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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
6.熱き浜辺の饗宴
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浜辺の妖精たち

ようやくたどり着いたマールの町だけど、気候は冬から夏へ急変。

暑さにやられて、マリーシェ達はヘロヘロだった。

まずは一休みして、動き出すのはそれからだよなぁ。

 食事を食べ水分を確りと補給して涼を取って休憩すれば、体力や活力は回復するもんだ。特に〝元気〟って奴は、瞬く間に復活する。


「うっわあぁっ! 綺麗な海ぃっ!」


 波打ち際まで駆け寄ったマリーシェはキャッキャと大騒ぎしている。


「……ほんまに塩っ辛いねんなぁ」


 そんなマリーシェとは対照的に、サリシュは寄せる波に足を付け海水を救い上げるとペロリと舐めて感想を漏らしていたし。


「こちらの海の水は随分と温かいのだな」


 カミーラは故郷を思い出しているのか、その感想も感慨深い。


「……でも……風が気持ち良い」


 海より吹き付ける風を受けて、そう呟くバーバラもどこか楽しそうだ。


「やっぱり、海の幸っておいしいのですぅ。もっと食べたいですぅ」


 もっともディディに至っては、会話が噛み合っているのかどうか疑わしい見解を示してるんだけどな。

 このように、元気を取り戻した俺たちはざっと町を見て回り、今は随分と陽の傾いた海岸にやって来ていた。初めて海を見た者もそうでない者も、やっぱり海へ来ると(はしゃ)いじまうってのは誰でも同じみたいだな。……ただし。


「くっそおぉっ! 何でみんな、水着じゃないんだよぉっ! 確か全員、町で水着を買ってたよなぁっ!?」


 セリルの魂からの慟哭が告げている通り、俺たちは全員軽装であっても水着姿って訳じゃあなかった。でもまぁ、そりゃあ当然だろ。

 如何にこの地方が常夏であっても、夕方になり夜になれば随分と気温が下がる。夕涼みに来る者がいても、暗い海で泳ぐ酔狂な者は殆どいないからな。……まぁ、そんなイベントも無い事は無いんだが。

 兎も角夕方に差し掛かろうって海に、わざわざ新品の水着に着替えて入る奴はいないって話だ。

 とは言え、折角美しい海が目の前にあるんだ。泳がないまでも、近付いて見るのも悪くないだろう。……セリルはこれ以上ないってくらいに落胆してるけどな。


「あっはははっ! それっ、それっ!」


「ちょ……やめぇや、冷たいやん」


「ふふふ……。ならば、マリーシェにも同じ思いをしてもらおう! そぅれ!」


「……激しく……同意」


「きゃあっ、きゃあっ!」


「今夜の食事は何なのですぅ?」


 俺の目の前では今、5人の可愛らしい少女たちが夕焼けの海辺で楽し気にじゃれ合っている。まるで絵にでもなりそうな、平和で綺麗な一面だ。

 打ち寄せる波に戯れるマリーシェ達を見ていると、彼女達が冒険者だと言う事を忘れてしまうな。ここから見ている限りでは、この町へ遊びに来ている少女と何ら違いが無いように思える。

 もしかすると、別の人生ではそう言った和やかなものもあるかも知れないな。血生臭い冒険者家業ではなく、普通の少女として過ごすマリーシェ達……か。

 そんな事を考えている時点で、俺は心底中身がおっさんなのだと痛感させられる。多少極端だけど、セリルの反応こそが年相応なのかもな。


「アレクゥッ! あんたもこっちへ来なさいよぉっ!」


 微笑ましくそんな光景を眺めていた俺に、マリーシェ達が声を掛けて来た。見れば、5人が俺に向けて手を振っている。


「ちょっ! 何でアレクは誘って俺には声が掛からないんだよぉ!」


「……あんたは呼ばんでも来るやろ」


 そんな彼女達に向けてセリルが不満を露わとするも、サリシュが容赦ない一言で斬って捨てていた。

 そんな辛辣な対応を取られているというのに、当のセリルはもう彼女達の方へと駆け出している。……ったく、なんて打たれ強いんだよ。

 そんなやり取りを見ながら、俺も童心に戻るつもり(・・・・・・・・)で海へ向けて歩きだしたんだ。




 陽も水平線の向こうへと落ち、辺りもすっかり夕暮れ色に染まった。本当ならこれで1日が終わり、俺たちも宿に戻って休息に入る処なんだけど……この町じゃあ、まだ今日と言う日は終わらない。


