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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
5.迷える聖女
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次なる目的地

マリーシェ達への説得も終え、俺たちはいよいよ次なる場所へ向かう事にした。

順当にいけば、北西に向かう事になるんだけど……。

 ジャスティアの街での出来事も、とりあえずは一段落した。マリーシェ達は兎も角として、まだセリルには含む処もあるだろうけど、奴も今はその事を口にするような事はしない。

 俺が思うに、セリルはグローイヤ達の強さの中に「残虐性」を見たのかも知れないな。


 強さの質(・・・・)と言うのは、実に様々な種類がある。思いの強さ、義務感、責任、守りたい者の為ってのもあるだろうか。

 そう言った「気持ち」を持つ者は、確かに驚くほどの強さを身に付ける事があるな。

 でもそんな「表・正」の感情とは別に、「裏・負」と言った情動もやはり〝力〟となり得るんだ。

 怒りや悲しみ、恨みや苦しみは勿論だけど、破壊衝動や殺戮衝動だってその動機にはなるだろうな。

 思い出せば、グローイヤ達はその衝動に素直だったと思う。ただしそれは、本人たちの性格に合っていたんだろう。

 アマゾネス族と言う好戦的な種族出身のグローイヤに、何事も合理的で目的達成の為なら手段を選ばないシラヌス。臆病故に敵対する者へは過剰なほどの攻撃を与えるヨウ・ムージに、ゴッデウス教を広める為には他教徒に容赦のないスークァヌ。

 この面子だったなら、力を得る為に何でもしたと言われても頷ける話だろう?

 ……まぁそれも、前世での話なんだけどな。

 今世の彼女達は、少し違っているようにも見える。……まぁヨウの性格は激変しているし、何ならスークァヌに至っては性別や年齢さえ違うんだけどな。

 だからマリーシェ達には、まずは自分の中に「信じるもの」や「矜持」ってのを持って貰いたいんだが……。


「それで? 次は何処を目指すの?」


「……やっぱり『フィーアトの街』にするん?」


 いよいよジャスティアの街を出発する朝。食事を終えた俺たちは、次の目的地を考えていた。

 ……とは言え、それは全部俺の役目になっちまってるんだけどな。


「前回は確か、ここより少しばかり西に向かった『キント村』を拠点としていた筈」


「……なら……今回は更に西へ……って事かしら?」


 カミーラの言った通り、少し前まで俺たちはジャスティアの街から数日西へ向かった「キント村」に居を置き、そこで色んな依頼を熟していた。殆どが採集系のクエストだったけど、それなりに様々な経験を積めたと思う。

 でもレベルも上がり、今の俺たちにとってそこはもう得るものも少ない場所となっちまっていた。新しい場所へ向かうのに、何ら心残りなど無いと言って良かったんだ。

 因みに現在のレベルは俺がLv16、マリーシェはLv17、サリシュがLv19、カミーラはLv20、セリルがLv11でバーバラがLv13とかなりばらけている。

 バランスで言えばとんでもなく悪いんだけど、今回の冒険(・・・・・)ではそんな効率やら優劣ってのは余り気にしていないからな。今はこれで良いんだ。


「……そうだなぁ」


 俺はマリーシェ達の意見をすぐに肯定しなかったけど、別に彼女達の意見は間違っちゃあいない。

 フィーアトの街を治めるフィーアト城城主は、代々武を尊ぶセルマーニ公爵家が務めている。

 精強な騎士団を抱えて治安もかなり良い反面、それだけに難易度の高い依頼が持ち込まれるのも分かる話だよな。だから集う冒険者も、それなりに腕の立つ奴らが多い。

 次の目的地としては文句が無く、俺たちの腕を更に磨く場所としては最適だろう。


 だけど、俺はそこまで急いで冒険を進めるつもりは無い。

 確かに、俺たちには〝グランクエスト〟として【エリンを目覚めさせる】ってのがある。未だ眠り続けて時間を無為に消費している彼女の事を思えば、俺たちが寄り道している暇なんて無いって考える奴もいるだろうな。

 それでも、俺たちの人生がそれだけに飲み込まれるのを俺は良しと考えていなかった。無邪気に楽しみ浪費するのは論外だけど、年相応に「冒険を楽しむ」と言う事も忘れちゃダメだって思ってるんだ。


