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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
6.熱き浜辺の饗宴
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炎熱の対立

翌日、俺たちは昨夜の熱気冷めやらぬマールの町でのんびりとしていた。

まぁ……セリルはまだ興奮状態みたいだけどな。


 翌日も俺たちは、この町で自由に過ごす事とした。

 俺たちは、この町に仕事をしに来た訳じゃないからな。基本的には自由行動で問題無いし、団体行動を強制するものでもない。……それなのに。


「ねぇねぇ、アレクッ! これ、どうかな? 似合う!?」


 露天商で綺麗なアクセサリーを見つけたマリーシェが、嬉しそうに俺へ向けて意見を求めて来た。差し出された彼女の手の上には、綺麗な橙黄色の宝石が嵌められた髪留めが乗せられている。


「ああ、そうだな。でもマリーシェには、こっちの色の方が似合ってるんじゃないか?」


 そんな彼女に、俺は同じ形で宝石が紺瑠璃色の物を勧めた。

 どちらもデザインや宝石の質に問題はないけど、マリーシェが最初に見せてくれた方の石は彼女の美しい金髪と被ってしまう。これじゃあ、折角の装飾としての髪留めが意味を成さないからな。


「……ほんまやぁ。こっちの宝石は、マリーシェの瞳の色みたいに綺麗やしなぁ」


 そんなやり取りを見ていたサリシュが、俺の持つ髪留めを見て感想を述べた。それは正しく、俺がこちらを選んだ理由だったんだ。


「ア……アレクよ。これなどは……どうだろうか?」


「……これは……似合うかな?」


「あの……どっちが美味しそうですか?」


 マリーシェとのやり取りを切っ掛けとして、カミーラやバーバラも各々の選んだアクセサリーやら帽子なんかを持って来て俺の感想を求めて来た。

 キャイキャイとファッションに興味を示し賑やかにしている彼女達を見ると、本当に年相応の少女たちにしか見えないな。……まぁ、ディディは平常運転だけど。


 こんな感じで、何故だかマリーシェ達は俺と一緒に行動する事を選んだみたいだった。折角色々と見て回れる機会だってのに、結局みんなで動くんだからなぁ……。

 それに最初こそ俺の後を付いて来ていた彼女達だったけど、結局俺の方がマリーシェ達の後ろで様子を伺う事になるんだからなぁ。


「それにしても……セリルはどこまで行ったんだろう?」


 殺到して来た彼女達を押し返しながら、俺はとっさに思いついた事を口にした。

 恐らく奴がいれば、ここで最も騒がしい存在になってただろう。マリーシェ達が安らかに楽しめているのは、その喧しい人物がここに居ないからに他ならない。


「……ふん。あいつやったら絶対……浜辺やろ」


「そうだな……。今日の午後からの舞台は絶対に最前列で観賞すると息巻いていたからな」


 俺の呟きに、サリシュとカミーラが興味なさげなままで吐き捨てる様に返してきた。その様子は、本当にどうでも良いと言った風情さえ感じられる。

 まぁ朝早くから置手紙だけを残して、誰にも顔を併せずに出かけた理由がこれじゃあ……そりゃあ呆れられるよなぁ。




 昨夜は近くの浜辺に設けてある特設ステージで、以前に会った「四季娘(エスタシオン)」の歌会(コンサート)が盛大に開かれていた。そして俺たちも、その舞台を見に行ったんだ。


