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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
4.専断独行
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例え甘いと誹られようが

背後で隠れている……つもりのセリルに知られないよう、俺たちは隠語を使い会話をしている。

そしてそれは、シラヌスには確りと伝わっていたようだった。

 俺の伝えた僅かな情報から、シラヌスはおおよその依頼内容に見当を付けたみたいだ。……流石だな。

 その上で、奴は了承の意を示してくれた。


「それでぇ? 行くとなったら、いつが良いんだい?」

(決行日はいつなんだい?)


 シラヌスが決定した事で、グローイヤがその日時を問うて来た。肝心の期日が分からなければ、彼女達も準備のしようが無いからな。


「そうだなぁ……。今の時期が最適だし、出来ればすぐにでも行ければ良いんじゃないか?」

(早ければ明日にも出立したい)


 だから俺はこう返したんだ。もう少し時間を掛けたい処だけど俺の方にも、そして侯爵夫人たちにも(・・・・・・・・)そう時間は残されていない。

 時間を掛ければかけるほどに、依頼の遂行が厄介になって来る。この依頼は、そう言ったものなんだが。


「……でもそれは、ちょぉっと性急よねぇ」

(それは、得策じゃあ無いわねぇ)


 そんな俺の提案に、スークァヌが待ったをかけた。


「……確かにな。向かうなら出来るだけ人を集めて、準備は万全にした方が良いしな」

(依頼を完遂するなら、出来る限り(・・・・・)刺客を集め(・・・・・)一網打尽(・・・・)にした方が効率的だ)


 そしてシラヌスは、その理由を明確にしたんだ。これには俺も、自分が焦っていた事を知らされる結果となった。


 今回の依頼(クエスト)が面倒なのは、いくつかの思惑が絡み合っているという点にある。

 その1つが、闇ギルドの報復だ。

 拠点の一つを滅ぼされた闇ギルドやそこの住人にとって、報復は自分たちの存在を明確にし、今後同じような愚行を起こさせない為の忠告でもある。

 報復対象は出来る限り高位の貴族が望ましく、そういう点では侯爵夫人は格好の獲物だった。

 もっとも、夫人は既にその侯爵位を剥奪された状態であり、見せしめと言う点では余り効果が高くない訳だけどな。

 蹴散らされた闇ギルドの残党程度では組織だった作戦も取れないだろうし、都落ちする婦女子を狙うのが精一杯ってところなんだろうけど。


 そしてもう1つは、それを知っていて貴族たちがなんら対策を取らずに、クレーメンス伯爵の勢いを弱める為に彼へと依頼した事にある。

 伯爵の手のものが闇ギルドの残党にやられ戦力が削がれれば、それはそのまま伯爵の武力を弱め、彼の意気も消沈させる効果がある……って考えてるんだろうな。

 ほんっと、こう言った考えはいつ何処の時代だろうと同じだな。


 そして、最後の理由が最も陰惨で……反吐が出る。平気でそんな(・・・・・・)事をするから(・・・・・・)、俺は貴族って存在が好きじゃあ無いんだよなぁ。

 そして〝それ〟は、俺が焦れてしまう理由でもあった訳だが。


「そ……そうか? なら、少し時季外れ(・・・・・・)だけど2、3ヶ月後に訪れるってのもありかもなぁ」

(それなら2、3日後ではどうだ?)


 様々な思惑に辟易するあまり、少し冷静ではなかった俺は、シラヌスの提案に乗って日時を変更し伝えた。

 言った通りの2、3ヶ月後なら、少し間が開き過ぎる。だからこそ「時期外れ」と言う文言を入れたんだ。これはつまり、期日をグッと縮める意味合いがある。

 聡明なシラヌスなら、2、3週間でもまだ長いと察してくれるだろう。それに俺の方も、引き延ばすのにこれ以上は不可能だからな。


「……まぁ、その辺が妥当だろうねぇ」


 決行日時については、シラヌスではなくグローイヤが相槌を打ってきた。それにシラヌスやヨウ、スークァヌも頷いて応じている。

 2、3日なら、俺の方で何とかマリーシェたちを誤魔化せるだろう。伯爵の方にも根回しすれば、もしかすれば彼が足止めの口実を作ってくれるかも知れない。


「それでぇ? 予算的にはどれくらいで行けるんだ?」

(報酬はどれくらいになるんだ?)


