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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
6.熱き浜辺の饗宴
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常夏の三つ巴

常夏の陽射し射す通りで向き合うマリーシェ達とエスタシオンの面々。

そこへ、どこか鋭い声音が響き渡ったんだ!

 澄んだ陽射しの照り付ける通りで、エスタシオンの面々と俺達は対峙している。と言っても実際はトウカとマリーシェ達が対立しているって図式なんだけどな。

 ミハルやカレンにシュナはトウカを宥める行動を起こしているし、こちらもカミーラとディディは加わっていない。

 とは言え、見目麗しい9人の少女が往来で足を止めて揉めているんだ。俺達を取り囲むように、すでに多くの通行人が人だかりを作っている。……そこへ。


「もう、あなた達。一体何をしているの?」


 人だかりの輪の外から鋭い声が投げ掛けられたんだ。頭に熱の上っていた一同も、思わずそちらへ振り向いてしまう程に良く通る声だった。

 そしてそこには……。


「マ……交渉管理人(マネージャー)……」


 彼女達の行動を管理し催し(イベント)を手配する女性が立っていたんだ。確か名前は……セルヴィエンテ=ディーナーと言ったか?


「あなた達はただでさえ注目されやすいんだから、こんな所で騒ぎを起こしてどうするの?」


 やれやれと言った態でセルヴィエンテはエスタシオンの面々に注意を与えた。でもそれは優しいと言うよりも、どちらかと言えばキツイ言い回しに聞こえる。


「……ごめんなさい」


 それが分かるんだろう、トウカはしゅんとして小さく謝った。それに併せてなのか、他のメンバーもどこか小さくなって顔を伏せていた。

 それはただ単に怒られたから委縮しているって訳じゃあ無い。


「あなた達はプロなんですからね。いつ、どこに居てもその事を忘れてはダメよ」


 こういう事は何回も言っているんだろうな。エスタシオンからは一切の反論も起こらない。

 彼女の言う通り、今のエスタシオンはプロとしての意識が希薄だったんだろうな。

 そしてこの急展開に、マリーシェ達も戸惑っていた。そりゃあ、さっきまで言い争ってた相手が今ではションボリとしてるんだ。どうすりゃいいのか分からないのも仕方が無いだろうな。


「お久しぶりです、ディーナーさん」


 このまま押し黙って動きを止めていても、それはそれで注目されちまう。とにかく俺は、この雰囲気をどうにかしようと彼女へ話し掛けた。


「お久しぶりね、覚えていてくれて光栄だわ。私もあなたの事をアレク……と呼んで良いかしら? 私の事もセルヴィと呼んでくれて構わないから」


 俺が覚えていたように、彼女も俺の事を記憶しておいてくれたみたいだ。ミハルたちへ向けていた有無を言わせぬ威圧感を解いて、俺への気配はとても友好的だ。


「昨日の舞台を拝見しました。圧巻の歌と踊りで感動しました。以前よりも、更に洗練されていますね」


「ありがとう。この娘達も毎日努力していますからね。そう言って貰えると、きっと励みになりますわ」


 俺は素直に、昨夜のステージでの感想を口にした。これは決してお世辞ではなく、確かに俺たちは舞台を舞うエスタシオンの姿に魅入ったんだからな。

 それにセルヴィは素直な謝意で返してきた。本当ならマリーシェとミハルたちもこういうやり取りが出来るはずなのに、なんで言い争うんだろう?

 そんな考えを巡らせていると、その視線をミハルたちからマリーシェ達へ向けて暫し思案していたセルヴィが。


「ところで、相変わらずあなた達は顔を併せれば揉めているみたいね。それならここは1つ、勝負でもしてみれば良いんじゃない?」


 なんて、思いも依らない提案を口にした。それに俺は勿論、マリーシェ達も目を丸くして絶句していたんだ。

 てっきりここでの口論を咎められ解散させられると思っていた一同からは、何の言葉も発せられなかった。


「し……勝負って、また物騒ですね。まさか、ミハルたちと戦えって言うんですか?」


 確かエスタシオンの面々はこの後、昨夜も使った舞台で午後の公演を行うはずだ。その為に、セリルは朝からそこで待機している筈なんだからな。


「いえいえ……。そんな方法は提案しません。こちらもこの後には予定もありますので」


 セルヴィの提案に疑問が隠せない俺に、彼女は微笑んで俺の考えを肯定する意見を口にしたんだ。でもそれなら、どうやって勝負なんて行うんだ?


