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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
7.光る海の闇徒
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不穏の誘い

マリーシェ達とグローイヤ達に指示を与えて、俺はエスタシオンの元へと駆け出した!

でもまぁ……あのマリーシェとグローイヤが、大人しく共闘するなんてあり得ないか……。

 エスタシオンの元へと向かいながら、俺は後方を振り返り戦況を確認する。

 新たに出現した2体目の蟹烏賊(カブルカラマリ)へと向かったマリーシェ達は、もう接敵する距離まで迫っていた。


「おおおぉらああぁっ!」


 そしてやはりと言おうか、一番槍はグローイヤだったみたいだ! 彼女は咆哮を上げて巨斧を振りかざすと、飛び上がってそのままカブルカラマリに叩きつけた! ……んだが。

 魔物は足の一本でそれを受けると、その足が斬り割かれながらもそのままグローイヤを振り払った! 宙に浮いていた彼女は吹き飛ばされるような形になったけど、クルリと回転して見事に着地を決めた。

 足の先端を斬り落とされた蟹烏賊だけど、ダメージは殆ど無いと言って良いだろう。そして、その攻撃力も減衰していない。


「はあぁぁっ!」


 そしてこちらの先鋒は言うまでもなくマリーシェだった! 彼女の攻撃力はグローイヤよりも低く、足を切断すると言うまでには至っていないが無数の切り傷を与えていた。

 でも流石に魔物にとってはダメージも低いようで、カブルカラマリは彼女にも薙ぎ払う様な攻撃を加え、マリーシェはそれを躱す為に大きく後方へと飛び退き距離を取っていた。

 その後もヨウが、カミーラが、バーバラが一撃を加え、シラヌスとサリシュが魔法攻撃を与えていたがどれも決定打とはなっていなかった。まぁ、まだどちらも様子見段階だろうからこれは仕方が無いんだけどな。


「へぇ……やるじゃん、マリーシェ!」


「まだまだっ! これからよ、グローイヤ!」


 グローイヤの挑発的な言葉に、マリーシェも負けない語気で応じていた。正しく、売り言葉に買い言葉と言った風だ。

 それを後方で見ながら、シラヌスとサリシュは苦笑を浮かべている。格上の魔物を相手にしてもなお張り合い憎まれ口を互いに叩ける所は、2人とも負けず嫌いと言うか何と言うか……。


「あんた、さっきの話は忘れてないわよね?」


「さ……さっきの話っ!?」


 更にグローイヤは、蟹烏賊を牽制しながらマリーシェに話し掛けた。その顔には、何か楽しくて仕方がないと言った笑みが零れている。

 実際の処、余裕のあるグローイヤに対してマリーシェは魔物の攻撃から意識を逸らす事が出来ていない。これは単純に、彼女達のレベル差を表しているんだろうな。


「ここで決着を……着けるって話だよっ!」


 ニョロリとしなる様に繰り出された魔物の足を、グローイヤが強撃して弾き飛ばして答えた。軽戦士のマリーシェには、流石にこんな真似は出来ないだろうな。


「覚えてるわよっ!」


 力で押すグローイヤに対して、マリーシェはスピードを活かして対応している。襲い来る無数の足を速さで躱し、すれ違いざまに無数の攻撃を繰り出していた。

 剛と柔の違いはあれど、今の段階では双方ともに互角と言えるだろうか? ……まだグローイヤには余力が感じられるけどな。


「じゃあ……ここからは!」


「ええっ! 勝負よっ!」


 さっき話した共闘は何処へやら、結局は競い合う事になっちまったな。

 それでも連携は忘れていないようで、争いながらも上手く立ち回っている。サリシュとシラヌスも、後方からの支援に差し支えはないみたいだ。

 勿論、戦っているのはこの2人だけって訳じゃあ無い。ヨウにバーバラとセリルも、最前線の2人に呼吸を併せる様にして戦闘に参加していた。


 ……って、あれ? カミーラは……何処だ?


 こちらの戦力としては一番高いカミーラの姿が見えない事に、俺は思わず視線を巡らせた。そして、割と後方に居た彼女を見つけたんだけど……。


「あれは……子供か?」


 そこで見たのは、カミーラが子供と話している姿だった。いやあれは……保護しているのか?

