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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
5.迷える聖女
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鯨飲馬食の妹分

行き倒れの少女「ディオラ=デイバラ」は目を覚ました。

そして俺たちは、彼女と共に飯を食っている……んだが。

 目を覚ましたディオラ=デイバラ……ディディと共に、俺たちは昼食を摂る事にした……んだけど。


「あの……お代わり……宜しいのですぅ?」


「……えっ!? ええ……い……良いわよ」


 言葉は静かで物腰も柔らかいディディの言葉に、マリーシェは気圧されて返事が遅れ覚束ない様子だ。それは何も彼女だけじゃあなく、ここにいる全員がそうだった。

 すぐにマリーシェが、差し出されたディディの椀を受け取りシチューを(よそ)う。それを受け取って、ディディが美味しそうに食べだしたんだが。


「あの……お代わり……宜しいのですぅ?」


 瞬く間に平らげたディディは、もう何度目かの(・・・・・)お代わり(・・・・)を所望したんだ。これには、俺を始めとしてその場の全員も唖然として応じる以外になかった。

 しかも驚きなのは、その旺盛な食欲だけでなく。


「あの……お代わ……」


「はいはい、お代わりよね! 分かったわよ!」


 食事スピードも吃驚するくらいに早い! それこそ、新たに装われてから二呼吸する間には食べ終えているって感じだ!


「おい。俺たちも早く食わねぇと、こいつに全部食われちまうぞ!」


 呆然とするマリーシェ達に、俺は気付いたように発破をかけた。

 このままディディのペースが続けば、あっという間に鍋は空になっちまうだろう。そして見る限りで、ディディが満腹感を得ているようには見えなかった。


「そ……そうね!」「はよ食わな!」「みな、椀を持て!」「……せめて……あと一杯」「お……俺の分がぁ!」


 こうなれば、もはや早食い競争だ。俺たちは火が付いたように、遮二無二食事へとありついたんだ!




 それから然程時間を置かない内に、鍋の中身は空っぽとなっていた。ちっとも食べた気がしないし、全く人心地着けなかったのは俺だけじゃないみたいだった。

 しかもそれは、この状況を作ったディディも同じみたいだ。ここにいる誰よりも……いや、殆ど鍋の中身を1人で平らげたくせに、それでも彼女にとってはまだ足りないみたいだな。

 しかし、ここでこれ以上手持ちの食料を使う訳にはいかない。行程はまだ2日も残している。

 それに、物足りないとは言え兎も角食事を与える事は出来ただろうからな。すぐに飢えて倒れると言う事は無いだろう。

 ……んん? 飢えて……倒れる? ……まさか。


「……なぁ……ディディ。もしかしてだけど……あそこで倒れていたのは……」


 先ほどの食欲と今の表情を見て、俺の言葉を聞いたカミーラが愕然とした表情を浮かべる。


「ま……まさか其方は……空腹で気を失っていたと言うのか……!? あの場で……!?」


 そして、考えもつかない疑問を口にしていた。

 普通に考えれば、ジャスティアの街から1日程度しか離れていないあの場所で、腹を空かせて気を失い動けなくなるなんてちょっと思いつかないだろう。

 どんな人でも腹が空き過ぎれば倒れちまうだろうけど、それでもそれは余程の過酷な状態じゃなければあり得ない。

 彼女を見つけた場所から西へ1日程向かえばキント村。俺たちが向かっているマールの町まででも2日。1日や2日なら水さえ飲めれば人は空腹で気絶するってのはちょっと考えつかないんだけど。

