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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
3.闇ギルド、壊滅
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別視点 ―ファイル3 経験と焦燥―

シラヌスからの問いかけに声を無くすセリルとバーバラ。

彼の言う「どうする」と言う意味は、今の彼等には重いものだったんだ……。

 いきなりシラヌスから話を振られて、セリルとバーバラは声が出せなかったみたいだ。

 もっとも、その理由はそれぞれに違う訳だけどな。

 セリルは、ここまでの一連の流れに完全に呑まれちまって、唖然として動けずに声も出せなかった訳だ。

 一方のバーバラは、セリルみたいな不甲斐ない理由じゃなかったみたいだな。

 彼女は、シラヌスの言っている意味を正確に把握した上で……返答に困った結果だったんだ。


 シラヌスはセリルとバーバラへ向けて「どうする?」と問うた。これは何も、これからの事を質問した訳じゃあ無い。

 彼はこの2人に向けて、捕らえた暗殺者たちの処理を誰がするのか(・・・・・・)聞いているのだ。

 勿論、この場において敵を解き放ち逃がしてやると言う選択肢はない。


「……ねぇ? 誰が殺るのぉ? それとも、どちらが……かしらぁ?」


 一向に返事が来ない事に、スークァヌが催促をする。その表情には焦れている様子は伺えないが、いつまでものんびりと考えさせるつもりもない事が伺えた。

 ここは戦場であり、これは作戦の一環であり、今は彼らのペースで事を進められる状況じゃあないからな。


「……お前たち。もしかして……まだ経験した事がない(・・・・・・・・)のか?」


 いつまでも声を発さないセリルとバーバラへ受けて、シラヌスが訝しむように問い直した。

 ここに来て、流石にセリルも質問内容を把握している。2人は思わず、グッと息を呑み返答に窮していたんだ。

 それもその筈で、この時セリルとバーバラはシラヌスから馬鹿にされている印象を受けたんだろう。

 素直に答えれば下に見られる。でもだからと言って見栄を張った処でどうしようもないからな。

 そんな葛藤が、2人から声を奪っていたんだ。


「……なるほどな。しかし、アレクの奴も随分と甘い事だな」


「うっふふ……。そこがまたいい処じゃなぁい?」


 沈黙がそれほど長かった訳じゃあなかったろうけど、それだけでシラヌスとスークァヌはセリルとバーバラが未経験だと察したんだ。

 それは別に恥ずべき事じゃあない。

 これまでに、ただ単にそう言った依頼(クエスト)が無かったと言ってしまえばそれまでだからな。


「おいおい。何でここで、アレクが出てくるんだよ?」


 それでもシラヌス達の会話に疑問を感じたセリルが、どこか突っ掛かるように問い返していた。

 威勢がいいと言ってしまえばそれまでだけど、この場合は虚勢を張っていると言った方が適切だろうな。

 そして、そんな弱者の見栄張りにイチイチ反応するシラヌスでもない。


「……お前たちのランクだが、確か今か『金石級(ゴールド)』であったな」


「……そうだ」


 直接セリルの質問に答える訳ではなく、シラヌスはそれに質問で返してきた。

 そして、僅かの間をおいて返事したのはバーバラだった。

 セリルに向けられた質問だったがそれをバーバラが答えたのは、恐らくシラヌスが何を言おうとしているのか彼女は察したんだろう。

 頭に血の昇っているセリルじゃあ、シラヌスの質問の意図を汲み取って話を進めるのが困難だろうからな。


「……ランクが金石級ともなれば、失せもの探しや採集、要人警護だけが仕事でもないだろう。……恐らくだが、仕事を受けてくるのはアレクなのではないか?」


 バーバラの答えを聞いて、シラヌスは言葉を選ぶようにゆっくりと話した。

 いっそ冷静ともいえるその対応に、バーバラだけでなくセリルも平静に考えを巡らせたようで、2人は殆ど同時に頷き応える。


「……やっぱりねぇ。……アレクは、意図的に依頼を(・・・・・・・)選んでる(・・・・)んでしょうねぇ。……何か考えがあってなのか、それともあなたたちの事を気にしてなのかは知らないけど」


 そして、今度はスークァヌが深く頷いてそう口にした。

 それにセリルは驚きの表情を浮かべていたけど、バーバラはどこか納得しているのかグッと口を引き結んで何も言葉にしなかったんだ。


 ランクも金石級(ゴールド)になれば、依頼(クエスト)の内容も随分と多岐にわたる。それまでの「受動的」なものだけじゃあなく、こちらからわざわざ出向いて敵を倒す様なものも出てくるんだ。


