Impromptu team
カミーラの檄に、バラバラだった冒険者たちが団結する!
そうなれば、俺たちは目の前の敵に集中できるってもんだ!
この場を生き残るには、とにかく暴れまわる「毒悪百足」を倒すしかない。
別に逃げても問題ないだろうけど、その際は「卑怯者」やら「臆病者」の烙印を押されて同業者からは軽蔑され、依頼側からの信頼も失墜する。
そうなればその後は引退するか「闇」に堕ちるか……。どちらにせよ、真っ当な冒険者として生きてはいけないだろうな。
そして生還を果たす為には、自分よりも強い存在の言う通りにするしかない。
「あんたらぁっ! 根性見せなぁっ!」
ましてや、明らかに自分たちよりも年下の少女に偉そうな檄まで飛ばされたのだ。これに発奮しない者は居ないだろう。
「や……やってやるぜっ!」「負けられっかよぉっ!」
ここに来て冒険者たちは、一致団結で1体の巨大ムカデに立ち向かいだした。これで、ある程度の時間稼ぎが期待出来るってもんだ。
一方で不意打ちによる先制攻撃に成功したグローイヤとヨウだが、すぐに距離を取り様子見していた。
知性の低い魔獣ではあっても、明らかに強さは向こうの方が上。一瞬の油断が命取りともなり兼ねない事を考えれば、深追いしないという選択肢は彼女達の年齢から考えて流石だと言えた。
でも、いつまでもお見合いして動かない……なんて事を続けている訳にはいかない。……なんせ。
「うわぁっ!」「そっちに回り込んだぞぉっ!」「ぎゃあっ!」
こうしている間にも、もう1体を足止めしてくれている冒険者たちに被害が出ているからだ。
と言っても、彼らは完全に時間稼ぎ……守りに徹している。
前衛で防御を重視し、傷つけば後方へと周って回復を受け、控えていた者がまた楯となる。勝つ事は出来なくとも、負けようのない布陣だとも言えた。
ただ無限とも思える体力を誇る魔獣を相手に、いつまでもこの戦法を続けられるかと言えばそれは疑問だ。
「グローイヤッ、ヨウッ! あの『実』を使えっ! 俺たちが牽制に回るから、死角から攻撃を仕掛けろっ!」
だから俺は、早速作戦を彼女達へと伝えたんだ。
レベルや今の実力を考えれば、グローイヤ達が攻撃役になるのは当然だ。多分今の俺じゃあ大ムカデの甲殻を通す攻撃が出来ても、大きなダメージを与えるのは困難だしな。
それは、多分カミーラだって同様だろう。
適材適所。グローイヤ達のより高い攻撃力を活かす為に、俺たちが大ムカデの正面に立って気を引く。俺とカミーラは積極的な攻撃を行わず、防御に徹するんだ。
これなら、今の俺たちのレベルでも十分に持ち堪えられるだろう。「実」の効果もまだ切れていないしな。
「あいよっ!」「よっしゃっ!」
殆ど同時に、2人から声が返って来た。そして彼女達は、まるで示し合わせたみたいにアコニトゴウンの左右に回り込む。
「カミーラッ!」
「……はあっ!」
そして毒悪百足の意識がグローイヤ達に向かう前に、正面に立った俺たちが攻撃を仕掛けた。
それも、生半可なものでは奴の注意をこちらへ釘付けにする事は出来ない。何と言っても、基本的に俺たちのレベルは巨大ムカデよりも下回ってるんだからな。
「暴風斬りぃっ!」
俺の合図とともにカミーラが先陣を切って斬り掛かる!
その攻撃は、僅かに隙を見せていた大ムカデの無数にある節足を1本斬り落とした! もっとも、それだけじゃあ殆ど奴にダメージなんて与えてないんだけどな。
そして俺も、剣技「暴風斬り」を使い無数に攻撃を放った! 強固な百足の身体にその攻撃は、半数以上が弾かれて残りも僅かに斬痕を残す程度だった。
……ったく、やっぱり硬ぇなぁ。今の俺じゃあ、倒すのも難しいレベルの怪物だぜ。
魔物もその設定されたレベルが高くなると……つまり強くなると、単純に攻撃力が上がるだけじゃあない。体力も上がり倒すのに手こずるし、その身体も硬くなる。
筋肉で守られていたり硬い殻などで覆われていたりと様々だけど、倒す為には単にこちらの筋力が備わっていれば良いと言う話でも無いんだ。魔物はその辺に転がってる岩や生えている樹じゃあなく動いてるんだからな。
余程の力自慢なら強引に叩き潰す事も不可能じゃないけど、それは余り合理的とは言えない。もしも力負けしたなら打つ手は無いし、何よりも武器に負担が掛かり過ぎるからだ。
そうならない為にも必要となるのは、速さと技量だな。
技量は敵の弱所を見抜く力、そしてそこへ正確に打ち込める技術に直結する。
そして速さは、そのまま攻撃力に繋がるからな。
「せやっ!」
カミーラの攻撃が、新たにアコニトウゴンの足を1本切断した!