 カミーラの予測を聞いたディディは、顔を真っ赤にしてコクリと頷いた。


「ちょっと……冗談でしょ!?」「……燃費、悪ぅ」「……少し……信じられん」「ま……マジか!?」


 流石にこれには、マリーシェ達もドン引きだった。1日食べないくらいで意識を失うって、どんだけ健啖家なんだよって話だ。

 いや……待て。もしかすると彼女は、もっと別の理由で空腹を抱えていたのかも知れない。

 それこそキント村での依頼で「べルティア山脈」付近の山林を巡り、そのまま村には寄らずに食事も摂らないままあの場所までやって来ていた……とか。

 ……うぅん。……無理がある。


「あ……あそこには、何故通り掛かっていたんだ? もしかして何か火急の用事があって、何日も食事を摂らずにあそこで倒れていた……とか?」


 それでも俺は、何か別の理由があるのではと改めて問い質したんだけど。


「い……いいえ。あそこを通りかかったのは、キント村からジャスティアの街へ向かう途中だったのですぅ。実は私……私は……」


 俺の質問が彼女の琴線に触れたのか。答えるディディはその途中で急に涙ぐみ言葉を詰まらせだした。

 やっぱり彼女は、キント村から来ていたか……。あの位置なら、それが一番考えられるよなぁ。

 でもだからこそ、あの場所で1人で(・・・・・・・・)倒れていた(・・・・・)事が気にかかる。


「私……前に一緒にパーティを組んでいた仲間たちから……追い出されたんですぅ……」


「ええっ!?」「……マジかいな」「それは……」「な……なんでだよ!?」


 ディディの告白を聞いて、バーバラ以外のみんなが驚きの声を上げていた。そんなバーバラも、何と声を掛けて良いのか分からないと困惑気味だな。


 パーティを追い出されるって言うのは余程の事があったんだろう。まぁ俺たちのパーティで言えば……セリルがヤバいって感じなんだけど、彼の普段の素行を考えれば分からない話じゃないだろう。

 でもみんなが驚いているのは、一見そういう事には縁遠そうなディディがそんな仕打ちを受けたと聞いたからだ。

 彼女がいたパーティの構成は分からないけど、彼女のジョブを(・・・・・・・)考えれば(・・・・)そう簡単に放逐されるなんてあり得ないんだけどなぁ。

 それを除いたとしても、彼女の立ち居振る舞いなら相手を不快にさせるって事も少ない筈なんだが。


「ね……ねぇ。もしも良かったらさ……あんたが追い出された理由を教えてくれないかな?」


 グズグズとベソをかいているディディに、マリーシェが優しい声音で問い掛けた。泣いているディディは、マリーシェ達にしてみれば庇護欲をそそる妹みたいに見えるんだろうか。


「そ……それは……」


 目をウルウルとさせながら、更に顔を紅潮させてモジモジと言い辛そうにしているディディは、確かにその顔立ちや背格好から見ても愛らしさがあった。

 ふとマリーシェ達を見ると、全員が彼女の事を案じているのが分かった。そして、どんな酷い仕打ちを受けたのかと不安や苛立ちなどを滲ませていた。

 ……んだけど。


「それは私が……私が、稀に見る大食いだからなんですぅ!」


 頭から激しく湯気を出し更には爆発しそうな勢いで、顔が真っ赤なディディが意を決したように告白したんだ!

 俺は比較的冷静に聞くことが出来ていたけど、他のメンバーはそうじゃないみたいだな。全員、今日何度目かと言う絶句に見舞われちまっていた。


 まぁ……彼女の告白は本当に今更だな。さっきまでの食欲を見れば、その話も頷けるってところだろう。

 実際、1人であれだけの量を食べられちゃあ冒険を進めるのも難儀となる。

 例えばここからフィーアトの街を目指そうと思えば10日は掛かる。その間に町や村は無く、俺の感覚で言えばまだ冒険初心者な者たちがギリギリ何とか辿り着ける行程と言えるだろう。

 でもそれだって、食料を限界まで絞って途中で狩りなんかで補充しつつ……となる訳だがな。

 そんな冒険にディディのような大喰(おおぐら)いが同行すれば、旅の予定が全然立たなくなる。彼女に合わせるなら馬車を借りて移動速度を速めるか、食料を大量に買い込むしかなくなるんだ。

 そんな予定外の出費を初心者冒険者たちが……いや、中級冒険者だって看過出来る訳がない。


「それで、またジャスティアの街へ戻ろうかと思って……途中でお腹が空いて空いて……目が回ってしまったのですぅ……」


 声の出せないマリーシェ達を後目に、ディディは最後まで説明しきった。話を終わりまで聞いても、マリーシェ達には理解が出来ずにいるみたいだ。

 ……まぁ、彼女達には(・・・・・)そうだろうなぁ(・・・・・・・)

 原因が分かった以上、今後の俺たちの取る方針は絞られてゆく。

 おい、マリーシェ、サリシュ、カミーラ、バーバラ、セリルよ。いつまでも惚けている場合じゃないぞ。


 俺たちにはこれから、大きな決断を(・・・・・・)しなきゃいけない(・・・・・・・・)んだからな。


この流れで次に問題となるのは……あの事だよなぁ……。

はたしてマリーシェ達は、どういった決断を下す事になるのやら。

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