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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
4.専断独行
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事後報告

マリーシェ達との合流を果たした俺たちは、アッサリと魔獣の駆逐に成功する。

そして、それぞれの主の元へと戻り事の次第を報告する事になったのだが。

 トゥトリスの街殲滅作戦が行われた4日後、俺とオネット男爵はクレーメンス伯爵の前に跪いていた。

 これは何も叱責を受けていた訳ではなく、今回の作戦……その顛末を報告し終えたからだった。

 この場にいる作戦参加者は俺と男爵のみ。マリーシェたちは別室で、シャルルーたちと談笑している事だろう。

 こんな鬱屈する話なんかに、何も彼女達を参加させる必要なんて無いからな。

 俺たちの説明を聞き終えた伯爵は一言。


「……そうか。ご苦労であった」


 と短く労いの言葉を投げ掛けた後に、考え込むように黙り込んでしまった。

 俺たちはそれで、一旦伯爵の前から退席し別室へ向かったんだ


 マリーシェ達やシラヌス達との合流を果たした俺たちは、いともアッサリと毒悪百足(アコニトウゴン)を倒した。牽制を任せられる戦士が増えた事と、何よりも強力な魔法使いが参戦した事で戦闘力は一気に上がり、殆ど俺たちだけで決着を付けたんだ。


「……よし。残敵に気を付けつつ、街に火を掛けよ。全てを燃やし、一切の痕跡を残すな」


 巨大ムカデを倒してホッとするのも束の間、オネット男爵の号令で俺たちには次の指示が与えられた。

 今回の作戦は殲滅だ。それは住民だけじゃあなく、この街自体も含まれている。

 このままこんな場所に街を放置していては、俺たちがこの場を去った後に闇ギルドの奴らやこの街の住人が戻って来て再建しちまうからな。

 俺たちは男爵の言葉通りトゥリトスの街に火をかけ、監視役の冒険者たちを何隊か残してそのままアルサーニの街へと撤収。攻略部隊は各々主の元へと帰って行った。


「……じゃあな。あんた達との共闘は結構楽しかったよ」


「……お前が中々に興味深い人物だと再確認出来ただけでも収穫か」


「じゃあな、アレク。それにカミーラちゃん、マリーシェちゃん、サリシュちゃん、バーバラちゃん。また会おうねぇ。……それからセリルもな」


「ふふ……。あなた達とは、またすぐに会えると思うわぁ」


 無論、グローイヤ達も俺たちより先に去って行った。何処に……とは最後まで言わなかったけど、当分は「グラウザー商会」に居るだろうから何かあった時には連絡も着くか。

 そして俺たちもまた1日遅れで街を出て、伯爵のいるジャスティアの街へ向かった。

 他の集団よりも出発が1日ずれ込んだのは、俺に「小薬」を使用した副作用が発生して動けなくなったからだ。と言っても今回はそれほど無茶をしなかったから、全身を襲う激痛も短い期間で済んだんだけどな。

 それに今の若い身体は、生命力に溢れて回復力が高いからな。……こう言う処は有難いよなぁ。

 だから伯爵に謁見する時には、俺はすっかり元気になっていた。

 ただ、このどうにも沈鬱となる雰囲気だけは晴らすことが出来なかったけどな。


 結果として、今回の作戦は大失敗だ。

 事前に作戦が相手へと漏れていた事もあって、俺たちが到着した時にはトゥトリスの街は殆どもぬけの殻だった。居たと言えば息をひそめた暗殺者と、罠として配されていた魔獣たちだけだったからな。

