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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
4.専断独行
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裏クエスト

全てを終えて、俺たちはジャスティアの街へと戻って来た。……一先ずだけどな。

そして俺は、依頼主たるクレーメンス伯爵邸へと赴いていたんだ。

 それから2日後、俺たちはジャスティアの街へと辿り着いた。

 往路は3日掛ったんだけど、帰りはオレリアたち護衛対象がいないからな。自然と行軍スピードも速くなる。

 それに、俺の都合だけど一刻も早く帰りたかったってのもあったしな。可能な限りで、速度を上げて帰路に着いたって訳だ。




「無事、エラドール(・・・・・)オレリア(・・・・)様とご息女ナリス様をロジーナ村までお送りいたしました」


 そして俺は今、クレーメンス伯爵の前で跪き報告を行っていた。

 オレリアに〝侯〟と付けなかったのは、言うまでもなく既に彼女には爵位が無かったからだ。

 本人を目の前にすれば気を使いもするが、もはや何の権力も無くなった女性をいつまでも「元侯爵夫人」と呼び続ける訳にはいかないからな。


「うむ。ご苦労だったな、アレク。道中、問題は無かったか?」


 その事に、この場にいる誰からも異論は唱えられなかった。伯爵も、それについては眉一つ動かさずに頷いて応じていた。

 如何に旧知の仲であり娘同士の仲が良かったとはいえ、伯爵もその辺りは弁えてるんだろうなぁ。

 クエストの報告をわざわざクレーメンス伯爵本人にすると言うのも異例だけど、今回は特別だ。王よりの使命……実際はどうかは知れないが、とにかく高位の者からの依頼となれば、伯爵も部下に任せっぱなしと言う訳にもいかないだろう。

 俺の第一声を聞いて、伯爵は穏やかな雰囲気で話し出したんだけど。


「……いえ。やはり懸念されていた通り、婦人たちを狙う刺客の集団が現れ襲われました」


 俺がこう返答すると、その場の雰囲気は一気に暗いものへと変わったんだ。予想していた事だけど、実際に起こるとなると安心して聞ける話じゃあ無い。

 因みに今この場にいるのは、伯爵と俺とグローイヤ達、それに親衛騎士長のオネット男爵と他に数名の騎士だ。マリーシェ達やシャルルーは同席していない。


「……それで?」


「はい。私の依頼したこちらの冒険者が素早く対応し、これを返り討ちにいたしました。夫人及びご息女を始めとして、一切の被害はございません。また賊の内の1人を捕らえましたので、これをテルンシア城の騎士隊へ引き渡しました」


「……そうか」


 続きを促す伯爵へ詳細を話すと、彼は小さく答えて男爵の方へ視線を送った。それにオネット男爵も小さく頷いて漸く安堵の空気が流れだした。

 クレーメンス伯爵はオネット男爵へ、俺の対応が正しかったかどうかを確認したんだろう。特に捕虜の処遇については、伯爵だけでは判断しにくい事だからな。


 本当ならば、捕虜をこちらで引き取り尋問なりを行った上で王城へ引き渡すのが望ましいかも知れない。引き出せた情報を先んじて得る事が出来ると言うのは、今後貴族たちと渡り合うのに有用となる可能性があるからな。

 その反面、無用な火種を引き込む事になり兼ねない。特に「闇ギルド」の報復を考えれば、得られる情報の価値以上に余計な災禍を招き入れる事になるかもな。


「如何に事前に予測出来ていたとはいえ、賊の襲撃を退けるとは大儀であった。それにその方たちも、此度の働きには感謝する」


 俺の対応が問題なく伯爵の利益を損なうものでは無いとハッキリした事で、伯爵は俺に対して、そして随伴していたグローイヤ達に向けて労いの言葉を掛けてくれたんだ。

 俺はこう言った伯爵の気さくな対応には慣れているけど、やっぱりグローイヤ達は少し不慣れだったみたいだ。オレリアの時もそうだったけど、こうやって下々の者に直接声を掛ける貴族ってのは、普通に考えれば珍しいからな。

