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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
4.専断独行
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貴族たちの闇影

マリーシェ達の足止めを確実にした俺は、そのままジャスティアの街を後にしたんだ。

ここからは、グローイヤ達との旅と言う事になる。

 深夜にジャスティアの街を出て、すでに陽は真上に差し掛かっている。その間かなりの強行軍を行ったんで、随分と距離は稼げたはずだ。


「おい、アレク。そろそろ休憩を挟まないと、あたい達はともかく馬が持たないぞ? それに……」


 先頭を行く俺に向けて、すぐ後方からグローイヤが声を掛けて来た。

 街を出てから五刻程(9時間)か……。確かにそれほど早いペースではないとは言え、馬がへばっちまったら余計に時間を食う事になるからなぁ。

 そして、グローイヤが言い淀んだもう1つの理由もある。


「……そうだな。アルドル殿、この先の川辺で昼食を取ろうと思うのだがどうでしょう?」


「……そうだな、それが良い。奥様やお嬢様も慣れない馬車移動で疲れておいでだろうしな」


 護衛騎士アルドルの言った通り、普段から運動不足で馬車での長距離移動が不慣れだろうエラドール〝元〟侯爵夫人とその娘が体調を崩しでもしたら大変だ。

 本当はもう少し距離を稼ぎたい処だったんだが、まぁここまで来れば問題無いだろう。


 現在俺たちはジャスティアの街東方に連なる「チテシャ山麓」の脇を抜け、既に「プレリー草原」へと入っていた。ここまでは結構な距離があるから、今頃目覚めたろうマリーシェたちが急いで出立しても、ロジーナ村に到着するまでに俺たちへと追いつくのは困難だろうな。

 伯爵に「拘束部屋」を借りて、そこで「深睡香」まで使用してもなお追い掛けて来るって可能性は無いとは思うけど、念には念を……だからな。


「さぁ、オレリア様。足元に気を付けて下さい。ああ、ナリス様も。ゆっくりと降りて下さい」


 河原の草地に馬車を止めた俺たちは、近くの立木に馬を繫ぎ止め思い思いの格好でくつろいでいた。

 一方の侯爵夫人たちは、アルドルの案内で恐々と馬車から降りて周囲を見渡している。


「ここで……お昼を取るのですね?」


「はぁ……。やぁっと馬車から降りられましたわ」


 そして、心底疲れたと言う台詞を口にしていたんだ。

 オレリア夫人は今年で40歳と言う話だけど、とてもそうは見えない。まだ20代だと言われても信じてしまう程に若々しくて美しい。

 艶やかな黒髪は光の加減で紫色にも見える。優し気な眼差しにはしっとりとした青色の瞳が湛えられており、生前の侯爵が入れ込んでいたって言う話も分かるってもんだ。

 娘のナリスはもうすぐ19歳だったか? 貴族としては既に婚期なんだろうけど、こちらも侯爵の意向で全く結婚話が出て来なかったって話だな。

 オレリア夫人よりも明るい青味がかった紫色の髪が陽光に映えている。赤紫っぽい瞳を爛々と輝かせ、健康的な美人って感じだな。

 今回伯爵がオレリア夫人とナリス嬢の護衛を任ぜられそれを受けたのは、このナリス嬢が原因と言えばそうだった。

 彼女はシャルルーと幼馴染であり、随分と仲が良かったみたいなんだ。そんな娘が今回の様な処置に合い危険な移動を強いられるともなれば、親としては放って置けなかったんだろう。

 夫人たちの集団は、僅かに引き連れた従者たちが食事の用意を整えているところだ。以前ならば信じられないくらいの大所帯だったんだろうけど、今は見る影もないくらいにこじんまりとしている。