 ―――それは……圧巻だった。


 大勢の観客を巻き込んだ白熱のステージ! ファンを魅了して止まない素晴らしい歌声! そして、心を捉えて離さない妖精の如き姿をした4人の少女たち。

 俺たちが見に行った時にはコンサートも終盤だったけど、それでも声を無くして魅入ってしまったんだからな。最初から見ている客たちは、それはもう心酔していた事だろう。

 そしてそれは、セリルも同じみたいだった。


「でも? まぁ? 煩いのがいなくて清々するけどね」


 マリーシェの台詞は、聞く限りでは嫌味が含まれている様にも感じる。でも実際は、彼女の表情は本当に清々しいものだったんだ。しかもそれは、他の面子も同様だったらしい。


 ……セリルよ。……お前の評価は、絶賛急降下中だぞ。


 兎に角、マリーシェ達が楽しんでくれているなら問題ない。セリルも、奴なりに十分気分転換出来ているだろうしな。


 ただ……奴にとってその別行動は、これまでにないほどの後悔に苛まれる結果となったんだ。多分……死ぬほどな。


「あっれぇ!? あんた達は確かぁ……」


 商店を覗き見ながら歩く俺たちの前方から、素っ頓狂な声が掛けられた。どこかで聞いた声に、俺たちの視線は自然とそちらの方へと向けられた。

 そこには、深く鍔広の帽子を被った少女が俺達を指さして立っていた。

 帽子から覗き見える短い髪の色はオレンジ。引き締まり健康的と思える身体は程よく焼けていて、ボーイッシュな立ち居振る舞いと相まって快活さを醸し出していた。

 今は大きな濃い色の眼鏡(サングラス)を付けているけど、それをずらして俺達の方を見ている。そこには、赤い瞳がランランと輝いていた。


「確か、アレク……?」


 声を失って立ち尽くす俺たちに向けて、その隣に立つ少女が尋ねて来た。

 同じく幅広の帽子、そして大きなサングラス。だけど見える髪の色は美しいピンク色で、清楚感のある水色のノースリーブワンピースを着ている。

 やはり眼鏡をずらして俺たちを見る金色の瞳は、驚きとも喜びとも判断出来る。声もどこか喜色ばんでいるしな。


「あ……あの……。きぐ……」


「こんな所で出会うとは、本当に奇遇ですね。それとも……運命かしら?」


「はう……」


 その後ろから、一際スタイルの言い黄色い髪の女性が話そうとして……その言葉は隣の黒髪が美しい少女によって取られていた。

 同じように鍔広帽でサングラス、覗く瞳の色は涼し気な氷結蒼(アイスブルー)。一見すると冷たい印象のスレンダーな少女だが、驚きを露わとしたその表情からは決して冷淡な性格ではない事を示していた。

 そして……黄光色の髪の少女はどこか気弱で引っ込み思案と言った印象なんだが、その身体的特徴はとても大人しく控えめだとは言い難かった。

 バーバラと同じかそれ以上の……何とも豊かな胸が周囲の異性の目を惹ていた。これがバーバラなら嫌悪を以て辺りの男どもを威嚇するんだろうけど、彼女はそれを気にした様子はない。多分……慣れているんだな(・・・・・・・・)


「あ……あんた達はっ!」


「……四季娘(エスタシオン)


 俺が彼女達に応じる前に、マリーシェとサリシュが声を上げた。それも、その声音にはどこか疎んじている色が混じっている。


 言うまでもなく、俺たちの前に現れたのは……エスタシオンの面々だったんだ。


 もしもここにセリルがいたならば、それはもう大騒ぎだっただろうなぁ……。ある意味で、居なくて正解だった訳だ。


「ひ……久しぶりだな。確か……ミハル、トウカ、カレン、シュナだったよな?」


 マリーシェ達には含む処があるんだろうけど、俺としてはそんな気持ちなど全くない。顔見知りが俺達に気付いて声を掛けて来たんだ。それに応えるのは別に不思議な事じゃあ無いだろう?

 でも何故だか俺が返事をした事で、マリーシェ達の鋭い視線が俺へと集まったんだ。……なんでだよ。


「やっぱりアレクだったのね? こんな所でまた会えるなんて思ってなかったから、とっても嬉しい」


 人々を魅了して止まない満面の笑みで、ミハルが俺へと一歩近づいて来た。

 その行動に別段意味があったとは思えないんだけど、それをきっかけにマリーシェ達の雰囲気が一気に剣呑なものへと様変わりしたんだ。


「私たちは、別に嬉しくもなんともないけどね!」


「……こんな所で……何をしているんだ?」


「……むぐむぐむぐ」


 マリーシェが啖呵を切り、バーバラが挑発的な台詞を吐いて、ディディが口一杯にお菓子を頬張っている。これじゃあ、喧嘩を売っているみたいだ。


「あら、あなた達もいたのね? 気付かなかったわ」


「ちょ……ちょっとぉ……。トウカちゃぁん……」


 もっとも、相手は相手で売られたら高値で買う事も辞さない構えだったんだけどな。トウカの戦闘的な台詞を聞いて、シュナはアワアワと慌てている。


「もぅ……。みんな、もうちょっと穏やかに話せないの? アレクが困ってるじゃん」


 ただ、全員が戦闘態勢に入っているって訳でもなかった。シュナやミハルと同様に、カレンもどちらかと言えばこの対立に辟易しているし、カミーラも積極的に関わろうとはしていない。

 前回は4対4の対峙になったけど、今回はそうではないようだった。

 とは言え、こんな人目のつく場所でうら若く可愛い少女たちが言い争っていたら嫌でも衆目に止まっちまう。


「お……お前たち、とりあえず……」


「もう、あなた達。一体何をしているの?」


 俺が双方に割って入ろうとしたその時、ミハルたちの最後方から鋭い声が投げ掛けられたんだ。



マリーシェ達とトウカ達は、一歩も引かない構えだ。

これじゃあ、折角変装しているのに意味がない。

そこへ、どこか厳しそうな声が投げ掛けられたんだ! ……それは。

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