「……この……音楽」


 真っ先に気付いたバーバラの言う通り、遠くの方から楽し気な音色が聞こえてくる。良く見れば、遠く海岸線の続く向こうが賑やかな明かりを点していた。


「ああっ!? もう始まっちまったのかぁっ!?」


 それを確認したセリルが、大袈裟とも思える仕草で頭を抱えて絶望に打ちひしがれていた。そんな奴の台詞で、聞こえてくる祭囃子の正体が分かったってもんだ。


「じゃあ、早速見に行くか」


 何を……とは言わなくても、全員が何の事かを理解していた。それは昼間に宿で知った「四季娘(エスタシオン)」の歌会(コンサート)の事だった。

 もっとも俺がそれを口にした事で、女性陣は一様に表情を変えた……さらに言えば嫌そうな顔を浮かべていたんだけどな。


「……本当に行くと言うのか?」


 タップリと間を取って、カミーラが重い口を開き尋ねて来た。質問の態を取っているけど、どちらかと言えばそれは信じられない……行きたくない見たくもないと言う気配がビンビン含まれていた。


「ま……まぁ、俺は行くけど……。お前たちは……どうする?」


 別に、嫌なら行かなけりゃ良い。見たくないなら見なけりゃ良いだけの話だからな。何も俺が強制してる訳でも無いし。


「ど……どうって言われても……」


 俺が「行く」と言う意思をハッキリと示したせいで、険悪だった彼女達の雰囲気に困惑の成分が加わっていた。

 今は自由時間で、基本的には何処へ行っても問題ない。夜通しでどこかへ行かない限り、誰もすぐには心配しないだろうしな。

 ただどうも、マリーシェ達はそれぞれに動くよりも俺の後に続きたいらしい。……まぁ初めての町をたった1人で歩き回るってのは、それなりに勇気が要ったりするからな。


「お……おい、アレクゥッ! 行くなら、早く行こうぜっ!」


 そんなやり取りを横目で見ていたセリルが、どこか焦ったような口調で声を掛けて来た。既にエスタシオンの舞台(ステージ)は始まっているんだから、奴が焦る気持ちも分からんでもないか。


「……それで、お前たちはどうするんだよ?」


 本当はそんな事を聞く必要なんて無いんだけど、一応俺はマリーシェ達へ向けて確認した。


「ううぅ……」


 俺のフリ(・・)に、マリーシェは唸るような声で応えて来た。それは、返事が決まっているのにその一言を口にしたくないって言う葛藤が感じられた。……いや、そこまで断腸の想いなら来なきゃいいのに。


「……行くに決まってるやん」


「……そうだな。行くしか……ないか」


「……行かない……選択肢はない」


「そうですぅ。もっと美味しい物を探すですぅ」


 そんなマリーシェの呻きをサリシュが、カミーラが、バーバラが翻訳した。……ディディは平常運転だ。


「それじゃあ、早く行くか」


「そうだぜっ! 早く行かないと終わっちまうぅっ!」


 全員の同意を確認して、俺たちはセリルの言う通りエスタシオンのコンサートが行われている浜辺へと急いだんだ。




 ステージは大盛り上がり(ビルド アップ)! 会場は最高潮(クライマックス)を迎えていた!


「次ぃっ! いっくよぉっ! みんな、付いて来てねぇっ!」


 舞台中央で歌い踊る4人組の1人、ミハルが観客へ向けて声を張り上げる! 他の3人……トウカ、カレン、シュナも、目を向けてくれる人々に手を振りアピールを繰り返した。それに、誰も例外なく大歓声で応じていた!


 この浜辺に集まったのは、ざっと見たところ1,000人を超えていた。これは恐らく、この町に来た観光客の半分以上だ。

 しかもその全員が、例外なく熱狂してるんだからな! その狂騒は留まるところを知らず、遠く離れた最後列でそれを見ていた俺たちをも呑み込んでいた!

 この海辺へ舞い降りた、まるで天女か妖精を思わせる格好をしたエスタシオンの4人は、舞台を所狭しと飛び回っている。

 その衣装は水着の様に露出が多いものの、それでいて煌びやかに周囲へ光をまき散らしてミハルたちを幻想的な存在に仕立て上げている。


「……あれ、魔法を使ってるみたいやなぁ。魔法をこんな風に使うやなんて……」


 ミハルたちの衣装が光り輝いているのは、サリシュによれば魔法を使われているからみたいだ。

 確かにこの町では魔法を使える。女神像の影響を受けていないんだから、ここは町中であっても町の中じゃあ無いからな。

 その事を利用した、実に見事な演出だった。

 天井知らずに上がっていく狂乱(ボルテージ)に、俺たちはただ圧倒され続けていたんだ。


圧倒されるエスタシオンのステージ!

そんな真夏の夜の幻想を、俺たちはただ魅入るしか出来なかった……。

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