 ―――それが……「討伐系」のクエストって奴だ。


 その討伐系には魔獣の駆逐以外にも、盗賊や山賊のアジトを急襲して殲滅するってのも含まれている。

 今回の「トゥトリスの街殲滅作戦」も大きく見ればこれに分類されるだろうな。

 そして俺たちが参加する事になったのは、何もクレーメンス伯爵お抱えの冒険者だって理由だけじゃあない。

 俺たちが既に「金石級」だったからに他ならないんだ。

 俺も、まさか伯爵から「討伐依頼」を言い渡されるなんて思ってもみなかったんだけどな。

 とにかく、俺たちはそう言ったクエストを受ける事が出来る。


「だ……だから何だってんだよ!? アレクは俺たちが成長出来るような、俺たちでも完遂(クリア)できる依頼(クエスト)を選んでくれてたって事だろ!?」


 でも、何も率先して「人殺し」を行う依頼を熟す必要はない。少なくとも、俺はそう判断していた。

 驚きを隠せていないセリルの台詞だけど、その内容は一部を除いて概ね合っていた。

 俺は今のマリーシェたちが問題なくクリア出来るクエストを選んできたんだ。


 ただし、人に手を掛ける様なものは意図的に避けて(・・・・・・・)……だけどな。


「……問題はない。……しかしこの様な作戦やクエストも出てくる以上〝殺しの経験〟はすでに積んでいて然りと思ってな」


 シラヌスの口から「殺し」と言う言葉が零れ、セリルはビクリと肩を震わせた。一方のバーバラは、眉を僅かに動かした程度の反応だったんだ。

 この違いは、多分常にその可能性を考えていたか否かに依るんだろうなぁ。


 いずれは……遅かれ早かれだが、そう言った機会(・・・・・・・)がやって来るだろう。……冒険者って家業を続けていく限りはな。

 しかしソレ(・・)を経験するには、俺たちはまだ早過ぎるんだ。……精神的に。

 適性と言うものは……あるんだろう。人を殺めても自我を崩す事無く過ごせる奴もいるにはいる。

 でも多くの少年少女にとって、自らの手で人を殺めて平気でいられるって奴は稀だ。

 レベルが上がれば、討伐の依頼だって難なく熟せるかも知れない。

 盗賊やら山賊って奴らのターゲットは一般の町人で、多少レベルが上がったらそれ以上向上させようなんて思わないだろうからな。真面目にレベル上げに取り組んでる冒険者には敵わないってのが常だ。

 だから冒険者として経験を積めば、山賊や盗賊だって難なく蹴散らせるだろう。

 だけど残念ながら、それらのクエストは野党どもを蹴散らせば終わり……とはならないんだ。

 今後の憂いを(・・・・・・)残さない様に(・・・・・・)最後まで処置(・・・・・・)しないといけない(・・・・・・・・)


「……いや。……私たちはまだ……未経験だ」


 シラヌスの説明を聞いて、バーバラは至って冷静に返答した。

 押し殺したみたいな声になっているのは、誰も刺激しない様に(・・・・・・・・・)と言う配慮だったんだろうけど……。


「じゃ……じゃあ、今ここで俺たちが奴らを仕留めれば良い事だろう!?」


「……セリルッ!」


 シラヌスの言い様は、聞き方次第では挑発やら小馬鹿にされたみたいにも受け取れる。そしてセリルは、そう受け取ったんだろうな。

 血気盛んな若者なら、売り言葉……ではないだろうけど、そう感じたんなら向けられた挑戦を買うくらいの事はするだろう。

 でもそんなセリルを、バーバラが珍しいと言って良い怒声で引き止めたんだ。

 普段聞いた事も無いような彼女の大声を聞いて、セリルは思わずビクリと体を震わせて押し黙った。


「……その時が来たら……アレクが手配してくれるだろう。……今は私たちは……アレクを信じて行動するだけだ」


 そしてシラヌスとスークァヌに向けて、そう返答したんだ。無論これには、セリルに対する警告も含まれている。


「……ふむ。……確かにここは、出来る者が事を成せば問題ないだろうな。……スークァヌ」


「……あいよ」


 元より、シラヌスはセリルやバーバラを非難していた訳じゃあ無い。

 バーバラの台詞は、この場はシラヌス達に願い出ると言外に告げていたんだ。そしてそれを、シラヌスは正確に読み取りスークァヌへと指示を出した。

 こうなる事を知っていたのか、スークァヌは短く返答して「黒の闇(ネーロ・スコタディ)」を詠唱する。

 そして……程なくして、周囲から一切の敵の気配が……消えた。


その場をシラヌスとスークァヌが収めた事で、まずは1つ目の目標を達成した。

でも、セリルとバーバラには……特にセリルには、この事が重く圧し掛かったかも……知れない。

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