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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
6.熱き浜辺の饗宴
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共闘の浜辺

エスタシオンの歌声は本物だ! その効果のお陰で、前線の戦士達に様々な魔法効果の恩恵が与えられたんだからな!

 戦場に響き渡る、少し場違いとも思える軽快な音楽。そしてそれに合わせて歌うのは、可憐なアイドルであり歌人(カンターレ)でもあるエスタシオンの面々だ。

 

 ―――おおおおぉぉっ!


 彼女達の〝歌の効果〟により、前線で戦う俺たちに戦闘を補助する魔法が次々に掛けられていった。それを実感した戦士達からは、歓声にも似た声が沸き起こる。

 ……いや、もしかするとこれは、エスタシオンのファンの歓喜なのかも知れないけどな。


 今この場で戦っているのは、およそ100組……約400人からなる冒険者たち。それだけの数の戦士達に魔法効果を与えるなんて、彼女達は本当にレベルの高い歌人だったんだなぁ。

 ただ歌を生業とするだけなら、別にレベルを上げる必要なんてない。各町や村を周り歌い続ける事で、その才能さえあれば技術は向上していくだろう。

 しかしその歌声に「呪歌」や「聖歌」の効果を与えるならば話は別だ。


「4人がそれぞれに違う特性の歌を歌えるようにしているなんてな。彼女達の意思なのか、それともセルヴィの育成方針なのか……」


 攻撃力に防御力、回復力や攻撃補助等を歌に込めるには、それに特化した「職業」を修める必要がある。一言に歌人といっても、種類が幾つかあるって話だな。

 恐らくだけど、ミハルは攻撃補助の歌を得意とした「攻助歌人(アタケ・カレネ)」。

トウカは防御補助を得意とした「防助歌人(ディフェンサ・カレネ)」。

ちょっと意外だけどカレンの「癒助歌人(リェチ・カレネ)」は回復補助。

激しい歌声を見せたシュナが会得したのは「幻助歌人(イルシオン・カネレ)」と言う、敵を幻惑する歌に特化した職業だろうな。

因みに歌人の使う歌は、魔法の様にそれぞれの効果を与える為の「呪文」が定められている訳じゃあ無い。決まった法則すら持っていない。

使用者が思いを込めて歌う事により、その職業に特化した効力を発揮させる事が出来るんだ。だから、曲やら歌詞には殆ど意味が無いと言っても良いだろう。


恐らくレベルもそれなりに高く、それぞれの職業に特化した「歌」を唄った事で、この場にいる多くの冒険者はその恩恵を受けた。

それは何も、前線で戦っている者達にだけ……って訳でもなく。


「うおおおおぉぉっ! ミハルちゃんたちの歌のお陰で、復活したぜええぇぇっ!」


 後方より、けたたましく叫びながら駆けて来たのはセリルだ。奴も冒険者だからエスタシオンの歌の効果を受ける権利はあるし、回復補助の効果で熱気と暑さにやられた体もかなり癒されたんだろうな。

 セリルは雄たけびと共に前線まで辿り着くと、そのまま勢いに任せて魔物の1体に攻撃を仕掛けて仕留めて見せた。

 俺たちのパーティ内では一番レベルの低いセリルでもここまで出来るんだ。ミハル達エスタシオンの歌の効果は本物だな。

 これなら、中衛で警戒と待機をさせていたバーバラも前衛に投入して良いだろう。


「セリルは俺とチームを組んで戦う! バーバラはマリーシェ達と合流して対処するんだ!」


 戦場では、常に臨機応変な対応が求められる。逆に言えば、柔軟な対応が出来ない者は程なくして命を失うだろう。


「……わかった」


 俺の指示に有用性を感じて従うバーバラも、返事こそ聞こえないけどそれに対応した動きをとるマリーシェやカミーラも、冒険者として随分と成長したと言って良いかも知れない。

 無論、そう言った状況の変化を目の当たりにしても無言で対処出来るサリシュだって相当なものだ。


「あっはああぁぁっ!」


 俺たちの隣では、嬉々として巨斧を振るい魔物を殲滅しまくるグローイヤが大立ち回りをしている。彼女は一撃で複数の魔物を屠るだけの技量を持っていた。

 ただ、パーティの動きとしては考え物だな。

 縦横無尽に暴れまわるグローイヤの動きに阻害されて、ヨウが上手く立ち回れないでいる。これじゃあ、チームとしては機能していないだろう。

 ヨウが大きく間合いを取って動く……ってのも考えられるけど、それだと今度は後衛のシラヌスやスークァヌがサポート出来ない。

 もっとも、これが彼女達の通常の動き何だろう。誰も文句は言わないし、それ相応に動いているからな。

 結果としてグローイヤ達は、俺達よりも遥かに多くの魔物をどんどん倒している。この調子なら、俺たちの一帯は程なくして魔物を退ける事が出来るだろうな。


 ―――このまま、何事も無く済めば……なんだけどな。


「あ……アレクッ! あれを見てっ!」


 何体目かの甲羅蛸(フェロナブルボ)を倒したマリーシェ達の方から声が上がる! 彼女達の指し示す方へと目を向けると、周囲の魔物よりも一際大きな影が出現していたんだ!


