鮮烈の舞台
通りでの悶着を終えて、俺たちは「水着美少女コンテスト」の会場へ来ていた。
ここで、少女たちの一味違う熱い戦いが繰り広げられる事になるんだ。
セルヴィの提案通り「水着美少女コンテスト」への参加を決めた俺たちは、早速会場へと移動していた。
この催しが行われるのが昼一番。その後、隣にある舞台で「四季娘」による歌劇が行われる予定だ。
「……割と広い会場なんだなぁ」
既に女性陣は準備に向かっている。舞台袖から客席を覗き見て、俺は率直な感想を述べた。
「そうね。この会場だけで1,000人の収容人数を誇っていますから。その後、この会場の仕切りも取り払われて舞台も合わさり、およそ3,000人規模のコンサート会場になります」
俺の隣で同じように会場へと目を向けているセルヴィが、俺の呟きに答えるように言った。確かに、2つの会場を併せればそれくらいになるだろうか。
しかし3,000人ってのは、またかなり大きい規模だなぁ。このマールの町で行われるイベントでも、最大級と言って良いんじゃないか?
「……それで、何であんたがここにいるんですか?」
それとは別に、俺はセルヴィへ向けて問い掛けた。それに彼女は、目を丸くさせキョトンとした表情をしている。
「私はエスタシオンの交渉管理人ですから、ここに居てあの娘達の行動を見守り管理する必要があるのですが……」
俺の質問を受けて、セルヴィはやや戸惑いながら返答した。その声音には「何をいまさら……」と言った疑問も含まれている。
彼女の心情はもっともなんだけど、どうやら俺の質問した意味をはき違えてるみたいだな。
「いや……そうじゃなくて、あんたはコンテストに参加しないのかって意味なんですけど……」
だから俺は、さっきの質問の真意を話してやったんだ。
この会場で行われる「水着美少女コンテスト」は、女性ならば特に参加資格に制限はない。〝美少女〟と銘打っているけど、実際に参加するのは20歳前後の女性だと聞いているしな。
「わ……私が!? 私が出ても、話にならないでしょう。今をときめくミハルたちやあなたの仲間たち、それに他の出場者の娘達に敵う訳がありませんからね」
またも驚きを露わとした表情で、セルヴィはそれだけを答えた。
最初こそ吃驚している顔をしていたが、理由を語る彼女には照れや焦りと言った感情は浮かんでいない。多分冷静に、そして心底そう考えているんだろう。
「そうですか? 俺はあんたが出ても、結構良い線行くと思うんだけどなぁ」
でも彼女のその答えを、俺はそのまま受け入れる事は出来ずにそんな事を口にしていたんだ。
客観的に見てもセルヴィは美人でスタイルも良い。ミハルたちやマリーシェ達のように年相応の〝可愛らしさ〟は確かにないけど、それを補って余りある〝知的な美女〟の風情が醸し出されてるんだからな。
逆に出場者がその〝可愛らしさ〟で勝負するなら、案外良いところまで行くんじゃないかと本気で思ってるんだ。
「……あなたは変わっていますね。あれほど輝きを振りまいている存在がいると言うのに、それに目を奪われる事無くそんな評価が下せるんですから」
どこか呆れた様に、それとも感心した風にセルヴィはポソリと呟いた。どうやら彼女は、本当にそんな事なんて考えた事も無かったんだろうな。
まぁ、見た目は15歳でも中身は30過ぎのおっさんだからなぁ……。ミハルたちやマリーシェ達の魅力も良く分かるけど、セルヴィの良い処も理解出来るんだ。
「まぁ、出るも出ないもあんたの自由でしょうし。俺がどうこう言う話じゃあ無いですね」
とは言え、別にどうしてもセルヴィに出場して欲しいって話じゃあ無い。俺と彼女の会話は、この台詞で一応の終わりとなったんだ。
そして30分後。
『はあぁいっ! お集りの皆さん! 盛り上がってるかあぁいっ!』
いよいよ「水着美少女コンテスト」が開始された! 壇上に上がった司会者が、満員の客席へ向けてマイクを向ける!
「イエエェイッ!」
それに殆どの観客が大声で応えた! その音量は、まるでこの砂浜を震わす程に熱狂的だ!