 未だに戦場には、逃げ惑う一般市民の姿が見て取れる。真っ直ぐに避難したくても、多くの魔物と冒険者が大立ち回りを繰り広げている戦いの場からは安全に逃げ切れる訳が無いからな。

 そんな中で逸れた子供を助け出した……と考えれば、カミーラの状況もおかしな話じゃあ無いんだけど。

 ……何か、違和感がある。

 ここから見えるその姿は、助け出していると言うよりも話を聞いている? カミーラの顔には、どこか驚いている表情さえ浮かんで見えるんだが。

 しかし今は、そこを気にしている時じゃ無い。ましてや、ここからカミーラの元へと駆けて行っている場合じゃあ無い。

 まずはステージ上で備えているエスタシオンに、浜辺にいる冒険者達へ語りかけて貰わないといけないんだからな。

 俺はカミーラから視線を外すと、再びミハル達の元へと足を進めたんだ。


 ステージの上では、セルヴィが浜辺全体の状況を監視しつつミハル達へと何やら指示を与えていた。

 彼女達の使う「呪歌」や「聖歌」の効果は、そう長い間続くもんじゃない。効果が途切れたら、すぐにも掛けなおさないといけない魔法なんだ。

 そして、魔法の効果が持続している間は掛け直す事が出来ない。無論、重ね掛けも不可能だ。

 だから歌人(カンターレ)達は後方で陣取り、戦況に応じて次はどんな効果を戦士達に与えるか見極めないといけないんだ。


「セルヴィさんっ! エスタシオンのみんなに、戦場で戦う戦士達に語り掛けて欲しい事があるんだっ!」


 舞台の下までやって来た俺は、セルヴィが話し掛けて来る前に用件を伝えた。本当なら、たったこれだけでは内容を理解する事は出来ないだろう。


「……なるほど。あなたは彼女達に、協力して戦う様に呼びかけて欲しいのですね?」


 でも元冒険者であり状況把握に長けたセルヴィは、俺の言わんとする事を見事に汲み取っていた。

 全力で駆けて来て息が弾んでいる俺は、だから頷くだけで要望を告げる事が出来たんだ。


「確かに……あの魔物を相手にして、バラバラに戦っていては意味がありませんね。……ミハル、トウカ、カレン、シュナ。次の歌を唄う前に、拡声魔法を使って戦士達に語り掛けるのよ」


「「「「ハイッ!」」」」


 セルヴィの指示に、真剣な表情のミハル達が声を揃えて返事をした。この姿を視れば、彼女達もこの戦場で戦っているんだと実感させられるな。


「内容はそうね……『力を合わせて強敵に打ち勝って下さい』でどうかしら。月並みな言葉だけど、今は非常時だし分かりやすい方が良いでしょうしね」


 セルヴィの提案を聞いて、エスタシオンの面々は頷いて了承していた。確かに、アイドルらしい飾った言葉を考えている時間は無いし、何よりも万人に分かりやすい言葉の方が良いに決まってる。


「それじゃあ、そろそろ魔法の効果が切れるわ。みんな、スタンバイして」


 異論が出ない事にセルヴィも頷き指示を出した。それを聞いて、ミハル達はステージ上で等間隔を開けて配置に付いたんだ。




 エスタシオンが歌を唄い出す前に、俺は即座に踵を返していた。マリーシェ達の戦況が気になったのもそうだけど、何よりもカミーラの事が気に掛かったんだ。

 仲間達が戦っているのに、彼女だけが後方に下がり子供の相手をしているなんて不自然だからな。

 本当ならその役目はサリシュやディディ、シラヌスにスークァヌが負う処だ。……まぁ、シラヌスやらスークァヌが子供の相手をしている姿なんて想像出来ないけどな。


「サリシュッ! カミーラは何処にいるっ!?」


 現場について、俺は一番後方にいたサリシュに声を掛けた。彼女は魔法使いであり、後ろから全体の戦況を見守っているから事情も把握している……と思ったんだけど。


「……アレク? ……カミーラやったら、そこに居らへんか? ……あれ?」


 だが不思議な事に、サリシュもカミーラの姿を見失っていたんだ。普段のサリシュなら、そんな事はまずあり得ない。


「……俺も、彼女が何処へ行ったのか知らないな」


 その隣にいるシラヌスも俺が問い掛ける前に首を傾げて答え、近くにいたスークァヌも同様の意を示していた。

 前線で戦っているマリーシェやグローイヤならまだしも、後方で備えているサリシュ達が全く気付かないってのはやはりおかしいとしか言いようがない。

 こうなったなら、カミーラは何らかの理由でこの場を離れたか、そう誘導されていると考えるのが自然だろう。


 ―――ファタリテート!


 僅かに思案して、俺はこのスキルを発動させた!

 本来なら相手の運命や宿命を覗き見るこのスキルだけど、他にも有用な使い道がある。その1つが、時間を止めて周囲を観察出来るって事だ。

 スキルを発動させると同時に世界が白黒に塗り替えられ、動いている者は誰もいなくなった。……唯一、意識体となった俺を除いてな。

 カミーラの姿を見失ってから、そう時間は立っていない。

 この混戦の中で1人の人物を探すのは至難だけど、上空から周囲を確認すれば見つけ出す事も不可能じゃないだろう。


「……いたっ!」


 そしてその目論見は、見事に達成された!

 子供に案内されるように、カミーラは戦場から離れて別の場所へ向かっている様だったんだ。


行方の知れなかったカミーラを見つけた!

その姿だけを見れば、子供を避難させている様にも見えなくもない。

しかし……やはり違和感は拭えなかった。

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