しかし、そのまま畳みかけるような事は出来ない。彼女の立っていた場所に、即座に別の節足が振り下ろされたからだ!
ギリギリ回避に成功した彼女の足元には、鋭い先端を持つ巨足の攻撃が地面に深い穴を穿っていた!
彼女なら、その技量も奴に通用するレベルにギリギリ達しているかも知れない。特に今は「実」の効果でレベル的に2つほど底上げされているしな。
それでもこいつを相手にするにはまだ不安が残る上に、何と言っても彼女とは相性が悪すぎるんだ。……まぁそれは俺も同じなんだけどな。
この毒悪百足と上手く噛み合うのは……この場ではこの2人だ!
「うりゃあっ!」
カミーラの動きに気を取られた巨大ムカデの側面から、ヨウの渾身の一撃が見舞われる! それを受けた魔獣の甲殻にはヒビが入り、中からは体液が噴き出した!
高い硬度を誇り表面が滑らかに湾曲しているアコニトウゴンの外殻には、剣や刀は通りにくい。余程強い力を持っている上で、絶妙のタイミングと速度で攻撃を当てないと割断する事なんて難しいだろうな。
その点、打撃ならばそこまで難しい話とはならない。
特にヨウは高い技術を持っており、効果的に力を拳に乗せる事が出来るだろう。これなら、硬い殻を持つ敵には効果的だ。
「くぅらいなぁっ!」
ヨウの強撃を側面から受けて体勢が揺らいだところに、大きく飛び上がってそのまま巨斧を振り下ろしたグローイヤの一撃が炸裂した!
まるでその部分が爆発でも起こしたかのように、大ムカデの長い体躯の一部が弾け飛ぶ!
「キュウウッ!」
それでも、昆虫型の魔獣は痛覚が殆ど無いような動きを取るものも多い。このアコニトウゴンも多分に漏れず、身体の一部を吹き飛ばされてもなおグローイヤへ反撃を試みていた。
「セイッ!」
だけど毒悪百足の一撃はグローイヤを捉える事無く空を切り、彼女は難なく安全地帯への退避を完了させていた! 再度放たれたヨウの重い打撃が、巨体を揺さぶり狙いを外させたんだ!
巨大ムカデは、そのままゆっくりとした動きで体をしならせると轟音を響かせて長い体躯を横たえた。流石に大きなダメージを与えたか……と思うだろうけど、そんな訳が無い事は俺が一番分かっている!
「キョキョキョキョッ!」
動きを止めると思ってしまいそうな倒れ方から、アコニトウゴンは突如動き出した!
無数の足を使ったその加速は目を見張るほどで、あっという間に俺たちの脇を通り抜け!
逃げるのかと思われるほど移動した後、ぐるりと円を描く様に折り返し俺たちへ向けて突っ込んできたんだ!
その巨体! その速度を考えれば、生半可な力では到底抑え込めそうにない!
「カミーラッ! 俺とお前で奴の前進を止めるっ! グローイヤッ、ヨウッ! その後は頼むっ! 耐えられるのは、ほんの僅かだっ!」
「承知っ!」
「あ……あれをお前らだけで何とかするってのかっ!?」
「うるさいよ、ヨウッ! 今はあいつ等を信用するしかないっ!」
俺が指示を出すと、3人からは三様の声が返って来た。でも、俺はそれぞれ適切に動いてくれると信じていた。
……そして、必ずこの攻撃で倒すって事もな!
「ア……アレクッ!? その薬はまさかっ!」
「俺に構うな、カミーラッ! 今は前だけに集中しろっ!」
だから俺は青い「小薬」を口に含んだんだが、それを見たカミーラが驚きの声を上げた。
そりゃそうだろうな。俺たちはその薬を服用した結果、重篤な副作用に襲われたんだから。
カミーラなら大丈夫だ。今の彼女ならば、この「小薬」を使わなくても「実」の効力だけであの巨大ムカデに立ち向かえる筋力はある。
問題は……俺だった。
この4人で明らかに俺のレベルは見劣っている。それは「実」を呑んでいても補えない程に。
だから俺は、ここで「マチスの小薬」を使用した。
これなら、瞬間的にグローイヤ達と同等の「筋力」を得る事が出来る! カミーラと2人でなら、僅かだが毒悪百足の足を止める事が可能だ!
「おおおおぉっ!」「ぬうううっ!」
突っ込んできたアコニトウゴンの正面に立ち、俺とカミーラはこの怪物を迎え撃ったんだ!
とっておきの「薬」を飲んだ俺は、カミーラと共に巨大ムカデへ立ち向かう!
コイツを少しでも止めることが出来れば、後はグローイヤ達が何とかしてくれるはずだ!




