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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
4.専断独行
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後を追う者

伯爵への報告も終え、俺たちはジャスティスの街の宿屋へと戻って来ていた。

あんなに大きな作戦の後なんだ。

今日は1日、自由行動とする事にしたんだ。

 クレーメンス伯爵邸より戻った翌日、俺たちは1日自由行動とした。つまりは、休日にしたんだ。

「トゥリトスの街殲滅作戦」なんて大掛かりな作戦の後、しかもその中核として活躍したんだ。少しぐらい休みがあっても罰は当たらないよな。


「アレクは、今日はどうするの?」


 女性陣は早々に、買い物に行く事で合意したみたいだ。まぁ立場がどうなっても、女の子は買い物が好きだよなぁ。


「俺か? 俺は、少し出掛けてくる」


 そんなマリーシェの問い掛けに、俺は何とも曖昧な返事をした。普通で考えれば、ここからは「何処に?」と繋がるんだろうけど。


「……ふぅん」


 返って来たのは、サリシュのこの言葉だけだった。

 マリーシェ、カミーラ、バーバラもどこかジト目で俺の方を訝し気に見つめてはいるが、それ以上の詮索は無かった。この辺、かなりこの4人には信用されているって事なのかもなぁ。


「それで? セリルは如何するのだ?」


 多分放って置いたら誰も聞かないからなのか、カミーラが最後にセリルへ質問した。もっともその言い方は、特に興味を持っている様には感じられなかったんだが。


「お……俺もちょっと約束があってな。出掛けてくるよ」


 この答えに、俺を含めた5人が黙ってセリルを見つめる事となったんだ。

 彼の性格上、まず第一声は「女性陣に付いて行く」なんだろうけど、今日のセリルはそんな素振りを微塵も見せない。それが余計に、奴の言動の怪しさを醸し出していた。

 俺たちの年齢や経験で、自分の真意を悟らせないってのは意外に難しい。普段の立ち居振る舞いで探り当てられないのは殆ど不可能で、出来る事と言ったら黙っているくらいだろうか。

 でも普段お喋りな奴が急に寡黙となれば、それはそれで疑られるもんだ。

 つまり、今のセリルがそういう状態って事だな。


 部屋に沈黙が下りたのはほんの一瞬。


「あ、そう。それじゃあみんな、行きましょうか」


 マリーシェは早々にセリルへの興味を失ってサリシュ、カミーラ、バーバラへと声を掛け。


「それじゃあ、行って来るわね」「……ほならな(じゃあね)」「行ってくる」「……では、また」


 4人は部屋に残る形となった俺とセリルにそう告げて出て行った。

 因みに今の俺たちは、ジャスティアの街の宿屋に部屋を借りている。

 伯爵邸に泊っても良かったんだが、そうなると今日もシャルルーに突き合わされるのは間違いないし、もしかすると伯爵に(・・・)口止めした事(・・・・・・)がマリーシェたちの耳に入るかも知れない。

 何よりも、今日は街で羽を伸ばす(・・・・・)という事に(・・・・・)なっている(・・・・・)からな。伯爵邸に逗留するよりも、こっちの方が都合が良かった(・・・・・・・)んだ。


「じゃあ、俺も出掛けるけど?」


 男2人で部屋に残っていても仕方がない。何よりも、今日の俺には行かなければならない所がある。

 俺は簡潔に準備を済ませると、動き出そうとしないセリルに話し掛けた。


「あ……ああ。俺もそろそろ、出掛けるかなぁ……」


 セリルは平静を装って俺に返答したんだろうけど、こいつレベルの惚け方なんて俺にはなんの役にも立たない。

 ……なるほど。こいつの目的は……俺か。


「そうか。じゃあな」


 とは言え、セリルがどう言った行動に出るのかは流石に分からない。とりあえず、俺の方は自分の予定で動くしかないな。


「お……おう。じゃあな……」


 本当に様子のおかしいセリルを置いて、俺は部屋を出たんだ。




 宿を出た俺は、ある場所へと向かっていた。

 ある場所とは……「グラウザー商会」だ。俺はそこで、ある人物たちに会う必要があったんだ。

 ある人物たちとは……言うまでもなく、グローイヤ達だな。

 俺の目的はグラウザー商会へ赴き、グローイヤ達に……正確にはシラヌスと話をする事にあった。

 話す内容は勿論、今回伯爵から受けた依頼内容についてな訳だが。


 ―――まだ付いて来るな……。


 宿を出てからずっと、俺は尾行されていた。そして付けてくるのは言うまでもなく。


 ……セリルだった。


 このままセリルに話の内容を聞かれるのは困りものなんだが、さりとてここで奴を捲くという選択肢も取りづらい。更にいらぬ不信を持たれるだけだからなぁ。

 それにしても。


 なんて……なんて下手な尾行だ。


 ハッキリ言って、奴と俺との距離は近い。近過ぎると言えるくらいだ。

 それに、俺の方をジッと見過ぎている。

 自分の気配も消さず、対象に接近状態でその対象を凝視するなんて……自分の存在を相手に知らしているようなもんなんだけどな。


 自分を伺う視線を感じる……という事は確かにある。とはいっても、視線そのものを察知している訳じゃあ無い。

 セリルが発している俺を見逃すまいとする気配、そこから生じている存在感や雰囲気などが奴自身を明確にし、俺がそれを(・・・・・)感じる(・・・)事で視られていると察する。それが所謂〝視線〟の正体だ。

