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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
3.闇ギルド、壊滅
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赤熊退治

赤熊の1体を倒す事に成功した!

でも、ロホロウルススはもう1体残っている!

この戦闘は、まだ終わっていないんだ!

 俺が赤熊(ロホロウルスス)の首を一刀両断した事で、2体の内1体の息の根を止める事に成功した。

 強靭な肉体を持つロホロウルススを短時間で仕留められたのは、運が良かったと言って良いだろうな。


「アレクッ!」


 でもそんな余韻に浸っている余裕なんて無かった!

 さっき怯ませたもう1体の巨熊は、即座に攻撃態勢を取り戻して迫っていた!

 巨大な(かいな)を振り上げ、渾身の一撃を放ってきたんだ!

 そして俺は同時に、驚愕の事実を理解した!

 さっきカミーラの刀身に噛みつきそのまま断裁した赤熊の頭は、死してなお彼女の武器から離れていなかったんだ!

 カミーラも、俺の背後から迫る巨熊の存在にはすでに気付いている。もう動き出そうとしていた。

 だが、剣に噛みついたままとなっている大きな頭が重しとなって素早く動き出せそうにない。

 そしてもしも俺がこのまま回避行動を取れば、ロホロウルススの攻撃は間違いなくカミーラを捉えるだろう。

 俺は瞬時に、それだけを理解した。

 しかし、理解しただけで解決策まで浮かんだ訳じゃあ無い。これは、切羽詰まった瞬間に周囲の動きが遅くなり思考だけが明確になるってアレだ。

 そんな俺に思いついた手段は、たった1つしかなかった!


「すまんっ! カミーラッ!」


「なにを……グブッ!」


 だから俺は、そのまま目の前のカミーラへ力一杯にケリを見舞ったんだ! 丁度真横から鳩尾付近に入る横蹴りだ。

 彼女のどこに入りどんなダメージを与えたかは分からないが、緊急事態なんだから許してくれよな。


「がぁっ!」


 その直後に、俺の背中を激しい痛みが襲った!

 間違ったりはしない。これはロホロウルススの攻撃で背中を抉られた痛みに他ならなかった。

 不幸中の幸いだったのは、俺たちの呑んだ〝ドゥロの実〟のお陰で即死には至らなかったって事か? でも、重傷なのには間違いない。


「ア……アレクッ!」


 呻くような声音で、カミーラが俺の名を呼ぶ。彼女も、何が起こりどうなったかを理解しているんだろう。

 ただ残念ながら、彼女を救おうとして放った俺の蹴りは殊の外クリーンヒットしていたみたいだけどな。


「ゴワアッ!」


 そんな事情など、赤熊や魔獣どもには当然の事ながら関係ない。

 奴らは好機と見れば、全力で攻撃を仕掛けてくるからな。

 躊躇いも無い奴の攻撃を、深手を負った俺は躱せそうにない!

 でも、不運があれば幸運だってある。それが些細なものであってもな。

 俺がカミーラを蹴り飛ばしたことで、首だけとなっても彼女の刀身に噛みついていた赤熊の首が取れていたんだ。


「やらせんっ!」


 俺に追撃してきたロホロウルススに向かって、カミーラが横合いから仕掛ける!

 攻撃姿勢を取っていた巨熊へ刀を脇へ抱える様に剣先を向け、身体ごとぶつかる様な渾身の攻撃を敢行したんだ!

 俺の蹴りがまだ効いているんだろう、いつもの見事な剣技は繰り出せそうに無かった彼女の苦肉の……そして決死の一撃だ!

 巨熊は今、俺を攻撃した直後でその頭がわずかに下がっている! カミーラは、その好機を見逃さなかった!


「ゴ……ゴフアアアァッ!」


 その刺突は見事に赤熊の片目を貫き、切っ先は後頭部を突き抜けていた! 

 本当だったなら(・・・・・・・)、それで決着の一撃となる筈だったろう。

 しかし、野生の獣の生命力は存外に高い。それが魔獣ならば、生への執着が異常に高くてもおかしい話じゃあ無かった。


「がふっ!」


 痛みにより目蔵滅法に振り回したロホロウルススの剛腕がカミーラの身体を捉える!

 横に吹き飛ばされるんじゃあなく地面へ叩きつけられる一撃を受けて、カミーラの身体はまるで毬みたいに大地へと沈んだんだ!

 魔獣の一撃と大地への衝撃で、カミーラは大きな手傷を負ったはずだ! その証拠に、たった1度の攻撃で彼女は口から吐血しちまっている!


「おおおぉっ!」


 すぐに背中へとポーションを振りかけて、俺は即座に立ち上がりロホロウルススへ向けて大きく踏み出した!

