? 映像が映っていない!?」


 でも、そこには何も映されていなかったんだ。……いや、白黒の砂嵐か?

 何かを意図しての映像ならそこから何かを想像する事も出来るだろう。それこそ画面が血の色だけで埋め尽くされてたって、そこに込められている思考を思い浮かべる事が出来るだろうな。

 でもこの映像じゃあ、本当にこの少年が何を考えてどうなっていくのかを読み取る事なんて出来ない。


「どんな生物だって、行動原理から思考が働くのよ。その結果が、運命を呼び寄せる。でも非生物に至っては、その限りじゃあ無いわね」


 同じく映し出されている映像を見ながら、フィーナはゆっくりと説明してくれた。


 なるほど、生物は思考に基づいて行動し、その結果が運命に左右される。だから必ず「ファタリテート」で覗いた宿命には、何らかの映像が映し出される筈なんだ。

 俺が行動を決定して視るのとそうでないので結果が違うのは、その意志ある行動が加味された帰結の1つなんだろうな。

 非生物にはその思考は無く、ただ与えられた命令を忠実に実行するだけだから運命や宿命なんてものには無縁なんだろう。どの様な結果になろうと、作られ思考を持たない非生物には関係ないんだからな。


「……と言う事は、あの少年から(・・・・・・)見える映像(・・・・・)から、こいつは非生物って事か」


 ファタリテートを使って視た少年の運命が明確に映像とならないって事は、つまりこの少年は生物ではなく非生物……魔法で召喚されたか式神の様に創り出されたか。ともかく、意思を持って行動していないって訳だな。


「わざわざ映像の全てを視なくても、僅かな情報だけで最低限必要を知る事が出来るわ。それをうまく活用すれば、複数の宿命を一度に覗き見る事が出来るでしょうね」


 一通り確認し終えた俺に、フィーナが結論を口にした。なるほど、出来るだけ多くの運命を垣間見る事が出来れば、それだけ状況を知る手掛かりになるかも知れないな。


「それに何度も使用してより慣れて行けば、この世界を維持する時間も延びて来るでしょうね。そうなれば1人に割ける時間も増えて来るでしょうし、もっと多くの人を確認する事が出来るかも知れないわ」


 そして追加として、新たにこのスキルの情報を付け加えてくれたんだ。この話は初耳だな。

 まぁ……以前からもっと「ファタリテート」を使う様に言われていたけどな。


「そしてされに熟練して行けば……」


 しかも、更にこのスキルには先があるようだ。より高等なスキルに変化するものがある様に、この「ファタリテート」も上位能力が隠されているらしい。……もっとも。


「……ここから先は、まだ内緒ねぇ」


 フィーネが簡単に教えてくれる訳がない。いや、これからも教えてくれるとは限らないだろうな。つまり、自分で見つけて調べてみろって事だろう。


「今はこれで十分だ。知りたい情報は手に入れたしな」


 だから俺は彼女にそれだけを告げたんだ。この世界を維持し続けるのに問題は無いかも知れないが、俺がこの世界で意識を保っているのにはもう限界みたいだ。


「そう。ま、くれぐれも頑張って使いこなせるようになってね」


 俺の言葉を受けてもフィーナは気分を害した様子もなく、どこか素っ気無い態度で返答して来た。今までもそうだったけど、神様ってのは人間みたいな感情とは少し違った反応をするんだろうなぁ。

 彼女がその台詞を告げると同時に、今見ている世界が霞み出した。恐らくは、この白黒の世界を維持する事を止めたんだろう。それと同時に、フィーナの姿も掻き消えていた。




 現実の世界へと戻った俺は、精神的な疲労感を抱いてフラリとよろけちまった。どうやらあの世界に長く滞在したり、複数人の運命を覗き見るには圧倒的に経験が足りないみたいだな。


「ちょ……アレク、どないしたん? 大丈夫か? 顔色、悪いでぇ?」


 すぐ近くにいたサリシュが、俺の異変に気付いて声を掛けて来た。現実の世界では1秒も経っていないんだから、突然体調が悪くなったように見える俺を心配したんだろう。


「あ……ああ。大丈夫だ」


 出来るだけ笑顔を見せて彼女に応えるけど、客観的に見ても平気には見えないだろうな。でも今は、そんな事を気にしている場合じゃない。


「カミーラの行先に心当たりがある。何人か……ディディとそれから……ヨウだな。俺に付いて来てくれないか?」


「わ……わかりましたですぅ」


 もしもカミーラが何らかの罠に掛かっているなら、俺1人で助けに向かうのは無謀ってもんだ。敵が何人いるのかすら分からない上に、相手は人間じゃあないかも知れないんだからな。