 基本的な事だけど、尾行をするならまず対象者を「視よう」としない事だな。

 その上で出来るなら自身の存在を薄くする……つまりは消して、相手が違和感を抱かないようにしなければならない。ここまでで、漸く「基礎」って言えるだろうか。

 もっとも、今の俺たちの年代でそこまで上手く追尾出来る者なんてまずいないだろうから、そこをセリルに望むのは酷ってもんだけどな。

 それにしては、奴の追跡スキルは壊滅的だなぁ。


 ……ファタリテート。


 俺は念のために、スキル「ファタリテート」を発動させた。その次の瞬間、俺の視界は白と黒のモノクロなものへと変わり、全ての存在が動きを止めた世界へと変貌したんだ。


「……さてと」


 本来これは、対象者の「運命」を覗き見るスキルだ。これを発動した世界で意思を持って動き回れるのは、精神体となった俺だけ。

 でもこのスキルには、他にも有用な使い方がある事を最近俺は知った。……その1つが。


「やっぱりセリルだったか。しかもこんなすぐ近くを歩いているなんて、見つけて下さいって言ってるようなもんだぞ」


 それは、誰にも知られる事なく周囲を探れるって事だな。しかも、時間の消費も無いのは魅力的だ。

 俺くらいになれば自身の気配を消す事も、俺に向けられている視線からその存在を認識する事だって不可能じゃあない。

 でも完璧を期すなら、そして視ている者の意図を探る為にはやはり実際にその姿を視た方が良いに決まっているからな。

 今のセリルは随分と軽装で、普段装備している鎧は身に付けていない。

 勿論、愛用の戦斧も持ってきちゃいなかった。本当に、俺の後を付けようとしただけなんだな。


「……しかし、俺ってこいつに不審がられるような事をしたっけか?」


 だからこそ、俺には余計にセリルの思惑が分からなかった。

 俺が何かこいつの気に障る事をしたという自覚は無い。そもそも、マリーシェ達と同じように接している……つもりなんだから、思い当たる事が無くても仕方がない……よな?

 そのパーティ内での扱いに不満があると言うのなら……そりゃあ、奴の自業自得だからそれこそ俺には関係ない。

 普段から軽いノリで軽薄な台詞を口走り、思った事は深く考えずに発言するんだ。マリーシェ達から軽くあしらわれたって仕方がないって話だよなぁ。

 クエストにしても、出来るだけ過剰な負荷が掛からないものを選んで、最大限効率よく経験出来るように考えている。恐らくだけど、他のパーティと比べれば随分と「楽」な筈だ。


「……もしかして、報酬か?」


 その報酬についても、全員公平に分配している。

 パーティの運営資金は俺が管理しているけど、それ以外は俺も含めてみんな同じ金額を受け取っているんだ。それで足らないってんなら、無駄遣いを控えろよな。

 実はセリルを含めて、マリーシェたちが使っている装備のほとんどは俺が用意したものだ。

 俺の「魔法袋」の中には、もう使わない物や1度も使った事のない物がゴロゴロしている。

 俺は一応「富豪の息子」と言う設定になっているから、それらを格安でみんなに分配していた。もっとも、その価値を考えれば受け取っている金額なんて雀の涙ほどなんだけどな。

 こいつの使っている戦斧も「鋼の斧」と言っているけど実は「軽鋼戦斧」と言い、見た目は「鋼の斧」と大差ないけど実際は遥かに軽く強靭な鋼材が使われている逸品だ。

 甘やかしていると言われればそれまでなんだけど、折角優れた武器を持っているんだ。使えるなら与えたってなんら問題ないよな?


「……時間か」


 兎に角、セリルが俺の後を付けている事は判明した。

 これからの言動には注意して、これ以上こいつに余計な疑念を抱かれないようにしないとな。

 俺は自分にそう言い聞かせ、再び自身の中へと戻ったんだ。


何の思惑があってセリルは俺を付けてくるんだ?

まぁ奴の考えている事は分からないけど、とりあえずこれ以上面倒事を増やすのは得策じゃあないな。

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