 俺たちは深々と頭を下げて謝意を受け取ると、そのままその場を後にしたんだ。


「やっぱりあんた達の雇い主だけあって、他の貴族とはちょっと毛色が違うんだな」


 ニッと笑みを浮かべたグローイヤのこの言葉が印象的だった。




 とりあえずクレーメンス伯爵への報告は済ませた。何も被害が出なかったんだから、それほど長いものになる訳ないからな。

 後で伯爵や男爵の興味を満たす為に呼ばれ、更に詳しい事を聞かれる可能性はあるんだけどな……。

 兎も角、大元の問題は解決した。

 しかし、どちらかと言えばこっちの方が俺にとっては重い問題と言えたんだけどな。


「……おい。アレク、どうしたんだ? 入らないのか?」


 グローイヤ達を連れ立って訪れた一室の扉前。そこで俺は動けだせなくなっていた。そんな俺を怪訝に思ったのか、グローイヤが質問して来たんだが。

 彼女の声が中にも聞こえたんだろう、その途端に不穏な気配が室内から齎されていた。

 それは俺だけが感じる事の出来るものだったのかも知れない。同行しているグローイヤ達は、心底俺が固まっている事に疑問の顔を浮かべているからな。

 多分これは、俺の中に僅かに存在する罪悪心から勝手に感じているものなのかもな。


 なんせ俺にとっては、まだクエストは終わっていないんだ。

 表の依頼(・・・・)は完了させた。それはもう、完全な形で……だ。

 しかしこれから始まる裏の依頼(・・・・)を完璧に終わらせる事が出来るかどうかと言えば……分からない。

 とは言え、このままここで扉とにらめっこしていても埒が明かないからな。大きく深呼吸して、俺は目の前の扉を勢いよく開いたんだ!


 ―――そして、足が竦んでしまっていた……。


 室内からは、どうにも剣呑な空気が流れて来たんだ。流石にこれをグローイヤ達も感じずにはいられなかったのか、思わず数歩後退りしている。


「……あぁ。なぁんだ、アレクじゃなぁい。……帰って来てたんだぁ?」


 時間にすれば、俺が扉をあけ放ってから僅か数秒間。しかし俺には、永遠とも思える刹那に感じられていた。

 そして漸く声が発せられたのは、やはりと言おうかマリーシェからだった。

 丁度正面に居座る彼女は、半眼にした目をジトっと俺に向け、顔には一切の表情が浮かんでいなかった。


「う……あ……」


 まるで空気にでも呑まれちまったみたいに、俺は声を発する事が出来ずにいた。これはアレだな。蛇に睨まれた蛙って奴だ……。


「アカンやん、マリーシェちゃん。疲れてるアレクに、そんな対応したら可哀そうやでぇ」


 次に口を開いたサリシュは、マリーシェとは対照的に満面の笑顔だ。


「ひぃ……」


 普段余り感情を顔に表さない彼女が殊更に笑顔を向けてくると、それはそれでおっかないものだ。俺は思わず、引き攣った声を上げちまっていた。

 因みにその迫力で、グローイヤ達も声さえ出せずにいる。


「……すまないな、アレク。其方にも考えがあっての行動だとは思うのだが、事情を聴かない事にはどうにも収まりそうにないのだ」


 そんな中で、比較的冷静に見えるカミーラが出来るだけ普段と同じように話しかけて来てくれた。一瞬俺は、そんな彼女に気を許しそうになったのだが。


 ……こめかみに、青筋が。


 よく見れば、彼女の表情はピクピクと痙攣しているみたいにも見える。もしかしなくてもだけど、これは怒りをグッと堪えているんだろうなぁ……。


「……話の内容に……よる」


 そして全く普段と変わらない様に見えるバーバラだが、その声には深い深ぁい怒気が伺えた。なまじ面に表さないだけに、そっちの方がよっぽど怖く感じたんだ。

 もはや俺の足は、ガクガクと小さく震えていた。


「どういう事だよ、アレクッ! 何で、今回は俺たちを連れて行かなかったんだっ!? 何で自分だけでやろうと思ったんだよっ!? しかも、他の奴に依頼してまでっ!」


 そして最後に、セリルが激怒して捲し立てて来たんだ。普段はカミーラやバーバラとは違った意味で飄々としているこいつが此処まで食って掛かって来るなんて珍しい事だ。

 それだけに、こいつの怒りも分からないでは無いんだけど。

 ただ逆に、何故セリルがここまで腹を立てているのかに疑問を覚えたんだ。だからだろうか、そのお陰で俺は幾分冷静さを取り戻す事が出来た。


「……まずは、みんなを閉じ込めて眠らせた事には謝るよ。今回の件は、どうしても付いて来て貰うとまずいって思ったんだ。多少強引にでも、みんなにはここに留まって貰う必要があったんだけど、普通に話しても納得しないだろ?」


「あったりまえじゃないっ!」


 出来るだけ言葉を選んで話したんだけど、それに真っ先に食いついて来たのはマリーシェだった。その顔には、さっきまでの無表情ではなく鬼のような形相が浮かび上がっている。……怖ぁ。


「だから俺は、強硬策を取らせてもらったんだ。……時間が無かった、でもお前たちを納得させる事は難しいと感じた。黙って出て来ても追いかけてくる可能性がある以上、念入りに足止めしておく必要があったんだ」


 だけどそんな彼女の剣幕に圧されてちゃあ、ちゃんと話をする事も出来ない。俺は出来るだけ冷静を装って話して聞かせた。


「……何なのだ? その理由とは……」


 マリーシェの勢いを躱す事に成功した俺に、カミーラの疑問が投げ掛けられた。

 当然俺は、彼女達に説明するつもりだったからな。ゆっくりと、今回の事について話を始めたんだ。

 これをうまく治めて、初めて今回の依頼は完了となる筈だからな。


誰一人として納得していないマリーシェ達を相手に、俺はゆっくりと説明を始めた。

果たして、ちゃんと納得してくれるんだろうか……。

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