 作戦内容が「街の住人の殲滅」であった事を考えれば、とても成功したとは言えない。

 それに……。


「……戦死者総数79人。その中には指揮官たる『エラドール侯爵』も含まれている。これでは……伯爵にも何らかのお咎めが言い渡されるやも知れないな……」


 ひどく落ち込んだ声音で、男爵は小さく独り言ちた。伯爵を敬慕している男爵としては、伯爵への処断が気になって仕方が無いんだろう。

 戦死者数も奇襲作戦であった事を考えれば異常に多い。これだけでも、叱責や(そし)りを受けても仕方が無いんだけどな。

 更にその中には侯爵位を持つ貴族も含まれているんだ。それを思えば、生き延びた指揮官クラスやその主には何らかの罪過を問う声があってもおかしくないだろう。

 もっとも今回に限って(・・・・・・)言えば(・・・)、まず上からの責任追及なんて無いんだろうけど。


「オネット男爵閣下、アレク殿。伯爵様がお呼びです」


 暫くすると俺たちのいる部屋の扉がノックされ、入って来た使用人からそう告げられた。

 作戦終了から4日も経ってるんだ。様々な所に今回の失態は知れ渡っているだろうし、それは当然王家にも報告されているだろう。

 それから考えれば、そろそろ伯爵の元へ次なる指示(・・・・・)が齎されても不思議じゃないな。


「分かった。すぐに参ずる」


 男爵は連絡に来た者へ応え、それを受けた使用人も頭を下げて退室していった。そして即座に立ち上がると伯爵の元へ向かい歩き出し、俺も当然それに続く。

 彼には伯爵の要件に見当は付いていないだろうけど、俺には何となく分かっていた。




 謁見の間に戻ると、先ほどよりも沈鬱な表情をした伯爵が右手を額に当てていた。彼にしてみれば、余程の問題でも舞い込んできたんだろう。

 そんな伯爵の前まで進み、俺たちは跪いた。


「……たった今、王からの使者より書信が届いた」


 タップリと間を取って、それでも口を開くのが億劫だと言うように伯爵は話し出した。その気配から、彼が気乗りしないと言うのは十分に分かった。


「侯爵のお身内の方の処遇について……ですね?」


「……ほう。良く分かったな」


 話辛そうな伯爵に代わって俺が先を言い当て、それを聞いた伯爵は幾分雰囲気を和らげて驚いたように肯定した。

 俺の考えでは、今回は伯爵に非は無いんだ。なら、この時期に王から齎される話と言えばそれしか考えられないからな。

 確かに今回の作戦は失敗に終わったけど、見方を変えればあの戦いの最中で大した犠牲も出さずに、男爵は絶命した侯爵に代わりその後の指揮を執ったんだ。褒められこそすれ、一方的に非難される事は無いからな。

 そんな背景を良く分かっていない男爵は不思議そうに俺の方を見つめ、伯爵は俺にその先を話すよう頷いて合図を送って来た。


「……今回の作戦の失敗は、全て侯爵にあると決定されたのでしょう。恐らくは、侯爵の言動や作戦指揮内容を他の貴族たちが王に奏上し、王もそれを受け入れたのではないかと」


 ここまでで、伯爵からの異論はない。勿論、男爵からも口を挟まれるような事は無かった。だから俺は、そのままその先を話して聞かせたんだ。


「……ここからは憶測ですが、恐らく侯爵はその責を取り爵位を剥奪され、その領地もほとんどを没収されたのではないかと。そして遺族の方々は、残された領地への蟄居を命じられたのでしょう」


「……その通りだ。存命ならばここまでの処遇とはならなかっただろうが、侯爵はもうこの世におられない。それを良い事に、他の貴族たちが厳罰を求めたらしい」


「侯爵は、かなり多くの政敵を抱えておいでだったようですね」


 俺の説明に頷いた伯爵へ自分なりの意見を付け加えて応じると、彼は苦笑交じりに頷いた。

 侯爵の爵位をそのままにしておいては、きっと彼の子女子息や血縁の者を後継者として担ぎ出してくるだろう。

 でも侯爵の後釜を狙っている他の貴族たちにしてみれば、そんな事は面白くもなんともない。

 だからこそ、まだ侯爵の喪も明けきらぬ内に処罰を命じる様に働きかけたに違いない。


「それでは、侯爵は余りにも……!」


 そこまでの話を聞いて、オネット男爵は思わずそんな台詞を吐き絶句してしまっていた。

 伯爵も男爵も、今までに露骨な政争には関与してこなかっただろうから、今回の侯爵への仕打ちには納得出来ない部分もあるんだろうな。

 でも、俺は前世でこんな茶番劇(・・・)を何度も見て来た。

 貴族王族と言うのは、とにかく足の引っ張り合いや裏工作、謀略の類が好きみたいだからな。それに巻き込まれる俺たちこそ、良い面の皮だよ。


「……それで、移住するエラドール侯夫人とそのご息女を護衛する任を仰せつかったのだ。今回の功一番とはいえ、敗軍の将でもある訳だからな。こういう形で責任を肩代わりせよと言う事なのだろう」


 溜息でも付きそうなほどの表情で、伯爵は王からの依頼内容の説明を終えたんだ。

 ここまでならば納得出来なくもない内容だろうけど、実はこれには更に悪質な「裏事情」が隠されている。

 流石に伯爵や男爵には、そこまで頭は回らなかったみたいだけどな。


エラドール侯爵の夫人と子女を隠遁地まで送る。

話を聞く限りではそれ程難しくない依頼なんだが……。

何故そんな依頼が伯爵の元へと届けられたのか、その理由を考えれば分かる話だよなぁ。

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