「……んん?」
舞台の傍でその様子を見ていた俺は、その最前列に聞き知った声、見知った顔を見つけたんだ。
「……セリルの奴。こっちにも、ちゃっかりと参加してるのか……」
それは言うまでもなくセリルだった。奴は最前列にかぶりつき、狂ったようなハイテンションで騒ぎまくっている。
確か奴はエスタシオンの大ファンだったからな。彼女達が参加するこのコンテストを見逃す訳が無いか。
でも、もしもあいつがマリーシェ達も参加するって知ったらどんな顔するだろうな。
それ以前に、既に俺たちがミハルたちと顔を合わせて会話したなんて聞かされれば、さぞかし悔しがることだろう。
『それじゃあ、細かい説明は無しだあぁっ! 早速、コンテストを開始するぜぇっ! エントリイイィナンバアアァァッ、ワアァンッ! コンテストは常連のこの娘だあぁっ!』
そうしている内に、司会者は早速参加者の紹介を始めた。それに合わせて、舞台袖からは颯爽と水着姿の少女が現れて舞台中央でポーズを取っている。
その都度、観客は大歓声で讃えていた。
トップバッターにコンテスト慣れしているという少女を選んだのは、人選の妙と言った処か。素人同然の娘を選出しちまったら、この雰囲気に呑まれてまともにアピールなんて出来なかっただろうからな。
若く可愛らしくスタイルの良い少女たちが、MCの呼びかけに応えて次々と壇上に現れる。それに合わせて、会場の熱気もどんどんと急上昇しているのが分かった。
「……すげぇな」
その勢いに呑まれて、俺は思わずそんな感想を溢していた。
前世でも、色々とコンテストは観覧したし参加したりもした。でもそれはどちらかと言えばお堅いものが多く、こんな競演会と言うよりも品評会と言ったものが多かったんだ。
「ふふふ……。これからピークに向けて、まだまだ興奮は高まりますよ。……あら? 次はあの娘のようね」
参加総数は20人だと聞いている。そして、すでにその半分が壇上に上がっている。と言う事は、ここからは俺の知人たちが相次いで出場するって事だ。
「イエエェイッ!」
そしてその1番手は、何とグローイヤだった。
彼女は満員の観衆を前にしても物怖じした様子はなく、それどころか心底楽しんでいるみたいに衆目へ向けてVサインを向けていた。
「イエエエェェイッ!」
それに、1,000人からなる歓声が応える! 正に今、会場は興奮の坩堝だった!
グローイヤの格好は、どちらかと言えば普段と大差ない。
彼女は常に、ビキニ型の露出が多い鎧を装備している。それが今は、ビキニの水着に変わっただけだ。
赤いビキニの水着には飾り気がなくシンプルなものだったんだけど、だからこそ彼女の引き締まった肉体美が露わとなっていた。
特に胸が大きいとか腰が引き締まっているって訳じゃあ無い。どちらかと言えばそれは、年相応ってところだろうな。それまでに出場していた少女たちの方が、悩ましさで言えば上を言っていただろう。
でもグローイヤには、それを補って余りある〝筋肉美〟があったんだ! 程よく焼けた肌に一部の無駄も無い張りのある肢体。
いつもは口汚く生意気な態度の彼女だけど、こう言った場では物怖じしない挑発的な表情が観客受けは良いみたいだ。
「……へぇ。意外に好評だなぁ……」
そんな意外性を見せつけられて、俺は思わずポツリと呟いていた。
考えてみれば、グローイヤも今は15歳の少女だからな。何も知らない客席からは、これまでにない快活な少女にしか見えないんだろう。
「あら? あなたでも見落としがあるのね。あの娘もそうだし、連れの娘も中々のものよ? それに……あのマリーシェさんたちも……ね」
そんな独白を耳聡く聞きつけたのか、セルヴィが俺に補足説明してくれた。
どうにも俺には前世からの先入観があったみたいで、今世のグローイヤの事をちゃんと見れていなかったみたいだ。
『続いてはああぁっ! この娘だああぁっ!』
盛り上がる会場へと向けて、司会者は次の少女を壇上へと招いたんだ。
グローイヤは、俺の想像を超えて観客に高評価だった。
そして次は、恐らくは……スークァヌだろうな。