「あ……あれは、蟹烏賊(カブルカラマリ)かっ!? こんな浜辺に出現するなんて!」


 それを見た俺は、思わず大声を上げちまっていたんだ!


 カブルカラマリはその名の通り、烏賊の姿に足が10本あり、胴体は硬い甲殻で覆われて2本の巨大な鋏を持っている。巨大な烏賊と蟹が組み合わさったような容姿をしているんだ。

 海中でも陸上であっても動きに支障はなく、巨大なだけに攻撃力と体力が異常に高い魔物だ。ギルドの判定では確か……Lv25~28と言った処か。

 今の俺達だけで倒すのは難しく、グローイヤ達だけでは苦戦を免れないだろうな。


「な……なんて大きいの……」「……気付いた人達は混乱しとるでぇ」「ここへ来て真打登場……と言った処か」「……強そう」「おいおい……何かヤバくないか?」「……美味しそう」


 実際、出現地点の近くにいた冒険者の数名が、いともあっさりと薙ぎ倒されていた。圧倒的な力を前にしては、個別に戦っていても効果は薄いだろう。


「へぇっ! 倒し甲斐のあるのが出て来たじゃない!」「へっ! これで存分に力が振るえるってもんだ!」「お前達……ここからは俺の指示に従うんだ」「うふ……。みんなの素敵な姿を期待しているわぁ」


 そしてグローイヤ達は、強敵の出現に歓喜していた。彼女達は、今にも飛び出していきたくてウズウズしているのがすぐに分かったんだが。


「おいグローイヤッ、ヨウッ、シラヌスッ、スークァヌッ! ここは手を組んで奴を倒さないか?」


 それを止めたのは、俺の持ちかけた提案だった。グローイヤ達は、俺の方へ向けて訝し気な視線を向けて来た。その理由も、何だか想像つく話なんだけどな。


 冒険者は、それが特殊な依頼でもない限り手を組む事は少ない。互いにライバル視している面もあるし、下手をすれば戦う事態に陥る事も少なくないからな。

 如何に今の様に突発的な戦闘が始まったとは言え、共同で事に当たるってのはあまり聞かない話だろう。現にこの浜辺にいる冒険者達で、手を組んで戦っているチームは全くないと言っても良い。


「あれは強敵だ。お前達がどんだけ力に自信があっても、そう簡単には勝てないんじゃないか?」


 だけど、個別に戦って倒せるとは到底思えない相手だ。現に今も、戦いを挑んだ一組の冒険者達が蹴散らされていた。

 甲殻に守られた高い防御力と複数の足からなる攻撃は、余程レベルが高くなければ1つの冒険者グループだけで対処するのは不可能だ。そしてこの浜辺に、単独チームで渡り合える冒険者はいない。


「……良いだろう」


 グッと歯噛みするグローイヤ、閉口するヨウ、静観するスークァヌを代表してか、シラヌスが静かに答えた。さっきは嬉々とした事を口にしていたけど、冷静に考えれば今の俺達じゃあ太刀打ち出来ないのは理解出来るんだろうな。


「マリーシェ達はシラヌスの指示に従う形で動いてくれ。俺は一旦、エスタシオンの所へ行ってくる」


 こちらの指示に従ってくれるグローイヤ達じゃない。なら、提案したこっちが奴らの指図に従ってやるのが最善だろう。


「……まぁ、良いけど」


 とは言え、こちらの面子もシラヌスの命令を聞くって提案に心から賛成って訳じゃあ無いみたいだな。誰も何も言わないけど、不満はヒシヒシと感じられた。


「……なんで、あの娘等のとこに行くん?」


 そんな中でも比較的冷静に物事を見れているサリシュが、少し怪訝な表情で問い掛けて来た。作戦が決まり一斉に動き出すかと考えれば、俺だけが別行動と言うのも疑問に思うのは当然だろうな。

 それがアイドル達の元へ向かうと言う話にもなれば猶更か。


「俺は彼女達に、即席でも協力して戦う様に呼びかけて貰いに行ってくる。強敵に当たるには、出来るだけ力を合わせる必要があるからな。……それに」


 俺が全てを言い切る前に、その異変はすぐに見える形で現れた! 海の中から、もう1体のカブルカラマリが出現したんだ!

 襲ってきている水棲魔物の数を考えれば、蟹烏賊が1体だけとは言い切れなかったからな!


「わ……分かったわ! アレク、お願いっ!」


 流石に状況が逼迫(ひっぱく)していると考えたんだろう、マリーシェが焦った声で応じて来た。

 その返事と同時にグローイヤ達とマリーシェ達は海の方へ、俺はステージの方へと駆け出していたんだ!


出現した巨大水棲魔物を前に、共同で戦う事になった俺達とグローイヤ達。

でも、それだけじゃあだめだ!

もっと多くの冒険者達が、協力して戦わないとな!

だから俺はそれを呼び掛けて貰う為に、エスタシオンの元へと向かった……んだが。

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