 そしてヨウが、肝心な部分を聞いて来たんだ。

 彼らも冒険者だからな。今の仕事を放り出して手伝ってくれると言うからには、それなりの報酬を用意するのは当然だ。


「そうだなぁ……。楽しみたいなら、出来るだけ多く用意した方が良いし、色々と持って行った方が良いかもな」

(十分な報酬は約束する。金銭以外にも、希望する物を用意するように手配しよう)


 今回は、スポンサーに伯爵が付いている。今の俺たちでは法外と思える金額も用意する事が出来るだろうな。

 それにアイテム類についても、今のシラヌス達が欲する様な物なら俺が準備出来る。伯爵に用立てて貰うのは勿論の事、俺の「魔法袋」の中にはこれまで使わなかったアイテムがウジャウジャ詰め込まれているからな。

 俺がこう答えた事で、グローイヤは口笛を吹いて驚きを露わとしていた。そりゃあ豪気だなぁとでも言いたいんだろう。

 特に反論もないところを見れば、俺の要件はグローイヤ達に受け入れられたらしい。と言う事は、ここでの用事も終わりだな。

 その後はそれまでの話の内容を暈す為に、先のクエストでの問題点なんかを話題にそれらしい(・・・・・)会話を僅かに交わし。


「それじゃあ、俺は帰るよ。また時期を見て話したいものだな」

(詳しい話は、また後で時間を作って打ち合わせよう)


 話を終える旨を伝えたんだ。

 俺がそう切り出すと、全員が頷いて応じてくれた。多分この会話は、違う事無く伝わっている事だろう。

 俺はグローイヤ達に別れを告げると、そのまま帰路に着いた。勿論、最後までセリルには気付かないフリを通して……な。


 ここに来るまでで俺が見落としちまってた事は、闇ギルドの残党を一度に全員(・・・・・)仕留めなければ(・・・・・・・)ならない(・・・・)と言う点だった。

 襲われる事は予見出来ても、後顧の憂いを(・・・・・・)完全に(・・・)断たなければ(・・・・・・)いけない(・・・・)ってところまでは頭が回らなかったな。

 確かに、襲って来た奴らがもしも全員じゃあ無ければ、俺たちが去った後に夫人たちが再度狙われちまう。それじゃあ、完全に安全を確保出来たとは言えないからな。

 やっぱり今回はグローイヤ達に依頼して正解だったなぁ。


 今回の依頼には、俺はマリーシェたちを連れて行かない。この事を話すつもりさえなかった。

 何せこの依頼では、敵を全員(・・・・)殺害する(・・・・)事が前提(・・・・)となるからな。その経験のない彼女達は、今回は足手纏いとなり兼ねないからだ。

 何よりも俺は、まだ彼女達に「人殺し」って業を背負わせるつもりは無い。いずれはそういう時もやって来るんだろうが、それも遅ければ遅いほど良いに決まっているからな。

 人を殺めたって事実は、思った以上に精神を蝕む。正常な精神を持っていれば猶更だし、もしも全く何も感じなければそれはそれで大問題なんだが。

 兎に角俺の経験上、下手をすると一生引き摺る事になり兼ねないんだ。

 それでも、精神的に成長を遂げていれば受けるダメージもそれほど大きくない。逆に、早く経験したからと言ってすぐに慣れると言うものでもないからな。

 そうだな……後数年も経てば、どんな状況に直面しても動揺は少なく割り切れるようになれるかも知れない。

 そうなるように経験を積ませるつもりだし、いずれはそんな強い精神力が必要に迫られる場面も出て来る事だろうしな。


 ―――急いては事を仕損じる……。


 俺はこの言葉を、今の状況に立たされた事で痛感している。

 場合によっては急がなければならない事もあるだろうけど、万事で慌てたところでなんの糧にもならない。むしろそれで、取り返しのつかない事態に陥る事もあるからな。


 今回の人生では、出来るだけゆっくりと歩みを進めて行こう。


 改めて俺は、その考えを胸に刻んだんだ。

 その為に俺は、目の前に立ち塞がる〝今の俺たちには不要な事〟を全力で排除する。

 既に多くの事を経験済みな俺の、これは義務みたいなもんだ。

 少し矛盾しているかも知れないけれど、これはマリーシェたちが道を踏み誤らない為に必要な事なんだ。

 この時の俺は、そう信じて疑っていなかったんだ……。




 グローイヤ達と話した深夜。

 闇に紛れて、気配を消したヨウが俺の宿までやって来た。俺たちの年齢で考えればかなり高度な技術だけど、それでも今の俺には(・・・・・)察する事が可能だった。

 同じく気配を消した俺は同室のセリルに知られる事なく部屋を抜け出し、路地裏で奴と合流する事が出来た。


「……流石だな。かなり本気で気配を消したんだけどなぁ」


 不敵な笑みを浮かべたヨウに、俺も口角を釣り上げて応えた。何も話さなかったのは、今は互いの技術を讃える場面じゃないからだ。


「……それじゃあ、時間もないしな。用件だけを話すぞ」


 それはヨウも弁えているみたいで、俺たちは早速本題に入ったんだ。


マリーシェ達にも完全に秘密の、俺の独断専行のクエスト……。

彼女達は怒るだろうけど、その理由もいずれは分かってくれるはず……だ。

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