 俺の要望に、ディディは動揺しながらも少しホッとした表情を浮かべて応じて来た。

 ディディは集団戦にまだまだ不慣れなのか、動きがぎこちないのは分かっていた。ある程度活躍出来るだろうけど、逆に言うと居なくても問題ないかもな。

 ヨウは、単純に魔物との相性が余り良くない。他の水棲魔物もそうだけど、特に蟹烏賊(カブルカラマリ)のような軟体質を持つの魔物にヨウの得意とする打撃は効果が通りにくいんだ。

 あの強敵を獲物にするんなら、特に斬りつけ切断出来る武器が有効だろう。


「俺ぁ、別に良いぜぇ」


 そしてヨウも、そう言った事を痛感しているんだろうな。比較的素直に俺の要求に答えてくれた。

 ヨウの戦闘力は本物だ。奴が同行してくれるとなれば、これ程心強い事は無いな。


「……俺も、一緒に行って良いか?」


 そして最後に、サリシュに声を掛けようと考えていた俺へシラヌスが話し掛けて来たんだ。

 魔法使いも居てくれた方が有難いと考えていた俺にしてみれば、この提案は渡りに船だ。だけど、シラヌスの性格を考えれば何か裏があるとしか思えないんだけどな……。

 奴にとって、カミーラの問題は何の益にもならない事だ。手を貸して欲しいと頼んだところで拒否されるならまだしも、積極的に参加してくれる方がおかしな話なんだからな。


「ああ、頼む」


 ただ奴の思惑はどうあれ、シラヌスから申し出てくれるんならこれを断る理由なんて無い。

 こう言っては何だけど、奴のセンスはサリシュのそれを超えている。まだ年齢も低くレベルも高くない俺達だけど、シラヌスの沈着さはこの頃から頼りになったからな。


「サリシュ、ここはお前に任せた」


 そうなると、当然後衛の指揮はサリシュが執る事になる。後衛だけでなく、前衛への指示も彼女がしなければならないと言う訳だ。

 マリーシェやバーバラ、セリルは問題なく動いてくれるだろう。

 でもグローイヤやスークァヌは一癖も二癖もあり、彼女達を制御するのは一筋縄じゃあ行かないだろう。


「……分かった。任せときぃ」


 だからこそ、今後の大きな経験となる。そしてサリシュもそれが分かってるんだろう、厳しい顔つきで頷いてみせた。

 まぁ彼女も、それがどれだけ至難かを痛感しているんだろうな。実際の処、問題なのはグローイヤとスークァヌだけじゃあなく、マリーシェやセリルも従わせるには骨が折れるんだけどな。


「念の為に、これを渡しておく。使用の判断は、サリシュに一任するから」


 俺はサリシュに取り出した幾つかのアイテムを渡し、彼女はそれを受け取りながら頷いて了承した。

 俺がサリシュに渡したのは「ボデルの実」「ドゥロの実」「ベロシダの実」「マジアの実」だ。それぞれ攻撃力、防御力、素早さ、魔法攻撃力を一時的に上げてくれるアイテムで、そのレアアイテムでもある。

 レアアイテムなら、通常のアイテムよりも更に高い効果を発揮してくれるからな。万一の時を考えても、これならなんとかなるだろう。

 それを見つめるシラヌスの視線が気になったけど、多分これは興味からなんだろうな。付いて来てくれると自ら言いだしたのも、俺の持ってるアイテムへの好奇心からだろう。

 俺たちのレベルを考えれば、例えこれらのアイテムを手に入れてもおいそれと使うなんて出来ない。……もったいなくてな。

 だから実践して効果を試す事が出来る機会に飛びついたってところかな?


「……行くぞ」


 俺はそれだけを告げ駆け出した。3人も無言で頷くと、先を行く俺に追走する。

 まぁ心配しなくても、後でたっぷりと試させてやるよ。

 カミーラを連れて行った子供が生物でない時点で、何事も無く済ませる事が出来るとは思えないからな。

 先を行く俺が深刻な表情をしているのが伝わったんだろう、シラヌス達も知らずに引き締まった顔付きへと変わっていた。


ディディ、シラヌス、ヨウを引き連れて、俺はカミーラの後を追いかけたんだ!


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