 そして俺たちの方も、早々に昼食の用意を開始したんだ。

 未だに気の抜けない状況を考え、こちらは地べたに腰を下ろして持参した干し飯を口にしていた。


「でもまぁ……あれだけベッピンな夫人なら、侯爵がゾッコンだったのも分かるよなぁ」


 昼食の準備を整えている風景を見ながら、ヨウがポツリと零した。まさしくそれは、俺と同じ意見だったんだが。


「でもさぁ、死んだ侯爵も浮かばれないよねぇ……。まさか夫人と部下の護衛騎士がデキてるなんてさぁ」


 続いてグローイヤが、とんでもない事を口走ったんだ。……とは言え、この話は割と市井に流れているみたいで少し調べれば出て来る類のものだ。

 まぁ……知らぬは本人ばかりなりってやつだな。知らないままに天に召されたなら、それはそれで幸せだったって事だろう。


「ふむ……。もっとも夫人の方に侯爵への執着がなかった事で政争に巻き込まれる事も無かったのだからな。運が良かったのか、それともその辺りに敏感なのか……」


 シラヌスの言う通り、オレリア夫人は驚くほど家督の維持に消極的だった。

 殆ど王側の決定に文句も言わず、早々に田舎領地へと引きこもる事を決めたほどだからな。本当は、彼女は侯爵位が煩わしかったのかも知れない。


「でもねぇ……。そんな彼女を最後まで利用しようだなんてぇ、ほんっと貴族って性根が腐ってるわよねぇ」


 そしてスークァヌは、最後に今回の依頼の肝を口にしたんだ。

 ……そう。この依頼の最も嫌らしい闇の部分。それは……。


 ―――襲い来るだろう〝闇ギルド残党〟に彼女を襲わせ、自分たちへの被害を無くそうとしたって事……だろう。


 貴族共は自分達が助かる為、そして被害を被らない為に、都落ちする婦女子を言わば「生贄」にしたんだ。

 襲い来る残党側も、もはや組織だった行動の取れない私怨集団だ。警護の厚い貴族の館へ攻め込む事は困難だろう。

 それでも、万一がある。

 それを恐れた貴族達は、自分達に矛先が向くその前に夫人達を狙わせるように仕向けたんだ。

 これなら、侯爵に対する苛烈ともいえる制裁も分かる話だ。そしてそんな事を平気で行う貴族共の厚顔無恥さに、俺は心底辟易していた。


「まぁ、そんな顔をしなさんなって。あんたがあたい等と同じ気持ちだってのは、見てりゃ分かるしね」


「それに、そんな陰謀からあの母娘を守りたかったんだろ? もっとも、俺たちに出来る事と言えば無事にあいつ等を送り届けるだけだけどな」


 考えただけで気分の悪くなる陰謀を思い、どうやら俺はその気持ちを表情に出しちまっていたらしかった。


「……ああ、その通りだ。だから、お前たちの腕前には期待しているぞ」


 今の俺はわずか15歳で相応の体力しか持たない、レベルの低い冒険者でしかない。そんな俺が、殺人を生業としている者達と対等に渡り合うのは難しい。

 だから、この台詞は正に本音だった。もっとも、まさかこいつ等にこんな頼みをする時が来る事になろうとは……なんだけどな。


「その点については、期待してくれて良い。それよりも報酬の件なんだがな……」


「あらあらぁ? ほんっと、シラヌスって我慢が利かないのねぇ」


 気のせいか、シラヌスが身を乗り出して質問して来た。珍しく少し顔を上気させて鼻息を荒くしているみたいなんだけど、やっぱりシラヌスはこの時代でも金銭に意地汚いのかぁ……。

 スークァヌの意見に心の中で賛成していたんだが、どうやら奴の話はそれだけではなかったみたいだ。


「そ……その……だな。お……お前の持っている『小薬』を幾つか分けて貰えるか?」


 その言葉を聞いて、俺は思わず開いた口を塞ぐ事が出来ないでいた。それだけシラヌスの要望は、俺にとって余りにも意外だったんだ。


「ふっふふ。シラヌスってば、アレクの使ったって言う『小薬』に随分と興味を持ってたもんねぇ」


「ああ、全くだ。それを知ってからのこいつは、そりゃあもぉ目を輝かせてだなぁ……」


「お……お前たち! う……煩いぞ!」


 グローイヤとヨウが囃し立てる言葉を聞いて、シラヌスは顔を真っ赤にして反論していた。こんな奴らを見るのも、俺にとっては初めてで驚きに値する。

 俺の知るシラヌスは、何はともあれ金……だったなぁ。

 その為に、とにかく色々と報酬の良い話や金になる依頼に飛びついていたっけ。……それも合法非合法関係なくだ。

 でも今考えればそれは、奴の知識欲を満たす手段だったのかも知れない。

 知識を得るにも、実際には金が掛かるからなぁ。あの時の(・・・・)シラヌスの気持ちを、今になって分かった気がする。


「ああ、別に良いぞ。勿論、今回の依頼が無事に完遂したら……だけどな」


 本当だったら「小薬」程度なら幾つ渡しても問題ない。魔法袋の中にはそれこそ無数にあるし、無くなったら買うって選択肢も今の俺には採れるからな。


「本当か! ……うほん、それなら確りとこの依頼を熟さなければな」


 一瞬、一気に喜色ばんだシラヌスはわざとらしい咳ばらいを一つすると、それでも目を輝かせてそう締め括った。

 そんな奴を俺やグローイヤ、ヨウにスークァヌは生温かい目で見つめていたんだ。


やや編成には違いがあるけど、以前もこれだけ気楽に冒険が出来ていれば、前世での結果も違ったものになっていたかもなぁ……。


なぁんてな。

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