「なぁなぁ、提案なんだけどさ。北西のフィーアト領へ向かう前に、南西の『マールの町』に寄ってかないか?」


 そんな事を思案していると、セリルがまた突拍子もない話を持ち掛けて来たんだ。


「……はぁ?」


「……そこで何するつもりなん?」


「……行きたいなら、お前だけが行けばいい」


 その発言を聞いたマリーシェ、サリシュ、バーバラからは、何とも蔑んだ視線と侮蔑を含んだ言葉が投げ掛けられたんだ。これにはさしもの奴も、ちょっと後退っている。

 だけど、それは俺も考えていた事でもある。どう切り出したものかと悩んでいたんだが、まさかセリルから話が持ちかけられるとはなぁ。


「……すまぬ。地理に疎いのだが、その『マールの町』には何があるのだ?」


 そこでカミーラが、至極初歩的な質問を口にした。元々東国「神那倭国」の出である彼女は、まだまだこの大陸の内実や土地勘には詳しくないみたいだな。


「ここから南西の方角に数日進んだ場所にある町でな。所謂保養地で、長い海岸がある常夏の海水浴場ってところだな」


「……ここから数日しか離れておらぬのに、常夏の地……なのか?」


 俺が簡潔に説明したんだけど、それだけじゃあ彼女の疑問は解消されなかったみたいだ。余計に混乱したカミーラは、小首を傾げて悩んでいる。


「……『マールの町』は精霊が多く住み着いている土地なのよ」


「……特に『火の精霊』と『陽の精霊』、『風の精霊』の力が強いみたいやから、その辺だけ夏みたいな暑さが続いてるねんて」


「……だから、主に海水浴を目的とした人たちが……保養に訪れるって話ね」


 そんなカミーラに、マリーシェ達が詳しく説明していた。彼女達の話を聞いて、カミーラはそこがどんな土地なのか理解したみたいだった。


「……まぁ、その精霊のお陰で女神の加護が受けられないみたいだけどな。だから町には時々魔物が入り込んでくるらしい。もっとも、精霊が力を発揮しているから、それほど強い魔物も近寄って来ないみたいだけどな」


 そして俺は、彼女達の説明に補足を入れた。俺としては、どちらかと言えばこちらの方が重要だったからな。

 女神の加護が受けられないと言う事は、魔物が町を襲う可能性があるってだけじゃあなく、町中でも冒険者はレベルの恩恵を受けた行動がとれるって事なんだ。

 場所柄、マールの町の中で無法を働く者は殆どいないって話だけど、それも絶対じゃない。油断をすれば、どんな目に合うのか知れたものでは無いって場所でもあるんだ。


「……ふむ、それでセリルよ。そこへ向かって、一体私たちにどの様な利点があるのだろう?」


 凡そを理解したカミーラが、真剣な表情で提案者のセリルに話しを振った。多分軽い考えで話を持ち出した彼としては、そこまで真面目に聞かれるとは思っていなかったんだろうな。


「え……えぇっと……。そこでは海水浴って言う夏しか出来ない事がいつでも楽しめるんで、息抜きには丁度良いかなぁ……ってね」


 だから、説明するセリルの挙動もどこかオドオドとして落ち着きがない。……もしも俺が真っ先に提案していたら、俺もこうなっていたかもなぁ。


「……ふん。……お前はただ、半裸の女性を見たいだけだろう」


 そこへ、ズバッとバーバラの言葉が突き付けられたんだ。正に正鵠を射る一撃に、セリルは完全にたじろいでいた。


「……いやらしぃ」「……浅はかやなぁ」


 そして女性陣からは、一層蔑如した言葉が投げ掛けられていた。ここまでの〝口撃〟で、セリルはもはやグロッキーだ。


「……いや。俺も、セリルの案には賛成だな」


 彼の発言は、1つの提案なだけだ。だから、ここまで言われるってのは何だか可哀そうになって来た。

 それに、単純にいろんな場所を訪れて見ておくってのは悪い事でも無いからな。だから俺は、彼の意見に賛同したんだが。


「ア……アレクッ!?」「ま……マジなん!?」「まさか……あなたまで……」


 でも、予想以上に女性陣の拒絶反応は凄かったみたいだ。セリルに向けられていた視線や感情は、そのまま俺の方にも向けられたんだ。


「……理由を聞いても?」


 ただ1人、冷静なカミーラが引き締まった表情で俺に問い掛けて来た。さっきまで「マールの町」について何も知らなかった彼女だからこそ、先入観抜きで考える事が出来るのかも知れないな。


「そうだな……。まず聞いておきたいんだけど、マリーシェ達は『マールの町』に行った事があるのか?」


 そんなカミーラの質問に答える前に、俺はマリーシェ達へ質問をした。まさか話を振られると思っていなかったんだろう彼女達は、俺の問いに対してすぐには答えられなかったんだけど。


「い……行ったことは無いわよ?」


「……でも、どんな場所なんかは知ってるわ」


「……そうね。……聞き知っただけでも……碌な噂は聞こえてこないわね」


 僅かな後、マリーシェ達からは同じ様な答えが返って来た。そしてそれは正しく俺の想像通りであり、だからこそ俺がやり返す足掛かりとなるんだ。


マールの町へ向かう事に大反対なマリーシェ達。

でも、彼女達はその町へ行った事が無いと言う話だった。

これは、もう少し話をしておく必要があるな。

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