「確か今日は、私たちのイベントの直前に『水着美少女コンテスト』が行われる筈です。ミハルたちも参加予定なので、良ければそちらの娘達も応募してみてはどうかしら? その順位で勝敗を付けるの。どうかしら……面白いでしょ?」


 って言う事を考えていたら、とんでもない話を持ち掛けてニヤリと笑みを浮かべたんだ。その顔には、何やら企みみたいなものが感じられるんだが……。


「え……ええっ!? 水着……コンテストォ!?」


「……嫌や。……出たないわ、そんなん」


「人前でその様な……私には無理だ」


「……絶対……断る」


 そんなセルヴィの案に、マリーシェ達は一斉に反対を口にした。

 確かに「水着コンテスト」となれば、多くの衆目にその姿を晒さなければならない。自信があるかどうかはともかくとして、恥ずかしさは一入(ひとしお)だろうな。


「でも私は、出てみても良いですぅ」


 そんな中で唯一肯定的な意見を述べたのは、以外と言うかディディだった。もっともその理由は……。


「ちょっ!? あんた、本気なの!?」


「だって、参加するだけで屋台の半額券が貰えるのですぅ。これは、お得なのですぅ」


 つまりは、そういう事だった。セリヴィから「水着美少女コンテスト」の詳細が書かれていた広告を受け取り目を通していたディディは、その賞品に興味を惹かれたらしい。


「……そらぁ、お得なんは分かるけどなぁ」


「うむ……。それだけの理由で、水着姿で衆上の前に立つなど……」


「……死んでも……ごめんだ」


 そんなディディの決意……と言うか目的を聞かされても、マリーシェ達の翻意は得られなかったみたいだ。そりゃあ、それで喜ぶのはディディだけなんだからなぁ。


「ふぅん……。あんた達、自信が無いんだ?」


 そこへ、トウカの挑発とも言える言葉が投げ掛けられた。

 既に出場が決まっているエスタシオンの面々に躊躇いが無く、頻繁に人前で歌い踊っているんだからな。こう言った人の目に晒される舞台にも慣れているだろう。


「そうねぇ……。あんた達みたいに普段から人目に触れる様な事をしている人に比べれば、自信は無いし興味も無いわね」


 明らかにそれと分かるトウカの台詞に対しても、マリーシェが煽られるような事は無かった。これは彼女が成長した……と言うよりも、ただ単に互いの生業が違うと認識しているし、何よりも本当に興味が無いんだろうな。

 逆にこれには、(けしか)けたトウカの方が苦い顔をしている。

 本当なら、これでこの話は終わりになるだろう。何せ、セルヴィの提案に乗らず話も有耶無耶になりつつあるんだからな。

 普通に考えれば、ここでセルヴィが撤収の合図を出せばそれぞれこの場を離れ、これ以上の揉め事にはならないだろう。……何でそうしないんだろう?

 何かを待っている……いや企んでいる様なセルヴィの思惑なんて俺の方でもどうでも良い。ここは俺の方から離別を口にしようか……なんて考えたんだが。


「ああっ! ここにいた……じゃなくて、こんな所で何してんのよ、アレクゥ?」


 そこへ、更にこの事態を混沌とさせる声が齎されたんだ。どこかで聞いた事のある声の主は、人垣をかき分けて俺たちの前までやって来た。


「グ……グローイヤ!」


「……あんたら。……何でこんなとこにおるん?」


 それはマリーシェ達の言う通り、グローイヤ達だった。無論その後ろにはシラヌス、ヨウ、スークァヌもいる。

 見た所、彼女達はたった今ここへと到着したみたいだな。旅装束は勿論だけど、身体の至る所がわずかに汚れているのがその証拠だ。

 しかし、サリシュの言う通り何故奴らはここにいるんだ? 彼女はただ単に忌避感から出た台詞だろうけど、俺の考えは少しそれとは違っていた。


 グローイヤ達のレベルを考えれば、もっと先へ進んでいておかしくない。

 俺達でさえこの町やその周辺は、本来なら少し物足りない地域となるだろうか。それなら、グローイヤ達にしてみれば完全に格下の怪物や冒険者の集う場所なのに違いないんだ。

 俺の知るグローイヤ……いやシラヌスなら、そんな非効率な事をする筈がない。俺は探るようにグローイヤとその後ろにいるシラヌスへと目を向けたんだが。


「べっつにぃ。あたい等が何処に居ても、あんた等には関係ない話だねぇ」


 理由をはぐらかすグローイヤだが、俺の視線に気付いたシラヌスはこれ見よがしに大きな溜息を吐いて見せたんだ。それを見て、俺の方も察していた。


 ……なるほど。これは、グローイヤの気まぐれかぁ……。


 パーティの頭脳はシラヌスだろうけど、リーダー的存在はグローイヤなんだろう。彼女の決定に、誰も逆らえないってのが本当の所だろうな。

 ……いや、逆らっても無駄って事か。


「そんな事より、あんた等。こんなとこで、一体何してんのさ?」


 そしてグローイヤは、そのまま疑問をマリーシェ達へとぶつけたんだ。


グローイヤ達の出現で、また事態がややこしくなってきた。

とりあえず、これ以上厄介な事にならなきゃ良いんだけどな……。

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