 中身が経験豊富な大人だと言う事を、今ほど有難いと思った事は無い。

 何せこんな危急な状態でも、冷静にどこを狙うべきか考えられているんだからな。

 この魔獣赤熊は、体力は相当なものだ。カミーラの一撃は致命傷だが、それでも即死までには至っていない。恐らくは、体力が尽きるまで暴れまわるだろう。

 こんな状態で再びカミーラが攻撃を受ければ、命に関わる可能性もある。

 なら狙うのは……一撃で沈黙させる事の出来る頭だ!

 しかし、ただ頭に斬りつけても耐えられちまうだろう。強固な頭蓋骨に守られている頭部は、よほど実力差があるか幸運に恵まれなければ、一太刀で割る事なんて出来ないだろうからな。


 ……ならっ!


「せぇいっ!」


 俺は一気に奴の懐へと潜り込むと、頭上にある奴の頭部……厳密には下顎へ向けて、剣を高々と、力一杯に突きあげたんだ!


「ギュ……ガフ……」


 下顎から頭部へ。この際、剣が突き抜けなくても良い。目的は、こいつを行動不能にさせる事なんだからな。

 流石に2度も頭へ攻撃を受け、ロホロウルススの動きは止まった。

 そしてそのまま、後方へと受け身も取らずに倒れたんだ。

 ズズン……と、重いものが倒れる音が周囲へと響き、それがこの熊の魔獣との死闘の終焉を物語っていた。


「ア……アレク。……コフッ」


 倒れているカミーラが、苦し気に俺へ向けて声を発した。

 如何に防御力が底上げされているとはいえ、それを超える攻撃を受ければダメージだって受ける。特に彼女は、外傷よりも内臓を負傷している可能性が高い。


「……大丈夫か? これを、ゆっくり飲め」


 横になっていたカミーラの身体を僅かに抱き起し、俺は彼女の口元にポーションが入った瓶の口を当てがうと、喉を鳴らしてカミーラはその中身を全て飲み干した。

 効果はすぐに表れて、それまで浮かんでいた苦悶の表情は消え、額に浮かんでいた玉の様な汗も見る間に引いて行った。


「……すまぬ。助かった」


 スックと立ち上がったカミーラが、俺へ僅かに笑みを向けてそう言うと、そのまま周囲の警戒を始めた。

 ここは戦場で、まだ一向に安心出来る状況じゃあ無いからな。互いの無事を祝い健闘を称えあうなんて無駄な事をしている暇なんて無い。

 俺もポーションを新たに飲み干し、2人して撤収して行った部隊の後を追い掛けたんだ。




 撤退と言っても、迅速なものとは程遠いからな。集団にはすぐに追いつく事が出来た。


「……アレク? 何か……おかしくないか?」


 その団体を見ながら、カミーラが俺と同じ思いを口にしていた。

 まだ若干距離があるんだが、ここから見える兵士たちは何やら揉めているみたいに見える。

 いや……これは……。


「……何と対峙しているんだ?」


 入口へ向かいたい一団と、そこに立ち塞がる様な立ち位置でそれを許さない小集団が伺えた。……いや、小集団どころか3人の……男女か?

 その3人に、元近衛騎士団が近づけないでいる。

 そして彼らの間には、数人の……死体か!?


「気を付けろ、カミーラ! 奴らは……ヤバい!」


 我ながら、何ていい加減な警告なんだろうとは思う。「ヤバい」なんて、フワッと抽象的過ぎて何に備えれば良いのか言われた方も分からないだろうに。

 それでも。


「……心得た」


 カミーラは不平を漏らす事も無く俺に応答してきた。もしかすると彼女も、見える光景の異常さに何かを感じ取っているのかも知れないな。

 そのまま駆け足で……しかも慎重に進むと、更に状況が理解出来て来た。

 倒れているのは、血に塗れた近衛兵たちだ。恐らくは……息をしていない。

 そしてその傍らに立っているのは、何とも異様な集団だった。


 1人は男性。2人は女性だ。


「あの女性たちは……魔法使いだろうか?」


 十分に距離が近づいた処で俺たちは歩みを緩め、カミーラは小声で話しかけて来た。

 2人の女性はローブを身に纏い、一見すると彼女の言う通り魔法使い系だと分かった。手には杖やら錫杖らしきものも持っているしな。

 残る男性は……剣士だ。

 そして、こいつがヤバい。

 何がどうという訳じゃあ無い。それに、何をしたのかを見た訳でもない。

 それなのに、俺の直感はこいつが「ヤバい奴」だと訴えかけていた。

 そしてこいつが、あの日に感じた「気」の持ち主だと……予覚していたんだ!


「いいから、そこをどけぇっ!」


 元親衛隊の隊長だろうか、1人の騎士が語調も荒く怒鳴り散らしている。でも、それで抜剣し突っ掛かると言う事はしない。

 ……なんだ? ビビってるのか?


「……だめだな」


「お前さんたちには、ここでもっと被害を出してもらわないとねぇ」


「そうでないと、この街を放棄した割が合わないですので」


 それに対して彼らは、シレッととんでもない事を言い放ったんだ。


異様を放つ3人の人物。

こいつ等は一体……何者なんだ?

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